何かがヒットしたときに、すぐ「傾向と対策」に走ってしまうことの弊害

井上慶彦氏(以下、井上):ネタを考えるための情報はどこに入れてるんですか?

五明拓弥氏(以下、五明):まずやるのは、iPhoneのメモとボツネタを見ること。ネタとかCMを作るじゃないですか。毎回どうやってたっけなと、作り方を忘れちゃいません? 

井上:そうですね。とくに広告だとクライアントさんが毎回別なので、その人たちを知るところから始まったりするので、フォーマットがあるようでないなと思うときはありますね。

坂東宏樹氏(以下、坂東):とくにCMとかそういうのはけっこう自由だったりするので、さっきみたいな日常のところから思いつくときもあればという感じですね。

井上:逆に先輩のネタを見て思いつくとかもあったりはするんですか? 

遠山大輔氏(以下、遠山):そうなると、わりと行き着くところが一緒になっちゃう気がします。

五明:それは罪悪感があるね。

遠山:著作権はその先輩のネタにあるのにという感じが、僕らはたぶんしちゃうんです。たまに人の単独ライブとかも見に行きます。

みんなたぶん見方は違うと思う。僕は内容というよりは、「あ、こういうのでお客さんは笑うんだ」とか「ここは俺はめっちゃおもしろいと思ったけどそんな笑わないんだ」みたいなのを、自分の中で調整するみたいな感じです。僕は先輩とかのネタを見さしてもらってる感じです。

五明:だからいつもノートとペン持ちながら見てるんだ。

遠山:だから俺が盗作疑惑みたいな感じで言うんじゃないよ!

(会場笑)

盗作もいろいろあるんだからさ。こないだもあったじゃん。

五明:あったっけ?

遠山:わかんない、関係者がいるかもしれないからダメだ。

(会場笑)

五明:そうですね、先輩からはないかもしれないですね。

遠山:だんだんあれだよね。歴を重ねていくと自分たちのやれることってわかってくるじゃないですか。1年目、2年目のときは、それこそさっきの「ブラックマヨネーズさんのネタがすごい」となったら、やっぱブラマヨさんみたいなことやりたがる。

M-1グランプリとかも、去年霜降り明星が優勝したじゃないですか。今年のM-1グランプリの予選がこれから始まったら、たぶん1回戦の半分くらいは霜降り明星みたいなネタの人たちなんですよね。

井上:あ~。

五明:養成所の子たちとかね。

遠山:若いときはたぶんそうなるなと思う。

坂東:それはうちも一緒ですよね。やっぱり傾向と対策をしてしまう。

五明:そうっすよね。お笑いだったら笑いはとれるかもしれないけど、イコール埋もれてしまうということにもなるから。

井上:そのとおりだと思います。

遠山:そこらへんのせめぎ合いの答えがいまだに出てない状況です。

五明:そうっすね。

ネタ作りと広告制作の共通点

坂東:というところで、「ネタ作りと広告制作の共通点、相違点は?」というところに入りますか。

五明:僕はむちゃむちゃ似てました。もう一緒くらいでした。なんならグランジのコントでできなかったものを、ラジオCMに回せたりとか。まず衣装代がかからないじゃないですか。なんでもできるじゃないですか。

コントでずっとやりたかったなというメモがあるんです。関西でよく、冬になったら「冬将軍が大暴れ」って言うじゃないですか。その冬将軍を起こすコントというのをやりたかった。

甲冑にでっかく「冬」と書いてあって、ぜんぜん起きないから冬が来なくて人間が困ったみたいなのをやろうとしてたんですけど、ルミネtheよしもとの衣装さんとかが「いくらかかるんだ!」ってことになった(笑)。「ちょっと厳しいな~」みたいなことを言ってたら、プレゼンしたらCMになったりとか。

僕は本当に一緒でした。傷つけない。広告は傷つけちゃダメくらいじゃないですか。僕らもそうです。傷つけた場合、僕らは自分自身の責任です。

坂東:遠山さんはどうですか?

遠山:僕も五明とわりと一緒な気がしてる。この間もまた別のラジオCMを2人で各々作らせてもらうことになって、それを考えてるときに、僕は全部iPhoneで台本を書いていて、書いてるうちに「あれ、これ3人でもコントいけそうだな」となった。

だからさっきと逆です。CM発信でコントがいけそうだなとなった。それは『ウォーキング・デッド』とかの世界で、まだ噛まれてないゾンビに追われる側が、たまたま潜入というか隠れた場所が六本木ヒルズだったんですよ。

五明:人間が?

