失敗は糧になるが、機会損失は可能性を狭めてしまう

坂本陽児氏(以下、坂本):時間も迫ってまいりましたので、これから世界に出るみなさま、またはもうすでに働かれている方もいらっしゃると思いますけれども、一言ずつメッセージをいただければと思います。では、津布楽さんから。

津布楽一樹氏(以下、津布楽):みなさんの中で、どれぐらい世界で働かれている方がいるかはわからないので、そんなに偉そうなことを言うあれはないんですけど、僕が個人としていつも思っているのは、「Nothing to lose(失うものはなにもない)」です。

別にどこかでなにかをチャレンジして失敗したとしても、死ぬわけじゃないので。また目線を変えてそこで得たことを糧にすればいいと思っているので、僕はそこに出ないことによる機会損失のほうが大きいかなと思うんですよね。

人生の中で、自分が想像して「ここに行ったらこんな失敗するんじゃないかな。だからやめておこう」とか、みんなすごくあると思うんですね。でも、それは結局自分で閉じてしまっているだけで、それを第三者や違う国、違う価値観の人、違うビジネスのやり方をする人から見たら、そこにはなにか有益なことがあるかもしれなくて。

だから、繰り返しですけど、僕はその可能性を狭めないほうがいいなと思っていて。別にこれは日本と世界という話や大企業とスタートアップだけの話じゃないんですよ。企業で働くのか自分でビジネスをするのか、人生の中に休みの期間を設けるのか、そういうことも全部そうだと思っていて。死にはしないので、なんというか気楽な考え方です。

坂本:やっぱり時折手ひどい失敗とかもしてすごく落ち込むけど、その失敗したディールも、自分が決断した結果であれば乗り越えられるという話ですね。

津布楽:なにかの糧にはなるはずなので。

坂本:鈴木さん、いかがでしょうか?

「自分は負けていない」と思い続けてほしい

鈴木洋介氏(以下、鈴木):僕もそんな偉そうに言うことはないんですけど、やっぱり気持ちの上で、実際に「自分は負けてない」と思い続けてほしいなと思っています。

日本人はなんだかんだ言ってもすごいんですよ。日本のやり方、日本のいろんなもの、海外でも音楽を出したり、ある意味ブランドじゃないですか。

それはすごいことで、やっぱり日本人は負けているわけじゃない。ただ、もちろん人を気遣うとかいろんなすばらしい良さがあるからこそ、「あえてちょっと出しゃばらない」というのがあると思うんですね。

ただ、世界ですごく活躍している人もいるので、やっぱり日本人の力はすごいなと思っていて。だから、みなさんが今やっていなくても、絶対に日本で必ず同じぐらい活躍するだろうし。

でも、外国人の方に負けていると思った瞬間にたぶんアウトになると思うんです。そこは「むしろ勝ってますけど」という感じで。次のステージが海外であれば、その気持ちだけは変えないでやってほしいなと思います。

坂本:では、川井さん。

外に出て行くことで人生の楽しみが広がることもある

川井敏昌氏(以下、川井):お二人はけっこう大きい話をされたので、ちょっと小さい話をしようかなと(笑)。

先ほどの話の延長というか、僕、日本人であんまり真剣に議論できる友達がいないんですよ。同級生や同業者もいるんですけれども、外国人のほうがけっこうすぐ親友になれて、真剣にプライベートの話や仕事の話をぶつけ合える関係性になるんですよね。

そういうのを自分が感じたときに、せっかくだから外に出て行ってみる。もちろん仕事を持っていくとかいろいろあるんでしょうけど、実は自分のプライベートにとっても「親友がこの世界のどこかに見つかるんだ」みたいな。

そういう人生としての楽しみがすごく広がることがあるので、そういうのを体験してもらえると、逆にどんどん自分の中で壁をより感じなくなって外に出ていきやすくなるのかな、と思うので、ぜひそういう体験をしていただきたいなと。

坂本:ありがとうございます。みなさま、3人のいろいろな意見ですね。やっぱりキーワードとなるのは「オープンであること」なのかなと思います。「日本人だから〜」というそういうようなことではなく、新しい眼の前のことも理解して、柔軟にオープンな広い心で受け入れて、さらに自分を磨く。

もう1つ印象的だったのが、会社の看板を外したときに自分の価値がどれほどのものであるかを常に意識すること。場所を問わず、その価値をもって目の前にいる仲間たちのためにしてあげられるなにか、なにができるのかを常に考えること。そういうマインドが世界に出る上で大事なのかなと思っています。

もう時間がほとんどないのですが、お時間に問題がなければ質疑応答をぜひ受けたいと思います。なにか疑問点などがある方はいらっしゃいますでしょうか? 「ここを聞いてみたい」とか。

(会場挙手)

あっ、ぜひお願いします。

訪日外国人から見た日本のクリエーティブ業界

質問者1:本日はありがとうございました。実は私、外観ではわからないんですけど、外国人でして。今、日本で活躍させていただいています。実はクリエーティブ志望でありながら、日本ではちょっと別の部分を担当しております。日本でクリエーティブな仕事をしたいと望んではいるんですけれど、なかなかそういう機会に恵まれなくて。

逆に日本では外国人にとっては、クリエーティブな仕事の居場所や人数が決まっていて、ダイバーシティな組織があまりないと感じるんです。

鈴木:あります。

(一同笑)

