MyData Japanの設立について

庄司昌彦氏:MyData Japanの設立についてお話をしたいと思います。一般社団法人オープン・ナレッジ・ファウンデーション・ジャパンの代表理事の庄司昌彦です。

主催はMyData Japan、それからオープン・ナレッジ・ファウンデーション・ジャパン、国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)です。後援にMyData Global、情報法制研究所とありますが、私はすべてに所属しております。

簡単に自己紹介をさせていただきます。研究者です。国際大学グローバルコミュニケーションセンターと武蔵大学に所属しております。情報社会論・情報通信政策、それから電子政府などの研究をしています。

スライドに「情報社会研究と実践活動」と書いてありますように、実践活動にも長らく携わってきました。1つは、「MIAU(インターネットユーザー協会)」という団体をやっています。ユーザーの立場でインターネット政策のあり方を提言していこうと活動しています。

そして、オープン・ナレッジ・ファウンデーション・ジャパンという団体は、みんながデータを作って活用していく、そんな情報社会を作っていくことについて取り組んでいます。

その他、政府の仕事などもやっております。オープンデータ・官民データの活用、行政機関個人情報保護法の改正の研究会、統計法の改正の研究会にも参加してきました。そういう立場で、MyDataというテーマに取り組むようになって、何年か経ちました。

フィンランドの「MyData」での衝撃

MyDataとは何かについて、私の立場からはこう見えるというお話をしたいと思います。

2016年、フィンランドで開催された「MyData」というカンファレンスへ行ったことがきっかけです。このカンファレンスは、オープンデータの推進をする団体「Open Knowledge」の主催でした。この団体のファウンダーであるルーファス・ポロックが、基調講演で「なぜMyDataに取り組むのか」を語りました。

これまで、オープンデータという運動は「公共財としてのみんなのデータをみんなにとってオープンに」、つまりみんなが使えるようにしていこうというものでした。

そして、ポロックは「これはコインの裏表だ。(オープンデータの)反対の面にMyDataがある」という説明をしました。MyDataは、みんなのものではなく私のものです。つまり今度は「私のものは、私にとってオープンであるべきだ」ということです。

ここで、スライドの「オープン」に線を引いていますが、このオープンという言葉は、単に見せる・提供するという意味だけではありません。自由に使用する・編集する・共有するという意味が込められています。

したがって、「みんなのデータは、みんながいかようにも使える」と同様に「私のデータは、私がいかようにも使える」という考え方です。

ところで、そのパーソナルデータの活用・オープンデータの活用には、ここ何年か非常に期待が高まっているわけです。原油と同じ社会資源であるという言い方は、世界経済フォーラムのものですね。

それから、公共系のオープンデータについても、「これは経済的可能性の金脈なんだ」という期待のされ方をしています。日本においても、行政機関が持っているデータを、みんなが使えるようにして活用するときには、公共の利益、経済を活性化することなどが非常に注目されるわけです。

ただ、それはみんなの利益ですからいいんですけれども、パーソナルデータについては「社会の資源だ」「みんなで使おう」という前に、あるいはそれと同時に、「私にとっての資源でもあるべきだろう」と思うわけです。

これは別に矛盾する話ではなく、社会にとって役に立つ道と、私にとって役に立つ道と、両方をきちんと見ていく必要があるということです。

データはオープンであるほど、掛け合わせと利活用がしやすい

なぜオープンである必要があるのか。「誰もが、いかなる目的でも、自由に使用・編集・共有できるデータ」というのがオープンデータです。

データは、いろいろな利用条件がついていない「オープン」であるほど、掛け合わせと利活用がしやすいですね。活用しやすいということは、いろいろな価値を引き出すことができる、価値を高めることができる。クローズドなデータは、誰も使ってはいけない、誰も使用・編集・共有してはいけないデータです。しかし実際のデータは、資格や目的、費用、入手方法など、いろいろな制限がかかっているわけです。

データを活用する場合には、あるデータと別のデータを掛け合わせて、その組み合わせでなにか新しい価値を生み出そうとするわけですが、そこにそれぞれいろいろな条件がついてしまっていると、掛け合わせがしにくかったり、余計にコストがかかったりしてしまって、結局使えないです。使えないから、データの価値も引き出せないです。

ですから、なるべく使いやすいデータを作っていくことが必要です。このスライドの図は、みんなが使えるデータについて言っていることですけど、このオープンという考え方は「私が、私に関するデータを、いろいろなところから集めてきて使う」ときにも求められる考え方ではないかと思います。

さて、このMyDataのコンセプトが非常にいい考え方だと思ってフォローし始めて、2016年のカンファレンスに参加しました。そこで、同じ関心を持って日本から参加していた方々がたくさんいました。そのメンバーで、「これを日本でもやりたいよね」と話しました。

