技術力があっても、市場のないスタートアップはうまくいかない
AR・VR領域におけるコンシューマー市場の展望

Talk Session #2 Startup

2019年6月11日、Yahoo! JAPANのオープンコラボレーションスペース「LODGE」にて、「世界最大のxRカンファレンス AWE報告会!」が開催されました。カリフォルニア州サンタクララにて行われた世界最大のxRカンファレンス「AWE(Augmented World Expo)」を視察してきたメンバーより、最先端のARクラウドテクノロジーやVR技術を使った最新のユースケースなど、現地の生の情報を共有。AR・VRが世界をどう変えているのか、最新の知見をもとに各社の見解が述べられました。本記事では、2つ目のセッション「Talk Session #2 Startup」の模様をお送りします。

提供:AWE Nite Tokyo

スタートアップにコンシューマー市場はまだ早い

小林佑樹氏(以下、小林):それでは次のセッションにいきたいと思います。続きましてはAWEの中で登壇されたりデモを出していたようなスタートアップにフォーカスを当てたセッションのことについて、お話しいただきます。

斉藤翔太氏(以下、斉藤):引き続き僕が話しますね(笑)。スタートアップは大きく3つですね。

「コンシューマー市場はまだ早い」とわりと断言されていて、ちょっとショックでした。コンシューマーをやってる身としては(笑)。

小林:ここ、みんなコンシューマーですね。

(一同笑)

斉藤:それこそエンドロールさんやMESONさんはちょっとBtoBtoCみたいな要素があるけど、うちはゴリゴリのtoCなので。だいぶ「見返してやるぞ、待ってろ」みたいな感じになったんですけど(笑)。

まあ、そう断言されてましたね。その分「今はエンタープライズが圧倒的にホットだよね」というような感じのテンションでした。これはセッションだけじゃなくて、ブースの出展であったり、全体を通してそういう風潮だったかなと思います。

ちょっと余談っちゃ余談なんですけど、Auggie AwardってMESONさんとかも出展されてたようなアワードがあるんですね。それの中のスマートグラスが……あとでちょっと話が出ますかね? これもけっこうエンタープライズで「すげぇ!」みたいな風潮を反映してたという感じで。たぶんあとで話出ると思うので。

小林:ウェアラブルグラスの話は出ないかな(笑)。

梶谷健人氏(以下、梶谷):入れてないね(笑)。

斉藤:じゃあ今さらっと話すんですけど。nrealってめちゃくちゃ話題になってたじゃないですか、日本で。「nrealやべえ」みたいな。実際デモを体験してすごくヤバかったんですけど、彼らがAuggie Awardに出展したにも関わらず、取ったのはエンタープライズ向けのウェアラブルグラスだったんですよ。

しかもその内容としては、単眼で遠隔作業支援みたいなもので、ユースケースとしてはわりと出揃っているようなものだったんですけど。それがUIの洗練とかUXの洗練というところでAuggie Awardを受賞してるあたりも、エンタープライズを見てるんだなぁという印象を僕は感じました。

ARスタートアップって、今のコンシューマーとかエンタープライズみたいな話も含めて、長期戦を見据えましょうとか、できるだけセグメントを絞りましょうみたいな話だったり、わりと最初はみんな泥臭いよねというような話があったりというところをお伝えしていきます。

スタートアップに求めているのは、長期戦を見据えた戦略を考えているか

斉藤:じゃあ内容を実際に見ましょう。まずパネルとしてGeneral Catalyst……それこそ6d.aiとかにも出資しているベンチャーキャピタルのNikoというマネジメントディレクターと、あとは6d.aiのMattが2人で話しているセッションからの内容になります。

2人とも明確に「コンシューマー向けは早いね」と言っていました。まだウェアラブルがコンシューマーに浸透するようなクールなハードが出てきてないから、それが来るまではやっぱりコンシューマーは難しいんじゃないの? みたいなことを言っていました。

とはいえ、エンタープライズがめちゃくちゃイケイケかというとそうじゃない。ユースケースとテクノロジーとマーケット、この3つをちゃんと併せ持ったところを自分でセグメント切ってやってやらないと、ただ闇雲にエンタープライズとして立ち上げでも絶対うまくいかないよみたいな話をしていました。

その中でスタートアップに期待することとして、未来を詳細に描いていることと、5~7年の長期戦を見据えて経営することを言っていました。未来を詳細に描いているのは、なんとなくイメージつくかなと思うんですよね。スマートグラスがいつ普及するのかということだったり、そのときのユースケースはどういったものが一番顧客にとって刺さるのか、どうやって体験が変わってくるのかを描いているか。

