友達の友達の友達の顔までわかるプリ帳文化

久保友香氏(以下、久保):今日はさえりさんにプリ帳をたくさん持ってきていただいています。先ほどのスライドを見ていて、使ったことのあるプリ機はありましたか? ……ちょっと難しいですかね(笑)。

夏生さえり氏(以下、夏生):大学生ぐらいになってくると、機種の名前はもう覚えてなかったりします。それより前は覚えているものもあるなという感じですね。

久保:「機種の名前といえばさえりさん」というぐらいすごいのですよね。今日は小学生の時からのプリ帳を持ってきていただいていますが、そもそもみなさまは「プリ帳」とは何かおわかりになりますでしょうか?

95年にプリント倶楽部という最初のプリ機ができた時から、みなさんプリクラを張る手帳を作るようになりました。プリのシールは最初に同じ顔がたくさん出てくるので、まず一緒に撮ったお友達と半分にわけて、それで1枚を自分のプリ帳に貼って残りを交換して……。

夏生:友達にあげるんですよね。

久保:プリ帳は常に持ち歩いて誰かと会うと見せ合って……ということになるので、お友達のプリ帳には自分の顔があり、お友達が残ったものを取り換えてそのお友達のプリ帳に貼られるから、そこにも私の顔がある。

持ち歩いて見せ合ったら、さらに友達の友達の友達ぐらいまで顔が知れる、みたいなことがありました。今だったら当たり前だけど、まだインターネットがない時代にプリ帳によってそういうことが起きていたんですよね、90年代に。

夏生:そうですよね。よく考えると無謀ですよね。友達だけが写っているプリをもらってうれしいのか、という話もあるんですけど(笑)。

使い方はさまざまな、プリ帳のヒストリー

久保:さえりさんのを見せていただくと、お友達だけの写真がいっぱいありますね。個人情報があるので撮影はご遠慮いただきたいんですけど。

夏生:(スライドを指して)これが小学生の頃です。

山口県出身なので、スペースワールドの……もう潰れたスペースワールドという遊園地の記念の。

(会場笑)

やばいですよね。私が写っていない友達のみのコーナーだったり、まだ丸いフレームがあったりしますね。

久保:これはプリント倶楽部ですか?

夏生:そうですね。やっぱり友達と交換したシールも貼っている感じがプリ帳の最初ですね。背景が合成されるものがあったり、ここに「初たまプリ」とか書いてあるように、機種を記録しています。

久保:そうなんですよ。「チャオッピ」とか。人によって本当にプリ帳ってさまざまで、私と稲垣さんは「プリ帳HISTORY」という企画で、いろんな人のプリ帳を見てきたんですが、本当に個性があって。

稲垣:さえりさんのは研究にありがたくて、どの機種か・どう撮ったかとかが書いてあるのでありがたい。

夏生:これが普通なんだと思っていたんですけど、なにで撮って写りがどうだったかとか。「やまとなでしこ最高」と書いてあるのは機種の名前なんですけど、こういうのが研究材料になったみたいです。100均もあります。100均のプリもあったと思いました。

久保:(スライドを指して)けっこう白いですね。肌白いです。

夏生:そうですね。白飛びする感じでした。「最近やまなでが多い」とか書いてありますね。「やまとなでしこ」が好きだったんでしょうね。

稲垣:「やまとなでしこ」はやっぱり人気の機種だったので。

撮るだけで飽き足らず、コラージュし始める

久保:(スライドを指して)このあたりから、ちょっとおもしろいですよね。

夏生:最後に「評価コーナー」と書いてあるんですよ。

私の「プリ機評価コーナー」があって、なにで撮るとどれぐらい良かったか、ちょっとわかりにくいんですけど、ハートが塗ってあります。5個塗ってあって「落書きの時間が長くていい」「ダメダメ」とか書いてあるんですけど。

(会場笑)

あと、2人でお絵かきができるようになった時期もあって。「2人でお絵かきできるから良い!」とか。これは普通だと思っていたんですけど、すごくめずらしがられて……恥ずかしい。

久保:おすすめ度も。どっちがすごいとか、もっと書いてありますね。この時はまだ300円とか400円くらい?

