スタートアップ買収による成長戦略を語る

田原彩香氏(以下、田原):それでは続いて今日のメインのプログラム、パネルディスカッションに入りたいと思います。改めて、みなさんにもう一度集まっていただきましょう。

まずは、先ほどピッチしていただきました株式会社ライボの小谷さんですね。小谷さんは2015年2月にライボを創業いたしまして、個が活躍する社会をビジョンとして、キャリアや転職に特化した匿名相談サービス「JobQ」を開発、運営。そして2019年3月にパーソルキャリア株式会社の完全子会社となり、パーソルグループ入りをいたしました。

続きまして、パーソルイノベーション株式会社の取締役COO、そして株式会社ライボ取締役の岩田様です。岩田様は、2018年にパーソルホールディングスにてイノベーション推進本部を創設されまして、2019年に株式会社ライボの取締役にも就任されました。現在はパーソルイノベーション株式会社のCOOなども兼務されています。

そして最後、今回のモデレーターですね。姥貝賢次さんです。2015年に財務サービス事業を行うカウンティア株式会社を創業いたしました。そのあと公認会計士としての経歴と、自らビジネスを立ち上げ運営してきた経営者としての経歴の2つの経験を武器にし、スタートアップ向けの財務サービス事業を展開しております。

ということで、改めてみなさまのご紹介をいたしました。ここからはみなさんからのご質問も取り上げながら進めていきたいと思います。たくさん書いていただいてありがとうございます。ではお願いいたします。

姥貝賢次氏(以下、姥貝):質問は17件ですね。けっこういろいろあります。では、最初の質問から聞いていきましょう。

事業売却のストーリーは創業時から考えていたのか?

田原:売却後側の社長に対しての質問です。創業したときに、このような売却ストーリーはイメージしていましたか? 

姥貝:創業したときってどんなことを考えていたんですか?

小谷匠氏(以下、小谷):創業時は売却とかあんまり考えていなかったかもしれないですね。さっきの自己紹介の資料にもあったんですけど、当時の2015年くらいって、CtoCの文脈がすごく伸びていたときです。

「メルカリが今めっちゃKPI伸びてます」みたいな時期だったのと、あとAirbnbが国内でもすごく伸びてて。CtoCの文脈でキャリアの領域でイノベーションが起きるんじゃないかなと思っていました。

「JobQ」って、実は2つ目のサービスなんですけど。

田原:あ、2つ目なんですね。1つ目はちょっといろいろ?

小谷:いろいろあって。「JobWeather」っていう、友人が転職をサポートできるようなサービスを作ってですね。詳しくはYouTubeに上がっているので、そちらを見ていただければ。

田原:まだ見られると(笑)。

小谷:「JobWeather」についてインタビューを受けたYouTubeがあがっているので、ぜひ見てみてください(笑)。

田原:そんなこともありながら。でも、最初から売却のイメージは定まっていないわけですよね?

小谷:調達のときはもちろんVCなどから入れるので、イグジットまではしっかり描くんですけれど。そんなに意識せず、ちゃんとユーザーと向き合いながらどうプロダクトを作るかということばかり考えてましたね。

田原:サービスに集中していたということですね。

姥貝:IPOみたいなことは意識していたんですか?

小谷:もちろんそうですね。IPOで事業計画を引いていましたね。

姥貝:なるほど。今回はこういったご縁があって。

小谷:そうですね。

資金調達の相談が、M&Aで着地するきっかけになった

田原:では、もうちょっといきましょうか。たくさん質問があるので、できるだけ取り上げていきたいと思います。続いては買収側への質問です。売却側へ買収したい意思を、いつ、どのように伝えましたか? ここ、聞きたいですよね!

岩田亮氏(以下、岩田):……いつでしたっけ?(笑)。確かお話を始めたのが昨年(2018年)の10月末くらいで。でも初めに小谷さんからは、普通に資金調達をしたいという相談をいただきました。

姥貝:資金調達の相談から、どうしてこういった買収という着地になってきたんですか?

