数万人に1人の「真の読み手」に見つけてもらえる瞬間

田中森士氏(以下、田中):じゃあ最後の質問になりますが、手短にいきたいと思います。「モチベーションの保ち方、テンションの保ち方」。これはいいですね。コンテンツを制作する上で、だんだんやる気がなくなっていくことがあると思うんですよ。

同じことを続けていくのは大変ですよね。そこでどうモチベーションを保てばいいのか、という質問です。小林さん、なにかございますか?

小林秀章氏(以下、小林):それはね、私がコンテンツの立場であって、自分で文章を書くのが好きでメルマガをやっているんだけど、これがまた誰にも発見してもらえなくて……。

(会場笑)

田中:おもしろそうですね。

小林:「写真撮らせてください」「テレビ見ました」「ネットで記事見ました」「Twitterで回ってきました」という人はいるんだけど、「メルマガ読んでいます」という人は1年にいっぺん会えるか会えないか。本当に気付かれなくて。

もうモチベーションなんか死にそうになっているんだけど、それでも15年間続けていて、コラムを300本書きましたからね。よく保てるなと、誰も気付いてくれないことを、よく15年間もずっと書いているなと思っていて(笑)。「検索して読んでくださいよ」と思うんだけど、それはね……。

田中:(モチベーションを)どうやって保っているんですか?

小林:まさに、ペルソナをうんと遠くに設定しているんですよ。はっきり言って書いた文章はつまらなくて、誰が読んでも絶対につまらないんですよ。だけど、ものすごくニッチなところを狙って意識の話とかを書いていて。これは自分がめちゃくちゃ興味あるから書いているんです。

そこらの人に意識の話なんかしたって誰も聞いてはくれないし、興味も持ってくれないんだけど、「脳という物質に意識が宿るって、超常現象にもまさる不思議なことで、メカニズムのみえない歯がゆさに思わずクネクネしちゃう」って書いておくと、「分かる!」って返してくれる人がポツンポツンと。本当に数えられるぐらいがいるんですよ。

そういう人に届くと、「ヒットした〜!」という共感が得られるんです。モチベーションはそれだけなんですよ。遠くの何万人にも投げないと真の読み手が見つからないくらいニッチなところで「見つかった!」と思えるときがある。それだけですよ。

田中:やっぱり行動してペルソナを見つける。レスがあるとやる気が見つかる。そういうことですよね。ありがとうございます。ヌケメさんはどのようにモチベーションを保っていらっしゃいますか?

孤独な作業よりもコラボレーションが好きな理由

ヌケメ氏(以下、ヌケメ):難しいですね。

田中:アート制作ってすごく孤独な作業だと思うんですよ。そこでいうと、ヌケメさんはよくコラボされているじゃないですか。そういうのはモチベーションを保つためのヒントになりますか?

ヌケメ:モチベーションというか、誰かを巻き込むとやらざるをえないんですよ。1人だとさぼっても誰にも怒られないので。あとコラボレーションが好きな理由は、自分1人だとどんなものができるかがだいたい見えちゃったりする。それを上手にねじ曲げてくれる誰かが必要な気がするんです。

自分のやりたいものを、完全に自分がコントロールできるんじゃなくて、ちょっとねじ曲げてくれる誰か。それは人のときもあるし、コンピュータのときもある。それがグリッチグリッチなんです。

偶然じゃないですけど、偶然に近いなにか。それが必要で、コンピュータとコラボしているような感覚があるんですよ。少なからず。モチベーションの保ち方は普通です。Netflixをめっちゃ見たりしますね。

(会場笑)

あと、モチベーションとは違うんですけど、絶対に作業をやらなきゃいけないときは、やる気がなくてもとにかく作業を始めると、やっている間にやる気が上がってくることはある。それが僕のライフハックですね。

田中:環境はどこで、どのようなところで作業を始めるんですか?

