最新のプリ機種を振り返る

稲垣涼子氏(以下、稲垣):(スライドを指して)ここ2年で発売した新機種をずらっと並べてみたんですけど、「#アオハル」という商品が最新機種で、お配りしている雑誌で紹介しているプリ機になります。これが6機種とも、写りが正直良いです。

写りが良いのはベースとして当たり前で、他で差別化してバリエーションを充実化している感じですね。「#アオハル」ですと、カメラが動かせて、座って撮れたり立って撮れたり、めちゃくちゃアップで撮れたりします。「アオハル」は「青春」という言葉にかかっているんですけど、思い出に残ることを楽しんでもらう機種になっています。

その前の「トキメキルール」という機種は、プリの中に入って撮影をするんですけど、カメラの横にスマホを置く場所があります。今の子は最近動画をよく撮るようになっているんですけど、プリを撮っている時ってみんな結構動いていて、なんかキャッキャ楽しそうな雰囲気があるんですね。それをスマホで撮影しつつ、プリを撮影して、その撮った動画をインスタにあげるみたいな遊びをしてもらえるのが売りになっています。

(スライドを指して)右上の「PINKPINKMONSTER」は、見てもらったらあれだけちょっと異質な感じがわかるんじゃないかと思うんですけど、機械自体がもう「映えて」います。あの右下の写真が、シールを介して筐体を撮る感じで、機械自体の「映え」を楽しんでもらったり、韓国ブームがずっと続いているのでちょっと韓国っぽい雰囲気になったりしています。

こちらの「SUU+」は、ちょっとわかりにくいかもしれないんですけど、実はシールが透けていまして。青空に透かして写真を撮る、そしてそれをインスタにあげる、というところもシールの映えとして人気で、「透けるプリ」とインスタでハッシュタグ検索してもらうと、これがいっぱい出てくる感じです。

真ん中の「これ以上可愛くなってもいいですか」という機種は、その名の通りなんですけど、プリといえばやっぱり盛りたいということで「王道の写り機」と社内では呼んでいます。とにかく盛れるし、ヘビーに撮ってくれる女の子が「写りが良いから」と選んでもらっていたりします。

右下の「THECANDYSTUDIO」は、バージョンアップを重ねていっている機種ですね。そのバージョンアップの時に、低年齢層をしっかりターゲットにするということで、『Popteen』という雑誌のモデルさんが出ています。

7枚撮れる、たくさん撮れてたくさん残せる、というのが低年齢層の子にウケていて、プリというと全部一緒のように感じるかもしれないんですけど、機種ごとの売りが全然違うというところを意識して、今発売しているような状態です。

歴史に名を残すほどにヒットを飛ばす「#アオハル」

久保友香氏(以下、久保):大人には「#アオハル」がおすすめですよね。カメラを動かせるのは本当に楽しいです。

稲垣:そうですね。もしかしたらご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、すごく昔にカメラを動かせる機種ってあったんですよ。私が高校生の時にもあってリバイバル的な感じなんですけど、今の女の子たちからしたら「なにこれ新しい!」と。これはフリューの中でも、「歴史上に名を残す」というくらい人気の機種になっています。

久保先生にもいつも言っていただくんですけど、写りが自然で楽しんでもらえるので、大人の方が久しぶりに撮っても違和感を感じにくいんじゃないかなと思います。ぜひ見かけたら体験してみてください。

久保:プリはバーチャルな盛りですけど、リアルな盛り専門の玉置さんも、プリのことは結構チェックしていたりするんですか?

