CLOSE

勝手に新規事業が生まれる組織とは(全3記事)

特許まで取ったVR事業を畳んだ理由は「孤独感」 正常な判断ができなくなった新規事業担当者の心の内

2019年4月19日、ベルサール六本木にて「WHITE Innovation Design Summit Vol.2~イノベーションを生み出す組織作りと人材育成~」が開催されました。イノベーションの創出が重要なテーマとなるこの時代、企業はオープンイノベーションやアクセラレータープログラムなど、さまざまなチャレンジを行っています。その創出に求められるのは「手段」ではなく、「組織と人材」。このイベントでは、イノベーションを生む組織づくりと人材育成について、『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 』の著者である山口周氏、企業のイノベーション・新規事業を数多く支援している株式会社WHITEの神谷憲司氏が登壇。本記事では神谷氏の講演から、「孤独」が新規事業創出にもたらず悪影響について語ったパートをお送りします。

勝手に新規事業が生まれる組織とは?

神谷憲司氏(以下、神谷):こんにちは、株式会社WHITEの神谷と申します。今日は「勝手に新規事業が生まれる組織」という、なかなかに大それたタイトルでお話をさせていただくんですけれども(笑)。

正直結論が出てるわけではなくて。我々の組織において、ある種の仮説を持って今取り組んでいるというような状況です。そこで、現時点でわかってきたことなどをお伝えできればな、と考えております。

まず私の自己紹介をさせてください。株式会社WHITEの代表をしております、神谷と申します。WHITEという会社は、博報堂のグループ会社のイノベーションデザインカンパニーです。博報堂グループ内に株式会社WHITEを自主的に立案をして立ち上げ、事業を興してきたという経緯があります。

立ち上げたのは2015年の4月15日です。その当時は私を入れて社員数3人でした。そこから今は、43人の規模の会社になっております。

私の経歴ですが、まず国際基督教大学に行ってました。5年間ぐらい行って中退してます。大学時代はダンスに「プロになるぞ」ぐらいの勢いでハマっていました。今で言うストリート系とかではなくて、コンテンポラリーダンスです。

そこから、詳細は割愛しますが、いろいろと挫折に次ぐ挫折で。実家に戻って2年間引きこもりをしていました。まったく外に出なくて(笑)、時々釣りに行くぐらいの、まぁ……隠居みたいな感じです(笑)。

(会場笑)

そんな感じで引きこもりをしていました。そこから東京に戻ってきてIBMに入って、映像制作会社や広告代理店を経験し、その広告代理店の中でWHITEという会社を立ち上げています。

「孤独」が新規事業の創出を邪魔している

神谷:ここでちょっとグラフが出てくるんですけど。これは何かというと、私は「孤独グラフ」って呼んでいまして(笑)。

(会場笑)

この中退~引きこもりのところで、自分の孤独の限界点をぐっと超えるぐらいの経験をしていました。IBMへは大学の同期が僕の席を用意してくれて、その紹介で入るみたいなことになるんですけど。だんだんこうやって孤独じゃなくなってくる中で、WHITEを立ち上げたんです。

ここでまた環境が変わって、再び孤独状況に陥りました。それで、今はぜんぜん孤独じゃないぞ、っていう状態にあったりします。このような経緯で、今私がWHITEの代表をさせていただいております。

さっそく本題に入っていきたいと思うんですけれども、まず「なんで新規事業ってこんなにも生まれにくいのか」っていうところですね。いろいろ諸説あるんですが、持論として「孤独だから」ということがあります。担当する人が相当に孤独なんです。

孤独に陥る理由はいろいろあるんですけど、とりあえず新しいことを始めようと思って、「それなら一人でやってみろよ」って言われると、もう不安でしょうがない。僕みたいにグループ会社で事業立ち上げとなると、親会社やグループ会社企業の勝手な期待とかもあるわけです。「このへんはお前詳しいから絶対なんかやれんだろ」みたいな。

やってるほうは結構リスク大きいし、この先自分どうなるんだろうとか、全体におけるプレッシャーだったりとかがありました。事業内容をなかなか言語化できてない時期も長いことあったので、説明できなくて、結果として協力してもらえなかったり、仲間が見つからなかったり。支援ナシ、みたいなことが起こりました。