遠山:そう、人間が籠城してるところ。ふつうみんな服とかも汚くなっていくしボロボロになっていくのに、日が経つにつれてどんどんおしゃれになっていって、文化的にもすごく豊かになっていく。「もうちょっとここにいたほうがいいんじゃねぇ?」みたいな。

坂東・井上:(笑)。

遠山:というCMを書いて、これはうまいことやれば3人で実際にコントできるなと。ふつうだったら4分くらいなんですけど、10分の長尺とかいけんじゃないかなとか。わりと一緒のところが僕らはある。

五明:そうね。

井上:今ので言うと六本木ヒルズのスポンサー料ほしいですもんね。

遠山:もしもそれが実現したらそうですね(笑)。

五明:それこそ前に2人でこんな対談をさせていただいたときに、広告の山崎さんが……。

坂東:はい、山崎隆明さんですね。

五明:山崎隆明さんと対談させていただいたときに、山崎さんが僕らのコントを見てくれたんです。「僧コン」というコントがあるんですよ。

井上:僧コン?

五明:僧侶のコンパで僧コン。2人の僧侶が合コンに来て、むちゃくちゃ女を落とそうとして、一気コールとかも木魚を使いながらやったりする。

井上:(笑)。

五明:それを山崎さんが見てくれて、「これってCMになりますよね」と。最後にそのコントをちょっとひとくだり流して、「〇〇仏教大学」と言ったらもうCMになるじゃないですかと。あ~そうっすね。そんな変わんないですねというお話をしたのを今思い出しました。

坂東:結論は営業妨害ということで。

(会場笑)

五明:なんなんだよ!

遠山:なんで呼んだんですか!(笑)。

五明:じっとりとしちゃった(笑)。カラッと言ってくださいよ!

遠山:俺らしゃべるだけしゃべったのに、なぶり殺されてる感じがあるな(笑)。

刺さるCM、響く広告

坂東:次のテーマ。「好きなCMや広告はありますか?」というところで、お互いにセレクトしていただいてます。五明さんのセレクトがこちら。

五明:これ、超おもしろかったです。

(CMが流れる)

坂東:はい。これはどういうところが?

五明:最初、「ハプニングかな!?」と思ってびっくりした(笑)。

坂東:確かに思います。

五明:そしたらこんな感じじゃないですか。「おもしろー!」と(笑)。おもしろくないですか?

井上:ちょっとルールを壊してる感じがしますよね。

坂東:もう1つセレクトしてもらってます。

五明:これもすごくよかったな。

坂東:これはすごい。

(CMが流れる)

坂東:これはすごいですね。

五明:気持ちいいですね~。

井上:ゾクっとしますね。

五明:これを聞いたとき、気持ちいいですよね。作った人がいたら、思いついた瞬間にもう脳汁ベロベロベロって出てるでしょうね。

遠山:去年の最優秀賞とかだっけ?

五明:あ、そうなの!

坂東:確かそうですね。

五明:1位くらいの賞を取られた?

坂東:これは確かラジオ局の方かなんかが作ったもので、広告クリエイターの方じゃなかったと思うんですよ。

五明:ディレクターさんとかですか?

坂東:確かそうですね。

五明:へ~。

遠山:よくできてるよね。

五明:ね。「名乗り出て」とね。

遠山:最初の女性のナレーションで「許可なく使ってますが」と言ってるところで……。

五明:「え?」となるもんね。

遠山:そこでまず掴まれちゃってる。

坂東:これはすごいです。

五明:セレクト間違ってなかったですか?

坂東:間違えてないです。間違いとかないです(笑)。

五明:そうですよね(笑)。

坂東:続いて遠山さんのセレクト。これまたちょっと渋いです。

遠山:僕もパッと言われて思いついたやつをまず。

五明:これ懐かしいんだよな。

(CMが流れる)

遠山:最高じゃないですか? 

五明:これは俺らが小学校のときやね。

遠山:小4、小5くらいのときに、どんなゲームかもわからないし、なんの意味もわからないんですよ。だけど学校でみんな「ファミコンウォーズが出~たぞ~」と言ってるんですよ。やったでしょ?

五明:やってた、やってた。走ってたもん。

遠山:それは本当にすばらしいなと思って出したんですよ。

坂東:いまだに覚えてます。

遠山:たぶん今大人になれば、これ『フルメタル・ジャケット』かなんかのオマージュみたいなことですよね。

坂東:あ~。

遠山:たぶん戦争映画の軍隊の映画を。あの年に公開されてるはずだと思う。でもそんなことは一切関係ない。意味とか理屈じゃない。内容は一切わかってないのはどうなんだということはさておき、インパクトで言えば僕がパッと思いつくのはこれ。

井上:いまだに覚えてるっというのがすごいですよね。なんか見たなという気がしますもん。

五明:このリズム入ってますもんね。

井上:入ってますね。ここに刻まれてますもんね?(笑)。

五明:カラオケに入れたらそこそこ盛り上がるんじゃないですか。

(会場笑)

遠山:今改めて見たら、あれはやっぱり広告だし、考えてる人がいるし、たぶんインパクトを与えたくて作ってたんだろうなと。

坂東:そういう狙いで作られてるんですよね。

Hi-STANDARDの無告知新譜リリース戦略の衝撃

坂東:続いてもう1つ。

遠山:これは去年のHi-STANDARD。2000年に1回、休止してるんですけど、2011年に東日本大地震のときにAIR JAMという自分たちのイベントで復活した。