玉置未来氏(以下、玉置):そうですね。なかなか恥ずかしくて撮るまでには至らないんですけど、機種はなんとなくは見せてもらったりはしていますね。(スライドを指して)最近、私が見たのはこの真ん中の2つですね。「#アオハル」はまだ見かけていないので、ちょっと久しぶりに撮ってみたいなと思います。

稲垣:先ほど「透けるプリで検索してもらったら」と言ったんですけど、機種でも「#アオハル」で検索してもらうと、今56万件くらい女の子の画像があがっていて。発売当初からすごい早さで伸びてきているので、最近は趣味的に「ちょっと暇やなぁ」となったらハッシュタグ検索をするのが私の楽しみになっています。

けっこう大勢で撮れるので、卒業シーズンとかに制服でみんな筒を持って10人くらいで撮ってくれていたりして、(写っている子のことは)全然知らないんですけど泣けるという。そういう楽しみもできます。

(会場笑)

撮影のプロセスすらも物語の一部として残したい

夏生さえり氏(以下、夏生):最近「トキメキルール」というので撮ってみたんですよ。プリのお仕事をさせていただいたり、お話を聞いたりしているうちにちょっと気になってきて、友だちと撮りに行って。

携帯を置くスポットみたいなものがあって「ムービーを撮ってね」と書いてあるんですけど、「なんのためにムービーを撮らないといけないんだろう?」とわからなかったんです。でも彼女たちは、そのプリを撮っているところでさえ撮って、インスタにあげるということなんですね。

(久保さんに向かって)プリ撮りましたよね。

久保:撮りましたね。「そういう撮影プロセスまで含めた物語全体で盛るようになっているんだな」とすごく思いました。

夏生:この「撮っているところでさえムービーで撮りたい」というのは、女の子から声があったんですか? そういうわけではない?

稲垣:はい。グループインタビューもすごく重視していますと言うと「女の子からアイデアとか出るんですか」とよく聞かれるんですけど、なかなか新規アイデアが女の子たちから出ることはあんまりなくて。

私たちは女の子がどんなことを楽しんでやっているのか、日常で何が流行っているのかを見ていて、「こういうのがあったら喜ばれるんじゃないかな」というのを捻出している感じです。

女の子たちはどうしてデカ目を求めるようになったのか

久保:残り時間も少なくなってきたので、今日ずっとテーマにしてきた「どうして女の子たちはデカ目を求め、それが進んできたのか」についてお話ししようと思います。なかなか「これ」という1つの答えに収束するわけではないかもしれませんが、ちょっと考えていきたいと思います。

私はやはり、こういったコミュニケーションや、インターネットが出てきてブログができるようになったところと関係があるのではないかと思っていまして。

(スライドを指して)先ほどの写真で、わかりやすくどんどんデカ目になっていくところを見せていただいたと思うんですけど、歴史上に例がないほどデカ目が加速していった時期に高校生だった方々は、やっぱり特殊な生き方の経緯を持っていらっしゃるんじゃないかと思います。

デカ目がどんどん加速していき、稲垣さんが「デカ目バブルがはじける」と書いてくださった2007年から2010年の間に高校生だった、1988年~1994年生まれくらいの方を仮に「デカ目世代」と言ってみます。私はこの方々がどうやってここに至ったのかにすごく興味があって、考えてみたら、まさにさえりさんはこの世代なんですよね。

夏生:はい、90年代生まれです。

久保:インターネットが普及するプロセスを全部見てきているのではないか。わりと子どもの頃から使っていたんですよね。インターネットなど、どういう経緯でデジタルを取り入れていったのか振り返っていただこうかなと。最初は小学生の時、もうパソコンでホームページを作っていたんですよね。

夏生:作っていました。その頃は「ふみコミュニティ」というサイトが爆発的に流行っていたことがありまして。

久保:その世代の人じゃないと知らないですよね。

夏生:全然知らないらしいですね。ちょっとでもずれると全然聞いたことない感じになるみたいですけど、私が小学生の頃はふみコニュニティという、小・中学生くらいが集まるサイトがありました。

一部の世代にしか知られていない「ふみコミュニティ」の存在

久保:女の子だけですよね?