自分たちの研究者コミュニティや、技術者コミュニティの中で閉じるのではなく、より多くの人を対象とする一般参加型のカンファレンスを開いて、みんなとこのコンセプトを共有し、考えていきたいという思いから、MyData Japanをやろうということになりました。

MyDataはもともとフィンランドで生まれたホワイトペーパー源流ですが、カンファレンスが3回開催され、関連するいろいろな活動が発展してきています。そのコンセプトもだんだん洗練されてきました。MyDataのビジョンは現在、「個人が自分自身のデータの主導権を握る」ことだと定義されています。

デジタルな人権の強化を目指す

MyDataのアプローチは、このスライドの図にあるように、個人を中心とする周りのいろいろな関係者との「相互信頼の上に築かれる、パーソナルデータに基づくサービス」を作っていくことです。「企業が開発するための機会を作っていきながら、デジタルな人権の強化を目指す」というようなことを(MyData visionでは)言っています。

フィンランドのMyDataカンファレンスでは世界中のいろいろな国々の方が集まってきてディスカッションしますけれども、おそらく、人権や倫理などといった言葉を、この種の会議を日本でするときよりも、かなり多く聞きます。

それだけこのテーマは、技術やサービス、ビジネスを作っていくことと同じぐらい、私たち個人をどうしていくのか、社会をどうしていくのかという、倫理や哲学の部分で大事なことを突き付けていると言えると思います。

MyDataのプリンシプルスが3つあります。ヒューマンセントリック、データのユーザビリティ、そしてオープンなビジネス環境です。3つがしっかり並ぶわけです。ビジネス環境だけを作っていくだけでもなく、ユースケースを作ればいいわけでもなく、人権だけを追求するのでもなく、いろいろな観点から議論をしていくところが肝だろうと思います。

こういった活動が広まっていく中で、MyData宣言ができました。もともと英語で作られて「賛同する人が署名をしましょう」ということで、グローバルに広がっていきました。この中で触れているのが、「行使可能な権利」です。そして、プロテクションからエンパワーメント。それから、クローズドからオープンなエコシステムということで、これが先ほどサラさんがおっしゃった部分になります。

この宣言については、日本語訳もあり、サイトで紹介しております。長いので全部をご紹介することはできませんけれども、ご覧いただければと思います。そして一番上に「署名はこちら」というボタンもありますので、賛同いただける方は名前を連ねていただければ幸いです。

偏らずにバランスを取りながら、みんなでデータを活用していきたいわけですが、これからのデータエコノミーは、おそらくいろいろなところにデータが分散的に存在していて、それをAPIでお互いに繋いでいくと思います。それはいいわけですけれども、その中で個人はどこに位置づけられるか、ということなんですね。

また一方で、プラットフォームモデルというように大手グローバル企業がデータを握って、そこにいろいろなサービスが繋がっていくという側面も、一方で進んでいるわけであります。この綱引きがで「個人の意思や関与は大事だと思うんですね。

MyData推進の上では倫理を忘れてはいけない

MyDataは、いろいろな分野の関係者の真ん中に、「個人」を置くという考え方です。自分が関わらないところで、自分に関するデータがあちこち繋がっていくモデルではなく、真ん中に個人を置いて、ここでデータが連携していくモデルがいいと考えます。

個人は、コネクションポイントであり、コントロールポイントであるということです。個人は誰が自分のデータを使うのか、どのように使うのかについて決めることが求められるわけです。

MyData Globalは、こういったゴールも掲げています。1つ目は、「倫理的であることが経済的利益を生むことを示す」。経済的利益を生みたいわけです。活用を進めるためにはきっと、企業が経済的な利益を得て、いろいろな活動をしていくということが欠かせません。

しかし、そこで倫理ということを忘れてはいけない。むしろ、人々に受け入れられるサービスを作っていることが、ちゃんと経済的に成り立つことに繋がっている。こういう状態は可能だということをを示していきたいと言っています。

例として、スライドに「フェアトレードコーヒーのように」と書かれています。フェアトレードコーヒーが確立することでそう謳っていないコーヒーも、これまでよりフェアな環境で作られるようになっていく、そういうことだと思うんです。

それから、「MyDataを意思決定者のアジェンダにする」ということです。政策立案者や、産業リーダーの方々とお話をしていくと、口では「個人情報の保護は大事だ」と言ってくれるようになってきているとは思いますけれど、しかし一方で、「隣の国では強力な企業がデータを集めている」「政府が個人のデータをたくさん握ってイノベーティブなことをしている」とそういう国を非常に羨むようなリーダーもいます。

