なぜ歌舞伎役者が起業を志したのか?
若手中心の組織を束ねるアイデミー石川聡彦氏の創業譚

株式会社アイデミー 石川聡彦 氏

AIに強い組織体制を構築するためのクラウドソリューション「Aidemy」の開発・運営をする株式会社アイデミーの石川聡彦氏のインタビュー。生い立ちから起業の経緯などを語りました。※このログは(アマテラスの起業家対談の記事)を転載したものに、ログミー編集部で見出し等を追加して作成しています。

歌舞伎役者として活動した幼稚園~小学校時時代

アマテラス藤岡清高氏(以下、藤岡):石川さんと言えば歌舞伎の子役だったことが有名ですが、それ以前の生い立ちについてうかがえますか? ご家族に起業されている方がいらっしゃるのですか?

石川聡彦氏(以下、石川):僕は横浜市の出身で、サラリーマン家庭に育ちました。両親に兄が1人の4人家族です。

起業とは無縁で、むしろ官僚志向・大企業志向の強い家庭で育ちましたので、子供の頃は自分で会社をやるとは考えていませんでした。ただ、「うちには経済的余裕はない」と繰り返し教育を受けており、「大人になったら自分で稼いでいかないと」と幼少時から考えていた記憶があります。

藤岡:歌舞伎を始めたのはいつ頃でしょうか。また、その経験からどのようなことを学ばれましたか?

石川:両親が児童プロダクションのオーディションに応募したのがきっかけで、歌舞伎役者は幼稚園の頃からやっていました。そこから小学5年生で引退するまで、格式高い伝統芸能の世界で生きてきました。

「諦めずにやり続ける」という姿勢はこの頃に培われたものだと思っています。子役にも大人レベルの演技力が求められましたから、指導も厳しかったですし、よく叱られました。また、当時の子役は代役がいなかったので怪我や病気も御法度でした。「体調管理も仕事のうち」という大人の世界で生きた経験が現在に繋がっていると感じます。

厳しい世界でしたが、みなさん作品に対してプライドを持って取り組んでいることはわかりましたし、歌舞伎座という大舞台で何千人もの観客の前で演技するのは楽しかったです。

しかし、小学校5年生の時、歌舞伎は引退しました。小学校高学年になると子役を卒業する時期が来ます。その後は歌舞伎家系に養子に入り歌舞伎に人生を捧げるかどうするかという分岐点になるわけですが、僕には歌舞伎を選ぶ覚悟ができませんでした。両親の意向もあり、そのタイミングで歌舞伎を離れて中学受験をすることにしました。

将来の夢をみつけ、文化祭に全力を注いだサレジオでの日々

藤岡:その後サレジオ学院に入学されましたが、どんなことが印象に残っていますか?

石川:「学校の先生になる」という夢を見つけたことと、文化祭の思い出です。

中学受験前は当然塾にも通っていましたが、自分でやり方を試行錯誤しながら勉強するのがおもしろく、またサレジオでも「勉強は楽しく」を心がけるうちに本当に楽しくなり、「中学か高校の先生になる」というのが将来の夢になりました。歌舞伎をやっていた頃に、後輩に勉強を教えて感謝されたことがうれしく、それもきっかけになったかもしれません。

そして、サレジオ学院での思い出といえば、文化祭です。高校2年で文化祭の実行委員長をやりました。歌舞伎という伝統芸能を引退し、「何か新しいことを」と渇望していた僕には、文化祭は格好の場でした。

サレジオは保守的なカルチャーなのですが、僕は前例のないことを実現したいと考え、お化け屋敷の解禁や横浜港開港150周年記念キャラクター「たねまる」の招致、階段アートなど、さまざまなことにチャレンジしました。階段アートはその後10年以上続いたそうで、自分の手で新たな伝統を作れたことは小さな誇りです。

東京大学に進学し、夢は教師から起業家へ

藤岡:その後、学校の先生という目標に向かって大学に進まれたわけですね。

石川:もともと東京大学への進学は希望していましたが、サレジオで素晴らしい先生方と出会ったことで「一流の教師になりたい」という思いが強くなり、東大では文科3類を選択しました。

藤岡:大学では、勉強以外にどのような活動をされていたのでしょうか。

石川:人に教えるのが好きだったので、大学入学後は予備校の講師のアルバイトをしていましたが、その一方で「KING」というビジネス系のサークルに入りました。学生ビジネスコンテストを運営し、ユーグレナの出雲充社長やラクスルの松本恭攝社長などが先輩にいるサークルです。

先輩起業家たちの話を聞くうちに僕も起業への思いが強くなりました。遠く感じていたビジネスが身近に感じられ、そこから一気にビジネスの世界にのめり込んでいきました。そのうちに「教師になりたい」という気持ちはなくなっていました。

また、「アメリカでは理系の学生がITをベースに起業するのが流行している」という話を耳にしたことや、起業している先輩達はユーグレナの出雲社長をはじめテックな起業家がほとんどだったこともあり、「改めてテクノロジーを学んでビジネスを作りたい」と考え、大学3年からは工学部に転部しました。