夏生:基本は女の子だけだったと思いますけど、男の子もいました。集まってきて、掲示板があって、そこで文通の友だちを募集したりとか。あとチャットツールがあって、みんながそこに入って話をするんですが、その時はもちろん匿名なんです。アイコンを使っておしゃべりするんですけど、私もそこでかなりふみコミュニティにハマっていて。

そこにランキングのサイトがあって、いろんな素材サイトとかタグのサイトとか、ホームページを作る用のランキングサイトがいっぱいあるんですよ。そこでかわいい背景素材を集めたり、アイコンボタンのTOPをいっぱい集めたり、BBSを集めたり。BBSを借りることもできるんですよ。

それでハマって、休みの日は朝から晩までタグを切り貼りしていて。でも、学校でオタクっぽい子だったとか、根暗な感じだったとかいう感じではなかったです(笑)。

(会場笑)

夏生:普通に学校では友だちと遊ぶ感じだけど、家ではすごくパソコンを使っている。まだ携帯を買ってもらっていなかったので、HotmailのMessengerツールで無限に会話するんですよ。家に帰ったらずーっとそれでチャットしている感じが最初だったと思います。

久保:そこでの知り合いもいるんですよね?

夏生:その知り合いもいます。今はもう全然繋がっていないんですけど、ふみコミュニティで知り合った子と「明日もう1回〇時にチャットしようよ」「またね」という感じで集まったりとか。男の子の名前を使って入ると、めちゃめちゃ告白されるんですよ。入ってすぐに「つきあってください」とか言われて「いいよ」とか言って、「彼女できたな」と(笑)。

(会場笑)

夏生:でも、3日ぐらいしか続かないんですけどね。「待ってたよ」とか言われて「待たせてごめんね」とか返事したりする、まぁネカマみたいな感じでしたね。でも、男の子の名前でチャットやっている子はたくさんいたから、全員女の子だったかもしれない。

「遠くの人とつながっている」という実感

久保:そうか、相手のことは全然わからないんだ。どこに住んでいるどんな人かもわからないんですね。

夏生:わからない。でも、文通の友だちができれば匿名でも本当の名前を送りあったりして、プリを送ります。でも顔は変わるし、チャット上の名前しか知らない子でもなぜかプリは持っていることもありましたね。

久保:すごい遠くにいるかもしれない人とつながっている可能性があるんですね。やっぱりすごいです。私やその前の世代の人からするとすごい。「キラキラサイト」というのは?

夏生:自分でホームページを作ったりするサイトの名前が、どうも「キラキラサイト」と呼ばれていたらしいです。私は当時名前を全然知らなかったんですけど、当時は自分でタグを作っていて。

流行っていた最初の頃は、みなさんも記憶にあるかもしれないんですけど、サイトを開くと音楽が鳴るとか。なんかそういうのが流行っていませんでした? 急に音楽が背景で流れ始めて。

そういう時期からだんだん、クリックすると最初から小さい窓で出てくる小窓ブームが私たちの中ではありまして。クリックすると、めちゃめちゃ小さなサイトが出てくるんですよ。その中に掲示板があったり。背景も自分で作ったりするんですよね。素材を集めてきて、自分で切り貼りコラージュして、それを背景にして使っていくとか。

素材サイトモデルの画集とかもありましたね。普通の子が家で撮った写真とかが素材として提供されていて、今で言うフリー素材ですよね。そういう感じで提供されていて、それを使うんですよ。

久保:それを小学生とかでやっていたんですよね?

夏生:はい。小5から中3ぐらいまでやっていたかもしれない。

久保:その後、中学生くらいから携帯電話を持っていたんでしたっけ?

夏生:高校ですね。私は高校生の時に携帯電話を買ってもらったので、そこからは自分たちでサイトを作る、友だち同士でサイトを作る遊びをしていましたね。

開発側が意図しない用途を考え出す

久保:一緒に魔法のi らんどとかを?

