経営層の新規事業へのコミットメントを引き出すには?

光村圭一郎氏(以下、光村):はい、あとは他に。トップのコミットメントは、やっぱりいろんなところで出る宿題ですよね。もちろん、なにをもってコミットメントと言うかにもよるんですけれども、おしなべてこれだけ多くの企業の中に、制度上、新規事業というものができているという意味では、多少なりコミットした結果なのかなと思うものの。

でも一方で、これだけ多くの人たちが、「うちにはなかなか人が来ない」とか「金がつかない」とか「通らない」と言っている。もちろん、片や提案する側の稚拙さというのもあるような気もしますが、経営者のコミットって一体何なんだろうね、という。

麻生要一氏(以下、麻生):僕、日々大きい会社のえらい人に、「新規事業やりましょう」と言うのを、コミットメントを引き出させるためのカードとして提示されているので、こう思うんですけど。引き出す手法ってやっぱりあんまりなくて、ぶっちゃけ言うと、すごく相関があるなと思っているのが、本業が傾いているかどうか。

光村:本業が傾いていると、これ本当にやべぇなと。

麻生:すごく強いトップコミットで、新規事業をちゃんとアクセルを踏んでやる会社がいっぱいあるのを見ているんですけれど。どこって言うと差し障りあるんですけど、どう見ても本業が厳しい、その産業は10年後ないかもしれないな、というときは、やっぱりアクセルを踏みやすいですよね。

光村:逆に言うと、そこまで追い詰められないと、正直なかなか難しいというのも一つの真理。

麻生:現況が大丈夫だったら、新規事業やらないですね。

光村:だから、今ちょっと時間軸が難しくなっているなと思うのは、例えば、三井不動産みたいな不動産業って非常に巨大で、もちろんデジタル化が遅れているなと言われていて、そこでデジタル化は進むとは思うんですよ。

でも、じゃあそもそも、何によって僕らディスラプトされるんだろうねって。例えばバーチャルリアリティの世界に、リアルワールドが駆逐されて負けるのか、というのは、たぶん5年単位じゃなかなか来ない。だが10年すると、そういう状況になるかもしれないから、いろいろ布石を打たなきゃならない。そういう時間軸と危機感のもとでやったりするんですけど。

はっきり言って今年度、来年度、たぶん業績は最高潮だし、史上最高益を更新するという状況のなかでそれをやるのは、ものすごく難しいことだなと思ったりして。そういう会社でも時間軸を長くとって、危機感、コミットをどう勝ち取っていくのか。今の日本の大企業は、そういうことが問われている気がするんですよね。ぜんぜん僕の答えはないんですけれども。

社長の任期を長期化させたり、外圧を加えることの効果

麻生:社長の任期を長くすることとかじゃないですかね。

光村:なのかな。

麻生:ちょっと差し障りがあるのであんまり話せないんですけど、やっぱり大概の経営者の方が50代とか60代で、任期が8年とかなんですよね。その世代の経営陣って、8年以内のことしか興味がないんですよ。8年間持つんだったら、新しいことをしない方が得なんですね。汚名を残しちゃうから。

でも、アメリカのGEみたいに1回社長になったら20年単位でやるようにすると、もうちょっと長期的な目線になったりするのかな、みたいな。

光村:麻野さん、どうですか?

麻野耕司氏(以下、麻野):そうですね。社長の任期とかもそうだと思うんですけど。僕の場合は、けっこう難しいアプローチだと思うんですけど、トップのコミットメントを引き出したのは、外圧も大きかったかもしれないです。

正直、弊社は上場していますので、僕が言うよりも、やっぱり資本市場の投資家が、「モチベーションクラウドをもっとやれ」っていうのが一番効きましたよね。なので、もっと投資したいんですよ。

もっともっと投資をするためには海外の機関投資家で、やっぱりロングポジションで長期保有してくれて、どっちかというと目先のPLじゃなくて、そのビジネスのストーリーを買ってくれるような投資家を連れてくるということを、いま力を入れてやっているんですけど。

やっぱり、そういう投資家から、「なんでもっとモチベーションクラウドに投資しないんだ?」となると、どんどんトップのコミットメントが引き出されることがあった。最初は小さく立ち上げたんですけれど。

光村:今の話は、そうだなと思う反面、難しいなと思うのは、一応三井不動産って一兆何千億円って売上があって、新規事業でせいぜい行けるところで100億円か200億円っていう。いってもまずそんなスタートじゃないですか。もちろん、それを太い線に育てるのは大事なんですけど。

そこに投資する・しないというのは、うちの一兆何千万円って売上からすると、あんまり関係ねぇよな、というようなところで。外圧、とくに株式市場からの外圧というところにも、なかなか行きづらい。正直、けっこう巨大企業なりの苦しみを感じるところがあって。

麻野:結局、役員陣とかトップマネジメントも、点数稼ぎたいってところは当然あるじゃないですか。なのでうまく点数になるような流れに乗せられるといいんですけどね。

光村:そうですね。

旧態依然とした会社を動かすうえで有効な外圧作戦

麻野:僕、この前マンガを読んで……。

光村:何のマンガですか?

