知財対策に未着手の場合に起きうること

千葉功太郎氏(以下、千葉):おもしろすぎて時間がどんどん過ぎてしまうので、次の話題にいきます。「知財、なにも手をつけていません。なにが起こるか?」というテーマを作りました。まずは今の話の前半を受けて、なにをどうしたらいいんでしょうか?

中畑稔氏(以下、中畑):今の溝口さんの会社や田路さんの会社は知財でうまくいっているんですが、実はその陰には、いろんな問題を抱える会社もあります。

僕のメッセンジャー上にはいつも「こんなふうになってしまったけれど、どうすればいいんですか?」「(アイデアを)取られてしまった」「(出願前に人に)言ってしまった」という相談がすごく多いんです。

その原因は1つなんですよ。例えば「出しました」という時に、「いや、特許は出してしまうと新規性がなくなってしまうので……」と。

千葉:「出してしまう」というのは、プロダクトやアプリをリリースしちゃいましたとか?

中畑:はい。「出願の前に公知にしてしまいました」と。

千葉:「公知」。みなさん、出てきました。

中畑:「公(おおやけ)」に、告知の「知」ですね。「公知にしてしまいました」となると、それの対策をご説明する前に、「今、御社の全知的財産の責任を取る人は誰ですか?」と聞くんです。

千葉:社長じゃないんですか?

中畑:そうなんです。知的財産は、社長の頭の中の「いつかやらなくちゃいけないリスト」に残ったままなんですよ。それをいつやるかというと、こういうお手紙をもらった時。問題が起きた時です。でも、その時点ではもう遅いんですよ。

千葉:僕も経験があるんですけど、スタートアップはものすごく忙しいので、できたてで3人〜5人の時は作ることで精一杯だし、プロダクト・プレス・リリースも、出すことで精一杯じゃないですか。その状況で、どうやって挟めばいいんでしょうか?

中畑:できないのであれば切り出すか、自分の社内でそういう人をアサインする・担当者を作る。責任を取る者を作ることで成功しているのが、僕はこの2社(エアロネクストとFiNC Technologies)かなと思いました。

知財の担当者アサインの重要性

千葉:例えば総員5人のスタートアップだった場合、どうすればいいんですか?

中畑:そのうちの1人を、必ず知財の担当者にする。外から招くのは、けっこうお金がかかるじゃないですか。なので、もう担当者をアサインするところが、まずは大事かなと思います。

千葉:それは、知財の知識がないとダメなんですか? いわゆる弁理士とかの専門の肩書きとか。そんな人は、なかなか採用できないじゃないですか。具体的には、どれくらいの能力を持っている人にお願いすればいいのでしょうか?

中畑:知的財産は会社のアセットですよね。これは例えばなんですけど、CFOのような、会社の財務状況や財産に関するマネジメントをされている方は、当然すべきだと思うんです。僕は「なんでされていないんだろう?」と思っています。

他にも強いて言えば、FiNC Technologiesの代表が交代したことがありましたけど、CTOだって、技術サイドからのCIPO業務ができるわけです。さらに溝口さんのようなCEO、ビジネス担当の方が知財をどうするかを考える。

つまり、CEO・CTO・CFO。さらに言うと、最近よく耳にするCCO、クリエイティブ。CMO、マーケティング・ブランディングとかですね。そういう方からも、類似の分野でどんどん移管できるんじゃないかなと僕は思っています。可能性を感じます。

千葉:なるほど。エアロネクストはCIPOを最初から置いているという話でしたが、その理由はなんでしょうか?

田路圭輔氏(以下、田路):エアロネクストの戦略は、知財戦略がコアなんですよ。ということは、やっぱりすべての意思決定の中心に「知財をどう扱うか」があるんです。先ほど中畑さんも言っていたんですけど、知財はタイミングがすごく大事です。なので、四六時中CEOがそれだけを考えるのはやっぱり難しい。

僕は、CXOの役割は、CEOという機能のダウンサイジングだと思っているんです。だから、非常に重要な機能があればCFOやCTOを切り出したりするんですけど、それは会社のメッセージだと思っているんです。どういうCXOを置くかは、その会社がどういう戦略を持ってやっているかを如実に表すメッセージなんですよ。

だから、CIPOを置いてるのは「エアロネクストは知財で勝負していくんだ」ということを対外的に見せるための、すごくシンプルな理由なんです。そういう意味で、CIPOをすごく重視しています。

無形資産としての知財の価値

千葉:それは、例えば増資などの効果はあるんですか?

田路:相当あると思っています。実際、僕は経営資源という考え方の中で、当然「ヒト・カネ・モノ」を、株主・投資家に対してアピールします。そこで、知財・ノウハウ・企業文化などの無形財産が非常に大事だとアピールするんです。その中で一番典型的なものが知財です。

だから僕は、「どんな人材がいますか?」「どんなプロダクトですか?」と聞かれる時には、無形資産としての知財の価値をアピールするというやり方をしています。

千葉:なるほど。溝口さんは、この間のプレスリリースで……累計100億以上でしたっけ? 資金調達していますよね。例えば今月末で(特許取得が)51件の見込み。これは「効果がありました」と言えると思うんですけど、具体的に特許・知財の塊と、のべ100億円の資金調達の関係はどうでしょうか?