うちの日本のR/GAは社員が40人ぐらいなんですけど、半分は外国人で、10ヶ国くらいの人がいて。クリエーティブであるほど、やっぱりいろんな過去の経験や元の(国の)カルチャー的な意見、発見、着眼点があるとしたら、今の時代でもそれは重要です。だから逆の発想で、日本人だろうと日本人じゃなくても、ニーズはあると思うんですよ。

だから、自分の持っているクリエーティビティに自信を持って。日本で仕事をする外国人は、ほかの人にないものを持っている人だと思うので、むしろ今はニーズがあると思います。

津布楽:そう思います。ニーズはどんどん強まっている。僕は日本を離れているのでわからないですけど、強まっているだろうなと思います。

先ほどの話の続きみたいですけど、デジタル化する社会の中では「国」という概念が薄まる部分があると思うんですね。「世界」という視点で物事を考えなくちゃいけないとしたときに、「日本だから日本人」という概念を薄めていかないと。というか、もうdiversify(多様化)されていかないと立ち行かない。

私は中国で働いていますけど、例えばうちのチームもどれだけdiversifyされるかというのはすごく心がけていることで。もちろんマジョリティは中国国籍の方なんですけれど、ほかにもぜんぜん中国語を話せない方、ただしなにかスペシャルなタレントを持っている方というのをすごく採用していて。

例えばうちのチームにイスラエル人の方とかもいますし。中国語をまったくしゃべれないんですよ。ただ、あるスペシャリティがあって、すばらしい仕事をする。

それもdiversifyすることによって生まれる価値があると思うので、日本においても、僕はぜんぜん(活躍できる場が)あると思います。

日本企業とそこで働く外国人が馴染んでいくために

坂本:そうですね。あと、FabCafeみたいに、川井さんがおっしゃったように、草の根でつながって仕事のオポチュニティがすごく広がりやすくなっていると思いますので、それをうまく活用すれば。

川井:渋谷(の本店)に、台湾人と中国人とアメリカ人の方がいて。アメリカ人だけどすごくオタクで、身長が2メートルぐらいあるんですけど、オタクTシャツを着て。すごくおもしろいんですよ。

お二人はけっこうあれなんですけど、中小企業とかになると、やっぱり会社側に外国人を受け入れる体制がまだないところが多いなというのを感じていて。僕らも親会社などが受け入れるんですけど、結局馴染めなくて辞めてしまうという悲しい結果も過去にあったんです。最近それは改善されてきているんですけど。

そのときに、会社も変わる意識を持たなきゃいけないし、働いている外国人の方も、日本企業で働くおもしろさみたいなもの、チームとして一緒に動く楽しみみたいなものを一緒に(意識しながら)やってもらえると、よりお互いが馴染みやすくなるかなと。しゃべれない方は言語の壁もありますけど、日本語が十分しゃべれていらっしゃるので、そういうところがいいかなと思います。

坂本:よろしいでしょうか?

質問者1:はい。ありがとうございます。

坂本:そうですね、ほかになにかありましたら。

(会場挙手)

自分がどれだけ周囲の役に立てるか

質問者2:本日はお話ありがとうございます。お話の中で「存在価値を証明していかないといけない」とおっしゃっていたと思うんですけど、今まで若手のときからキャリアを積んでいく中で、存在価値を証明しなきゃいけないプレッシャーを感じることがあったのかどうか、そのプレッシャーをどう乗り越えたのか。もしそういったご経験があったら、教えていただけたらと思います。

鈴木:プレッシャーを感じることはなくて、ただ、唯一ずっと思っていることはあります。超ベーシックなことなんだけど、「人の役に立つ」というのをずっと思っていて。自分になにができるか。

これはおやじがお袋に言っていることなんだけど、「洋介はそこまですごいやつじゃないから。ビル・ゲイツのようなネットワークもないし」と。

なので「自分の周りの人を幸せにして、役に立てることをしろ」というのをずっと言われているんですよ。だから、あまり(プレッシャーを)意識はしていなくて。自分ができるベストが他人のオポチュニティにつながればいいな、くらいで。

坂本:津布楽さん。

津布楽:これを口に出して言うのは、確かに恥ずかしい。いや、すごい。いま洋介が言ったことに共感します。結局、自分だけでできることには限りがあるじゃないですか。だから結局、みんなでなにかを成し遂げるということになっていくわけで。

それは別にプライベートとかもそうだと思います。みんなでなにかハッピーなことをすればよくて、周りがみんなハッピーになればいいと思っていて。

だから、心がけているというか……。例えば、できるだけ断らないとか、なにか頼まれたらとにかく応えてあげるようにするとか。先ほど「存在意義」というふうに大きい言い方をしちゃいましたけど、「この人がいることで、みんながハッピーになるな」ということをどれだけできるか。

みんながハッピーとまではいかないとしても、「みんながポジティブになれるな」「一緒に働きたいと思えるかな」とか、そういうことはすごく気にしますね。

もちろん、それとは別にスキルセットとして存在している限り、あるポジションとあるロール、レスポンシビリティの中でやっていくにはスキルセットとして持っていなくちゃいけない存在意義はあります。それ以外にキャラクターなどの意味で言うと、まさに洋介が言っていたことに非常に近いですね。

坂本:ほかはなにかありますでしょうか? もしなにかありましたら、このあとのパーティ的なところにいるかもしれないので、そのときにお声がけいただければと思います。では、みなさま本日はありがとうございました。

(会場拍手)