そのへんの流れのドキュメンタリー映画が去年公開になってるんです。これも広告で、広告ってふつう広く知らせるものじゃないですか。今だったらSNSとかを使ったり。たぶんこれは一切告知なしでドンって、たぶん渋谷の駅で出てるんですよ。

その前の年のシングルかな。Hi-STANDARDのシングルが発売になるのを、雑誌やらメディアには一切告知なしで、発売日になんとなく店に行ったら、タワーレコードとかにあった。「ん? Hi-STANDARDって書いてあるよ。新譜じゃん、これ!」と。そこからSNSでバンと広がった。 

僕も興奮してタワーレコードへ買いに行った。たくさんいろんな方面に向かって言わなきゃいけないのを一切言わずに、溜めて溜めて溜めて、「ドーン!」というのは、こんなやり方あるんだと。

井上:あえて広告しない。

遠山:はい。「言っちゃダメだよ」というのを守ってる人もたくさんいるわけじゃないですか。そこらへんの統率の仕方はどうしたのかなとか。

五明:ああ、確かにねぇ。

遠山:だってレコード屋さんにはもうダンボールでCDが着いてるわけで、誰か1人でも言っちゃいそうなもんじゃん。

五明:見つけたやつがね。

遠山:そう。一切それもなくて、逆に宣伝せずに爆発させるのってすごいなと。

五明:ダンボールにドクロのマークとかあったんじゃない?

遠山:これは触ったらダメみたいな(笑)。中毒になるから離れろとか。

五明:危ないからやめろとか(笑)。

坂東:今のSNS時代の口コミとかをうまく使ったキャンペーンですよね。

五明:これはやり手な人がやったんですか? 

坂東:誰がやったかはわからないです。

遠山:俺は詳しくはわからないけども、Hi-STANDARDのチームにいらっしゃるらしい。

五明:そういう人が?

遠山:すごく長けてる方。と俺はぼんやり聞きました。

五明:僕もそれがSNSで流れてきて、「ハイスタのシングルが出た」みたいになって、速攻で秋葉原のタワレコに行ったんですよ。みんなハイスタのCD持ってて、レジがすごく長蛇の列なんですよ。それがみんなおじさんとおばさん。「俺老けたんだ……こんな年取ったんだ……」と(笑)。

(会場笑)

遠山:突きつけられた(笑)。

五明:ハイスタのCD持ってる人が、みんなおじさんとおばさんだぞ! 

遠山:そうだよね。タトゥー入ってる人とかね。

五明:そうそう。それもおじさんだよ?(笑)。

遠山:これはすごい。やり尽くされた感じがすごくあるなと思ってたんですけど、ぜんぜんまだやり方を見つければこういうことができるんだなと思いました。

坂東:なるほど。

五明:黙ってて急に発表みたいなのってよくあるんですか? 

坂東:ティザー広告という言い方をして、隠して隠してのばしてローンチのものを出したときに爆発的に注目を浴びるようにするようなやり方に近いかなと。

五明:auのCMの篠原さんと対談させていただいて、小人の役があるじゃないですか?

井上:一寸。

五明:はい、一寸法師。最初ずっと隠してらしいんです。伏線を回収していくから、バレちゃいけないんだけど一応入れとかなきゃいけないじゃないですか。それが公開前にバレちゃったらしいんです。

井上:そうらしいですね。

五明:それを見つけたのが子どもだったらしいんですよ。

井上:えー!

坂東:そうなんですね。

五明:一時停止して、「お母さん何かここにいるよ?」と。そこから広がっちゃったみたいなことを言ってましたね。悔しかったって。

井上:でもお子さんだから純粋に見てたんでしょうね。大人だったらCMだからそんなに見てないかもしれない。

五明:そうですよね!

遠山:これ(Hi-STANDARDの広告)を見て思ったのは、Twitterとかでも「3日後に重大告知あります!」とか言うじゃないですか。番組でも最近じゃなくてずっと「CMのあと〇〇が!?」みたいな。

僕、あれの瞬間にけっこうチャンネル変えちゃうんですよ。なんか煽られるだけ煽られて、「お前がびっくりするやつこの後来るから」みたいにちょっとだけバカにされてる気もする。

五明:本当にびっくりするかもしれないよ!?

遠山:今日はカメラが入ってるからってずるいな。俺がなんか今そっち側に行ったって。

(会場笑)

五明:俺はやっぱテレビ愛してるから。(カメラ目線で)本当にびっくりするかもしれないよ!

遠山:カメラ目線になるな(笑)。というのがけっこうある。「〇〇が来ますよ!」と言われても、「あ、なんか来るんだ」と身構えちゃうから体もびっくりしない。

五明:確かに~。

遠山:感動がけっこう奪われちゃってんなとか思ってた矢先の、突然やって来るほどの衝撃の感動だった。

五明:さっきの葬儀屋も突然やってくるじゃん。そういうことでしょ?

遠山:まあそうだね(笑)。一緒かもしれないね。

坂東:そういう予想を裏切るというのがやっぱりいいんでしょうね。

五明:そうですよね。思いがけないことが楽しいんでしょうね。