小谷:例えば、競合の話をさせていただくと、口コミサイトって一番はじめにスタートしたのが2008年なんですね。そして、企業の口コミサイトで、一番早いプレーヤーが2010年なんですよ。

うちは創業が2015年なんですね。5年の差があると。その中でどうやって勝つかって、やっぱり考えるわけですね。競合の動きを見ていると、連携しながら掛け合わせで伸ばしていくというところを実際にやっていて。

うちとしても、M&Aじゃなくてもどこかと掛け合わせてレバレッジを効かせていく、みたいなことは当たり前に考えていた中だったので。例えばそれが、株式的にエクスクルーシブな関係を持っておいたほうがやりやすいのであれば、1つの選択肢かなと思ってましたね。

再定義後のミッションと「JobQ」の文脈がマッチ

姥貝:もともと岩田さんと小谷さんはお知り合いだったんですか? 事業上の連携の部分では?

岩田:2年前(2017年)くらいからの付き合いかな?

小谷:そうです。2、3年前。

姥貝:どんな印象で小谷さんのことを見られていたんですか?

岩田:どんな印象……そうですね、好青年だなと(笑)。

小谷:ありがとうございます(笑)。

岩田:あとは、意思決定するときに小谷さんが「この市場で勝ち切りたい」ということをすごく熱く語っていたのが印象的でしたね。パーソルキャリアは実は口コミの領域で言えば、自社で立ち上げたサービスが2回失敗しているんですよ。

田原:あ、そうだったんですね。

岩田:口コミの領域は、重要なんだけど緊急度が上がりきっていなかったという、事業上の問題を抱えていたというのが1つあるのと。あと、ちょうど同じタイミングで、パーソルキャリアは「転職支援の会社」から「働くことにまつわる課題解決を行う会社」になろうという、ミッションの再定義をしている最中だったんですね。

そのときに小谷さんから、「単純に口コミだけじゃなくてキャリアの支援もしますよ」と。あと、個が輝いて活躍できる世界観の話もしてくださり、非常にパーソルキャリアと文脈が合うなという話になり。一緒にやりましょうかということになったのが昨年(2018年)の11月末くらいですかね。

小谷:その時期1ヶ月くらいは、毎週お会いしましたよね。

口コミ領域には、強い想いのあるプレイヤーが必要

姥貝:パーソルキャリアで口コミのサービスを2回くらいやっていたんですね?

岩田:そうです。大失敗しました。

姥貝:2回やるということは、やり切りたいという気持ちが会社にはあったわけですね。

岩田:そうです。

田原:どうにかしてやりたいけれども、同じようにやるとまた失敗をしてしまうから。

岩田:この領域って、本当に「やりたい」という強い思い入れを持ってやれる人間が、社内にいるかがけっこう重要だと思っていて。

でも、どうしてもパーソルキャリアとして他にいくつかやらなければならない戦略テーマもあったので、この領域に対して「本気で取り組むぞ」という想いを持つ小谷さんのような方がやってくれるのであれば、それはもう相互にハッピーだよねという話になり、タイミングというのもあったかなと思っています。

田原:なるほど。タイミングもありますし。

小谷:さきほどの資料の始めのほうの「KPI実績」のグラフって、当初は本当に底を這うような感じで。ここ2年でやっと伸びてきているので。(岩田氏に向かって)パーソルさんとしてはサービス立ち上げてから2年も我慢できないですよね?

岩田:そう! 我慢できなかったの!

田原:あ、そういうこと! 我慢できなかったということなんですね。

岩田:そうなんですよ。大企業病で(笑)。成長するまで我慢できなかった。うまくいかなくて、我慢できなくなって、やめちゃうというパターンですね。

田原:それが2回。

岩田:それを我慢して乗り越えたという人が目の前に現れたら、それはもう「一緒にやりましょう!」って(笑)。

田原:それは一緒にやりたくなりますよね。

小谷:我慢できないですよね。うちも我慢できなかったですもん。2回くらいクローズを検討したので。

田原:でも、今回は我慢して伸ばしていったわけですよね。

岩田:それは大きかったですね。我慢できなかったですから。

PLがいかにきれいに仕上がるかを重視する大企業の病

田原:なるほど。ではその大企業が持つ課題をうまく乗り越えて。

姥貝:そこにヒントがありそうですよね。大企業のジレンマみたいなものをスタートアップが解決した。そこの出会いがこういったジョインにつながったっていう。

岩田:そうですね。やっぱり大企業ってPL経営なんですよね。PL重視なんですよ。なので単年度のPLがどうやってきれいに仕上がるかしか考えてない……って言ったらちょっと語弊があるかもしれないですけど(笑)。

