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いま捉えなくてはいけないクリエイティビティは、科学的思考のすぐ隣にある。(全4記事)

一流のクリエイターの右脳と左脳の使い分け マーケティングありきでは生まれない、市場をひっくり返すクリエイティブ

2019年5月27~30日、「Advertising Week Asia 2019」が開催されました。マーケティング、広告、テクノロジー、エンターテイメントなどの幅広い業界が集い、未来のソリューションを共に探索する、世界最大級のマーケティング&コミュニケーションのプレミアイベントです。本セッションでは、経産省・特許庁から発表された「デザイン経営宣言」の座長であり、未来洞察を専門とする一橋大学大学院の鷲田祐一氏と、日本の広告界のトップランナーであり続けるTUGBOATの岡康道氏、ブランディングを専門とするクリエイティブディレクターの電通アイソバー田中信哉氏が登壇。クリエイティブに関する暗黙知や右脳と左脳の働きの違いについて意見を交わしました。

「原因と結果」はオリエンとプレゼンに似ている

田中信哉氏(以下、田中):岡さん、補足じゃないですけども、岡さんがいつも思ってらっしゃることを少しお伝えください。

岡康道氏(以下、岡):まず、さっきの僕の写真と今の僕が、ずいぶん僕の髪が白いから「昔の写真を持ってきてるんだろう」と思っている人がいると思うんだけど。そうじゃなくて僕は、12月の18日から髪を染めるのをやめたんですよ。それで、どのくらい白くなるか試してみようと思ったら、思いのほか白くなって(笑)。

(会場笑)

これからまた元に戻るべきか、このまま白くなったほうがいいのか迷ってるっていうのが今日なんですけど……(笑)。

(会場笑)

その話はまぁ、置いといて。原因と結果というのは、例えばオリエンテーションとプレゼンテーションのようにも思うんですね。「原因が正しくあれば、突き詰めていけば結果が出る」って、そうやってプレゼンをする人が多いんですけど。

ぜんぜんそんなことないと思うんですね。オリエンテーションに書いてあることは、もちろん間違ってるとは思わないけど、100ある仮説の1つが書かれてて、「必死でここまで考えました」ということを表示してるだけなんですよ。だから、あと99の原因があって、まぁその商品が売れていない現実があるわけですよね。

その1つを絞り出してくれたオリエンテーションに沿って表現を考えて、「これがプレゼンです」というふうにやったら、やっぱりそれはね、クリエイターとしての責任を放棄していると思いますよ。全部クライアントに委ねて「あなたのせいだ」とお客に言っているようなもので。

オリエンテーションは1つの仮説に過ぎない

:だから1つの仮説を見ても、あと99の仮説があるわけだから……。さっき鷲田先生がおっしゃった言葉の中で、すごくおもしろいのは、「暗黙の知」というのは僕らにもあって。なぜこの飲料が売れないのか、なぜこの車が売れないのかについては、言語化できる・できないは別にして、たぶんほとんどの人がもう体でわかっているんですよ。

「今これはコンビニじゃ売れないな」というのが、直感的にわかっている。例えば、ここに座っているような人たちは、わかる・感じると思う。「この車あんまり見ないな」というのはわかってると思うんですよ。それで、どうやればみんなが手に取るお茶や、乗ってみたい車になるかというジャンプこそ、クリエイティブであって。

その1つの仮説、オリエンテーションですね。クライアントに合わせたオリエンテーションをなぞってなぞって、「それを表現するとこうです」というようなことでは、ぜんぜん解答にはならないと思うんです。つまり、あと見えない99(の仮説)を全部ひっくるめて、「この表現で全部ひっくり返す」というのがプレゼンテーションなんですよ。

だから、そういう意味では広告のマーケティングというのが、ここに書いてあることですみませんけれど、そうやって表現というのは作られるべきだと僕は思ってるんですね。昔から今まで、もう40年ぐらいそう思ってるんですけども。

それで、そういう前提に立って考えると……鷲田さんはちょっとね、珍しいタイプのマーケターなんでこの中に入らないんだけど(笑)。要するに広告でよく言われるマーケティングというのは、表現のことはさておき、さておきですよ。

いろんな要素、原因になることをたくさん見つけてきて、それを潰すことを考えていくということになるんだけど。「いやいや、それはどんな表現であるかによって、まるっきり違っちゃうじゃないか」といつも思っていたんですね。

市場をひっくり返すのは、マーケティングありきのクリエイティブではない

:だから、媒体計画だってそうですよ。一度見たら忘れられないような広告を作れるなら、媒体費用はすごく安くていいでしょう? だけど、「これを何回見てもおもしろくないから覚えないだろうな」という広告を作ってしまったら、人に何回見せたところで意味がないですよね。だって、覚えないんだもの。なぜなら、つまらないんだもの。

