ユニリーバからバーガーキングへ転職した理由

マチャド・フェルナンド 氏(以下、フェルナンド):東京のみなさん、お元気ですか。こんにちは。お呼びいただきありがとうございます。アジアに来られたこと自体が素晴らしく、日本に来たこともないので、とても光栄です。(バーガーキングで働き始めてから)もうかれこれ5年半になります。

正直なことを言うと、それまですべてのキャリアをユニリーバに費やしていました。18年費やし、6年前に考え方を変えました。違うことがしたいと考えたのです。私はブラジル出身で、メキシコ・ロンドン・ニューヨークの違うブランドで働き、いつも変化を味わっていました。(だから)もっと違うことがしたいと考えたのです。

2013年は私のキャリアで最高の時でした。トップブランドのグローバル・バイス・プレジデントであることは、私にとって夢のようなキャリアでした。同時にそれ自体が、違うことがしにくくなった理由でもありました。

(ユニリーバを)出ると決めた時も、どこに行くかは決まっていませんでした。とにかく極端に違うことをしなければと考えていました。テック系の仕事なども素晴らしいものではありましたが、満足いくようなものではありませんでした。

ブラジルではバーガーキングを見て育ちました。上の2つ目の写真のように、素晴らしいことをしていました。覚えていない人もいるかもしれません。ウェブサイトがある前から、会社でそのチキンを食べたりという感じでした。Xboxの『King Games』もそうです。12年前、その年に最も売れたゲームでした。本当に素晴らしいことをやっていたブランドなのです。

(スライドを見せながら)バーガーキングで働いていた最初の週の私です。まだこのユニフォームを持っています。メカニックみたいに見えちゃいますね。とにかくこれが私です。これらのことは、私がバーガーキングにたどり着いた道のりの1つです。

リアリティのない広告は顧客の心を動かせない

いかに(ブランドが)強力か、そしていかに素晴らしかったかを理解することは重要です。グローバルな事業をし始めた時に、すでに全く同じ素晴らしさだったかというとそうではありません。バーガーキングの最大の市場はアメリカで、半分以上がアメリカにあります。海外にも多くあり、アジアは最も成長のスピードが速い地域です。それでもまだ十分とはいえません。

では、5〜6年前のアメリカのバーガーキングを見てみましょう。

(CM上映)

正直言って、私はこのキャンペーンが嫌いです。

(会場笑)

メアリー・J. ブライジなどの有名シンガーや、特にラテンアメリカのスターなどがいて、さまざまなターゲットグループがあったわけです。セールスやブランドに特に効果があったわけではなく、典型的なキャンペーンです。デビッド・ベッカムとかエアロスミスなどが出てはいますが、現実では、バーガーキングにとって最も良かった宣伝は、生でリアルなものでした。

私は最初にこれを見たときは、 テレビコマーシャルらしくてよいと思いました。でも、お客はもっと賢いです。スーツを着たデビッド・ベッカムが、バーガーキングでストロベリースムージーを頼む。でも、そんなことが起こりましたか? 起こっていないのです。デビッド・ベッカムはバーガーキングには来ないし、もし来たとしてもスーツは着ていないはず。ベッカムはストロベリースムージーを頼まないでしょう。

(会場笑)

こういったものを見たところで、商品が何だったかも思い出せない。だって、私たちはストロベリースムージー系の人間ではないわけです。どちらかと言うと尖っている、言うなればチキンフライ、オレオシェイク。自分とは違いがあるわけです。

こちらは5年前のアメリカのパッケージです。何が書いてあるかなんて一切思い出せない。誰も読まないからです。私もシャンプーを毎日使い、毎日(パッケージデザインを)見ますが、そこに何が書かれているかは思い出せない。人生はパッケージデザインよりビッグなのです。

コミュニケーションしなければいけない物を、ハンドメイドであるとかクラフトマンシップに則っているということでデザインすべきだと考えます。病院食を思い出してください。白い袋ですよね。チキンスープなどが入っているわけですが、そこに大文字で「I’M SORRY」と書かれていたりします。消費より先に頭に入ってくるのです。

高い競争率のなかで、ブランドを目立たせることの重要性

こちらは商品化計画です。レストランに貼られたポスターです。これは非常に重要で、私たちは宣伝をコントロールしていないのです。テレビコマーシャルもそうです。 商品が何なのかということはコミュニケーションをするものです。これらを見てください。とてもジェネリックですよね。どのブランドでもありそう。人に食べ物をイメージさせるようなものですら、こうなのです。

宣伝のみというわけでもないのですが、これは宣伝関係のイベントなので、ちょっとお話しします。1969年からの(カンヌライオンズの)チャートです。宣伝業界で働いている人は、現在のチャートがいかに昔と違うかがお分かりですよね。