ただ、やっぱり5~7年の長期戦というのはすごくおもしろかったと思ってて。わりと海外のスタートアップもすぐ人を採用したり、ハードの開発に投資したりで、すぐキャッシュアウトしちゃうケースが多いらしいです。僕の勝手なイメージで、シリコンバレーの奴らはみんなすげぇ優秀でそんなこと絶対しないだろうとか思ってたんですけど(笑)。ゴリゴリしてるっぽいです。

それはやっぱり市場の見積もり、すぐ顧客を取れるだろうとか、こういうSaaSの製品を作ればそれだけで売れるだろうと、先行して思い込みがちです。だからこそ手堅く自分たちでキャッシュフローを回して、死なないように走っていくのが大事だと言っていました。

テクノロジー“だけ”のスタートアップになってはいけないという戒め

斉藤:最後、その例の1つ。セグメントをちゃんと切れてないと難しい例で、Leap MotionのM&Aについての話が出ていました。

みなさん、Leap MotionがUltraHapticsに買収された話はご存知ですか? Leap Motionという、手をトラッキングするようなハードのデバイスを作っているスタートアップがあって、これがめちゃくちゃすごかったんですよ。

UltraHapticsという会社はたしか超音波でVRなどの触覚を再現するようなデバイスを作っている会社で、そこに買収されたんですね。もともとLeap Motion自体はめちゃめちゃイケイケドンドンというイメージだったので、わりと衝撃だったんですけど。その裏側が、なんでだったかという話です。

Nikoが彼らの創業期にLeap Motionの人と会ったそうなんですね。会って「君たちって初期のターゲット、顧客ってどういう人になると思う?」みたいなことを聞いたときに、Leap Motionの人は「全員だ」と。「僕らの技術はそれだけすごいからこの業界にいる人全員がターゲットだ」と言っていたらしいです。その時点でNikoは、これはたぶんビジネスとして成立しないかなって思って出資を見送ったそうです。

そのあと、わりとレイターステージになってもう1度会ったとき、まだ同じことを言ってたそうなんですね。なので、たぶんLeap Motionの人たちはすごく技術力はあった。いいものをめっちゃ作ってたんですけど、やっぱりそういったところのセンスが抜け落ちていた。

それこそ、ここに書いてあるようなユースケースとマーケットがない、テクノロジーだけのスタートアップになってしまっていて、今回の結果になったというような話をしていたのがわりと印象的でした。やっぱりARの領域といったときに技術技術しがちなのはよくないよな、という戒めかなと思います。

「日本の未来は明るい」と感じさせるスタートアップセクション

斉藤:あとはブースですね。今回のAWEって、大きくメインのホールと、それとは別にスタートアップセクションみたいなものが丸々1つ用意されていました。そこに各スタートアップがバーっと出展していて。一応ひと通り舐めて回ったんですけど、この話をちょっと共有しようかなと思います。

全体には、やっぱりエンタープライズが多めだったなという印象です。

例えばこの右上がやってるのは、echoARというスタートアップです。これはコンソール画面なんですけど、コンソール上で3Dモデルをアップロードするとアプリでいつでもアクセスして出せるソリューションなんです。正直ショボかったんですけど(笑)。

しかもスマホ上で操作できなくて、コンソールで回転とかも操作してあげなきゃいけないという感じで。ちょっとまだ「がんばりましょう」って感じだったんですけど。こんなものだったり、あとは左側のWeb ARは単純に「8th Wallと何が違うの?」みたいな質問をしたときに、向こうの担当者も「うっ……」ってちょっと困るみたいな感じのスタートアップでした。

全体的に「これはやべぇ。すげぇのが来た」みたいなのはあんまりなかったですね。印象としては。なんかありました? 

大島佑斗氏(以下、大島):あんまりですよね。逆に日本の未来は明るいなと。

小林:右下は?

