2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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冨田阿里氏(以下、冨田):素敵な一面があるんですね。家入さんはどうですか?
家入一真氏(以下、家入):さすがに、コードは書かなくなりましたよ。たまに、書くまではいかないけど、違う言語のチュートリアルをやって勉強することはあります。20代のときと圧倒的に違うのは、ぜんぜん関係ないジャンルの人たちとめっちゃ会うようになったこと。
あとは、もともとけっこう本を読むんですけど、経営とか投資とかじゃない、今の領域には直接関係のない本を読むことが増えた。
ベタな言葉でいうと、無知の知じゃないけど、知れば知るほど自分が何も知らないことを知っていく。IT業界では20年ぐらい起業の設計をしてきたから、油断すると「日本のITはだいたいわかるよ」みたいに慢心する瞬間がある。それってすごく怖い。
今の若い子たちが何を考えているか、どういう領域で今起業しようとしてるか、どういう領域が今きてるかみたいな、同じ領域でも知らないことだらけなのに。
ちょっと横を見ると、社会起業やNPOとかソーシャルセクター、宗教の領域において今どういうことが起きてるのか、社会学で今どういうムーブメントが起きてるか、哲学、医療、農業、工業、ぜんぜん知らないことだらけなんです。これけっこうまずいんじゃないかって気づく。
だから、自分で学ぶことももちろん大事だけど、並行して、自分の領域じゃない人といかに会うかに時間を割くことは増えています。
冨田:ありがとうございます。確かに、家入さんとお話しした忘年会でも、メディア系の人が多かったり、まったく違う業種の話だったりしました。一昨日はいらっしゃらなかった会です(笑)。
家入:産業医の大室さんって方の会ですよね。あれ、僕なんで行かなかったんですかね?
冨田:知らないですね。「家入さんが来るよ」ってみんな言ってて、いらっしゃらなかった。
(一同笑)
亀山敬司氏(以下、亀山):相変わらずそういうことやってるんだね。
家入:今はどっちかというと、メンタルとか臨床心理の領域に興味があって、個人的に勉強しています。そうするとまたネットワークが広がっていくし、意外に近いとこにいたね、みたいな感じあるんです。大室さんもそうじゃないですか。
冨田:高宮さんの頷きが深いですね(笑)。
高宮慎一氏(以下、高宮):めっちゃ共感してます。違う業種の人に会って、新しい発見とか、同じことを違う言葉で言ってるという体験はすごく新鮮で楽しい。
冨田:なにか特定の領域はあります?
高宮:というよりは、目先の手足を動かす業務だけしかできないとか、これをやることで短期的にスキルが身につくみたいな呪縛から解放されて、好奇心の赴くまま好きなこと、好きな人と会うことが仕事に繋がるっていう感覚と、割り切りができたのは、すごく気が楽です。
家入:高宮さんも亀山さんもそうだけど、そういうところを楽しめる人と楽しめない人がいますよね。例えばITの経営者をITじゃないコミュニティに連れて行ったときに、自分の領域以外に興味を持てない起業家って、一定数いるんです。
と思いきや、高宮さんや亀山さんみたいに、臨床心理の世界で今こういうことが起きてるんですって話をしたら、じゃあうちが持ってるこういうやつと掛け算したらこういうことができるんじゃない? みたいな話ができる人のとどっちかに分かれる。
短期的な利益を得ようとして、自分の目の前のメリットを取りに行く人って、長期的には損してしまうと思っています。別に損か得かで動いているわけじゃないですけど、その場を楽しめる人って、好奇心がありますよね。
高宮:20代の頃、好奇心に対する罪悪感みたいなものがあったんですよね。発散しちゃって、目先のことをやらない自分に対する罪悪感……。
家入:それは、逃げる言い訳にしちゃうって感じなのかな。
亀山:さっきの話でいうと、目先で稼げないとやっていけないからがんばろうみたいなところもあると思うんだけど、一方でたまには1ヶ月ぐらい旅するような時間が必要。新聞の記事を見るときに、ときどきおじいちゃんの俳句コーナーを読むとかでもいい。
(一同笑)
亀山:例えばぜんぜん興味ない分野の「NHKスペシャル」とかで、どこどこの山の草原の清流とか、中国古代文明とか。たぶん、みんな経済系の本ばっかり読むんだろうけど、たまにはまったく違う医療の話に触れたりする。そういうところに広げておくと、成功するかはともかく幸せっていうか、面白いとは思う。
食ってかなきゃいけないから目先は目先でやらなきゃいけないけど、経済だけやってても最終的には幸せになれない気がする。欲はあったほうがいいんだけど、あんまりありすぎると、これまたうまくいかないこともあるよね。だから、ときどき違う世界を見てみるのもあり。
冨田:ありがとうございます。最後の質問が価値観についてなので、続きを聞けたらと思います。20代のころと現在のお金の使い方について。先ほどのお話と通じるものがあると思うんですけど、亀山さん、20代の頃は……。
亀山:ほとんどひたすら仕事やってた。さっきと同じだね。とりあえず1年以内に回収できるものばっかりに投資してた。要は、ビデオレンタルのときは「ビデオテープをなるべく増やして貸すぞ」って感じだったのが、ゆとりができればだんだん変わってくるかな。
冨田:今のお金の使い方はどうですか?