そうしたこともあり、WHITEの立ち上げ時期は孤独になりました。孤独だと実際に何が起こっていくのかというのを、エピソードを交えて説明したいなと思ってます。

特許まで取ったVR事業を畳んだ理由

神谷:2015年~2016年の発足当初の1年間、WHITEはVRゴーグルを商品として出していました。それが世界初のタッチ操作付きスマホVRゴーグルということで、段ボール型VRゴーグルの中にスマホを入れるタイプの簡易式のものなんですけど、これが画期的で。特許なんかも取って、明治大学と一緒に作った商品でした。

これがSouth by SouthwestのInteractive Innovation Awards、このVR部門でファイナリストをいただいていたり、Microsoft Innovation Awardで賞をいただいたり。あとTVも取り上げられて『トレたま』やNHKの番組にも取り上げられまして、当時は話題になっていたと思います

ただ、結果として2017年にVR事業自体は畳みました。これ、何が起こっていたかっていうと、当時は商品のブラッシュアップというか、事業としてこれをどう着実に成功させていくのかっていうことよりも、メディアに取り上げられることを優先してしまっている自分がいたんですね。

今振り返ると「認められたい」とか「評価されたい」とか、そういう気持ちが前に立ってきていたんです。毎月株主と話をしなきゃいけないので、株主に対して「ここでも取り上げられたんで期待できますよ」みたいなことを言いたいとか、あとは世の中とか家族だとか、自分の周辺に対してですね。

ちゃんと評価されていきたいっていう気持ちが、むくむくと大きくなり、前に出てくるっていうことが起こりました。いわゆる承認欲求ってやつです。孤独がゆえに外からの評価を得て自信を持ちたかったんだっていうのは、今になって振り返るとすごくよくわかるというか。結局、孤独であるがゆえに実際やらなきゃいけない商品のブラッシュアップみたいなことよりも、別のことを優先してしまっていたということがありました。

新規事業担当者が自分軸で正常な判断をできなくなるタイミング

神谷:他にもよくあるケースとして、すぐ結果が出そうな流行りのビジネスに飛びついちゃう、みたいなこともあったり。それも株主からの要請みたいなこともあったりして、そっちのほうが理解してもらいやすいですし。そういう判断軸で事業を進めていくんですけど、でもそこって既にレッドオーシャンであることがほとんどだったりします。

何が言いたいかというと、孤独だと新規事業担当者は、自分の軸で正常な判断をすることが極端に難しくなってくるんです。さっき孤独であると何が起こるか、っていろいろと言葉が出てきましたけど、基本的には不安だとか、すぐにでも認めてもらいたい、みたいな気持ちが出てきます。そことの戦いの中で、正常な判断が難しくなってくるのが新規事業担当者かなと思ってます。

一方でスタートアップを立ち上げているような、いわゆる起業家の方がいます。こう言っちゃなんですけど、変わり者というか(笑)。自分の芯をしっかりと持っていらっしゃるので、孤独であっても自分の軸で判断をする、といったことができる人たちかなと思います。それと新規事業担当者、僕みたいに大規模グループで新規事業を作って子会社を立ち上げてく、みたいな人間とは、ちょっと違うのかなと思っています。

自分の経験からすると、新規事業担当者って既存事業に追いやられることが当たり前としてあります。肩身が狭くて、すごく孤独です。そういうところが実体験としてあったりします。

で、ここでディスカッションタイムをちょっと入れたいと思います(笑)。

(会場笑)

隣の方と、仕事の中で感じた孤独のエピソードというのを、ちょっと話し合ってもらっていいですか? 

二人組を作っていただいて。だいたい2分・2分ぐらいでやりましょうか。みなさん二人組になりましたか? じゃあ今から開始です、お願いします。

(ワークショップ中)

はい、じゃあそろそろよろしいでしょうか。けっこう盛り上がってるみたいなんで、ちょっと発表をしてもらおうかなと思ってるんですけど。発表してみたい人いますか?

なかなか話しづらい「孤独」エピソード

神谷:じゃあどうしようかな、そのシマシマの服の方。

参加者1:僕も前職で新規事業担当者だったんですけども、まさに「毎日何遊んでんの」とか、すごい言われてですね。すっごい孤独だったんですよ。で、たくさんワークショップとかに行って。コミュニティって優しいじゃないですか。そこ行ってずっと癒されてた、みたいなのがあって。

(会場笑)

話を聞いて思い出しました(笑)。ありがとうございます。

(会場拍手)