麻野:幻冬舎から出ている『ブランド人になれ』っていう、ZOZOの田端さんが出ている。

マンガ ブランド人になれ! 会社の奴隷解放宣言 (NewsPicks Comic)

光村:飛んでるやつ?

麻野:そうそうそう。

大室正志氏(以下、大室):漫画じゃなくても30分で読める……。

(会場笑)

麻野:30分かからないかもしれない、20分で読める。でも、けっこうおもしろかったのは……。

光村:これ田端さんに内緒ね。

麻野:そのZOZOの田端さんが、靴とかを作っている下請け会社のOLとぶつかって(中身が)入れ替わるっていう。「本当にそんな設定のマンガをいまさら作るんだ」っていう感じなんですけど。

光村:ある意味斬新ですよね。

麻野:けっこうおもしろくて、社内で提案する人とか新規事業の人、絶対に見てください。田端さんが女性に入れ替わって、新規事業を成功させるんですよ、旧態依然とした会社で。

勝手にちょっと靴とか作って、それがちょっとTwitterとかでバズって、ちょっと世の中で話題になって、会社としてもこれやんなきゃだめなんじゃないっていう空気になった、というところがあって。

そうすると、なんか役員もちょっと自分の手柄にしたくなるような。そんな簡単じゃないと思うんですけど、先にちょっと世の中で話題にするとか、注目させることはあるのかな。

大室:外圧作戦としてですよね。 

光村:外圧作戦ありますよね。社外で評判を上げてから会社に持ち帰るとか。いろんな外の使い方は、日本の企業の場合、有効な印象がありますよね。

新規事業担当者に女性が少ないのはなぜか

光村:まだ質問を拾っていきましょうか? ちょっと下の方を見てみますか。新しく寄せられているものもあるので。

田中聡氏(以下、田中):男性の数が……。

光村:「新規事業担当者が男性ばかりで、女性が少ないのでは」というご意見。これは我々も考えなきゃいけないところで、今日だけに限らず、やっぱりこの界隈は女性が少ないというのはよく言われるところだったりするんですけれど、純粋になぜなんでしょう? ……誰も答えがないんですけど。

麻野:大室先生はいけそうじゃないですか?

大室:純粋になんででしょうか? っていうのは、まだ今のところ社会の要職を担うプレーヤーが男性が多いので、これをそのままにしておいて実力主義だって言っていると、その割合は今後もそんなに変わらないです。

光村:あ〜。

大室:例えば、ノルウェーとかって「議員の数は男女半々なんだから半々にします!」って、そう決めた当初は女性の方がちょっとまだ成熟度低いですよね。でも、そうやって職を与えていくことによって、1回そこで底上げになります。

そのときに必ず、よく最近だと「女性活躍」とか、「女性の管理職の割合増やせ」という数字目標が来るので。企業なんかで、今まで聞いていて一番嫉妬で醜いなと思ったのは、ちょっと女性がプロモーションしたときに、新橋かなんかで男同士で、「俺らもそろそろ性転換だなって」言い出したんです(笑)。

(会場笑)

これはやっぱり、出世に負けるってわけですね。これは今の時期だとしょうがないんですよ。

光村:過渡期はしょうがない。

新規事業のリーダーに女性が向いている理由

麻野:どういうもんなの? 本当は同じような素養とか才能があるのに、なんか企業の構造として、そういう人に機会が巡って来にくいという話なのか、ちょっと生物学的に向き不向きなどがあるのかというのは、どっちなの?

麻生:ちょっといいですか? 今日の登壇者は男性ばっかりですけれども、僕は山のように新規事業をやっているなかで、女性のほうが向いていると思いますけどね。

光村:へ〜〜。

麻生:女性がリーダーで可決されてる新規事業はいっぱいある。なぜかというと、見てて思うんですけど、また300回行くって話になるんですけど、そのなかで顧客のインサイトを得て「そこに課題があったのか」というものを発見しなきゃいけない。

その能力って、たぶん女性のほうが高いんですよ。男性はすぐ論理で考えちゃうけど、見えないものを見て共感して、というのはすごく女性が強い。

光村:ある種直感的なね。

麻生:立ち上げの瞬間って、すごく女性が強いなっていう印象があるから、この質問はわかるんですけど。

光村:現実としては……。

麻生:実際、女性が新規事業のリーダーをやっているパターンって企業内にいっぱいありますよ。それが出世しないって問題はあるでしょうけど。

「事業を創る人」は、他の会社でも事業を創れるのか?