夏生:値段まで書いてありますね。300円の機種があったり、それこそ100円で撮れたりする時期もあったので書いています。「色が薄い」「写りが好き」というのもたぶん書いてあるはずですね。

久保:(スライドを指して)これはまだ小学生な感じかもしれない。これを見ていると、貼り方もだんだん変わっていることがわかりますね。お友達の名前が入っていて、これもかなり貴重ですよね。

夏生:だんだん日記みたいなものもちょこちょこ入るようになってきますね。プリだけじゃなく手帳化していくというか。どの機種とかも全部書いてある。

(スライドを指して)だんだんこうやってコラージュもし始めるんですね。これも全国的に同じなんですよ。私だけじゃなくて、だいたいこのぐらいの時期になるとみんなコラージュをし始めたり貼り方が変わってくるというのがあるみたいで、雑誌からどんどん切ったりしていましたね。

久保:シールの形が影響しているんですよね。最初はアトラスのプリント倶楽部だけで、絶対に同じサイズだったので。敷き詰めてみんな貼っていく感じだったのが、各社競争の中で、いろんなサイズが出てきて。

稲垣:いろんな会社が参入して、いろんなシールサイズがあったので、詰めて貼る派はパズルみたいに詰めて貼るんですよ。それがちょっと難しい場合は日記を書いたり隙間を埋める文字を書いたりするのが、バリエーションとしてありました。

「イケてる!」と思われるためのプリ帳づくり

久保:この辺もわりと人気な感じですかね。「ユメタウンに行った」とかありますね。

夏生:なんの映画を観たとかも全部書いてある。

久保:これね、コラージュしていたり。でも、ちょっと早めですよね?(世の中が)コラージュを始めるのはもう少し後ですよね?

稲垣:そうですね、早いほうだと思います。若い時に既にコラージュしているというのはあるかなと思いますね。

夏生:このプリ帳の最後にも評価が?

久保:あります。ちょっとそこまでいっちゃいましょうか。見ますか? チェックしますか?

夏生:(スライドを指して)お絵かきがどうこう、時間がどうこう、写りが良かったとか薄いとか、そういうのが全部書いてありますね。

稲垣:この時代でこういう評価をしているところが、今ライターさんになられている原点かなと本当に思いました。

久保:本当にそうですね。この後はもっと出てきます。これはその後くらいになるのかな?

夏生:これは中学生ですね。「1年生でつ」って書いてある(笑)。このぐらいからはちょっとずつブロックごとに貼るようになっていく文化なんですね。

久保:法則があるんですね。

夏生:そうですね。

久保:お友達からも。(スライドを指して)これは歌詞が入ってくるんですね。

夏生:好きな歌詞をもってきたりする文化ですね。これ、SMAPです。これも本当に自分が好きな曲を書いているかといったら、そんなことないんですよ。

(会場笑)

これもおもしろいんですけど、自分がすごく好きな歌詞を書くんじゃなくて、このプリ帳にして書きたいもの、みんなに見せたい歌詞を選んで書いている感じでしたね。これはインスタとかに近い感覚だなと思うんですけど、自分だけで楽しむものじゃなくて人に見せた時にイケてるように見られたい、という配色をしたりとか。そんな感じですね。

久保:(スライドを指して)この辺も?

夏生:写真とかも一緒に(使っている)。

久保:お友達への手紙とかが書かれているんですね。でもみんなに見せるわけじゃないですか。そこにお友達個人への手紙を書いていたり。

夏生:これもお友達カップルの写真をなぜかハートで囲んでいるんですけど、私じゃないんです。そういう文化って、一体何なんでしょうね。この時期は手紙をすごく書いていました。また歌詞ですね。

Twitterの裏アカ的な活動を、紙の時代から実践

久保:(スライドを指して)その先がどうなるのかを見せたいのでちょっと速度を上げて進めていきますが、普通の写真も一緒に貼っていたりするんですよ。

夏生:日記が多くなってきましたね。中学生になって年齢が上がってきて。大きいプリも出てくるようになって、めちゃめちゃ気合い入れて。「今日顔の調子どう?」「いい感じ」となったら一緒に行くんです。そういう感じでしたね。

