買収の決め手と、それに伴う議論の進め方

田原彩香氏(以下、田原):岩田さんに質問が届いています。何が決め手で買収を決定しましたか? 社内でどういう議論がありましたか? 一番社長に近いという岩田さんにお聞きします。

岩田亮氏(以下、岩田):これも先ほど申し上げた話です。サービスを1から立ち上げて基盤が整うまで我慢できなかったというところと、ちゃんと意志を持った方がやったほうが良い、というところがありました。

田原:そこが決め手なんですね。

岩田:あとは、それこそ小谷さんの人柄もそうですし、勝ち切りたいという想いと情熱にやられちゃいましたね。

田原:やられちゃったんですか(笑)。惹かれちゃったわけですね。

姥貝賢次氏(以下、姥貝):パーソル社内にこういった話を持っていくときに、まず何から始めるんですか?

岩田:会社によるとは思うのですが。まず上層部に話をもっていくまえに、小谷さんたちとしっかり話すようにしています。その話した内容をベースに、パーソルキャリアにどのようにジョインいただくシナリオがあるのかというストーリーをこちらで作ります。定性的にも定量的にも作ります。

それをベースにしながら、まずパーソルキャリアの代表に話をします。話すときに……今日は大企業の方もいらっしゃるんですよね?

田原:大企業の方、いらっしゃいますか?

(会場挙手)

田原:少なめですね。

岩田:代表と話すときに、「こういう会社さんとこういうジョインのストーリーがあります。僕はこう思ってるんだけど、どう思いますか?」という話をして、そこで代表から「いいね、具体的には?」と聞かれた際、いくつかのストーリーをベースに話して整理します。そのあとに小谷さんを代表に引き合わせて、実際に直接話してもらってお互いに理解を深めてもらいます。

そのあとにパーソルキャリアの経営会議に上程をし、そこで合意を取った後、弊社の場合で言えば投資額に応じて事業会社で判断できるラインは事業会社が決済し、そのラインを超えた場合はホールディングスの決済も発生します。

なので、今回は2段階で投資決済をしました。パーソルキャリアの経営会議で話し、そのあとホールディングスの経営会議で話す。このようなプロセスを経て合意に至っている感じです。

買収後にうまくドライブさせるために取り組んだこと

姥貝:買収はかなり大変ですね。

田原:でも、毎週まで期間はそんなにかかってはいないわけですよね?

岩田:そうですね。実際に決めてから、そのあとにDD(Due Diligence)やらせていただいて。DDが約2ヶ月以内ですね。

田原:2ヶ月というとけっこう短いですよね。

小谷匠氏(以下、小谷):2ヶ月はめっちゃ短いと思いますね。普通3、4ヶ月とか、長いところだったら半年とかかかるというので。

田原:じゃあ、ここの意思決定の早さといいますか。

岩田:僕は1ヶ月でやってくれと言ったんですけど。なんで2ヶ月もかかるの?と。

小谷:たぶん僕が死んでいました(笑)。1ヶ月であの量って(笑)。

姥貝:岩田さんみたいにプッシュしてくれる方と出会えるかどうかって、けっこうキーポイントなのかなという感じがしますよね。

岩田:経営会議の論点になりそうな部分を押さえて、社内でシナリオを作れるかというのはけっこう重要かなと思います。

姥貝:シナリオを作る。なるほど、なるほど。非常におもしろいですね。

売却を社内に伝えたときのモチベーションの変化

田原:では、ほかの質問にいきましょうか。

姥貝:ちょっと違った角度から。

田原:小谷さんにですね。ベンチャーキャピタルは売却に好意的でしたか?

姥貝:これはどんな声があったんですか? 

小谷:これは既存のということですよね。既存の株主の方はみんな好意的でした。

田原:ニコニコでした?

小谷:ニコニコでしたね(笑)。

田原:よかった。

小谷:小谷さんがいいならそれで、みたいな。

田原:そこはけっこう信頼があったわけですね。よかったです。では続いていきましょう。 売却を社内へ伝えたときの反応はいかがでしたか? モチベーションが上がりましたか? 下がりましたか?

