薬の消費期限にまつわるサイエンス

オリビア・ゴードン氏:常備薬がたくさんあると、心強いですよね。でも、たくさんありすぎるのも困りものです。例えば、10年前のセールで買ったアスピリンの大ビンは、購入当初は満足しますが、現在であれば消費期限は確実に切れているはずです。

そもそも、薬に消費期限があることが不思議ですよね。腐ったり、粘り気が出たりすることはまずなさそうですし、粉薬なども存在します。しかし、薬にも消費期限はきちんとあるのです。そして期限切れのものは、棄てなくてはいけません。

袋入り食品と同様、アメリカの製薬会社には、医薬品に消費期限を明記することが義務づけられています。医薬品の消費期限は、サンプルの劣化を短期間観察したり、医薬品の有効成分の経年劣化を計算して算出されています。

食品の消費期限にも言えることですが、医薬品の消費期限は、たとえ過ぎたとしても人体に害があるという指標ではありません。医薬品が当初の目的の薬効を発揮できるかどうかの保障なのです。

ただしそれは、未開封の場合に限ります。保証期間が過ぎた場合、薬効が継続するかどうかは保障の限りではありません。もし皆さんがビンを開封してしまったのであれば、消費期限はあてにはならないのです。

なぜなら、外的な因子により劣化が早まる可能性があるからです。高い気温や湿度、直射日光などはよく聞きますね。劣化した成分が、人体に害を与える可能性もあります。

ですから、みなさんが浴室のキャビネットに長い間アスピリンを収納しているのであれば、外見上では変わりなく見えたとしても、シャワーの湿気でダメになっている可能性は多いにありえます。

液状の医薬品であれば特に、バクテリアが繁殖する可能性は非常に高いです。ひとたびビンを開封してしまった以上、もはや無菌ではありえません。その瞬間から、周囲の汚染を受けやすくなるのです。そのため、消費期限切れの医薬品を飲んでしまった場合、汚染されたものを飲んでいる可能性は十二分にあります。

要するに、期限切れの医薬品を服用することは、未知の危険なルーレットを回すようなものなのです。

もっとも無害なシナリオであれば、医薬品は本来の薬効を発揮しないに留まりますが、最悪のシナリオであれば、体調に異変をきたすかもしれません。どのような異変が起きるかは予見できないのですから、あえて服用する必要はありませんよね。

生命にかかわる医薬品である場合、これはいうまでもありません。このような医薬品には、非常に短期間で薬効が切れるものもありますので、注意が必要です。

一例を挙げますと、心疾患の医薬品であるニトログリセリンは、高温で容易に劣化し、短期間で薬効が失われることで有名です。このように、医薬品の種類によっては、これが命に関わる可能性があるのです。

医薬品によっては、治療可能時間域が非常に狭く、処方を正確に守って服用することがとても重要なものもあります。薬剤の過少・過量投与が大きな害をなす場合もあるのです。

つまり消費期限切れの医薬品は、下手に服用するよりもあっさり廃棄したほうが安全なのです。パッケージに記載こそありませんが、食品医薬品局のウェブサイトではそのような勧告がなされています。