また、その頃は弁当のデリバリーサービスやポイントカードアプリなど、いろいろなビジネスにチャレンジしました。今考えると若気の至りですが、いろいろな起業家の方とお会いしてビジネスモデルなどを教えてもらっているうちに、自分にもできる気がしてきたのです。しかし、ことごとく失敗に終わりました。

藤岡:転部もされ、ビジネス一色だったわけですね。とはいえ、当時は今ほどスタートアップに進む方も多くなかったと思いますし、3年生ともなると就職も考えたのではないでしょうか。

石川:一般的な就職活動はしませんでした。ただ、当時はインターン大成長期でして、僕は休学してコンサルティングファームなどの短期インターンに何社か参加しましたし、ベンチャー企業での長期インターンも経験しました。

学生時代のインターン経験は、会社組織を知る上で必要不可欠なもので、学生時代に休学するというのは良い選択だったと思います。

先輩アドバイスを受け入れる「サラリーマン気質」で事業をブラッシュアップ

藤岡:起業にあたり、AIという分野を選ばれた背景をお聞かせいただけますか?

石川:この頃、知人の紹介でビッグデータ解析システムの受託開発をしたのですが、その時に「AI分野は、学生に委託するほど人材が不足しているのだ」と知りました。僕自身がデータ解析や機械学習を研究に利用していたので、将来性があり、自分の強みも生かせる分野かもしれないと考えたのが始まりです。

そのアイデアを大学院のクラスメイトでもあった東京大学エッジキャピタル(UTEC)代表取締役社長の郷治友孝さんとブラッシュアップしていきました。タイミングにも恵まれていて、若手の社長への投資スタイルとしてそのような方法が取り入れられた時期だったようです。

藤岡:それはすごく贅沢なお話ですね。ベンチャーキャピタル(VC)としては、そうしたことでいわゆる学生ベンチャーから、上場や一千億円クラスを目指せる会社にしていくわけですね。 石川さんは先輩のアドバイスをしっかり聞いて、経営に取り入れていらっしゃる印象があります。

石川:以前に失敗を繰り返して、僕の鼻なんてもうボキボキに折れていますから(笑)。先輩の話はしっかり聞こうと考え、郷治さんたちのアドバイスに素直に従ってみることにしました。起業家にしてはサラリーマン気質がある方だと思います。

藤岡:クラウドワークスCEOの吉田浩一郎さんも「起業家にもサラリーマン力が必要だ」と書いていたと思います。

石川:僕も初めは「起業家というのは自分の考えに拘るものだ」という固定観念があったのですが、いくつもの失敗を経て、先輩方のアイデアやアドバイスを受け入れピボットしながらやって行くスタイルが自分には合っているという結論に至りました。

先ほどもお話ししたUTEC等のVCや、千葉功太郎さん、中川綾太郎さん等の注目されている個人投資家の方々からも投資いただくとともにさまざまなアドバイスをいただいています。

若い組織に顧問の力を組み合わせ、壁を越える

藤岡:起業後は、どのようなご苦労がありましたか?

石川:プロダクト開発に関しては、もともとは機械学習の解析という僕に知見のある分野のプロダクトとはいえ、簡単ではありませんでした。

アイデミーは普通のウェブサービスと違い、プログラムを実行するためのサーバを用意する必要があるために一般的なプロダクト開発よりもセンシティブに扱わねばならないところがありました。また、ウェブサービスの作り方やセキュリティ設計など専門外の部分には非常に苦労しました。

当初のメンバーは休学中の学生3名+アルバイトという構成で、社会経験が豊富な者が誰もいなかったので、やはりエンジェル投資家などからアドバイスを受けながら解決していきました。

その後も若手と顧問を組み合わせてプロダクトを作るという方式を続けていまして、その中で若手は顧問の方からナレッジを吸収しながら大きい責任感のもと仕事ができる環境が整って来ました。

藤岡:石川さんをはじめ若手中心の組織ですが、プロダクト自体は良いのに、経験が短いことや年齢的な理由で不利になること等はありましたか?

石川:あると思います。BtoC中心でやっている限りは良かったのですが、今年の初めに「今後はBtoBで行く」と意思決定しました。僕たちのカウンターパートは研究開発部門のマネージャークラスが多いのですが、こちらがあまりにも若いと不安に思われてしまう部分はあると思います。

セキュリティ水準や会社の内部統制などはまだまだ改善の余地がありますし、信用の壁は厚いと感じています。

解決策としては、現在30~40代のプロフェッショナル人材の採用を進めています。また、先ほどの顧問の話ともリンクしますが、株主の方などに週2~3回ほどハーフコミットのようなかたちで入っていただいて内部統制を作ったり、BtoBのお客様への対応をお願いしたりしています。このあたりは、今後より強化したいところです。

成長の秘訣は、先輩起業家たちのアドバイスを「ちゃんとやる」

藤岡:お話をうかがっていると、仲間集めに苦労する経営者が多い中で、石川さんは非常に恵まれていると思います。経験値のある優秀な先輩起業家の方々が仲間になり支えになってくれる、これはなかなかできるものではありません。何か意識されていることはありますか?