夏生:魔法のi らんどではなかったと思いますね。ちょっと忘れちゃったんですけど、自分たちでクラスの友だちとか3人組とかで借りてやるんです。Twitterの前身の「リアル」と呼んでいたものがあって、つぶやきをそこに書くんです。

TwitterやSNSだと相互にやり取りができますけど、私たちの高校時代にあった「リアル」は、ただひたすらにつぶやきをそこに投げるだけという。

反応もなく、誰が見ているかもわからないんですけど「眠い……」とかを書く。掲示板よりももっとライトな感じで、日記帳よりもさらにライトなものができるようになりました。

久保:不特定多数に向けたつぶやきをガラケーでやるような。

夏生:そうですね。

久保:その頃にはパソコンは使わなくなる?

夏生:パソコンのメールは使っていましたけど、携帯が基本でした。でも、パソコンもやっていたと思います。

久保:サイトを作ったりとかは、最初はパソコンだったけど、携帯になっていった?

夏生:携帯になりましたね。その頃はキラキラサイトとかはもうやっていないし、ふみコミュニティにいくこともなくなっていましたね。

久保:もっと簡単にページを作れるようなものが出てきたから、そっちにいったんですね。

夏生:そうですね。みんなそっちを使って。でもみんなタグを使って、ちょっとかわいくしたりしていたと思いますよ。なにをどうしていたかはあんまり記憶が薄いんですけど。でも、隠し扉を設けておいたりするんですよ。友だちなんかも、最後の行の「来てくれてありがとうございました。」の「。」をクリックすると、違うサイトにいけるんですよ。

そこでパスワードを入力すると、友だち同士だけが見られる日記帳がある。今で言う影アカと一緒ですよね。そういうのもあった。だからそういうのを作って、誰にも見られたくないことや、知っている友だちにしか見られたくないことはそこに書くし、他校の友だちに見られてもいいことは見えるサイトに書くし。だから本当にTwitterと変わらない。

久保:そこにあるツールをすごく使いこなして、いろんな使い方をして。開発側はそんな使い方をされていると思っていなかったりしてそうですよね。

夏生:そうなんですかね。本当に、高校3年間だけのブームでしたね。それが終わってからは、もうミクシィに移行していました。

久保:ミクシィに。その頃は携帯ブログとかはやっていない?

夏生:私はやっていないですね。地元に残ったギャルの友だちとかはブログをずっとやっていましたけれど、私は全然やっていないですね。

久保:携帯という制限ある道具の中でいろんな、あらゆる遊びをやっていくという勢いがやっぱりすごいなと。

夏生:「なんとかコミュニケーションをたくさん取りたい」というので、メールというツールもあるけど、それ以外でも日記を公開してみたり、それもありつつプリ帳もありつつ。日記も書いて、あらゆるところでなにかを書いては交換してコミュニケーションを取っていた感じだと思います。

久保:けっこうみんながそれをやっていたんですよね。

夏生:やっていましたね。だからTwitterが出てきても、なにも抵抗がない。自分の考えを発信し始めるとか、匿名の友だちができる、顔も見たことがない人とコミュニケーションを取るみたいなことは、私は抵抗がないですね。

久保:携帯というものすごく限られた道具、今のスマホのような多機能な道具がない中で、すごく創意工夫をしているのがすごいですよね。今のほうがつまらないかもしれない。創意工夫をするところがなくなっているから。

夏生:たしかに。「限られた中でいろいろやろう」というので、みんな試行錯誤していましたね。

一番身近なカメラが、小さなレンズのガラケーだったことからブームは始まる

久保:そこがデカ目と関係しているかなと思っていまして。最初にお伝えした盛りの歴史を3つに区切ったものの話をさせていただくんですけども、前回も焦点を当てたのですが、肌を黒くして髪を脱色して、という恰好をしていた方々は、けっこう街を拠点にコミュニケーションを取っていて。女の子たちは常にビジュアルコミュニケーションをしていたんですね。

これは前回の講座でもお話ししたことなんですけど、ビジュアルで同じような恰好をしていることで仲間意識を持つというか。そのコミュニティに入りたいんだったら、そういう恰好をする。ビジュアルを共有することでコミュニティを作っていたと。