だから、クリエイターは必死でおもしろいものを考えなくちゃいけないし、その一発ですべてひっくり返せなくちゃいけないし。少なくとも、「一度見たらこれ2、3日は覚えてるな」っていうものを作らなきゃならない。2、3日でいいから、そういうものまでたどり着かなきゃいけないんです。そういう努力をしなくてはいけない。

それで、そういう努力はさておき、マーケティングといういろんな調査や仮説によって、なにかのゴールまで行けるなんてことは、僕はぜんぜんないと思います。だから、いつも同じように、「この表現に対してはこのマーケティングだ」というのがセットになっているんだと思うんですよね。

それで、僕がマーケターと組むときには、先にマーケが進んでいて、あとから僕らが参加するということはなく、最初から一緒にいて、いろんなことを言い合いながら仕事をしているんですね。

僕らはわりと早めにアイデアを思いつくので、ある日、「このアイデアでいきたい」というふうに言って。「マーケターはこれに基づいてプランを考えてほしい」というふうに言って、それでだいたいうまくいくんだけど。負けることもありますけど。まぁでも、市場がひっくり返るときはそういうときですよね。

左脳に寄った話は誰もが理解でき、右脳に寄った話は理解できる人とできない人がいる

田中:市場がひっくり返るときはそういうときって、やっぱりのちほど出てきますけども、なぞったままのものが世に出ても埋もれてしまうし、我々も存在意義がなくなってしまうということだと思うんですよね。それで、左脳で積み上げたものをなぞるだけという意味で言うと、ちょっと「左脳と右脳」という議論になって。

岡さんにうかがうと、「左脳に寄った話は、誰もが理解できる。右脳に寄った話は、理解できる人と理解できない人がいる。右脳では議論されない。誰もが納得できるものにすると、一切の右脳的要素がなくなってしまう」というふうにおっしゃっています。

やっぱり言いきっていらっしゃるのがブレない姿勢だなと。我々はいろんなものを言い訳にしながら、クリエイティブとしての努力を……サボりはしないですけども、甘くなるところだと思うんですよね。

それをやっぱり「ヒットするものは右脳でヒットする。それは言いきれる」と。「左脳的に話すのは、そうしなければ企画が通らないからにすぎない」というふうに話されています。

この場にもたぶんクライアントの方とかもいらっしゃると思うんですけども、これはクリエイティブのテクニック的な部分に少し入ってるとはいえ、やっぱりクライアントさんとも右脳の会話ができると、本当は理想的だなと思うんですけど(笑)。

岡さん的には、やっぱり左脳では平凡なものにしかならない、というふうに。

:こういう場所で僕が右脳だけで話したら、もう絶対に気が狂った人だと思われるし。

(会場笑)

友達もできないし、家庭も崩壊するから、左脳を使って人間として社会生活を営んでるけど。

田中:おっしゃるとおりです(笑)。

右脳で考えたアイデアは議論の対象にならないような内容

:僕は頼りにしてるのは、まったく右側の脳だけなんですよ。僕はそれでなければメシが食えないと思っています。そうじゃない人もいます。

だけど、右側の脳の話って、議論できないじゃないですか。まず、いわゆる論理性がないように見えるかもしれないし、あと個人個人が違うんだし、ということから考えると、議論の対象になる内容ではないでしょうね。だけど、それはプレゼンテーションでは通らないので、まったく左の脳だけで考えたようなふりをしてプレゼンテーションしているんですけど(笑)。

ここに僕のクライアントはいないでしょうから言いますけど、本当のことを言えば、タグボートはまったく右側だけで考えています(笑)。

(一同笑)

だけど、プレゼンの日は違いますよ? まったく左だけで考えたようなふりをしていると。

田中:今日、本当のことが聞けましたが。

(会場笑)

:もうバレてるかな(笑)。

田中:「右脳的なことを差し出すと主観的な意見だと思われることもある。ただ、長くやってきた、ある種の判断というものがある。イヤだと言われたら仕事にならない。負けてもいいと思っている」……(プレゼンに)負けてもいいと思っている、というのはタグボートが独立した集団であることも大きいんですけれども、これはプロ中のプロの言葉だなと思っています。

アメリカでは「どんな薬を飲んでもいい権利」が憲法で保障されている

田中:たぶん鷲田さんのお話でも出てきた、膨大な蓄積要素というか。そういったものがたぶん、「長くやってきたある種の判断」というものなのかなと思ってはいるんですけど。鷲田さんはそう感じますか? どうですか?