「それでいいのか」と思う私たちは彼らとディスカッションをしていきたいわけです。MyDataは、倫理的であり、経済的でもあることを、意思決定者とディスカッションして、合意して、これを共通の目標にしていきたいです。

そして「MyDataの世界的な認知を広げる」ということです。MyData Glonalはパーソナルデータの活用において、「世界的なグループといえばここだ」というふうになりたいと掲げています。サラさんのお話は、基本的にはヨーロッパから出てきたコンセプトですので、ヨーロッパの文脈に基づいていたと思います。

しかし私たちは日本というヨーロッパとは違う環境にいます。アメリカ企業のサービスをどれだけ使っているかということもそうですし、それから隣の中国のモデルとの近さということもあります。実際に、中国企業と取引関係を持った企業がたくさんありますし、中国の人たちが日本にたくさん来ていますし、私たちも行きます。

関係が非常に深い中で、どういうデータの取り扱いをしていくのかは、距離感が近いというか、今考えなければいけない課題になっていると思います。その意味で、この日本でこの議論をしていくことの意義は大きいだろうと思います。

MyDataに関する取り組みをする企業や組織がたくさん出てきています。MyData Globalにはいろいろな国の企業や組織が関わっています。スライドは去年フィンランドで行われたMyDataのカンファレンスで、ユースケースをみんなで集めることになって整理したものです。

ざっくり言うと、この整理した図の中の真ん中と、右側の上から2つ目あたりが、今のところ、情報銀行がカバーしている領域ではないかと言えます。

今日本では情報銀行がまさにスタートしようとしているわけですが、これをどう育てていくのかが、とても重要だと思います。

『ドラえもん』にヒントを見出す

私は情報銀行について、利用者個人を起点にして、お金を払ってでも使いたい目的だと思えるものを整理しています。こういうことをいろいろな方と議論していきたいわけです。それから、日本らしくちょっとアニメの例も出してみようかなと思います。スライドにドラえもんがいます。

ドラえもんは、いわばAI搭載ロボットですが、周囲の人のデータをどんどん取得しているわけですね。とくにのび太くんをずっと観察しているわけです。でも、同意を取っているのかがよくわからないわけです。さらに、どうやって同意を取っているんだろうか。

そもそも誰のために働いているのだろうか。ドラえもんは、独立した人格のように見えるけれども、のび太くんのために働いているはずですよね。しかし実は、ドラえもんは、のび太くんが用意したロボットではなく、これは子孫のセワシくんという人が、ご先祖様がだらしないので、未来からロボットを送り込んできた。つまり本当は、セワシくんのために働くロボットですね。

例えばこういうドラえもんのような存在が世の中に普及する社会は、近い将来訪れるだろう、と私たちは思っているわけですね。こういう人とパートナーになり、人の代わりに何かしてくれるロボットがいたらいいなと思うわけです。しかしこれを実現するためには、個人情報やパーソナルデータの観点から、いろいろな課題が見えてくると思います。

このドラえもんを自然なかたちで社会に馴染ませるには、ドラえもんと朝会ったときに毎回同意を取ることなどはなく、自然にドラえもんとコミュニケーションをして、自然に助けてもらって、生活の質が上がっていく必要があります。

このようなドラえもんが私たちの生活に自然に馴染んだ状態を作っていくためには、倫理的にも制度的にも、あるいはビジネスモデルとしても、どのようなものが必要なのかを考えるといいのではないかと思うわけです。

MyData Japanが標榜する世界

最後に、MyData Japanの日本での組織の活動にフォーカスしてお話をしていきたいと思います。2016年のフィンランドのカンファレンスをきっかけとして2017、2018年とMyData Japanのカンファレンスはこれまで2回開催してきました。今回が3回目です。

たくさんの方に年々来ていただいて、登壇いただいて、立派なカンファレンスになってきたと思います。そして、MyData Japanというグループ、活動体ができました。

きれいなウェブサイトが、今ネット上でご覧いただけます。有志による活動ですが、こうしたきちんとしたサイトが立ち上がりました。

そして「MyData 101」「MyData LINKS」というトークイベントを、いろいろテーマを変えて開催するようになってきています。そして今日、MyData Japan 2019は非常に大きなカンファレンスになりました。

一番大事なお話をします。一般社団法人MyData Japanという法人の設立を公式には初めて発表いたします。

目的は「パーソナルデータに対する個人中心のアプローチに向けた取り組みを推進することで、個人をエンパワーする」ということで、これはGlobalと足並みをそろえています。そして、事業として予定していることは、これだけあります。

啓発活動や提言事業など、いろいろなサービスの創出・調査・研究もやっていきます。教育研修もやりたいです。出版コンサルティングもやっていきたいです。倫理審査みたいなこともできればと考えています。それから、資格の認定というものもありますけど、これは個人に対する資格というよりは、組織の活動を評価する、サーティフィケイトするような活動をしたいです。Globalの活動は、今は準備しているということで、我々も考えています。