以前はその拠点が街だったので、街でも目立つビジュアル表現をするために全身でやっていました。しかし、ガラケーの中でいろいろなビジュアルも作れて、コミュニケーションもできるようになりました。そこで使われる携帯のカメラは日本ではどんどん進化していくのですが、それでもやっぱりレンズも小さいし、今のスマホのカメラの性能とは違いました。

そこで、ちょうど顔のような小さな範囲だけで見せ合うっていうビジュアルコミュニケーションがピッタリだったのだと思います。目だけを撮影したりするようなこともけっこうありました。つけまつげをどうやって使いこなしているかとかを撮影することが、デコログとかで行われていました。

「つけまつげ何番と何番を組み合わせてこうやりました」「それいいね!」とマネするというコミュニケーションが行われました。携帯という限られたツールの中での、ビジュアルコミュニケーションです。

それでどうやってコミュニティを作っていこうかとなった時に、以前だったら「全身」であらわすビジュアルを共有する方法だったけど、今度は「目」というところに特化してビジュアルを共有することがすごく広がったのではないかと。身近なカメラであり通信端末がガラケーだったからこそ、「目」というブームが起こったのかなと思っています。

そしてちょうどというか必然的にインターネット通販が盛んになり、そこで女の子たちはつけまつげとかを買うようになって。人は、だいたい黒目とかのサイズは一緒だと言いますよね。眼球のサイズも一緒、持っているものは同じということは、同じパーツを使って、同じマニュアルに従えば誰でも似たような目を作れる。それこそコージーさんのアイトークとかを使えば(目の)形も変えられるわけです。

そういう意味で、女の子たちのアイメイクというものづくりが盛んになって、そのものづくりコミュニケーションが、携帯ブログのコミュニティでを形成し、みんなの興味が「目」というものにすごく特化していったのかなと思います。

リアルとバーチャルの境目

久保:その後、多くの女の子たちが、ガラケーからスマホに持ち替えます。するとすごくカメラの画質が良くなって、広い範囲も撮れるようになって、それで今のインスタ映え写真のように風景込みの写真になっていきました。前だったら目だけで盛っていたのが、もうちょっと全体で、シーンで盛っていくようになっていっています。このように「盛り」の内容は技術と関係があると考えています。

こうなっていくと、前だったらリアルなコミュニケーションのみが重要だったのが、バーチャルも重要になっていくわけですけれども、そうするとリアルな自分の姿とネット上のバーチャルな自分の姿が乖離していく。別のものになっていくということが起こります。

「盛る」というのは両者に差をつけてしまうことなので、そこをみなさんはどう理解されているのか。前の時代の街でコミュニケーションをしていた時代からすると、ちょっと不思議だったりすんですよね。

それをさえりさんとかはすごく自然にやっていらっしゃるというのが不思議で。現代の高校生たちもそうだと思うんですけど、リアルとバーチャルの自分がズレることに関して、どう理解しているんですか?

夏生:まずリアルとバーチャルの境目があまりないというか。「ネット上での私」と「リアルの私」という境目はあんまり持っていないんですよ。誰にでもあるような思春期の、「この友だちにしか話せないこと」があるじゃないですか。

「この子の前ではバカもできるけど、あの子の前ではできない」というのが、こっちはネット、こっちはリアルというのと同じ感じです。この友だちにしか話せないことは鍵アカで書いて、こっちの友だちのキャラはメインアカウントでやって、という感じなので、乖離しているという感覚はないのかなと思います。住み分けている。

そして、これまでだったらそういう友だちがいない限り受け入れてもらえなかったのが、受け入れてもらえる場所が無限にある感じなので、こっちでは深刻な話ができる友だちがいないけど、こっちではできる、というだけの話な気がするんですよね。

すごくうなずいている感じがする(笑)。うまく説明できないですけど、乖離していてもいい。なぜならすべて私だから、みたいな。そんなふうに思っている気がしています。

「自分らしさ」を求めて、人と同じものに辿りついてしまうのはなぜ?