光村:田中さんの研究のなかでその男女の性差とか、っていうのは……。

田中:さっき、大室さんがおっしゃられたとおりだと思いますね。実際の既存事業の主力事業部門で一定成果を出して、マネジメント層についている層を新規事業にアサインするケースが大企業には多いですからね。

今はそもそもマネジメント層に女性が少ないということですね。今、話をうかがいながら思ったのが、女性がいいのか、男性がいいのかって、けっこう状況依存的なものなのか、どれくらいポータブルなのかという問いがあって。

つまり、事業を創る人って、他の会社に行っても同じように事業を創っていけるのか。その能力にどれだけのポータビリティ(転用可能性)があるかという問いです。

光村:それは大きな問題ですよね、最近ちょっと増えてきてますからね。新規事業担当に転職するパターンがね。

田中:例えば、麻野さんがメルカリに行って、メルカリでまったく新しい事業を創れるか?いえ、創れるんでしょうけど、どれくらいの時間をかけて、今のモチベーションクラウドみたいなものができていくのか。

光村:うん。

田中:そういう事業を創る人が持つ、能力のポータビリティについては研究してみるとおもしろいな、と。

麻野:なるほどね。できなさそうな気がする、なんか。

(会場笑)

田中:やっぱりそれは、ネットワーキングスキル……。

大室:メルカリ行かない方がいい(笑)。

麻野:行かないほうがいい。

(会場笑)

新規事業担当者をジャッジする方法

光村:ちょっとざわつく話ですね(笑)。

麻野:できないかもね。

田中:組織力学を瞬時に理解し、キーマンを見つけて必要なボタンを必要な順番で押していく、という広い意味でのネットワーキングスキルがめちゃくちゃ高そう……。

光村:でも、たぶん逆説的には、日本企業の組織力学というものが、その会社ごとの歴史のなかで色濃く作られていて、普遍化されていないんだろうなと正直思っていて。

麻野:確かにね〜。

光村:だからなかなかその力学とか、社内リソースをどうするかとか、既存事業云々というところに対して、本当にヘッドハントされた元リクルートの事業開発部長ってきついだろうなと、正直思ってます。

麻野:確かにそうかもしれない(笑)。

光村:いや、そうなんだけど。正直、現状のジャッジでは、「こいつは昔からがんばってくれてるし、こいつなら最後まで音をあげずにがんばるだろうな」みたいな、情実的な人に対する評価みたいなところも、「こいつにやらせてみるか」というところの一端を担っているところがある。それはそれでいいんだろうけど、ジャッジの仕方も含めて変えていかなきゃいけない話になっていって。

この社内起業みたいなものは、やっぱり再現性とかサイエンスみたいなところになってくるんじゃないの、と思うんですよね。

人の感情にフォーカスした事業では女性の活躍の場が増える

大室:でも、GAFAと呼ばれる、とくにFacebookなんかもそうですけど、最近世の中を動かしているああいうドリブンって、もちろんすごく優秀なエンジニアもいるんですけど、結局、いいね! ボタンじゃないけど、人の感情にフォーカスしているわけですよ。

そうなってくると、例えば、今までの数学オリンピックのトップテンって全員男性ですよ。だけど、数学の平均点は女性のほうが上なんですよ。男性のほうがボラが大きいということですね。

そうなってくると、製造業を中心としたときに、やっぱり優秀な、いわゆる理系男子みたいな人を集めたほうが、新規製品を作れる可能性が高かったかもしれないですけど、感情っていうと、例えば心理学でおもしろい検査があって、目以外の顔を全部隠して、目だけを見て「この人は笑ってますか?」「怒ってますか?」という検査をすると、女性のほうが平均点が高いんですよ。

男性って、よく髪型を変えても1週間以上気がつかない人とかいっぱいいるじゃないですか。要するに、目だけ見て「こいつは怒ってる」「笑ってる」とわかるのって、やっぱり感情みたいなことが、世の中を動かすドリブンになってくると。

新規事業って、今そっちが増えてますよね。そうなってくると、もしかしたら、今後女性が活躍できる場が増えてくるんじゃないかって。まぁ僕のビジネス上の仮説ですね。

光村:実は昨日、IQテストを受けまして。IQって、いくつかの要素が組み合わさって表現されるんですけども、僕はいわゆる言語理解能力はめちゃくちゃ高いんですけれど、他の能力、例えば記憶力とか視覚から情報を得る能力ってそんなに高くなくて、けっこう得手不得手がはっきりしているんだなと。 

たぶんチームマネジメントとかするときに、既存事業だろうが新規事業だろうが変わらないけども、やっぱり得意不得手を補い合うようなチーム構成って、新規事業のなかでも必要だなって。

つまり、コンセプトを作るところなんかは、いかにも言語能力が活きるようなところだけど、インタビューとか、実際にサービスを使っているのを見ながら、顧客のインサイトをつかむということになると、まさに眼力で見抜いていくようなものが必要だったりするし。いろんなチームワークってそこにあるような気がしてきますね。

ごめんなさい、せっかく質問していただいたもののなかで、まだ拾えていないものもいっぱいあるんですけれども、このあと懇親の時間もあるということなので、そこでいろいろ議論できればなと思っております。

それではこのセッションは、こちらで終了となります。もう一度、みなさんに大きな拍手をお願いします。ありがとうございました。

(会場拍手)