AR業界の大御所・Ori Inbarへのインタビュー

小林佑樹氏(以下、小林):それでは最後ですね。スペシャルコンテンツということで、Ori Inbarのインタビューのコンテンツをお話したいと思います。

斉藤翔太氏(以下、斉藤):Ori Inbarってみなさん知ってるとは思うんですけど、改めてご紹介します。AWEのCo-Founderで、彼自身が起業家として、昔からARのユースケースの開発に取り組んでいたりということで、本当に業界の中でも数少ないめちゃくちゃすごい人です。

(会場笑)

本当にすごい人だなぁと。そんな人に30分くらいインタビューの時間をもらえて、どういう質問をしようかというのもメンバーで話し合いながら出して。大きくは、投資先であったり、彼自身が今Super Venturesで働いていることから、知見を聞くような話をしました。

あとはスマートグラスであったり、AR Cloudについて。彼自身がspatial wikipediaというような概念を提唱しているんですけど、これがAR Cloudと関連するような話なので、そこについても聞いてきました。

20年近い歴史を持つARの過去からの学び

斉藤:まず最初に、投資関連のところです。

「投資先に必ずするアドバイスは?」というのと、「過去の失敗からなにか学びを共有してください」について聞いたところ、まずは過去の歴史を学びなさいということを言っていました。

実際AR自体は、初期のマーカーに出すところから考えると10年以上、約20年近く歴史があるものだよと。そういったものをちゃんと学んで、過去の人がどんな失敗をして、どんなことを成功としてやってきたのかを学ばないと、車輪の再発明をしちゃうよねと。それは絶対に避けなきゃいけないからちゃんと学びなさいと言っていました。

それに関連してでもないですけど、失敗からの学びというところだと、やっぱり技術が好きだったりとか、ARにすごく熱量を持っているとアイデアに固執してしまうところがあると。うちもすごく身に沁みるところが多いんですけど、「これいけるだろ」って……今って、モバイルのデバイスが普及してないとか、スマートグラスが普及してないとか、わりと言い訳しやすいんですよね。

「それが普及したならば、きっと!」みたいなことって思っちゃいがちなんですけど。そういったアイデアに固執せず、「これって本当にユーザーが使ってくれるんだっけ?」というところを考えましょうと言っていました。

かつ、スタートアップの基礎をしっかり忘れないようにしましょうと。というのは、スタートアップはやっぱりいいチームをちゃんと作って、いい経験を持った人材を集めることであったり、ちゃんとビジネスモデルを立てて収益を作っていかないといけない。会社として自分たちで実装できるようにするところを忘れがちになるから、それはしっかりケアしようねと言っていました。

それがないと生活できないようなコンテンツが、まだない

斉藤:じゃあ次のトピックですね。スマートグラスだったりAR Cloudの話です。

まず「スマートグラスの普及時期はいつになると思う?」と訊かれて、僕は「2014年に絶対来ると思ってたんだよね」と言っています。レポートを自分で書いていて、そのとき集めた情報とか全部がもう数年で来るっていうふうに示してたんだけど、実際に蓋を開けてみたら来なかったよね、みたいな。

nrealがすごいデバイスを出したじゃないですか。価格も良し、バッテリーを外出しして日常使いできるのはもちろんなんだけど、それ以上にユーザーの教育だったり、なによりキラーコンテンツが今は絶対的に足りないと。

日常的に絶対使いたくなるような、それがないと生活できないようなコンテンツが今スマートグラスの領域にないから、やっぱりそれが出てこないと普及って難しいよね、ということを言っていました。

という意味でも、Appleの投入はすごく契機になるんじゃないかなというのは彼自身も期待していて。Ori自身も言ってたんですけど、Appleはすごく市場のタイミングを読むのがうまいんですね。あとは体験、プロダクトをちゃんとデザインすること。体験をデザインしているところも、しっかりケアしてくるよねということを言っていました。

空間上に存在するWikipediaの概念

斉藤:最後に、spatial wikipediaのところをちゃんと時間を使って話したいなと思っています。Oriが去年のAWEのときからずっと言ってる言葉なんですね。そもそもARという言葉よりも、どっちかと言うとspatial computingと呼ばれるようになったりしていて。空間コンピューティングのそのワーディングがトレンドになりつつあるなという印象で、spatial computingを一概に言うとARとXRって感じです。

その中でもspatial wikipediaができていくだろうということを、Ori自身はすごく言っています。これが何かなんですが、今Wikipediaってテキストですべての情報が集積されている場所になりつつありますよね。始まった当初は誰もそんなこと思ってなかったけど。

それが完全にビジュアルの世界で起きるだろうと。スマートグラスをかけているときに、例えばプロジェクターがあるじゃないですか。そのプロジェクターの使い方が、今までのWikipediaみたいにテキストでパッと出てくるとかじゃなくて、ビジュアルでちゃんと出てくる世界が来ると。

それはどうやって作られるのかと言うと、僕が最初にマニュアルかなにかをアクセプトしたら、使うじゃないですか。その使っているときの画像をカメラを通してAIが学習すると、それをどうやって使ったらいいんだということが学習データとして貯まるわけですよね。

そうなったときに、次に使う人に対してその情報を出します。「まずはここを押してください」とか、「あなたがHDMIを使ってるんだったらここに刺してください」とか。そうやって情報を出すようなものがspatial wikipediaで、要は空間上に存在するWikipediaです。

彼自身が使っていた言葉としてすごく印象的だったのは、「How the world works」と言ってて。要は世界がどのように動いているかっていうのがspatial wikipediaの果たす役割だと。それをすべて解き明かす。