稲垣:まさにデジタルネイティブだなと思って。やっぱり女の子をヒアリングしている中で、リアルで会うことがある人に公開するプリは盛れすぎているとちょっとだめかなと思うんですよ。でも「顔は出しているけど匿名でやっている場合はかなり盛っていても大丈夫」と、デカ目時代の女の子はけっこう言っていて。

そうやって考えてやっている子もいれば、すごく盛っているのも別に私だし、ほどよく盛っているのも私だし、リアルも私だし。「違う」というのをあんまりない感じなのかな、とずっと思っていました。

夏生:いろんな場所に居場所があるようになって、なんだかより健やかになっていく感じが私にはあります。以前、60代くらいの教授の男性の方とお話しした時に、「やっぱりネットが出てくることで人格が分断されてしまって不健全なのではないか、自分が統合されないのではないか」というお話をいただいたことがあるんです。

でも、私は逆だなと思って。自分が出せなかった部分を受け入れてもらえる場所がたくさんあると、より自分が健全になっていく感じがする人もいるんじゃないかなと思うんです。

久保:こういったリアルとバーチャルをシームレスに動いていく方々は、自分がどこにあるのかな? と思うんですけど、そういう方々ほど「自分らしさ」という言葉をみなさんすごく使うようになっていると思うのです。今日はさえりさんの本も持ってきているんですけれど、こちらでも自分らしさがけっこうテーマになっていますよね。

夏生:ありがとうございます。みんなすごく悩んでいるんです。

久保:けっこう最近の高校生のお話とかも聞かれていらっしゃるということですよね。私も高校生のみなさんに聞くことがありますが、みなさん「自分らしさ」みたいなところを強く意識していらして。

でもこっちから見ると「自分らしさ」と言いながら、みんな同じインスタ映えスポットに出かけるし、みんな同じようにミッキーの耳をつけてディズニーランドに行ったり、そう見えない。そして「私は自分を発信したいんです」とみんな言うんですよね。私たちの時代はそこまでそういう話はしなかった。

夏生:なんだろう。でも、周りが見えすぎちゃうのもあると思う。(ネットが発達して)自分よりかわいい子をよく見るし、自分よりイケてるスポットに行ってる子もよく見るし。そういうふうになってきた時に、「じゃあ自分にはなにができるだろう」と問わずにはいられないところがあると思いますね。

「私ってなんだろう」とかもやっぱり比べやすくなっていて。これまではクラスの見える範囲の子としか比べていなかったのが、世界中の同年代の子たちと比べるようになっていくとか。

「もうちょっとかわいくなりたい」「あの子みたいになるにはどうしたらいいだろう」と思ったら、世の中にはたくさんの技術があって、しかも試しやすくて。それをやっているうち、知らず知らずに自分が「いいな」と思っていた誰かに近づいていってしまっていることに気づいていない、という感じじゃないかなと思っています。

「かわいい」の基準がわからなくなったら、もうおばさんになっている

久保:本人たちなりに、ものすごくわかっている「自分らしさ」があるわけですね。外から見るとわからないけど、お友だち同士だとわかる。

夏生:わかります。自分たちらしさはほしいけど、飛びぬけて個性的な人になりたいという人は実はあんまりいないんですよね。やっぱり「髪の毛を虹色にしたい!」という人はあまりいなくて。

それよりは、同じような色味なんだけど「私ちょっとラベンダー色入ってる」ぐらいの。紫という意味ではないんですけどラベンダーアッシュというのが流行っていて、ただのアッシュより透明感が出るらしいんですけど、「私はラベンダー入れてるから、他の子とはちょっと違う」とか。

ちょっとした差異をいかに身にまとうかをすごく考えているだろうし、比べやすいし情報もあるし。「あの子はラベンダー入ってて、あの子はラベンダーじゃない」という情報がわかりやすすぎるから、余計に「自分はどうしよう」という感じになっちゃうのかなと。

久保:本当にそのコミュニティにいればわかるものなのでしょうね。それを女の子たち同士では「かわいい」と評価し合っているのだろう、という気がします。それほどの微妙な違いは、大人からはわかりません。「かわいい」の基準がわからなくなったらおばさんだ、みたいなことをこの間さえりさんとも話していました。