鷲田祐一氏(以下、鷲田):たぶんそうだと思います。ただ私も広告会社から学術の箱に入って、コテコテの科学的な人たちと話をしたりすることがあるんですけど。この間アメリカのおもしろい本を読んでいてですね。日本とアメリカの薬事の違い、という話が書かれていて、おもしろかったんです。

アメリカ国民は、「どんな薬を飲んでもいい権利」というのが憲法で保障されてるんですって。日本は厳密に言うと、処方せんにあるように「飲みなさい」と言われた薬以外を飲むと、違法なんですって。

この差で何が起こるかというと、最近みなさんも聞いたことあるかもしれませんけど、「別の用途のために作った薬が、副作用だと思われていたんだけれども、飲んでみたら効いた」というものがあると。患者さんが少ないような希少疾病と言われる病気に、そういうほかの薬の副作用を当てることが、非常に効果的であるという話があるんですね。

今、その希少疾病に対する副作用探しという大競争が起こっているんですけれど、これはすごく似ている話だと思いません? もともと違うもののために作ったのに、なぜか効くということが発見されると、そのあとそれが大ヒット商品になる。

(会場笑)

本来の病気以外にも効く、薬の副作用

:いやでも、もともとほかの目的のために考えるわけじゃないですよね?(笑)。

鷲田:そうなんですけど、今はほかの目的のために意図的に(副作用を)探しているんですよ。

:なるほど。

鷲田:例えば、有名な話がありますよね。たしかバイアグラってそうだと思うんですけれども、もともと血圧を下げるための薬だったものが、あとでぜんぜん別の効果が発見されてしまって、そっちが大ヒットする。それで、ほかのもっと重篤な病気にも、そういうものがいくつかあるらしいんですね。

:あぁ、なるほどね。

鷲田:それってまさしく、これ(岡氏のオリエンテーションの話)だなと思っていて(笑)。でも、それをならしめているアメリカの国というのは、結局「どんな薬でもいっぺん飲んでみる」っていうことをする(笑)。

(会場笑)

膨大に社会実験をしたわけですよね(笑)。

:それはおもしろいけど、左脳と右脳、関係があるのかな(笑)。

鷲田:いや、「自分で治さなくちゃいけない」という背景があるわけじゃないですか。「自分で(薬を)あおってみよう」っていう国と、お医者さんに全部任せといて「悪くなったらお医者さんのせいだよ」っていう、それはさっきのオリエンテーションの話とまったく同じだと思うんです。

:あ、なるほど。そうか。

サイエンスの世界でも、原因が外れているのに結果が合っている事象が起こる

鷲田:何が言いたいかというと、ものすごいハードサイエンスの世界でも、実はそういうことが行われていて。一番最初にモノが生まれてくるところって案外そういうことだな、というようなことは、科学者と話をしながら知ったことです。

そういうふうに考えると、僕が思った「原因と結果」の中で、「原因が外れているのに結果が合っている」というようなことが、やっぱりわかっている人にはわかっているんだな、と感じました。

田中:岡さんはわかっている。

:わかっているかどうかはわからないけど(笑)。でも、「このキャンペーンがうまくいくかどうか」は、おおむね見当がつきますよね。すべてそのとおりではないけれども……。

だからやっぱり、「こう直されるとこのキャンペーンはヒットしないな」と思ったときには、本当は降りたくないですよ? 続けてお金にしたいけれども、やっぱりやめるということを言わざるを得ない。なぜならそれはクライアントのためにならないし、僕らタグボートのためにもならない。

でも、そうやってやめていたら、二度と仕事がこないでしょうね。

田中:(笑)。

失敗をすること自体が致命的なリスクになる

:だから、経済的には苦しくなるけれども、やっぱり「失敗する」ということ自体が、致命的なリスクなんですよ。とくにタグボートにとってはね。つまり「あいつらはもうおもしろくないな」って、みんな言いたいわけですよね。みんな言いたいかどうかはわからないけど(笑)。

(会場笑)

まぁ言いたい人はたくさんいる、ということ。だから失敗できないので、明らかに間違ったことに進んでしまった場合には、その仕事は負けても構わない。失っても構わない、と。

田中:「そうでなければ、右脳の警告ランプのスイッチを切り、左脳で平凡なものに仕上げてしまうだろう」。

:そうですね、そうなるんですよ。それで、電通時代にはこういうふうにしてきた現実もあるわけですよ。7割ぐらい?(笑)。残りの3割ぐらいは自分の良いと思うものを作ったけれども、7割がたはこうやって(左脳で平凡なものに仕上げてしまう)。

やはりクライアントは平凡なものを求めるから。それを求める人に対しては、平凡な答えを出してたわけですよね。でもやっぱり、それではあんまりおもしろくはなかったですね。

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