斉藤:右下は、今からコンシューマーの話をしようと思ったんですけど。これはちょっと動画を流してもらって。コンシューマー向けがいくつかあったんです。2個だけなんですけど。

(動画を流しながら説明)

これはTouchという会社のやつで。これは何してるかと言うと、まずビデオチャットなんですね。ビデオチャットで遠隔で2人をつないで、その場で自分の手をSemantic Segmentationしてるんですよ。それによって、例えば、つねるアクションをしたときに画面の中の相手の顔にリアルタイムでつねる。アクションできるみたいなユースケースですね。

グラフィティが検証した仮説の結果とAWE

斉藤:これはすごく不運なことが2つ重なってると思ってて、ARKit3.0によって、彼らのSemantic Segmentationの技術が完全にPeople Occlusionで代替されちゃったというかわいそうな例ではあるんですけど(笑)。

そういったことに取り組んでいたので、彼らに「今後ロードマップどうするの?」と聞いたら「Semanticの精度を上げていく」と言っていました。いまごろたぶん、てんやわんやだと思うんですけど。こんなユースケースがありました。

あともう1つ、ちょっと録画NGと言われちゃったので口頭での説明になるんですけど。Together.ioというスタートアップがありました。これは遠隔地でアバターを出して、アバター同士でコミュニケーションができるみたいなユースケースです。

友達とつないだときに友達のアバターが僕の目の前に出てくるんですね。友達が向こうの世界で上下左右に動くと、それがリアルタイムでアバターの位置として反映されるみたいな。YouTube動画を2人で一緒にあげて、AR空間で見たりしながらコミュニケーションを取るみたいなユースケースが出てました。

もしGraffityのことをご存知の方だったらなんとなくピンと来るかなと思うんですけど、この2つって、全部弊社が去年試した仮説検証の結果なんですよ。仮説検証して、「あ、これダメだね」という結果だったもので。

ユーザーが付かないし、技術的に高いことしてもそれがユーザーの体験につながらないので捨てた2つです。この2つが今のタイミングでAWEに出ているなら、ちょっと日本の未来は明るいなって(笑)。

大島:明るいですね(笑)。

斉藤:そうだと思いました。最後は完全に手前味噌な話でしたが(笑)。これでスタートアップブースの話は終わりたいなと思います。AR/VRスタートアップの事例ということで、ここからはちょっとARというより、VRやMRよりの話が増えてくるんですけど。

VR研修プログラムを提供しているSTRIVRという会社と、あとホログラムのディスプレイを作っている、VNTANAという会社の話をしてるんですけど。彼らはけっこう泥臭いことをやっていました。

ウォルマートに提供しているすごくイケてるスタートアップなんですけど、初期の拡大戦略を圧倒的に人材雇いまくって、マンパワーで回したという話がありました。

あとはホログラムディスプレイの彼女……女性のCEOだったんですが、彼女も初期のキャッシュフローがどうしてもまかなえなかったので、コンサートイベントと契約していました。スポットのコンサートのイベントって、最初に前金半分振り込んでくれるから、それだけですごくキャッシュフローが楽になったと話していました。

どっちも枕言葉に「VCとか投資家ってすごく嫌がるんだけど、これで成功したよ」みたいな話をしてたので。実際僕らも全部スマートにかっこよく成長させるとかよりもぜんぜん泥臭くやっていくということで、こうやって大きい成功は掴めるのかと思いました。

サービスにAR技術を組み合わせて成長するスタートアップの増加

斉藤:最後に、ここでも事例について詳しい話をカジさんのほうからお願いします。

梶谷:自分も全体を通して2つくらい、スタートアップ文脈でトレンドがあるかなと思って。1個は、AR/VRともにけっこうエンタープライズはもう事業として成り立っているところがけっこう増えてきたなと思うんですよね。

今、話に上がったSTRIVRもけっこうな実績を上げていて。右上が実際の画像で、数値的な実績を上げているんですけど、ウォルマートはもう1.7万個のヘッドセットをSTRIVR経由で購入して、約100万人のスタッフがSTRIVRのプラットフォームでトレーニングを受けたと言っています。ウォルマート内にインターナルのテストスコアがあるみたいなんですけど、そのテストスコアも7割が70パーセント改善しました。

Verizonは2.2万人のスタッフ教育に使用していたり、あとは信託投信のFidelityがあるんですけど、それが顧客満足度がVR経由の接客を通じて10パーセントアップしていたりします。これは社名が上がってなかったんですけど、Fortune100に入った、とある保険会社のトレーニング時間が3時間から25分に短縮していたりします。

規模的な意味でも効果的な意味でも効果を上げているスタートアップが、AR/VR領域のエンタープライズでかなり出てきたなという印象を受けました。

もう1つがtoCのスタートアップで、いきなりARで成功しているところはまだなかったんですけど。既存でなにかサービスを持っていて、かつ顧客のプール、ユーザーベースとそこにデータを持っている企業がARを組み合わせて成長するケースがちょっとずつ増えてきたかなと思っています。

