人類の最大の敵、がんをいかに発見するか

小野瀨隆一氏:Icaria代表の小野瀨です。よろしくお願いいたします。第二次世界大戦の行方を大きく分けたのは暗号解読技術の発明でした。がんと人間の歴史は4,000年に及びます。それが今、大きな転換期を迎えています。

がんは非常に賢いです。がんは優れたコミュニケーション能力であらゆる体内の安全装置をかいくぐって、身体を侵略しています。それゆえに今は6人に1人が、がんで亡くなっている状況で、今は「人類の最大の敵」と言ってもいでしょう。

しかし、がんはどうやって安全機能をかいくぐってというのか、欺くのか。実は「エクソソーム」がヒント、キーポイントになっています。これは細胞のEメールのようなもので、例えば、がん細胞が転移する前に、転移予定先にこのエクソソームを送りつけます。

「環境を整えろ」と指示を出して、実際にがんが転移できる環境を整えてから、実際にがんは転移しているわけですよね。裏を返せば、細胞のコミュニケーションを仮にハックできれば、今何が起きていて、これから何が起こるかがリアルタイムでわかることになると言えます。

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その技術をIcariaは持っています。この丸っこいものがエクソソームで、中にギザギザしたものがあるんですが、これが内包されている一番重要なものです。遺伝子をコントロールするマイクロRNAというものです。

これがIcaria独自のデバイスなんですけど、尿1滴だけを入れると無数の剣山のようなナノワイヤがバーっとエクソソームを捕捉します。

あとは市販のキットを使って、これを溶かして、がんの原因そのものといっても過言ではないこのマイクロRNAを回収するという方法をとっています。

では、それがどれくらい有効かという話なんですが、血液と体液を使っても、最大40パーセント未満しか補足できなかったものが99パーセント以上補足できています。

これが何を意味しているかというと、世界で初めて私たちが細胞のコミュニケーションをハックしている状況になります。もちろん、新しいマイクロRNAも900種類見つかっていて、デバイスもマイクロRNAもバイオマーカーも特許をすべて抑えています。

今は世界で唯一、細胞のコミュニケーションを網羅的に見える会社というポジションを確立しています。

これはさまざまな応用ができるんですが、今はがんに取り組んでおります。一見全く関係ない、肺がんと脳腫瘍を機械学習アルゴリズムで判定精度は98パーセントです。ここにおいて重要なのは、ステージ1のがんも例外なく98パーセントの精度で見つかることです。

例えば、肺がんですと早期に見つかると5年の生存確率80パーセントを記録するんですが、実際に遅れてしまうと5パーセントまで低下します。早く見つけて早く治療するのが極めて重要で、それを実現しているのが私たちの技術になります。

さらに「がんかもしれません」と言われても、どこをどう検査すればいいのか。全身CTを撮るのかという話になりますよね。我々はがん種もちゃんと識別できます。まだ公開はしていないんですが、すい臓がんや卵巣がんといった、他の検査方法がないがん種もできるというデータを集めています。

侵襲性のない尿で世界を変える

まずは来年の夏にがん1、2種類からローンチをして、10種類を目安に増やしていく予定なんですが、(検査方法は)極めてシンプルで、我々の提携病院や企業さんに行っていただいて、尿を提出いただけると、およそ1週間後に結果の通知が来ます。

これはがんの数問わず、5~10万円の価格帯で利用いただけますので、例えば、がん10種類でも5~10万円の価格は変わりません。

既存のがん検査は30~70パーセント程度に留まっていて、早期のがん検査は見つかればラッキー程度のものとなっています。ここでさまざまな会社ががん検査に取り組んでいて、とある代表格の会社があります。

1,500億円くらい集めた会社で、血中のDNAを見ることをやっていたんですが、先月のアメリカ一番の学会で発表があったんですが、ステージ1の精度が34パーセントでした。もうすでにDNAの検査で早期発見は難しいと、コンセンサスになりつつあります。

早期発見は厳しい中で、Icariaは細胞のコミュニケーションを見ることで、これだけ圧倒的な成果を達成しています。

しかし、これは序章にしか過ぎないと我々は思っています。まず、ステージの詳細な診断、さらに臨床試験が始まっています。ただ、我々が一番やりたいのは治療の選択と提案までやることです。

やはり「あなたはがんです」と言われても、「じゃあどうすればいいんだ」となると思うんですが、「この薬とこの薬、手術を組み合わせよう」といった提案まで行おうと思っていて、また再発ももちろん確認すると。診断・治療・再発管理を一気通貫でやっていくのが、Icariaの技術です。

かつ、これはがんに限った話ではないので、全ての疾患をカバーすることも原理的には可能になります。すでに臨床試験が始まっていまして、日米で1万検体以上こなしていく予定になっています。

ここで強調したいのは、日本に留まる気はまったくなくて、アメリカでももちろん勝負したいと思っています。ジョンソン・アンド・ジョンソンが運営するインキュベータ施設のJLABSは非常に倍率が高いんですが、入居が決定していて、アメリカ・サンディエゴにも拠点を拡大していこうと思っています。

なので我々は今までなかなか病気が見つからなくて、最適な治療がわからなかった問題を、まったく侵襲性のない尿だけで、世界を変えようとしているベンチャーです。よろしくお願いします。