姥貝:社内の反応ってどうだったんですか?

小谷:まあいろんな反応はもちろんあるんですけれど、基本的には大きい絵を描くところを絶対にやる。かつ勝ち切る。というのはずっと言っていたので。ナンバー1以外価値がない、という話を社内でずっとしているので(笑)。まあ、まだナンバー1じゃないですけれど。

そうでなければ価値がないという話をしてるので、そのための戦略ですというところはちゃんと浸透していて、という感じですね。かつ単体だと絶対できなかったことも今動いてたりするので。そういうところはすごくいいかなと思いますね。

姥貝:なるほど、わかりました。ありがとうございます。

10年分の有価証券報告書を見て、方向性を決めた

田原:続いて岩田さんにいきましょう。ライボさんに対し、少額出資からではなくマジョリティ出資に踏み切った理由はなんでしょうか? 

ちょっとだけ出資するという手もあったと思うんですけど。どうでしょうか?

岩田:小谷さんとは、様々な選択肢を互いに議論させていただきました。その中で、小谷さんがおっしゃった、この領域で勝ち切るためには、当社にジョインいただいた方が成長が加速するのではないかという話になったんです。

田原:逆に、ただの資金調達だったら、やっぱり一緒にできることが限られてしまったりとか、そういうことになるんですかね?

岩田:それもありますね。

田原:だったらもう一緒にやろうと。

岩田:はい。

田原:もう少しいきましょうか。売却を決断したあとで、買収側の情報はどうやって集めましたか? 情報を集めた中で最も方向性を決めた情報は何ですか?

姥貝:パーソルさんの情報って、外からどうやって知ったんでしょうか?

岩田:気になりますねぇ。

小谷:過去10年分くらいの決算のデータを見ましたね。

田原:そうなんですね。

姥貝:有価証券報告書などですかね。

田原:見てどうでした?

小谷:リーマンショックやばいなって(笑)。

(一同笑)

岩田:やばかったですよ。本当に。

小谷:もちろんパーソルさんもそうなんですけど、HRというか求人の領域で有名な会社は全部見るじゃないですか。リーマンショックのときって、全社同じ動きしてるんですよね。やばいなって思いました。

あとは、パーソルさんについては、ポートフォリオがすごく素敵だなと思っていましたね。求人のところと、転職エージェントのところはもちろん、うちとしては注力するところなんですけど。

利用者としては、新卒の学生さんとかもけっこういるので、新卒の領域も押さえられているのはうちとしては嬉しいのと。あとはどうですかね。あんまりレファレンスみたいなものは取らなかった気はしますね。

姥貝:あ、人からは。

小谷:あんまり会わなかったですね。

姥貝:有価証券報告書を読みまくった?

田原:10年分。

小谷:読み尽くしましたね。数字をソラで言えるくらい覚えていました。

田原:すごいですね。

小谷:数字がわかると、今後どれくらいインパクトを出さないとグループインしても意味ないなとか。グループとしてどれくらいの規模感を出してほしいかとか、期待値もなんとくわかるじゃないですか。そういう目線ではすごく見ていましたね。

姥貝:有価証券報告書は競合も含めて?

小谷:競合も含めて見ていました。

姥貝:すごい量? 10年分くらい?

小谷:はい。リーマンくらいからですね。2006年以降から13年分くらいですかね。

田原:数字は嘘をつかないということで見ていたわけですね。

小谷:そうですね。方向性を決めるにあたっては、あんまり情報収集して考えたというより、ちゃんと話して決めたという感じのほうが正しいかもしれない。

買収にあたっての懸念点

田原:お会いしてお話をしながらということですね。では、パーソルキャリアさんがライボさんをM&Aするうえで最も魅力的だと判断したポイント、懸念したポイントをそれぞれ教えてほしいです。

小谷:これ、めっちゃ聞かれますね(笑)。

田原:懸念されたポイントに関しては、買収側としてどのようなフォローアップを考えていますか? 魅力についてはけっこうお聞きできたかなと思うんですけど、懸念ポイントは実際どうなんでしょうか?