亀山:今だと、けっこう長い目で見られるから。最近は教育とか言ってる。
教育とか、かっこつけたこと言ったほうが、結果的に今どきの若いやつとかエンジニアにウケて、そういういい奴がみんな来るじゃない。そういうふうに思ってもらいたい、というところがある。
家入:そういうことまで含めた照れ隠しですか?
亀山:いやいや。でも、長めの投資ってことだと思うんだよね。ちょっといいと思われたら、将来会社が良くなるんじゃない? みたいな。
でも昔、露店やってた頃は、毎日いかにこの酔っ払いからボッタクってやろうかということばっかり考えてたわけ。普通の女の子には1,000円で売ってたネックレスを、おっちゃんが女の子を5、6人連れてきたら1個3,000円くらいの値段にしたり。
どうせ流れもんだから、とりあえず今日稼ごうって感じだったわけ。それが、店を構えることになると、やっぱり信用が要るなと。おいしいものを出さないとお客さんは来てくれないな、とか思い出す。
結局、その延長だと思うんだよね。だからちょっとかっこいいことやっといたほうが、 グルッと回って結果的に良くなってくるんじゃね? みたいな感じ。でも、ゆとりがなくなって、会社がやばくなったら、また目先の利益にガツガツいっちゃう。
冨田:じゃあ亀山さんの事業の話を聞いてたら、業績がわかる(笑)。
亀山:「最近、亀山せせこましいこと言い出したなと」思ったら、やばい。
(一同笑)
冨田:教育とか言ってる時点で、今は余裕がある。
亀山:今はちょっと余裕があるね。たぶん余裕がなくなったら速攻で元に戻ると思う。
冨田:ありがとうございます。家入さんは、どうですか? 20代、30代、40代版のお金の使い方がありそうですよね(笑)。
家入:でも結局、人と繋がるためにお金を使っていた感じはあります。高宮さんもたぶんあの頃に出会ったんですが、毎晩みんなを呼んで、最後に僕がお会計するんですよ。それがかっこいい、気持ちいいって感じだったんだけど。
今、あのときやりたかったことはなんだったんだろうって思うと、すごく繋がりたかったんだなと。
そのあとお金がなくなって、全部の関係がいったん切れてしまった。飲みに行きたくてもお金がないというときに、気づいたんですよ。お金がなくなった瞬間に、人の繋がりが全部切れた。
実際はそうじゃないのかもしれないけど、一方的にそう思った。それで、僕は繋がっていたかったんだな、ということを30代前半で感じたんです。
今40歳になったばかりですけど、スタートアップへの投資も、ある意味参加料みたいな。その起業家が描く未来とか世界に、一参加者として参加したいし、学びたいという思いにお金を払ってる。
僕の経験の中で還元できるものがあればもちろん還元したいけど、基本的には参加料を払ってる感覚。物は買わなくなっちゃった。
亀山:やっぱり、年配よりも若いやつのほうが楽しい?