これは2006年のチャートで、今いくつかあるものが1つしかありませんでした。4年経って違っていることが2つあります。2012年と2013年はゼロでした。エージェンシーが私たちの知らないところでやっていたので、私たちすら知らなかったのです。もし知っていたら、そのアイデアを殺していたかもしれません。とにかくブランドが目立つということは重要なことなのです。

こちらはロサンゼルスのある一角です。日本でも同じですが、とても競争率が高いです。ブラジルでも中国でもどこでも。というか、異常な競争率になっていないものがこの国にあるのかわかりません。とにかくいつも競争的なのです。タコスのスタンドもホットドッグのスタンドも、LAにはどこにでもある。スターバックスだったら、この地図が緑になるでしょうね。

(会場笑)

問題は、私たちが競争率が高いところにいるということです。この図を見てください。メディアで消費しているお金の金額では、私たちは6番目でした。こういうものを見た時に言えることが、2つあります。「もっとお金が必要」。マーケティング業界で25年働いていて、一度も必要なお金を手に入れられたことがありません。というか、一度「お金」という言葉を口に出すと、私のお金が取られるので、お金という言葉は使わないようにしています。

(会場笑)

ナンバーワンでないのなら目立つ必要がある

もう1つ考えなければいけないことは、「何をするにしても目立って、気づいてもらわなければいけない」ということです。ブランドと繋がってもらわなければならない。私のバーガーキングでの経験でいえば、みなが気づいて「バーガーキングにしかできないよね」というふうに話すようなことです。それが成功です。

人々とブランドが関連していくことが、まさに私たちがフォーカスしているところで、社会における競争の利点でもあります。中途半端なことをすれば、この図のナンバーワンを助けることになる。同じカテゴリーにないという意味では、みんな(の注目)がトップのところに行ってしまうから。それは、ブランドのお金の損失です。もしあなたがナンバーワンでないのなら、目立つ必要があるのです。

これは5、6年前に始めたバーガーキングでの道のりの話です。これはキングの像です。私たちがよく言っていたのが、この像にかなり近づくと、キングが「お前ら何をやっているんだ?」とささやいているのが聞こえるというものです。

とにかくこのブランドは素晴らしいのです。今までに達成したいいことばかりをずっと話していられます。ですが、この道のりをたどる前に改めて見てみると、悪くも見えたのです。他人のルールでゲームをして、自分のルールでゲームをしていなかったからです。

もう少しお話しします。時間内に終わるので、心配しないでください。ブランドに変化を与えた、5つのことについてお話ししたいと思います。科学の領域ではありませんよ。

バーガーキングのファンとブランドの共通点

1つ目は明らかで、ブランドについて理解するということです。自分のブランドを理解していなければ、宣伝もデザインもできません。バーガーキングは1954年からあるブランドです。ブランドが好きだという人はいるわけで、それはなぜなのかと理解する必要がありました。

アメリカで、バーガーキングと言えば何を思いつくか聞いてみると、まずみなさんが言うのはWhopper(ワッパー)です。メイン商品ですね。では、Whopperの何かと聞くと、直火・大きいから両手で食べなければいけない・食べるとぐちゃっとなって汚れる・トマトは新鮮。つまり、完璧なまでに不完全(perfectly imperfect=誰も完璧ではないという現代語)なのです。これは多分かなり翻訳しにくく、私にとってはかなり発音も難しい。

(会場笑)

きちっとしたサンドイッチを求めているわけではないのです。グリルは指紋のようなものです。それぞれのバーガーがそれぞれ違う。完璧なまでに不完全で、ちょっと汚れちゃうのが好きなのです。

またファストフードというのは、楽しい機会です。ソーシャルメディアを見てみればどのファストフードのブランドのものでも、人が楽しんでいることがわかります。バーガーキングのファンは、他のものよりもちょっと目立っています。マクドナルド、サブウェイ、ピザハットに行く人は同じですが、バーガーキングでは自由な気持ちになるのです。完璧なまでに不完全な振る舞いにもなる。商品のようです。

おそらくそれは、バーガーキングが長らく「Have it your way(あなたのお好み通りに)」と言ってきたからです。もしくは(店内のあちこちにある紙の)王冠のおかげかもしれない。王冠は非常に強力です。アメリカのレストランに行くと、王冠をかぶっている人が多い。12歳の子どもでもそういう人がいます。

このインタビューで男性に王冠をかぶせたところ、彼の態度は完全に変わりました。これは強力な資産なわけです。ブランドを要約すると、リスペクトであり、王冠をかぶる人々を歓迎することです。

そして完全に不完全。そして、楽しく外交的でちょっとはしゃぎすぎてしまうところもある。自分を卑下するようであっても、ブランドのためにはなっています。