プロジェクターがどう動いているのかとか、この椅子がどういう可動範囲なのか、どうやったらストッパーがかかるのか。そういったものがすべて空間のWikipediaのような感じで保管されるよね、といったようなことを言っていました。すごく未来があるなと思いました。

インタラクトな行動がデータとして売れる時代

斉藤:さらになんですけど、これが実現されるとビジネスモデル自体が変わるよねというようなことも話していて。今GoogleだったりFacebookって、どんなWebサイトに行ってとかそういった個人の行動データを取って、マネタイズしているわけですよね。その代わりに製品に対するインタラクト、自分のインタラクトな行動がデータとして売れる時代が来るだろうと言っているんですね。

つまり、このプロジェクターを使っているときにどこで戸惑いましたとか、どこがすっきり操作できましたとか。こういったところが……例えばコーヒーメーカーだったら、あなたは週に5回使ってますよねとかですね。めちゃくちゃ好きなんですよね、どういうところが好きなんですか、この操作が簡単にできるのが好きなんですよ……みたいなことが、行動から取れるようになるんですよね。

その行動データをマネタイズの手段として、自分がどんなものが好みで、それをお金に変える、広告が飛んでくるような世界じゃなくて。自分のプロダクトのインタラクション自体が製品提供側へのフィードバックっていうかたちで、価値ある情報に還元されていくのはすごく意義あるビジネスモデルなんじゃないの、ということをOriは言っていました。

めちゃくちゃ密度の濃い30分間だったんですけど、正直、今みなさん「ここまで口頭で伝えられても……」みたいなことを思ってると思うんですよ。ご安心くださいというか。宣伝なんですけど。全文noteに公開します!

ということで、今もうすでに公開されてて。このQRから飛べるので、ぜひ全文を読んでみてください。今は4つの質問をピックアップしてお話したんですけど、実際は6つとか7つとか、もうちょっとほかの話もしてたりするので、それも踏まえてぜひ読んでいただけたらなと思います。できれば、#AWENiteTokyoのハッシュタグを付けて拡散を手伝っていただければ、AWE Niteの知名度向上につながるのでぜひご協力いただければなと思います。

nrealの屋外利用は可能か?

斉藤:ということで、Ori Inbarにインタビューした内容は以上になります。最後にOriからビデオメッセージが届いております。東京のみなさまへということで、お願いしました。それを流していただいて。それでは準備します。

小林:今、翔太くんが(ビデオを)準備している間に質問を1、2個ピックアップしたいんですけれども。nrealの屋外利用についてという話がありまして。実際にnrealは2人もやったと思うんですけど、これを着けてみてどうですかね? 屋外利用は実際にはできないんですけど。

梶谷健人氏(以下、梶谷):屋外利用はできないんですけど、Magic Leapとの比較で言うと相当輝度が高いなという印象です。Magic Leapを外で使ったときに、見えないけどうっすら見えるみたいなレベルで言うと、見えづらいけどたぶん情報の摂取としてはぜんぜんできるだろうなという印象を受けました。

ただ日差しがカリフォルニアくらい強いとわからないですね。曇りの日とかだとたぶんぜんぜん問題ないかなという印象でした。

大島:そういう意味では、たぶん別のソリューションをぶつけてきてくれそうな気がするので、そっちを期待してもいいのかなとは。

梶谷:一番違うのはサングラスなので、たぶん圧倒的に見える気がしますね。

小林:スタッフに話を聞いて言われたのは、どっちかと言うと暗いところでほかの現実世界が見えなくなる、という話をしていて。要は機能が出るから別にARコンテンツは見えるんだけど。ARだから現実世界が見えてもらわないと困ると。スタッフの人が、今はまだそこがちょっと課題だという話はしていました。

Ori InbarからAWE Nite Tokyoへのビデオメッセージ

斉藤:できました。完璧な尺調整ありがとうございます(笑)。ではOriからのビデオメッセージをみなさんどうぞ。

(動画再生)

Ori Inbar氏:AWE Nite Tokyoのみなさん、こんにちは。まずは、ミートアップの開催、おめでとうございます。世界各国で月に一度程度のミートアップが開催されているので、ぜひ楽しんでください。

日本のみなさんが参加してくれて、とてもうれしく思います。私が東京での開催を待ち望んでいたのも、10年前、頓智ドットが日本で生まれて以来、ARの用途がとても独創的で、ヨーロッパやアメリカのものとはまったく違う発想だと感じているからです。日本、ひいては東京発のビッグプロダクトが生まれることがとても楽しみです。

他の地域のコミュニティでも良いアイデアがたくさん浮かんでおり、日本でもこれを機に多くのアイデアが生まれることを願っております。最後に改めて、AWEに参加してくれてありがとうございます。

(動画終了)

斉藤:AWE自体が各国のローカルミットアップを拡大させていこうというのを今すごく力を入れてやっていて、AWEのセッションの中でも、AWE Niteそのものにフォーカスを当てたパネルのようなものがあって、恥ずかしながら登壇もしてきたんですけど。

今、AWE Niteというもの自体が世界の最先端にいられるんじゃないかなと思っているんですが、やっぱり日本ってどうしてもグローバルから取り残されがちなので。しっかりここをハブにしてみんなで情報交換したり交流しながら、世界に向けて出ていけるようなコミュニティを作れたらなと思っています。ぜひぜひこれからもみなさん積極的にご参加いただければなと思います。

なんか流れでまとめちゃった感じになったけど(笑)。ということで前半のトークセッション、報告会は以上とさせていただきます。

(会場拍手)