岩田:懸念ポイントですか。

田原:言いにくいと思いますけど(笑)。

岩田:計画していたKPIが本当に実行できるのかというところですかね(笑)。 まあでも、それはやってみなきゃわからないですからね。

田原:そこは一緒にがんばっていこうというところもありますもんね。

岩田:そうですね。あとはそれを達成できるかどうかは、こちら側の関わり方の問題も大きいので、逆に我々の努力次第だよねという。結局それができなかったら我々自身がダメだったということかもしれないね、という話は社内でもしていますけどね。

田原:なるほど。

姥貝:関わり方の設計とかも具体的にあったんですか?

岩田:そこまで具体的にはなかったですね。イメージはありましたけどね。

姥貝:今はあるんですか?

岩田:今はビジネスサイドにいったら徐々に設計していくところもあるんですが。とは言いながら、我々が一番大事にしなきゃいけないなと思っているのは、ジョインしていただいたあともアントレプレナーシップをどのように持てるのか。あとは自由度とか。

姥貝:小谷さんの?

岩田:そうですね。ライボさんとしての良さが失われないようにというのは。うちのいろんな仕組みに合わせて、あれやこれやという要望はあるんですけど(笑)。自分ができる限りしがらみになるようなことは全部排除させるように動いていますけど。

田原:あ~すばらしい。

岩田:でも現実は…、ということもあるんですけど(笑)。

田原:現実は厳しいということもこれからあるかもしれないですが。そういった心意気ですね。

ブレイクした場合のセカンドシナリオは用意していた

田原:次いきましょうか。

小谷:スタートアップとしてキャッシュフローがきつくなる問題とか。これは実際にあると思うんですよね。うちも調達で動いていたので……。

田原:スタートアップとしては、キャッシュフローがかなりつらくなるんじゃないかと思いますが、今年はどのように動いていましたか?

小谷:僕も話聞いたことがあります。どんどんキャッシュがなくなってきて経営がきつくなってくると、交渉力も下がってくるので、それでジリジリやられるような(笑)。それをバリエーション交渉に用いられるようなことはあるらしいです。

田原:あるあるなんですね?

小谷:あるらしいです。もちろん、信頼した中で交渉するので大丈夫なんですけど。とはいえセカンドシナリオというか、ブレイクしたときのシナリオはもちろん引いていて。ちゃんと増資で動いてましたね。

それなりの金額をちゃんと調達できる算段をしたうえで動いていたのと、既存の株主の方でとくに強いエンジェルの方などに貸し付けてくれという話をしていました。

姥貝:いざとなったら?

小谷:はい。いざとなったら数ヶ月保てるくらい貸し付けてほしいという話はしてました。 けっこうシビアな話だと思うんですけれど(笑)。普通にあると思いますよ。スタートアップではよくある話。

田原:すごく重要ですもんね。生きるか死ぬかということでした。

姥貝:これはおもしろいですね。

カニバリを制する秘訣

田原:次はパーソルさん宛に。ディスラプターでスタンダードをとるために一番大事なことはなんですか? グループ内の類似サービスや競合サービス等のカニバリを制する秘訣を教えてください。連携を取る、調整をするくらいなら外へ打って出るというマインドなのでしょうか? 一番大事なことですね。カニバリを制する秘訣。

岩田:カニバリを制する秘訣って、うちも3年くらい前にカニバリ論があったんですよね。そのときに、うちのホールディングスの代表の水田が、ありがたいことに、全社に「カニバリオッケー」ってメールを出したんですよ。

田原:全社メールで!