Houzzの事例がメインに挙げられていたんですけど、このHouzzというのはアメリカで一番使われているインテリアとか家具のマーケットプレイスです。インテリアのインスピレーションとか、そこから家具を購入したりするマーケットプレイスなんですけど。そのHouzzがARで家具をシュミレートしていると。よくある家具を家に置いたり、ちょっと進んだところで言うと壁紙を壁全体にバーっと広げてシュミレートしてくれたりみたいな機能をスマホアプリ、彼らのアプリで提供しています。

もう累計数百万人のユーザーが使用していて、使用したユーザーの購入のコンバージョンレートが、そうでない人と比べて11倍になっている。自分はけっこうECのグロースとかやってたんですけど、コンバージョンレートが11倍になる施策なんて存在しないので、相当すごい効果を上げていると思います。こういう、もともとの自分たちのサービスにARを組み合わせて伸びるスタートアップというのがかなり今後も増えてくるだろうなと思いました。

いいハードが出てこないと、コンシューマー事業は難しい

小林:Houzzは自分も違うセッションを見たんですけど、けっこう彼らはARに対して本気ですね。ゲームクリエイターをゲーム業界から雇って3Dモデルを作ったりもしています。あと、タイルのARがあるんですけど、タイルをAR表示するときに、どうしても形的にちゃんと収まらないみたいな模様があって。それをどういうふうに正方形の中に収めればきれいに見えるかというものを、自社ツールとして作ってARに表示させるものがあって。

自社で3Dモデルとかツールの開発みたいなことをめちゃめちゃやってるんですよ。だから単純に今のECとかインテリアの技術だけじゃなくて、ちゃんとARの技術投資もしてるというのがけっこう印象としてあったって感じですね。

梶谷:Houzzは3年前くらいからやってるんじゃないですかね。けっこう投資するタイミングも早いですね。

小林:ちょっと質問も来てるので、そこも拾いたいんですけれども。「先ほど5~7年の長期戦というのがあったんですけど、なんで5~7年なんでしょう?」というお話があって。そのあたりをちょっと詳しく。

斉藤:明確になんでというのはセッションの中では語られてなかったです。というのを踏まえての、僕の想像も含めてなんですけど。

さっきNikoが言ってた話として、いいハードが出てこないので、かつそれが普及しないとコンシューマーはきついという話を踏まえたときに、だいたい2021年くらいにAppleが初期のグラスを導入したとすると、本格的に普及するのは2023年くらいからだと言われています。

そこから考えると、だいたい5年くらいは妥当な数字感だよねと。それくらいまでちゃんと自社で生き残って、本格的にARというものが世の中の日常に溶け込んだことにもちゃんと戦えるようでないと、生きてないといけないとは思いますね。

5Gによるマーケットができるのは2023年ごろ

梶谷:あと別のセッションで言われていたのは、5Gの文脈がありました。

5Gが2020年に開始すると思うんですけど、それがいきなり普及することはなくて。対応するデバイスの普及の角度を考えると、少なくとも2023年くらいからで、市場として捉えられるくらいになるのはそこからだと。そこからサービスをグロースしていくことを考えると、これくらいは見込んでおけという話だったんじゃないかなと思います。

斉藤:5Gの話ですごくおもしろかったのが、5Gはわりと盛り上がってた感があったなぁと思ってて。

小林:ありましたね。

斉藤:ありましたよね!

小林:5G専用のスペースがあったくらいなので。

斉藤:でもそれをWIREDのKevin Kellyとかがバッサリ切っていて。Kevin KellyとForbesのCharlyのトークセッションがあったんですね。わりと大御所の2人のセッションの中で、5Gの話題があがったときに……ちょっとどっちだったか覚えてないんですけど。

片方は「5Gは完全にハイプサイクルの真上に乗ってる。完全に幻想を抱かれている」みたいに断言したんですよ。それを完全に断言したあとに、会場から拍手が出るという一種異様な光景が広がってて。

スマートグラスも2014年とかに1回盛り上がって、でも結局遅れて今になってるみたいなことなんだろうなと私は思いますね。

小林:絶対にインパクトはあると思いますけど、たぶん想像以上にみんな期待しすぎるみたいな。

大島:幻想を抱いちゃってると(笑)。

斉藤:そう。幻想を抱いてるよね、みたいな。そんなにすぐは来ない感じもあるので。けっこうおもしろかったです。

小林:ありがとうございます。そんな感じで次のセッションにいきたいと思います。

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