家入:そう。
亀山:そのへんでいうと、俺も若いやつに教えてもらうことがけっこうある。バーでわいわい飲んでたら、「へー、3Dプリントが流行るんだ」「こういうものがあるんだ」って感じで勉強になるから、参加料という感覚はわかる。
家入:若い子たちに学ばせてもらってる感じはすごくある。そこにお金を払っている感じ。
亀山:1杯500円で済むからさ。
家入:確かにね。
亀山:奢ってちょっといい顔しながら、ネタももらえる(笑)。
家入:確かに。最近「あの村」という村を個人的に買ったんです。房総半島の真ん中あたりで、すごく広いけど誰も住んでないんですね。そこをがんばって開拓してた若い子が「もうやっていけないから売ります」ってTwitterで言ってたので、僕買いますって100万円で買った。まだ1回も行ったことないんだけど、定期的に若いやつがそこに行って、開拓しようとしては挫折して帰ってくる。
(一同笑)
家入:その話を聞くだけでも、100万円の価値はあった。
亀山:確かにね。
冨田:お金を参加料って、いいですね。高宮さんは……。
家入:金魚掬いでしたっけ。
冨田:金魚掬いじゃない(笑)。
高宮:参加料っていう感覚はすごいわかりますね。でも消費は昔からけっこう好きで、洋服とかレコードをよく買ってたので、変わらないといえば変わらないです。好きなものをオタッキーに深堀りしてる。
レコード、クラブジャズが好きで、70年代に100枚しかプレスされてないやつを、コレクターが死ぬのを待って一気に買いに行くとか、そういうオタクなことをやってました。
オタクが好きで、自分もオタクだし、深掘りした先の淀んでる澱にコクがあるみたいな感覚がある。やりこんでる人が好きだし、自分もはまるとやりこんじゃう。
家入:元DJ?
高宮:うん。DJっていっても、ぜんぜんモテない感じだけど。女の子はブースの前に集まらないけど、100枚しかプレスされてないレコードかけてたら同じレコードマニアが集まってくるタイプ。最近だと、釣りとか、子どもと一緒に競技金魚掬いをやったり(笑)。
冨田:競技金魚掬い? 数を競うんですか?
高宮:そうです(笑)。マイナースポーツの極み。まったく飯は食っていけないけど(笑)
家入:あの取るやつって、規格とかあるんですか?
高宮:ポイ。紙ついた丸いやつね。そこがまた、分析的にアプローチするといろいろマニアックなことがあって……。
冨田:うれしそう(笑)。
(一同笑)
高宮:めっちゃ流行ってないからね。
家入:1回濡らしたほうがいいって本当ですか?
高宮:そう。濡れたとこと濡れてないとこの境目ができると、そこで破けるから。あれは掬うゲームじゃなくて、紙にダメージを残さないゲームなんですよ。
家入:これ、スタートアップと繋がる部分、ないよね?
(一同笑)
高宮:ある。あると言い張ってる。釣りもそうなんですけど、基本、仮説のPDCAだと思ってます。そういうことをやりきる人って、ウェブサービスを作るのが得意だと思ってるんですよ。
家入:確かにそうだな。
高宮:8割方はいけるけど、その先を突き詰めようと思うと未踏の荒野があって、そこを自分のPDCA力で切り開ける。ウェブサービスと一緒だと思ってるんですよ。
家入:確かに。釣り道具ですね。
高宮:ということがあって、そういう深掘る経験、マニアと話す経験にお金をつかうとか。あとは同じ洋服を買うにしても、もちろん好きなブランドもあるけど、どちらかというとデザイナーと知り合いになって、その人の作る服が好きだったらその人に固め打ちして買ったり。
そういう、参加権というか応援というか、クラウドファンディング的な文脈での消費が増えた。釣りのルアーでも、知り合いのプロが作ったやつを買おうとか。
冨田:洋服は高級なやつばっかりですよね。
高宮:いや、そんなことないですよ。
冨田:ほんとですか? いつも、マルタン・マルジェラとか。
高宮:マルジェラは知り合いでないです(笑)。僕はまだ昇華しきれてない煩悩、メジャーなブランド志向みたいなものが残っちゃってるんですかね。
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