プリ帳に日記をすごく書いているんですけど、この他に日記帳も持っていて。そっちの日記帳には本当の日記が書いてあるんです。

(会場笑)

嘘の日記を書いているんじゃなくて……(スライドを指して)インスタに書いても恥ずかしくないような日記はプリ帳に書いているんですね。「〇〇ちゃんと遊んですごく楽しかった」みたいな。それだけはこっちに書いて、(本当の)日記のほうはちょっと暗いこととかを書いたり。

久保:ちょっとバーチャルというか、ネット上の自分のような自分を持つようになっていくのですね。私たちの時代と違うのでさえりさんにお聞きしたいと思っていたところなんですけど、紙の時代からそれを持っているというのがおもしろいですね。

夏生:そうですね。私は小学校5年生ぐらいから自分でWebサイト作っていて、その頃はタグとかHTMLをコピーして貼るだけで自分のサイトが作れるところがすごく多かったんです。

だから小5ぐらいから匿名でサイトを作ることはやっていて、その掲示板で友達ができたりするんですよ。そっちにも友達がいるしこっちにも友達がいるし、そっちに書きたいこともあれば、このプリ帳に書きたいこともあり、日記に書きたいこともある。

久保:いくつかの自分を持っているわけなんですよね。

夏生:そうですね。そういう感じだったと思います。

稲垣:Twitterが一般的になった後に、女の子は何個もアカウントを持っていて。裏アカの裏の裏みたいにどんどん深くなっていくんですけど、それはさえりさんがTwitterの前にいろんなツールでやっていたんだね、という話を「プリ帳HISTORY」の取材の時もしていました。

見せたい自分を演出する、装置としてのプリ帳

夏生:(スライドを指して)これはもう高校生ですね。

久保:高校生になるとけっこう敷き詰めていて、すごく綺麗ですね。

夏生:今度はこういう文化です。みんながやっているから同じように敷き詰めるようになってきて、日記とかは書かなくなっちゃいます。おもしろいぐらいみんな同じようにやっている。やっていますよね?

久保:コラージュというのはそうですね、この頃はね。おもしろかったのは、このタレントさん、てっきり好きなタレントさんを貼っているのかと思ったら、違うんですってね。

夏生:別にえみちぃ(鈴木えみ)が好きだったわけじゃないんです。

(会場笑)

これも不思議だなと思うんですけど、これを選んだ時の気持ちをすごく覚えているんですよ。「えみちぃ」と呼んでいるんですけど、えみちぃが好きだったわけじゃなくて、これはお姉ちゃんの雑誌からとった気がするんですよね。

3つ上のお姉ちゃんがいるんですけど、ちょっとお姉さん雑誌の中のイケてる写真を持ってくるとオシャレに見えるんじゃないかというので、たぶんやったはずです。

久保:本当にこっちは「見せたい自分がここにある」ってことですね。

夏生:そうですね。

久保:てっきり好きなタレントさんかと思った(笑)。

夏生:なんなんだろう。えみちぃばっかり出てくるし。(スライドを指して)これは単純に私がこの頃、玉木宏さんが好きだったので。

久保:これは本当なんですね。

(会場笑)

夏生:これは本当です。玉木さんが好きで。この頃は好きな芸能人の話を学校でして盛り上がるのがすごく楽しかったから、やっぱりそういう芸能人を持っていて。私はこの頃メルマガ配信を自分でやっていたんですよ。玉木宏情報を配信するメルマガを自分で運営していて、昔から発信欲がすごくあったみたいです。

全然知らない人たちが何百人も登録してくれて、その人たちに向けてなぜか私はせっせと玉木宏出演情報を集めて、2、3枚の画像と共に配信していましたね。

久保:すごいですね。

夏生:やっていましたね。(スライドを指して)これは友達からもらったお手紙が貼ってある感じです。

久保:もらったお手紙なんですね。

夏生:もらったお手紙。お互いに交換してプリ帳に貼り合うみたいなことをやっていましたね。これももらった手紙です。こういう感じでした。

「盛れすぎ」と「盛れてない」は同義

久保:時間がだいぶ押しているけれど、こういったさえりさんのコミュニケーションの知恵をもう少し後で掘り下げたいなと思いつつ。プリコーナーとしてはもう一歩、稲垣さんにもその後のプリのお話などをお聞きしたいと思っていまして。私から共同研究の話を先にしましょうか。