それから連携事業はとくに、Globalとの連携などをやっていきたいと考えています。

理事・監事は、まだ法人は発足していないので「候補」ということになりますが、理事長にはNRI野村総研で、かつOpenID Foundationの理事などを務める崎村さんに就任いただきます。そして、この後ご登壇いただきますけれども、副理事長は佐古さんです。

以下、BLTS(ビジネス・リーガル・テクノロジー・ソーシャル)として法律家、消費者、研究者、企業経営者、技術者も参加するという、そういったバランスの取れた組織を作っていこうとしています。そして、理事長候補の崎村さんからのメッセージをご紹介したいと思います。

私たちの旅は、まだ道半ば

崎村夏彦氏:みなさん、こんにちは。MyData Japan理事長候補の崎村でございます。MyData Japan2019の開催、誠におめでとうございます。

今日私は、「ヨーロピアン・アイデンティティ&クラウドカンファレンス」で基調講演を行うため、ミュンヘンに来ております。GDPRの本場ドイツから、心よりMyData Japanの開催のお祝いを申し上げます。2019年は、私が「個人の手に自らのデータの力を」という運動を始めて、ちょうど20年になります。

20年前というと、個人情報保護法もまだありませんし、医療事故にあった人がカルテ開示を求めても門前払いになるような、そういう時代です。そこからすると、2019年の私たちは、ずいぶん遠くまで来たと言えるでしょう。

法律面では、GDPRによってデータポータビリティの権利が認められ、技術面では、私が起草や編集でお手伝いをさせていただいた、「OpenID Connect」や、「ISO29100プライバシーフレームワーク」など、選択的データ提供を行うためのフレームワークが整ってまいりました。

しかし私たちの旅は、まだ道半ばです。例えば、データポータビリティと一言で言っても、実際にはデータの形式まで標準化されないと、取り出したデータを他に持っていくことはできません。

また、そのデータ自体の出自と、改ざんされていないことの証明ができなければ、そのデータを受け取った人も信用することはできません。さらに、MyDataは自分に関するデータですが、この多くは他の人たちと共有しているデータです。

例えば遺伝子の情報は、自分に関するデータですが、同時に、過去・現在・未来における、親類縁者との共有のデータです。したがって、私自身はそのデータを自分の好き勝手に共有したり、公開する権利はないのです。あるいは、私の位置情報もそうです。私が誰かと動いているという情報があったら、私がその位置情報を公開すると、彼の位置情報を公開しているのと同じことになります。

そして残念ながら私たち個人は、このあたりのことを判断して選択していくことに関しては、あまり長けてはいません。MyData界隈でBLTS、BLTサンドイッチという言葉があります。これは、ビジネス・リーガル・テクノロジー・ソーシャルの頭文字を取ったもので、これらすべてが手を取り合って、私たちの直面している課題に応えていかなければいけない、ということを話しています。

例えば、ビジネスでは、MyDataのエコシステムが、ビジネス的に立ち行くように創意工夫が必要であると同時に、そのデータの利用が倫理的に許されるのかということを常に自問し、やっていることの正当性を説明して、それを第三者が検証可能にし、きちんとやっていないことが明らかになった場合には法的に処罰を受ける、つまり、アカウンタビリティの確保が必要になります。

また技術者は、技術者の良心によって、より安全に、便利に、相互運用性を確保していくことが、常に模索される必要があります。社会面では、ソサイエティとして、公共として、弱者をどのように救済していくかを考えていく必要があります。こうしたことを実施していく上で、今回実施されるMyData Japanに期待されるものは、大変大きなものがあると認識しております。

MyData Japanの理事長候補としては、これらを強力に推進していきたいと思っております。また、その活動としての今回のイベントは、議論を深める上で、非常に重要な機会です。この機会をとらえて、BLTS各業界の理解を深め、エコシステムとしてのデータの倫理的な活用が一歩前に進むことを祈念しております。MyData Japan2019の開催、誠におめでとうございます。

庄司:MyData Japan2019を本日開催しまして、一般社団法人MyData Japan設立の発表を行いました。法人登記は5月中に終えたいと思っております。その他もろもろ、今動き出していますけれども、事務局機能の整備や始動、規約等の作成を進めまして、7月中には入会申し込みを開始したいと考えております。

法人会員の参加を柱としつつ、やはりMyDataですから、個人として自分の意志で参加していただける方も広く募集していきたいと考えているところです。ということで、9月のヘルシンキでのイベントでも、MyData Japanの状況を紹介していきたいです。私からの発表は終わりたいと思います。どうもありがとうございました。

(会場拍手)