動物の赤ちゃんたちの生態

ステファン・チン氏:動物の赤ちゃんはかわいいですよね。ところで、例えば生後1日のネコの赤ちゃんを、シカの赤ちゃんと比べてみると、いろいろな点ではっきりとした相違があります。ネコは目も開いていませんが、シカはもう歩けます。

自然界ではなぜ、ある種の動物は赤ちゃんがまったく無力で生まれてくるのに対し、別の動物の赤ちゃんは生後数時間で歩き、跳ね、走ることができるのでしょうか。

どちらの動物の繁殖戦略にも、それぞれに利点と欠点とがあります。例としてノウサギ(hare)とアナウサギ(rabbit)を見てみましょう。どちらもよく似た動物ですが、アナウサギの赤ちゃんは晩成性です。

晩成性とは、無力な形で生まれ、親の手厚い保護を要する性質を指します。アナウサギの赤ちゃんの目は開いておらず、丸裸で、体温調整すらできません。

その一方で、ノウサギは早成性です。早成性とは、ある程度成熟して生まれてくる性質を指します。ノウサギの赤ちゃんにはすでに毛が生え、目は開いています。

早成性と晩成性という言葉は、ネコやシカなどの哺乳類や鳥類に代表される、赤ちゃんの発達の状態の違いが明確にみられる動物に用いられます。双方とも、親による養育が必要です。

とくに晩成性の動物種は、親が極めて献身的に養育を行い、巣を設営したり赤ちゃんの世話をしたりと、早成性の親に比べ子のためにたいへん長い時間を投資します。生まれたての時期がひ弱な動物は、捕食者に遭遇した際にはとくに脆弱です。

しかし、赤ちゃんが生まれたり卵からかえる前に、母胎内で育んだり抱卵したりする時間は、短くて済みます。その結果、晩成性の動物はたくさんの子を頻繁に産むことがきます。

晩成性の動物は、必要とする「親の投資」(注:進化生物学において、一人の子の利益のために親が支払うあらゆる資源を指す)は膨大ですが、比較的に短命です。例えば晩成性の鳥は、生まれたばかりの時には手厚い保護が必要ですが、速やかに成熟し、早成性の鳥よりも早く巣立ちます。

早成性の動物の多くは、誕生前の発達に時間がかかり、生まれる数も1匹から数匹のみです。これは、たくさん生まれる晩成性の種の子どもが生き延びると仮定した場合に比べ、親の遺伝子を受け継ぐ子孫が少ないといえます。

早成性でも、巣立つことができるほど成長しても、親鳥からエサをもらい続ける鳥の種もいます。つまり早成性であっても、親に世話をしてもらい続ける必要があるのです。

早成性であるメリットもあります。早成性の動物の赤ちゃんは発達して誕生してくるので、トータルでの親の世話は少なく済みます。発達した赤ん坊を胎内で育むには、多大なエネルギーを要するため、親は子に投資を続けますが、赤ちゃんが(また)生まれても、すでに生まれた子は比較的に手がかかりません。

捕食者に遭遇した場合、早成性の赤ちゃんは晩成性の赤ちゃんに比べ、生き延びる確率は高くなります。早成性の動物の赤ちゃんの一例として、オグロヌーは生後わずか1日で、捕食者の追跡から逃げ切ることができます。

それぞれの戦略にはメリットがありますが、すべての鳥や哺乳類が早成性か晩成性かに分類できるわけではありません。

例えばヒトを見てみましょう。ヒトの在胎期間は長いですが、極めて脆弱な状態で生まれてきます。早成性か晩成性かの違いは、赤ちゃんが発達におけるどの段階で生まれてくるか、親がどの程度保護するかという範囲を指すにすぎません。

赤ちゃんが脆弱かどうか、親がどれほどの保護をするかの違いは、個々の種が置かれた環境や状況に対し、それぞれがどう順応したかにより変わります。個々の種の赤ちゃんが、どれほど発達して生まれてくるかについても同様で、アナウサギにとっては適切な順応でも、ノウサギにとってはそうではない場合もあり、逆もまたしかりなのです。