このような状況で、芽が出ないものは早く見切りたいようなところがやはり多少ありますし。一方で、本業の改修や改善だけでも相当な投資をするので、芽が出るか出ないかみたいなものに関して我慢ができなかったということですね。でも、そういう意味では、小谷さんとのジョインも決めて、我々の会社自身も変わってきてはいるんですけどね。

田原:いい影響があるんですね。

岩田:はい、いい影響を及ぼしていただいてありがとうございます。

(一同笑)

小谷:茶番みたいになっていますけど、大丈夫ですか(笑)。

田原:いいですね。スタートアップも大企業も、お互いにメリット・デメリットはありますよね。

岩田:逆に大企業は、ご一緒する時にBSになるから、PLが汚れなくていい……言い方は悪いんですけど…。だから、逆に一緒にやりやすいというのはありましたね。

田原:いいですね。ここをポイントでいくといいかもしれないですね。

今の延長線上ではなく、ビジョンベースの中計策定へ

姥貝:大企業の課題感みたいなものをスタートアップの買収で解決する、ということをやったと思うんですけど。似たような質問として、こういったことも気になってくると思うんです。

田原:はい、今後の買収ターゲットになり得る企業はどんなところか? 売上利益規模、ユーザー規模、技術など具体的にあれば。

岩田:ちょうど設計している最中で(笑)。

田原:あ、そうだったんですね。

岩田:現在、私たちは2030年にどんな価値を世の中に対して提供できる会社になりたいかというところを、議論しています。

そこから我々にとって必要な提供価値のバリエーションや、そこにおけるポートフォリオみたいなものから、今テーマをいくつか出しているという感じです。それをやるためにどれだけのバジェットが必要なのかというところも含めて、今ちょうど設計していますね。

「Development」「Disrupt」「Discover」の3つの“D”

現状で言うと、これまで我々は「内製にこだわらない」という意思決定を、約2年前(2017年頃)に遅ればせながら行っていまして。社内では3つのDということで、Development、Disrupt、Discoverと言ってるんですね。

我々の既存事業をDevelopmentしていくことに対して、いわゆる重要度が高くて緊急性が高いものって自分たちでやるじゃないですか。重要度が高いんだけど緊急性が低いものってどうしても後回しになるんだけど。3年くらい経ったあとに「やっぱりやっときゃよかったな」という話になるんですよ。

こういう領域がいくつかの課題として蓄積されていて。そこをいわゆる自分たちの力なのか、他のみなさんとのパートナーシップで解決していくのかというところでDevelopmentを考えていると。

あと、自分たちを意図的にDisruptするというプレーヤーがもしいらっしゃるのであれば、そういったところも自分たちでも厭わずにやっていこうというところがあったりもします。

Discoverは、いわゆる飛び地はやらないと決めているので、自分たちのアセットを活かせる領域ないしはまだターゲットにしてない領域に対して、我々のサービスをもうちょっとチューニングしたときに、どのようなインパクトを出せるか。各事業会社のテーマとホールディングス全体という目線から、いくつかテーマを整理して取り組んでいる感じですね。

大企業の思考法は、経営会議に顔を出している人に聞け

姥貝:ヒントがすごくたくさんありましたよね。そういった大企業の方が考えている戦略とか思考、課題感って、外の人はどうやって知ることができるんですか?

岩田:パーソルグループのことだったら僕に聞いてもらえれば(笑)。結局誰に聞くかが重要だと思うんですよ。

僕はたまたま、ポジション的に上司がパーソルキャリアの社長だったり、ホールディングス全体で言うと、副社長が僕のレポートラインなので。全体の課題や経営会議にも出たりするので、何が問題で何か課題なのかということがだいたいわかっているのが大きいですよね。

これがもうちょっと1つとか2つとか下のレイヤーになっちゃうと、実はその人が担当しているエリアのことしかわからなかったりするので。どちらかと言うと、やっぱり経営会議に出ているような人を捕まえていくのが大事なのかなと。僕は個人的にそう思います。

姥貝:誰と話すか、どこで話すかというのがかなり重要だということですね。

岩田:そうですね。社長に近いほうがいいと思います。

田原:社長に一番近い人。

岩田:社長にダイレクトにいってもいいと思うんですけどね。

田原:それが早いっちゃ早いですね。そして、パーソルグループの場合は岩田さんということですね。