D2Cという言葉にタグラインを付けるとしたら

司会者:ありがとうございます。すごく良い流れになったところで、次のテーマに参ります。ここで改めてD2Cを再定義するということで……。

三浦崇宏氏(以下、三浦):15分前に定義したばかりだよ!

(会場笑)

司会者:そうですね……では、今までの話を踏まえて、D2Cをほかの言葉を使って説明するとしたらどうなるか? また、D2Cという言葉にタグラインを付けるとしたらどうなるかについておうかがいしたいです。

三浦:タグラインは広告の用語で、「ブランドの価値を示す1行の言葉」みたいなことなんですよね。最近でいうとなんだろうな……。

山崎智士氏(以下、山崎):トヨタの「FUN TO DRIVE, AGAIN.」みたいな。

三浦:そうそう。

山崎:「POWERED by HONDA」とかもですね。

菅本裕子氏(以下、ゆうこす):ゆうこすで言う「モテるために生きてる」ですかね。

三浦:それそれ。「モテクリエイター」もそうですよね。

ゆうこす:あぁ、私はタグラインを付けていたんだ!(笑)。

三浦:ゆうこすさんは生き様がもう言葉になっていますからね。では僕の立場から先に話します。すごく簡単に言うと、博報堂という広告会社では、DNAの1つとして「生活者発想」と言うんですよね。メディアやクライアントよりも、エンドユーザーのことを考えてマーケティングを考える。これを「生活者発想」と言って、ほかの代理店よりリアルにお客様のことを考えたクリエイティブやマーケティングをすることを大事にしてるんです。

そういう意味で言うと、D2Cは「リアル・生活者発想のマーケティング」だなと思いますね。

ちょっと面倒くさいけど、とてもあたたかみのあるマーケティング

三浦:ユーザーを巻き込んでいて、生活者を顧客だと思っていないじゃないですか。ゆうこすさんだって、コスメのことについてコメントしてくれる人たちを「はい、顧客1人ゲット」「顧客リストに加えなきゃ」なんて思わないじゃないですか。

ゆうこす:まぁ、はい(笑)。

三浦:「自分と一緒にやってくれるファンや仲間」だと思っている。だから「消費者」「ターゲット」という言葉を使わないで、「仲間」を巻き込んでいくという意味で、生活している一人ひとりのことを考えながらやるマーケティングですよね。

僕は、D2Cというのは「SNSとデジタルが可能にした、リアル・生活者発想マーケティング」なのかなと思いました。

ゆうこす:共創ですよね。

三浦:あぁ、そうですね。共に創造する。コンペじゃなくて、コ・クリエーションとしてね。

ゆうこす:うん。そんな感じで、あたたかくて。カッコいいタグライン、ムズいなぁ。

三浦:でも今の「あたたかいマーケティング」というのは、すごく良いと思いましたけどね。「流行っているマーケティング手法」ではなくて、「ちょっと面倒くさいんだけど、とてもあたたかみのあるマーケティング」と言うと、やってる人としてはリアルな感じがします。

ゆうこす:たしかに。

共感される欲望から始めないと、ブランドは生まれない

山崎:僕自身もD2Cのブランドのモノづくりをご支援させてもらいながら、今のお二人のお話は「本当にそうだな」と、腹落ちをしているんですけれども。今の頭の中に思い浮かんでいるキーワードは、「ファンコミュニティ」です。

三浦:ファンコミュニティ、はい。

山崎:従来のファンクラブとは、主催者とコミュニティとの距離感が違っていたり、コミュニケーションの関係性が違うんだなと思いました。お二人のお話をうかがっていて、ゆうこすさんも言っていたように、「共同して一緒にやっている」という共創の概念が組み入れられた「ファンコミュニティ」というのを、D2Cの定義の一つとして挙げたいと思います。

ゆうこす:あ、でも私が「モテ」を掲げて人が集まってきたのは、きっとワードがニッチだったからだと思うんですよ。

三浦:「モテ」はニッチ?

ゆうこす:わりとニッチです。今でもそうですが、当時は女性が「私はモテたい」と言うと「あいつはぶりっ子」というようにディスられていたんですけれども。

三浦:あぁ……。

ゆうこす:ぶりっ子をできなかった子が、共感への熱量を高くして集まってきてくれたわけです。だから今「お客さんの意見を取り入れて」というところも、言われなかったら何も集まらなかったり。言われなかったらD2Cも始まらないわけで。