そういう、女の子たちがお友だちと見せ合ったりしている微妙なものというのは、ちょっとコミュニティの外にいるとわからない世界じゃないですか。玉置さんも稲垣さんもそういう子たちを喜ばせる商品を作っていらっしゃいますが、どういうふうにやっているのかのヒントを、企業秘密じゃない部分で教えていただければ。

稲垣:フリューでは、女の子たちと接点を持ち続けていることが大事じゃないかなと思っていて。それはリアルもそうですし、先ほど言った趣味的に検索していることもそうです。インプットをたくさんすることを続けていると、年齢を重ねていっても「今、女の子たちがこれをイケてると思っている」をわかり続けられると思っていて。そこを大事にすると良いんじゃないかなと思います。

玉置:ほとんど同じことを思っていて。フリューさんも商品開発をする時にグループインタビューをすごく大事にしているとおっしゃっていたんですけど、リアルな方のいろんなお話を聞くことがまず大切だと思っています。

その中で「私こんなものが欲しいです」というのが出るわけではないのですが、ただ、どういうことが好きなのか。みなさんのお話を聞きながら、メーカーとして次にこれを提案しようというところが大切なのではないかと思います。

私自身が気をつけていることも同じで、年代が違っても、ただ単に年齢が上がったというだけではなくて、さえりさんみたいな年代の方々と生きてきたプロセスが違うので、そういう人たちの感覚に少しでも近づけるように、新しい情報・ツールは常に試すようにしています。

久保:そうですね。そういった中でデカ目のブームがあり、また今違う流れがきているわけですよね。だから、女の子たちと技術の提供のサイクルの中で、こうした変化がどんどん起きているんだなと思います。今は次の流れが、ナチュラルメイクだったり、シーンで盛っていくということだったりするんですが。

1年に9機種もの新作を出し続ける理由

久保:ちょっと時間が延びてしまったのですが、どうだろう、ちょっと延びすぎかな。なにか質問があれば。なにかありますか?

(会場挙手)

質問者:おもしろいお話をありがとうございました。これから先、プリなどをどのように増やして儲けるかとなった時に、例えば海外に売るとか、もっと広い年代に売るとかが考えられると思うんですけど、どういったことを考えられていますか?

稲垣:ありがとうございます。プリでいうと、先ほどバリエーションを意識していますとお伝えしたんですけど、まさにバリエーションを増やす中で、人も増やしたいと思っています。

今は高校生から20代ぐらいの方に撮っていただいているんですけど、もっと大人にも撮ってもらったり。今、小・中学生くらいで使い始めてくれているんですけど、それをもっと早めることもそうです。

人を増やすことと、今撮っている子が「ただ単に盛れます」だけだと、1機種撮って満足しちゃうと思うんです。でもさっきお話ししたように、楽しい系の機種もあれば盛れる系の機種もあるとなれば、1回ゲームセンターに行った時に2回撮ろうかなという気になって回数も増えるし。ユーザー数も増やしつつ、1人あたりの回数も増やしていくことでプリとしては売上を上げていこうと思っています。

質問者:1強になっているのに、6つぐらい機種があると言っていたじゃないですか。むちゃくちゃだなと思って(笑)。

稲垣:6つどころじゃなくて、1年間に9機種出しているんですよ。新商品を9機種出していて。そこも肝かなと思っています。女の子ってやっぱり新しいものが出ると試してみたいと思いますし。

「もう1強だからそんなに出さなくてもいいんじゃないか」と思われるかもしれないんですけど、どんどん提案していかないと女の子は飽きちゃうのかなと思っています。

久保:ありがとうございます。では、延びてしまいましたが、ここまでにさせていただきます。先ほどもお話にありましたが、貴重な1947年のつけまつげも飾ってありますし、私の本も販売していますので、どうぞよろしくお願いいたします。本日はどうもありがとうございました。

(会場拍手)