今「デカ目」という話をしていますけど、こうして見ていると、とにかくみんな大きい目にしたかったのかというとそういうわけでもないところがあります。

先ほど私が女の子に取材をした話をしましたが、なんでつけまつげカスタマイズをするか、なんで撮り方を一生懸命練習するかというと、とにかく盛れるから。

でも、目が大きくなればなるほどいいというわけでもなくて、「盛れすぎ」は「盛れてない」のと一緒だ、という意識があります。

目指すところは時代によっても変わるんですけど、そこがなんなのか。「盛れてる」と「盛れすぎ」の境目はなんなのか。稲垣さん、フリューさんとの共同研究でそこを数字で探っていこうということをやっているのですが、おそらくこんな雰囲気じゃないかと見ています。

加工をどんどん増やしていくと、急に別人感が高まって高まりすぎることもあって。それを「盛れすぎの坂」と私は呼んでいるのですが、その手前ぐらいを目指しているんじゃないかと。

そこの基準が一定だったらわかりやすいんですけど、目の慣れとかもあるし、コミュニティごとにどんなものに目が慣れているかも違ってくるんです。本当に値が変化していくので難しいところなんですが、フリューさんと私の共同研究ではそれをどうにか数値化していくことを探っています。

(スライドを指して)どんなことをやっているかというと、「急激に盛れすぎ」「別人感が高まっていく」というのを、まず人の感覚で探り出していこうとしています。ユーザーさんというか、写真を見る側に、写真を見た時にどのぐらいかを記号で付けてもらって評価をする方法をとっています。

それをある数式で数値化していくんですけど、数値化していくことでこの写真がどれぐらいの盛れ感なのか。それらを総合して、この機種がどれぐらいの盛れ感なのかを数値化することなどをやっています。

現在まで続く「ナチュラルに見えるサイズ感」の目

久保:また一方で、顔の特徴の関係を見るために、顔の特徴点を数字で導き出して関係性などを見てみたりもしています。

このあたりはまだいろいろと試行錯誤をしているんですけど、そういった経緯を顔学会で発表したり、そういうこともやっております。

ここはしっかりお話すると長くなるので、今日はさくっと。プリもどんどん進化していまして、先ほども稲垣さんお話くださったように「超デカ目」のピークは越えていまして、今はどんな感じになっているか。

稲垣:先ほど、2006年から2011年を振り返ったと思うんですけど、(スライドを指して)これは左上から2010年、11年、12年、13年、14年、15年となっています。10年でデカ目バブルがはじけて、11年からナチュラルになった感じです。

目のサイズも、大人が見ると「まだナチュラルじゃないよ」と思われるかもしれないんですけど、女の子からするとナチュラル傾向がここ10年くらいずっとあって、19年の現在まで基本的には「ナチュラルに見えるサイズ感」が続いています。

あともう1つ、写真の写りがグラデーションみたいになっているかなと思うんですけど、2010年頃はギャル全盛期だったので、リアルでも焼いていたり茶髪が多かったりしたので、わりと黄色っぽい写りが人気でした。

そこから、先ほど玉置さんからもあったように、実際の女の子もナチュラル志向になって黒髪が良かったり、メイクも清楚系が良かったり、リアルの趣向に合わせてプリの写りもどんどんナチュラル志向になっていきます。色味も自然だし、変形もすごくされているんですけど、ナチュラルだと感じられる写りが今現在も続いています。

ちょっと写りとは違って、市場がどうなっているかについてですが、「プリ、今もあるんですか」と大人の方に言われたりするんですけど、今もしっかりあります。

市場でいうと、先ほども言ったデカ目戦争みたいな時期、「とにかく盛れる」で競い合った時代を経て、今はフリューの一強、ほぼ独占くらいの位置まできています。

なので、市場の中で人気1位を取れば良い時代ではなく、市場自体を拡大していかないといけない時代に入っていまして、バリエーションを増やしていく商品を意識しています。