岩田:「外でやられるくらいだったら自分たちでやりなさい」と。そういった社長の言葉での発信を、うちのホールディングスの代表が毎月全社員宛にメールするんですよ。なにかありましたとか、こういうことがありますとか。こういうことは大事です、というのがあるんですけれど。そこに新規事業のところを取り上げていただいて、カニバリはぜんぜんオッケーだよということで。

パーソルの創業は人材派遣のテンプスタッフでして、創業者の篠原は、アジアで最も成功している女性起業家と言えるんですけど。彼女は徳の人という。そのDNAを継いで、そういうことは大事だよねということを発信してくれたのは、めちゃめちゃ僕的にも恵まれてるかもしれないですね。それを印籠的に話ができるかなと思うんですけどね(笑)。

ネガティブな意見には「そういう見方もありますよね」で返す

姥貝:なるほど。ありがとうございます。ちょっと聞いてみたいものがありますね。

田原:岩田さんへ質問です。社内検討する際にネガティブな意見や突っ込まれた話はでましたでしょうか? お話できる範囲内でお願いします。

姥貝:反対意見などもあったんですか?

岩田:ありますよ。それは。

姥貝:あるんですね。 そういうのをどうやって乗り越えたんですか?

岩田:「そういう見方もありますね」と言って笑ってる感じですかね。

田原:すばらしい言葉ですね。それでなんとかなるんですか?

岩田:それで軽くクリアできるときもあるし。

田原:できないときは?

岩田:できないときは、「逆にみなさんどう思いますか?」とか(笑)。ごめんなさい、これはテクニックの話ですけどね。

田原:テクニックをお持ちで(笑)。

岩田:テクニックはありますけれど。やっぱり自分も納得しないとあんまり経営会議に出したくないというのがあるので、自分が自信を持って、自分で話せるいわゆるストーリーができないと、持っていったとしてもあたふたしてもしょうがないところがあるので。そこの準備はちゃんとします。

ライボさんに限らず、そういったネガティブな意見を言うことを役割としていらっしゃる方も経営陣にはもちろんいらっしゃるので(笑)。わかっていただけるようなコミュニケーションを心掛けて動きます。

田原:そのへんはうまくできてるわけですね。

お互いがハッピーになれるのか、ビジョンは一致しているのか

田原:ありがとうございます。そろそろお時間になってしまいました。今日いらっしゃっている方の中には、M&Aを考えている方もいらっしゃると思います。みなさまにメッセージといいますか、アドバイスといいますか、言い残したこともあればお話しいただきたいなと思います。

小谷:じゃあ僕から。ここ1年くらいでかなりスタートアップ×大手の取り組みとか、あとグループインとか、かなり増えてきてるのかなと思ってて。それがうまくいった事例、うまくいかなかった事例などが、まだあまり出てきてない過渡期なのかなと思ってます。

うちとしてもこの取り組みでしっかりちゃんと伸ばしていく、というところを前提にやっているので。しっかり成功事例にしていきたいなという決意表明です(笑)。今日はありがとうございました。

(会場拍手)

田原:続いて先輩ですからね。では岩田さん。

岩田:僕らは決してM&Aありきで考えてないんですよね。いろんな会社の考え方があって、やるならM&Aだろということに振り切ってお話しされる方もいらっしゃるとは思うんですけど。

それって結局、相手あっての話なので。そこは決めつけず、ちゃんとお互いにとってそれを選択することがハッピーなのかということと、何につけても双方が目指しているビジョンが本当に一致するのかとか。あとは熱量も含めて、一緒にやることがお互いにとっていいよねというところが、僕はなによりも大事なのかなと思ったりもしています。

個人的にはそういう関わりが大事なのかなと思っていまして。M&Aありきというよりは、誰とどんな事業をともにしたいのかということがやっぱり大事なのかなと思います。そんなことをご一緒できるという方がもしいらっしゃれば、ぜひなにか一緒にやりたいなと思っています。

田原:ありがとうございました。大企業ならではの社内のテクニックも教えていただきまして、いろいろありがとうございました。それでは以上でパネルディスカッションは終了といたします。小谷さん、岩田さん、姥貝さん、ありがとうございました。

(会場拍手)