ベンチャー型事業承継で残る人、辞める人

山田岳人氏(以下、山田):三寺さんのところは、先代のお父さんのときにいたブレーンの人って、今でもいるんですか?

三寺歩氏(以下、三寺):いる人と辞めた人がいますね。ただ、そのいる人も、何年もかけると変わっていくというか。すごいですよ。ケンカというか、なんと言うか。

山田:今社員の人は何人くらいいますか?

三寺:50名くらいですね。

山田:じゃあ一気にブワーっと増えている感じですね。

三寺:3人から始まりましたからね。

山田:3人!

三寺:3人で、錆びて閉まらないトイレのドアを直すところから始まりました。

山田:代表になって何年ですか?

三寺:5年です。

山田:5年でそれだけ人数が増えているんですね。

三寺:もっと増えている気はしたんですけどね。

山田:いつの間にかいなくなっている人もいる感じ?

三寺:辞めていく人はけっこういますね。ベンチャー型事業承継で前の商売から変わっているんですけど、その中でもさらにまた変わっているので。

山田:それはうちも同じですね。どんどんスピードを上げてビジネスがドライブしていくと、そのスピード感についてこれなくなってしまう人がどうしても出てきてしまうんですよね。どうですか?

朝霧重治氏(以下、朝霧):それはありますよね。

起業への関心から、義父の誘いに心惹かれる

山田:では次の質問です。そもそも家業に戻った理由は?(三寺氏には)さっきお聞きしたので、朝霧さんはなぜ? 僕と同じですか?

朝霧:ちょっと特殊な感じなんですけど、僕の場合は結婚する前に親父さんから誘われまして。

もともと妻とは高校のころからのお付き合いで、とても長い縁なんです。三菱重工とかのメーカーは夏休みが長いじゃないですか。社会に出てしばらくたったころに、実家の埼玉県川越市へ帰ってきたとき、「お父さんが『お寿司でも食べよう』と言っているけど、行く?」という話があって。でも行ったら彼女がいなくて。

(会場笑)

山田:それはまだ付き合っている、彼氏彼女の関係のときに?

朝霧:そうです。もちろん婚約やプロポーズもしていません。そこでいろいろと仕事の話を聞かされて、「これ絶対おもしろいからさ、やろうよ」みたいな話で(笑)。

僕もやっぱり、事業家というか起業するのはすごく関心が高くて。いつかそういう職業もやりたいなと思っていたんですね。長く重工に勤めるつもりがなかったのも、失礼な話なんですけど事実でして。

高校のころから付き合っていたから、よく「人が足りないからバイトに来い」と彼女づてに話がくるんですよ。「物流センターを立ち上げたけど、パートがぜんぜん集まらないから学校で学生を集めてこい」「その代わりお前はバイト代をちょっと上げるから」とかですね(笑)。まさかその会社に勤めることになるとは。

山田:でもたぶん、奥さんとお父さんは組んでいますね!

(会場笑)

朝霧:彼女はシンプルな人なので、そんな……。きっと作為はなかったと思いますけど(笑)。

仕事をがんばりそうな人を見つけて、事業を継がせるというテクニック

朝霧:会社自体がアグリベンチャーで……今でこそアグリベンチャーという言葉がありますけど、20年以上前は農業を会社で取り組むというのはほとんどなかった時代だし、聞いた話はすごくおもしろかったんですよね。「じゃあ手伝って参画しようかな」と。

山田:なるほど。今日は女性の跡取りの方もけっこういらっしゃっているので、僕や朝霧さんのパターンもありですよね。仕事をがんばりそうなやつを見つけて、そいつに継がせるみたいな。うちの奥さんは言っていましたよ。「なんで俺と結婚したのか」と聞いたら「仕事をすごくがんばるから」と。「それだけ」と言っていました。

(会場笑)

そういえば、今日は僕、結婚記念日なんですよ。

(会場拍手)

事務局に「このイベントをやるのに4月20日は避けてくれ」「その日は結婚記念日だから」と言っていたんですけど、「20日にやることになったから来てくれ」と言われて。僕、今日終わったらすぐに花束を買って帰らないといけないんです。大阪までね。なのでこのあとすぐに失礼します。

若いうちに事業継承することのメリット

山田:それでは最後になりますけれども、跡継ぎの人へのメッセージを。それぞれいろいろ経験されてきたことがあると思うんですけど、今ここにいる、今継いでいる人とかに向けて。アンダー34のイベントなので、上でも30代前半ですよね。今の会社に入ったときは何歳でした?

三寺:僕は34歳ですね。

山田:朝霧さんは何歳のときでした?