溝口勇児氏(以下、溝口):今の日本のマーケットの構造的には、基本的に大企業はリターン目的というよりは、もう業務提携を前提でベンチャーに投資をされているかなぁと思います。

例えば、日本のマーケットでベンチャー企業に流れるお金は、だいたい3,000億円前後と言われています。それが中国だと3兆円で、アメリカが9兆円。なので、そもそも圧倒的に資金量が少ない。

その中で3桁億円ぐらいのファイナンスをしようと思った時には、どうしても大企業に頼らざるを得なくなってくるといった現実があります。そして大企業にご出資いただく際には、「自社で事業開発する自社主義から諦める」ことが必要になってくるわけですね。

私たち(スタートアップ)は、初期は構想とかがある一方で、形はなかったりするんです。どのタイミングから、どうやったら大企業に競合ではなくパートナーと思ってもらえるか。その1つは、技術的特権だと思うんですね。

私たちはその技術的特権を非常に強く持っていたということが、これまでの資金調達にもつながったなと思っています。ファクトとしても、たぶん私は、未上場企業で一番投資家とコミュニケーションをしているCEOだと思います。

具体的には、エンジェル投資家が約70人いて、一部上場企業等の事業会社が25社います。こうした方たちと話をしてきて、その中で「知財が武器になったか」と言われたら、「確実になった」と言えます。

昨年・今年・来年もそうですが、私たちはこれからも踏んでいきます。毎年1年から1年半分ぐらいの資金を集めて、それを投下していくという、まさに「ザ・ベンチャー」みたいな戦い方をしていく。その中で、資金が尽きたらやっぱり死にます。

私たちの場合ですと、その中で取れるリスクのサイズを大きくできたのは、やっぱり知財があったから。私もCEOとして、負えるリスクと負えないリスクを考えないといけません。

年間で何十億円も投資ができるのも、次の資金の調達に一定のアテがあるからです。そのアテを作ってくれるものの1つが、知財なんですよね。

ですから、私たちもこれから知財に関して、まさにエアロネクスト同様、さらに力を入れて一生懸命やっていきたいなと思っております。

価値のあるものから優先的に特許取得

千葉:どれくらい増やしていくんですか?

溝口:一昨日も中畑さんとミーティングをさせていただいたのですが、国内ではかなり出願してきた中、国際特許に関しては取っている一方で、権利は持っているのですが投資のタイミングを少しずらしたんですよね。

来年は海外でも、ハードウェアとソフトウェアを中心に展開していこうかと思っています。(方針が)かなりグローバルでも、日本の中ではもう、必要な特許は取ってきているんですよ。

先ほど「使えないゴミ特許」という表現をされていましたけども、それは持っていても意味がないので、私たちの特許の基本方針として、かなり価値のあるものだけしか取っていないです。

千葉:先ほど自分で言ったのですが、「何件持っていますか?」と聞いてしまったのがすごく違和感があって。件数には、なんの意味もないと思うんですよね。

ゲームだと、スーパーレアリティなカードが1枚あれば、他の10枚は全部戦って消せるので、そういうスーパーレアなものが1枚や2枚、あるいは3枚あればいいわけじゃないですか。その観点はどうなんでしょう?

溝口:私たちは、スーパーレアだらけですよ。これはポジショントークじゃなくて……。

千葉:これはポジショントークですよね?(笑)。

(会場笑)

溝口:ポジショントークじゃなくて(笑)、かなりスーパー特許だらけだと思います。

「スーパー特許」のシステム

千葉:「スーパー特許」というのは、どんなものでしょうか?

溝口:スーパー特許は……なんでしょうか(笑)。

千葉:先ほどの1件目みたいなものですか?

溝口:そうですね。

中畑:その事業をやろうとすると、絶対に踏んでしまう技術があるじゃないですか。とくにまだその市場自体がない時は、「それをやろうとすると、絶対にこの技術・仕組みが必要になる」というものがある。それを、みんなが通るところに1個置いておくだけ。

さらにそれも回避されそうな、回り道しそうなものがあったら、そこにも置く。そうなると、他の人はそこを通らないといけないので、それで完全に客観的な競争優位性を構築することができる。

千葉:なんだか夢のような話ですね。ぜひ宗像長官にお話を聞きたいのですが、我々スタートアップがそういうスーパー特許を取ると言っても、まずなにをどうしたらいいかがわからない。

そこで最寄りの弁理士さんを探して、お話を聞いて……となります。特許庁として、わざわざ(スタートアップ支援チームの)Tシャツまで着て出ていただいているからには、どういうサポート・切り口で、我々日本のスタートアップがスーパーレア特許を生み出していけばいいのか。そのサポートなどについて、教えていただきたいです。

宗像:はい。知財は会社の企業戦略に応じて、どういう取り方をするかがまったく変わってくるので、知財と経営を一体的に考えていただきたいなと思っています。そのために、今年から知財のメンタリングを始めました。知財の専門家と、経営のアドバイスをする人たちをチームにして、チームで派遣をします。

知財だけではなくて、ビジネスの専門家も一緒にチームになって行っていただきます。そして、経営者とひざを詰めていろいろとご相談をしていただきます。

千葉:これはどういう仕組みなんですか?

宗像直子氏(以下、宗像):特許庁が公募をしまして、専門の委員の方に面接審査などをやっていただいて、知財のサポートをする意味が大きいと思える会社さんを選ばせていただきます。そして、そこに専門家のチームを派遣をするんです。

千葉:へぇ〜。

宗像:頻度が高いところは、ひと月に2〜3度も行って、かなり詰めた話をしていただいています。その中でスタートアップが持っている特許の評価を知財の専門家にしていただくと、「実は穴があった」「追加の出願が必要」といったケースがありました。

あるいは契約を見ていただくと、「大企業や大学との関係でむしろ自社に不利だから、見直してもらわなきゃ」というようなことが、実例として上がってきております。