柔らかさの感じ方は人によって異なる

嫌なことがあった日の終わりに、触り心地の良い毛布を撫でたり、ふわふわのネコちゃんに頬を埋めた経験がある人なら、柔らかな触り心地の気持ちよさをよくご存じでしょう。

お金を払ってその心地よさを求める人は大勢います。豪奢さをうたうエジプト綿のシーツや、一財産ほどかかる値段のカシミアのマフラーなどがそうですよね。

ところでカシミアその他の繊維を「柔らかい」と感じるのは、どうしてなのでしょうか。その答えは完全には解明されてはいませんが、主な要因は2つあると考えられています。触れている物の特性と、触れている本人、言い換えれば本人の脳です。

布の「風合い」とは、人が触れた時の繊維の感触や、繊維の動きを表現する繊維業界の業界用語です。繊維の風合いを研究する研究者たちは、テクスチャーを主観的に表現する「柔らかい」「硬い」という言葉を、実測可能な特性と関連づけるべく長年試みてきました。ところが、これが極めて複雑なのです。

繊維の触感は、材質の特性のみならず、触り方や、触り手が積極的に指を動かしているかどうかにも関わってくるようです。また、ある人が「柔らかい」と感じても、他の人にとってはそうではないということも、さらに問題を複雑にしています。

人はどうやって「物の柔らかさ」を判断しているのか

このような困難にも関わらず、研究者たちは「柔らかさ」に関係する材質の特性を特定しました。これは主に2つに分けられます。摩擦や表面のでこぼこなどの特性から成る、材質そのものの滑らかさと、繊維の柔軟性などの特性などから成る、圧縮のしやすさです。

つまり、ビーンバッグのソファが柔らかいのは、カバーの布が原因なのではなく、容易に圧縮できるからなのです。しかし、柔らかいということは、必ずしも滑らかで圧縮しやすいことを意味するものではありません。

2006年の研究では、アルパカ毛はウールの10倍硬いにもかかわらず、触れる際の摩擦が少ないために柔らかさを感じることがわかりました。つまり、柔らかいという感覚は、材質も関係してはくるのですが、明らかに他にも要因があるようなのです。

「他の要因」とは、つまりは「脳」です。脳の働きは、その多くが未解明です。しかし、柔軟性のある物の柔らかさを、被験者がどのように判定するのかを調べた2つの研究により、そのヒントが示されました。

物質を圧縮して測定される「物の柔らかさ」は、力を加えられた物がどれほど変形するかを測ることにより判定されます。1995年の実験では、柔らかさを感じるのは、ある物に触った際に、指にかかる圧力がどれほど分散されるかに関連することがわかりました。これは硬い物ではなく、表面の変形が可能な物の話です。

研究者たちは、被験者に指でゴムを押してもらったり、ゴムを指に押し付けてもらう実験を行いました。その結果、物が柔らかいかどうかは、「触覚情報」に頼ることがわかったのです。

人の皮膚にある「機械受容器」は、指で物を触った際に皮膚に加えられる圧力を関知しますが、この「機械受容器」が「触覚情報」を知覚します。2008年のある研究では、この発見をさらに深掘りした実験を行ったところ、人は自分の指より柔軟性があり変形し易いものを「柔らかい」と判断し、指より柔軟性が低いものを「硬い」と判断することがわかったのです。

つまり、お家のわんちゃんや高級なカシミアのマフラーの山を撫でて心地よさを感じる裏には、実はさまざまな要因があったのです。