朝霧:僕はけっこう早くて、27歳くらいですね。

山田:僕も28歳で今の会社に入ったんです。けっこう早いタイミングで入ると、そのあと変えるきっかけが作れたりします。50歳とかで戻ると、けっこうきついんじゃないかなと思うんですよね。なので僕たちの社団はアンダー34というところで1つ線を引いているんですよ。

みなさんも、今ちょうど戻りたてとか、まだ若くてこれから継ぐという方がほとんどだと思うんですけど、会場のみなさんに向けてメッセージというか。じゃあ三寺さんからいきますか。

三寺:ベンチャー型事業承継という取り組みで、山野さんという方がいまして。(会場を指して)あそこでめっちゃ怖い顔をして見ています。

(会場笑)

さっき会ったときに「オンラインサロンへ引き込め」「引き込んでくれ!」とすごく言われたので、みなさんぜひ入っていただきたいです。

僕は山野さんが手弁当でずっとやっているというのを聞いて、ボランティアで手伝っています。自分もベンチャーなので、会社が大変なんですね。だから「あんまり行くな」と、今日もCFOの人が睨みを効かせているんですけど。

(会場笑)

いろんな事業承継があって、いろんなやり方があって、答えはないと思うんです。別に仕事に答えはないじゃないですか。どんな仕事してもどんなやり方でも、法律を守っていれば別にいいので。

母親が父親側に付くという、生まれて初めてのショックを経験

三寺:ただ、なにかを自分で変えて新しいことをしようと思った瞬間にものすごいエネルギーがいるし、ものすごくひとりぼっちなんですよね。私が経験したのは、母親は父親のほうに付くということです。自分に付いてくれないんですよ。これ、生まれて初めてのショックが来ますよ。

山田:(笑)。

三寺:母親は父親が汗水垂らしてすごくがんばっているのをずっと見ているので、やっぱり助けてあげたいと思って支えているんですよ。だから父親と違うことをするときに、「お前、本当にそれができるのか?」「大丈夫か?」とすごく言われるんです。そのときはひとりぼっちなんですよね。

先ほど共有という話がありましたよね。お互いに経営者なので、もしそういうときに「こうやったらいいよ」なんて言える立場じゃないんですけど、ちょっと話を聞いてもらうだけで楽になると思うんですよね。だったらそういう関係になれたらいいなと思って。

僕も「こんなことしてるんですよ」とみなさんに伝えて、仲良しクラブではなく、いい意味でお互いにがんばっている中で情報共有ができるような、ゆるやかな感じでやりたいと思います。

僕も毎日仕事一生懸命やっているんですけど、その中でなにか力になれることがあったらしたいと思いますし。みなさんそれぞれ「僕なんて……」と言われるんですけど、お互いそうなんですよね。お互いそう思いながらやっているんです。大都さんもすごくやってらっしゃるけど、あんまり言わないですもんね。

山田:そうね(笑)。

三寺:でも、おっちゃんになってきたら説教したくなりませんか?「そんなやり方やったら社長ちゃうぞ!」とかないですか?

山田:あ~、なんかあるよね。そういうのね。

三寺:そういうのじゃない、ひとりぼっちになったときの駆け込み寺を山野さんが一生懸命やっているのを見てきたので。

山田:だから僕たちも一緒なんですよ。みんな同じで。さっき言ったけど、立場はみんな一緒なので、年齢とかは関係ないんです。餃子屋に行って営業の話や苦労話をしたり。そういうのもあるし、みんな一緒ですよ。

三寺:一言というよりかは自分が経験したことはご紹介できるので、ぜひみなさん一緒に。いろんな答えがあると思うんですけど、がんばっていけたらいいですねと思います。

山田:山野さんの指令をすごく忠実に守ってるね。今(笑)。

(会場笑)

三寺:このあと申し込み用紙が配られると思うので……。冗談です(笑)。

受け取ったバトンを、きちんと次の世代へ引き継いでいく

山田:ありがとうございます。じゃあ朝霧さん。

朝霧:なんというか、楽しくやりたいですよね。我々の仕事はやらされていることではないじゃないですか。結局は自分でやるんですから、やっぱりみんなで楽しくしたい。

今日はこちら側から話していますけど、またみなさんのお話も聞かせていただきたいし。ナレッジシェアリングがすごくいいなというのは、僕らが今やっているクラフトビール界とかもそういうフラットな関係がとても楽しいんですよ。

ときには気張らなきゃいけないときもあるけど、まあ楽しくね。自分が「やりたい」と言ったことは苦痛にならないので、そういうことが見つかると幸せですよね。今はとてもありがたいなと思ってやっています。

山田:ありがとうございます。今お二人から聞いて思いましたけど、やっぱりベンチャー型事業承継は(お二人が)言っているように、家業を使って自分たちの好きなことをやることと、やっぱり楽しくやろうよということは、働くうえで僕もすごく大切にしています。

1度きりの人生ですし、仕事は毎日するんですから楽しくやったほうがいいじゃないと。「家業をやりたくない」「俺はこんなことやりたくなかった」と思いながら腐ってやるよりも、経っていく1年は同じ時間だし、腐っている社長の下の社員が楽しいはずがないじゃないですか。

やっぱりトップは常にビジネスに対してポジティブであらなきゃいけないと思っているし、「これが世の中を変えるんだ」と問うていくというか、青臭いことほど経営者は言わなきゃいけないというか。そういう場面があるじゃないですか。

僕たちはみんな経営者としてやっているわけですから、僕たちは跡取りですけど、次はバトンを渡す側になるわけじゃないですか。それが次の世代にとって本当に価値があるものにしていくのも僕たちの役割だろうし、そういうところを考えながらみなさんとこれから一緒にいろんなことができたらなと思っています。

では時間になりましたので終わりたいと思います。お二人に拍手をお願いします。

三寺・朝霧:ありがとうございました。

(会場拍手)