三浦:うん、うん。

ゆうこす:最初に共感してくれたり、すごく悩んでいたり、ここでしかできないような、そういう熱量のある共感性の高いものではないと、なかなか難しいのかなとは思います。

三浦:うんうん。だから最初に強い自分の欲望というか、共感される欲望から始まらないと、ブランドは生まれないのかもしれないですね。

ゆうこす:別に意見は言わないですよね。「あ、がんばってください」みたいな(笑)。

三浦:(笑)。「いいんじゃないですか」みたいに終わっちゃってもダメで。やっぱり熱量のある絆が生まれないと、D2Cのブランドは伸びていかない。それは、ある一人の起業家なのかブランドのオーナーなのかインフルエンサーの、「これが欲しい!」「こういう世界にしたい!」という強い世界観があってできていくブランドなのかもしれないですね。

モテの遺伝子をどう繋いでいくか

司会者:きれいにまとめていただいて、ありがとうございます。では最後に、今後もお三方はD2Cの商品の企画や製造に関わっていく中で、どういうモノづくりをしていきたいか。その意気込みをお願いします。

三浦:ゆうこすさんは「モテ」ですか?

ゆうこす:そうですね。「モテ」はつまり、相手の気持ちをすごく想像して、意見も取り入れること。だから、わからないですけれども「モテ=D2C」みたいな(笑)。さっきから何度も同じようなことを言っているかもしれませんが、そういうところは続けていきたいです。

今のところ私を支持してくれる人が多くいると思うんですけれども、「私が抜けても続くブランドにするには、どうしていかないといけないのか?」ということが課題になってくるので、そこを考えつつですね。

三浦:もしかしたら、それの答えが店舗かもしれないよね。

ゆうこす:確かに。

三浦:ゆうこすがいなくても、ゆうこすの人間性や世界観を体験できる場所があるということ、つまりある意味でゆうこすの分身みたいなものが、店なのかもしれないなと思いましたけどね。

ゆうこす:たしかに。この場所ですごく勉強させてもらいました(笑)。ありがとうございます。

マーケティングは「1対1を何回繰り返せるか?」へ

三浦:いやいや、とんでもないです(笑)。山崎さんはどうですか?

山崎:そうですね。僕の個人的な情熱という話はさっきも触れたので、少し違う視点でお話をします。D2Cをマーケットとして捉えているんですけれども、D2Cが進んでいくと、コミュニケーションは1対1になっていきます。

そのマーケットを支えてくれているユーザーの一人ひとりを理解して、一人ひとりに合った、情報も商品もシナリオをしっかりと立てていく。これが、これからのD2Cのモノづくりには必要です。

シナリオを立てていくという点においては、ブランディングなど三浦さんの領域ではなくて、我々のような実際に「モノをつくる」ところで言うと、「UI/UXビジョン」という……。

三浦:UI/UXビジョン?

山崎:はい。最初に商品に触れたときの、商品から受ける感情と、続けていったときに感じる肌の変化から想起される商品の価値と。「この商品をずっと使い続けていくと、どうなるのか?」と指し示されているビジョンがしっかりと一貫していることが、そのシナリオの背骨だなと。

三浦:はい、はい。

山崎:フィードバックをもらいながら、この一貫性をしっかり整えていくことが、D2Cというこれからのモノづくりのスタイルかなと思います。

三浦:あと、「1対nの“n”をどれだけ増やすか?」ということが今までのマーケティングだったと思うんですけれども、「1対1を何回繰り返せるか?」という、そこのnを増やしてくことにフォーカスされてるような感じもしますよね。

山崎:そうですね。

人はPDCAの繰り返しでしか成長できない

三浦:僕的に言うと、自分でブランドをやっていないのでアレなんですが、ちょっと体の大きな人のためのアパレルをやりたいな、と思ったりするんですけれども(笑)。

ゆうこす:(笑)。

三浦:僕は、昔から若手クリエイターの教育をけっこうやっていて。人間はすごくシンプルで、PDCAの繰り返しでしか成長しないんです。成長の量は「『挫折して起き上がる』を一定期間内に何回繰り返されるか?」だけなんですよ。

それで考えると、ブランドの成長もたぶんそうで。「出した」「あまりうまくいかなかった」「一年後にブランドを再発表」ではなくて、何回も何回もお客さんの声を取り入れて売上を見て、お客さんの気持ちと行ったり来たりしながらプロダクトを作っていくと、たぶん今までよりも良いモノがどんどんできる世の中になっていくと思います。

「挫折と失敗と成功」「挫折と復活と成功」を繰り返すブランドを、一緒にお手伝いしていけるような仕事ができるといいかなと思っています。

司会者:ありがとうございます。このあと10社のD2Cブランドの代表者さまにも登壇していただくので、今お三方ががおっしゃったようなモノづくりの思想がどうプロダクトに反映されているか、ぜひ体感していただければと思います。

ということで、あっという間にお時間となってしまいましたが、トークセッションは以上となります。改めて、登壇された3名のみなさまに拍手をお願いいたします。ありがとうございました。

(会場拍手)