未来を予言する水晶玉が現実のものに

孫正義氏:みなさんおはようございます。もし我々に未来を語ってくれる、予言してくれる水晶玉が手に入るとしたら、すごいことだと思いませんか? これから15分後に起きること、30分後、1日後、何が起きるのか。もし未来を予言できれば、みなさんが世界一の大金持ちになっていますよね。残念ながら、未来を予言してくれる水晶玉は、実在していないのかもしれません。しかし、それに代わるものが、まさに出現しようとしています。

今まで人類は、多くの進化を遂げてきました。例えば空を高く飛んでいる鳥を見て「あんな風に空を飛べたらいいな」と想像しながら、ダ・ヴィンチが飛行機の原型を生み出しました。天空を舞う星空を見て「もしかしたら天空が動いてるのではなくて、自分たちが立っている地面が動いているのではないか」と考えた人物がいました。当時は宗教界のなかでもタブーとされてきた、コペルニクスの地動説。人間のものの考え方を根底から変えてしまいましたね。

磁石を見て羅針盤の力を推論し、それを生み出した人物がいました。また、川に浮かぶ木を見て「もしかしたらあの木のように、あの木の上に載って川を渡ることができるのではないか」と思って、人類はボートを作りだしました。そして光を見て、相対性原理のもとを考えたアインシュタインが、人間のものの考え方を根底から変えてしまいました。

つまり、人類はいろんなものを推論しながら、目に見えるもの、手で触れられるもの、それを見ながら「あんなふうになれたらいいな」、あるいは「あれがもしかしたら自分たちの将来の姿を変えるのではないか」と思って、推論しながら進化をしてまいりました。人間が持っている推論する力は、進化のもっとも大きな源泉になっていると私は思います。

ネット上のデータ量が爆発的に増加する

この推論をするうえで欠かせないものがデータであります。今現在はデータという言葉で言われていますけど、目に見えるもの、触れるもの、そのものを見て推論するかたちになってきたわけであります。

今言いましたように、例を挙げればきりがないぐらい。電気の出現、自動車、そして月にまで人類が飛ぶ、コンピュータを生み出す。ありとあらゆるものが人間の推論という力で生み出されてきました。人類の進化はほぼ行き渡ったのか、それともここからさらに加速していくのか。私はさらに加速していくと思っています。

そもそもデータですけれども、コンピュータにデータを食べさせていくわけですが、インターネットのうえに流れているデータの量は、この30年間で約100万倍になりました。ここから先の30年でどれくらいになるのかと。私は推論します。もう一度100万倍になるということであります。つまり、データの増加は決して行き渡るという状況ではないと。まだまだこれから爆発的に増加していくと思っているわけであります。

クラウド、そして自動運転。自動運転の車の世界はまさに、最大のロボットに値すると思います。この車が自動運転化されて、事故の起きない世界が生まれていくと。少なくとも我々人類は多くの自動車事故を起こしながら、それでも今、妥協して文明の利器を使っています。しかし、その事故を100万分の1に削減することできたならば、もっと安全で、そして便利さがますます増していくと思います。

これも自動運転の世界は、ライダーだとかカメラから入ってくる情報を使て、人口知能が今から起きることをさまざまに予見しながら、事故を未然に防ぐと。急に猫が道を横切るかもしれない、ボールを追いかけて子どもが横切るかもしれない。反対車線から突然トラックがこちらに向かってくるかもしれない。そういうことをさまざまなデータをもとに予見し、推論して未然に事故を防ぐというわけですね。そのためには膨大なデータが生まれてくると。

AIの力を使って推論する世界

我々のグループにはARMが存在しています。このARM社が今後10年ぐらい、約一兆個のIOTのためのチップが出荷されると予想しています。今までは人とモノがつながっていたわけですけれども、この一兆個のチップが、モノとモノが直接にデータのやり取りをする。そんな時代になると、これまた膨大なデータが飛び交うということになるでしょう。つまり、どう見ても、どう推論しても、ここから30年間で私は100万倍ぐらいデータの量は増えると思っています。

ですから、我々のグループの中のモバイル、あるいはブロードバンドの通信の世界も、5Gで止まるのではなくて、6G、7G、8G、9G、10Gというふうに、これから30年の間に、まだまだその通信速度も増やしていくと。データのトラフィックの量は、さらなる次のキャパシティを求め、さらなるスピードを求め、さらなるレイテンシー(データの処理に伴う発音の遅延)の圧縮を求めて、進化していくんだろうと思っています。

この膨大な、これまでの100万倍の量でやってくるデータを人間が使って、それを推論していくというのは、もう不可能に近いくらいですね。だから我々は、一気に、このAIの力を使って推論していくと。こういう世界になっていくんだろうと思います。