石川:高校や大学の先輩が素晴らしかったという幸運があると思います。学校という繋がりで出会った方から応援していただけているのは嬉しいですし、ありがたいです。

そして、僕の中でいくつか決めていることがあるのですが、その中の1つが「言われたことはちゃんとやる」ということです。そんな起業家はあまりいないかも知れませんが、僕は社会での経験が少ないこともあって必ず実行することにしています。

そうやって先輩達の意見を吸収する中で、結果的にバランスよい意思決定が出来ているかも知れません。

今後の課題は、AIコンサルティングへの昇華とチームとしての「大人力」向上

藤岡:御社の今後の話に移らせていただきます。石川さんが描いているアイデミーの未来やビジョンがあると思いますが、それを実現するための中長期的な課題はどのあたりにあるとお感じになっていますか?

石川:課題としては主に2つ、1つはビジネスモデルで、もう1つはチームです。

藤岡:まずは、ビジネスモデルの課題からお聞かせ下さい。

石川:今後、アイデミーは単に教育研修サービスを提供する会社ではなく、AIのビジネスモデルを作り、AIの事業を成功させ、AIに強い組織を作るのに必要不可欠なソリューションを提供する会社に昇華させたいと考えています。

具体的には、企業の経営課題をAIによって解決するビジネスプロセスコンサルティングや、機械学習モデルのサーティフィケーション事業などにも取り組んでいます。

AIを初めて学ぶ人は、まず本を読むかウェブサービスを使うかだと思います。そこの入口の部分を押さえられているところはアイデミーの強みではありますが、実際に効果が出るところまでは伴走できず、付加価値が限定的になっている現状があります。

これを改善するため、SaaSのクラウドサービスを軸にしながら、研修でAIを学びながらチーム全体としてAIについて見晴らしが良くなり、かつ事業課題も解決できるような、収益性の高いビジネスモデルを作り上げるのが課題です。

藤岡:では、2つめの、チームの課題の方はいかがでしょうか。

石川:現在は社員の7割が20代というまだまだジュニア中心のチームです。一方で、クライアント企業は大手メーカーなどが多く、「大人力」が必要だと実感する場面があります。そのあたりのバランスを改善しないと、会社としても大きくなれないと感じています。

科学者マインドを持ち、失敗を恐れぬチャレンジ精神のある人材を求む

藤岡:具体的には、人物像やコアな価値観など、現在どういった人材を求めていますか?

石川:会社のカルチャーとして、「科学者マインドを持つ」というのがあります。AIやデータサイエンスを主に扱っていますから、営業気質の方よりは、ものごとを冷静に考え、嘘は付かず、盛って話さず、ファクトベースで考えるような方が望ましい。

そして、やはり失敗経験をされている方が良いです。今後はアイデミーを、クラウドサービスを提供しながらコンサルティングを売るというビジネスモデルをさらに進化させ、お客様の経営課題を解決するプロダクトにしていかないとなりません。僕は「失敗を何百回と繰り返した先にイノベーションがある」と考えているので、そういった失敗を恐れずにどんどんチャレンジできる方と一緒に働きたいですね。

藤岡:このタイミングでアイデミー社に参画する魅力はどんなところだと思われますか?

石川:現在、正社員は18名前後ですが、2019年末には30名体制にすることを目標にしています。また、IPO準備に取り掛かるタイミングでもありまして、3~5年後というスパンで会社を大きくしてIPOを経験できるというのが、今のこの会社のフェーズの大きな魅力ではないかと思っています。

ものづくり大国・日本の復活をサポートしたいという思い

石川:もう少し視野を広げますと、日本の上場企業約3700社のうち1500社はメーカーで、我が国はメーカーに支えられていることは事実ですが、今トップメーカーの競合はメーカーではなくソフトウェア企業になりつつあります。

藤岡:トヨタの競合がGoogleだとか、Amazonも家電を作り始めるとパナソニックやシャープはどう対抗するのか、といったことですね。

石川:はい。この潮流は今後10年、20年本格的なものになっていくはずで、僕はメーカーにアイデミーを通じてもっとソフトウェアに強い会社になって欲しいと考えています。

今の市場環境を見れば、日本がものづくり大国としてもう一度復活するためにはメーカーであってもソフトウェアに強いことはやはりマストです。僕はそこに尽力していきたい。そういった問題意識を持ち、共感をしてくれる方にぜひ参画してほしいです。

藤岡:それは深いお話ですね。単にこのプロダクトを普及させたいとか、AIの時代が来るからということではなく、それにより社会、さらには日本という国に競争力を持たせなければという問題意識を持っていてほしいということですね。本日は素敵なお話をありがとうございました。

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