神谷:ありがとうございます。もう一人ぐらい、どなたかいらっしゃいますか? なかなか孤独って話しづらいですよね(笑)。

(会場挙手)。

参加者2:僕はまだ新卒なので、ちょっとまだ仕事っていうところではないんですけど。家がスポーツ一家で、妹が二人いるんですけど、ものすごいゴルフが強くてですね。僕の立ち位置としては、妹「◯◯」っていうんですけど、「◯◯ちゃんのお兄ちゃん」っていう立ち位置で。

すごく立場がなかったっていうので、ずっと18年間孤独だったっていう話があります……。

(会場笑)

神谷:孤独、長いですね(笑)。

参加者3:はい(笑)。ありがとうございます。

神谷:ありがとうございました。

(会場拍手)

今いろいろ話していただいて、「仕事における」って書いてはいるんですけれども、仕事の中でいろんな孤独の種類だったりシチュエーションだったりがあるっていうことに気付かれたかなと思います。

で、今日もう1回ぐらいディスカッションタイムがあります。そのあとネットワーキングとかもあるので、ぜひ周りの人と仲良くなってください。

3年前には存在しなかった仕事が主力事業に変わる

神谷:話に戻りたいと思います。ここから「新規事業が生まれる組織とは」ということで、WHITEで何をやってきたのかということをお伝えしていきたいなと思ってます。自分の経験から、やっぱり「孤独をどう取り除くのか」っていうことが大きなテーマになるなと思っていて。

仮説として、「孤独なく、自分の軸をしっかりと持って、ブレない判断をし続けられる人が集まっている組織」であれば、いろんな試みやプロジェクト、事業が立ち上がるような状況になっていくんじゃないか。このような仮説を僕は持って、組織を作っています。その仮説を基にWHITEが実行してきたことを大きく3つ、お伝えしていければと思っています。

改めてざっくりWHITEの経歴みたいなところをお話するんですが、VR事業は畳んでしまったあとは、そもそも博報堂のグループだったりするので、基本的には全社員が広告の仕事をやっていて。広告の仕事プラスVRっていう新規事業をやってました。

でも、VR事業は畳んでしまって、広告もやめよう、っていう判断をしたんですね。で、2017年~2018年にかけて再び大規模な新規事業立ち上げを行ってきました。新しい事業としてイノベーションデザイン事業というのを立ち上げて、既存事業とバランスを取りながら、それを主力事業に転換していくっていうようなことをやってきました。

イノベーションデザイン事業をひと言でいうと、「日本企業のデジタルトランスフォーメーションを新規事業の実現によって支援していく」という、デザインメソッドを使ったコンサルティングの事業になっています。

スコープとしては、0→1の新規事業開発のところから、1→10のグロースのところまで。もともと広告なので、グロースのところは知見がある部隊が選択されるので、この範囲でやっています。

これが通常の広告の仕事で、「ID」は「イノベーションデザイン事業」ですね、それの粗利の構成比の変化ですね。16年はまったくなかったです、っていうところから、17年に25パーセントになって、18年で60パーセントになっています。19年度で70パーセントぐらいまで引き上げていくっていうかたちになるので、2018年からはもう広告事業が主力ではなく、イノベーションデザイン事業がWHITE社の主力になっています。

2016年まではまったくなかった、完全に新規事業ですね。そういったものを主力事業に切り替えてきた、という歴史がございます。2019年度からWHITE社の中経が新しくなっているんですが、そこもイノベーションデザイン事業を主力事業として書いていたりします。

じゃあどうやってこの新規事業を立ち上げて、主力事業に育ててきたかというと、VRの経験からまずやらなかったこととして、事業から考えること、Whatから考えることっていうのはしてこなかったです。

軸がない状態で事業を考えても続かなかったりだとか、組織レベルで考えると社員を巻き込めなかったりっていうのがあるので。「何やるの?」っていう議論の手前が重要かなと思っていました。

続きを読むには会員登録
(無料)が必要です。

会員登録していただくと、すべての記事が制限なく閲覧でき、
著者フォローや記事の保存機能など、便利な機能がご利用いただけます。

無料会員登録

会員の方はこちら

関連タグ:

この記事のスピーカー

同じログの記事

コミュニティ情報

Brand Topics

Brand Topics

  • ミレニアル世代75%時代に求められる社会課題解決力 変わる働き手の価値観とエコシステムの形

人気の記事

新着イベント

ログミーBusinessに
記事掲載しませんか?

イベント・インタビュー・対談 etc.

“編集しない編集”で、
スピーカーの「意図をそのまま」お届け!