ヌケメ:自宅であることが多いです。もうとにかく始めるっていう。やっているとやる気が出てくる。やっていないとやる気が上がらない。一生上がらないんですよ。

田中:とりあえずイスに座って始めると。

ヌケメ:そうそう。だから始めるときのスイッチを決めちゃうんです。音楽をかけるとかコーヒーを一杯飲むとかなんでもいいですけど、それをスイッチにして「このスイッチが入ったら絶対やる」と。ルーチンに自分を追い込むんです。

田中:わかりました。ありがとうございます。最後に岡さん。

モチベーションを上げるのも下げるのも結局は「人」

:自分はあんまりモチベーションが下がらないんですよ。

田中:おぉ、すばらしい。

:下がるような人とは、できる限り仕事をしないようにするというのは意識していて。

田中:なるほど。

:相性があると思うんですね。良い・悪いじゃなくて、この人と話していて合うとか、この人とは仕事がやりやすいとか。一方ですごく優秀でいい人なんだけど、なんだか合わない人もいると思うんです。

できる限り合う人と一緒に仕事をする割合を増やしつつ、合わない人との仕事をちょっと減らしたり。さっきの小林さんの「なるべく楽しい状況にいられるようにしておく」という感じですかね。

田中:なるほど。確かに相性はありますよね。モチベーションを下げるのも人だし、上げるのも人だし。深いですね。なんだか私がお悩み相談をしてもらっているような感じで……。明日からがんばります。

ではちょっと時間もすぎてしまっているので、最後にまとめを。

マーケターもライターももっとアーティストになるべき

田中:今日はコンテンツ制作にどのように取り組めばいいのか、どのように向き合えばいいのか、そんなテーマでお話しをさせていただきました。私、また本を読み返したんですよ。『コンテンツ制作の極意』。

コンテンツマーケティング最前線02 コンテンツ制作の極意 (クマベイス出版)

そのときに浮かんできたのは、「MORE CREATIVE MORE ARTIST」。つまり、マーケターさんやライターさんも、もっとクリエイティブになる必要がある。もっとアーティストになる必要がある。

冒頭にも述べましたが、SEOを意識しすぎると、エンゲージメントが高まらない。なので、ここの部分が今の日本のコンテンツマーケティング、すべての業界に欠けているのではないかと思うんです。

小林:極端な話、「炎上するくらいとがったものを出そう」ということですね。

田中:炎上していいかどうかはわからないけど(笑)。小林さんは今まで炎上したことがないんですよね?

小林:直接攻撃を受けたわけじゃないですけど、ありますよ。1分間に50ツイートくらい来て。読んでいるうちに新しいツイートが何100件ありますとか、「もう読めないよ」みたいになったことがあって。

あとは、大阪に行って戎橋のところで(ポーズを決めて)「ニャン!」とやっていたら、いっぱい写真を撮られたんですよ。そこで高校生ぐらいの子が寄ってきて「肩組んで一緒に写真撮ろうぜ」と親しげに写真を撮ったあとで、おまわりさんに連絡したんですよ。

おまわりさんが2人来て職質を受けたら、その職質を受けている画面を背景にして「職質してやったぜ!」と撮っていて。それを2つツイートしちゃったもんだから、「最初に親しくしておいてそれはないだろう」と、やったやつがものすごい猛攻撃を受けて、大炎上ですよ。

田中:そりゃ炎上しますね。でも小林さんには矛先が向かってない?

小林:いやいや、「そんな格好をしていたら通報されて当たり前だろ」みたいな、それまでの文脈を踏まえていないツイートが出始めて、「いつ攻撃の矛先が自分に転じるかかわからないぞ」とヒヤヒヤしたことはありますね。

田中:そうなんですね。炎上はしない方がいいんでしょうけどね。

小林:そうですね。

田中:ありがとうございます。

コンテンツ制作には情熱と思いやりが不可欠

小林:とがったコンテンツはいいんですよね。

田中:とがったコンテンツは大丈夫です。山口周さんがお書きになった、『世界のエリートはなぜ美意識を鍛えるのか』という本にも書いてありますよね。アメリカの超巨大IT企業の幹部たちが、いま学芸員さんから研修を受けている。学芸員さんを社内研修の講師に招いて研修してもらっている。

そうすることで、クリエイティビティやアート的な感覚を付与してもらうみたいなことが実際に行われているんです。これは日本のマーケティング業界・コンテンツ業界にも必要だと思いますね。一般企業であっても。あと、私はよく言うんですけど「PASSIONとCOMPASSION」。

パッションは情熱です。熱量と言えるかもしれません。コンパッションは思いやりです。思いやりとか、共感とか。この両方が必要だと思うんです。情熱と思いやり。冷静と情熱のあいだ、のようなことですね。

小林:「コンテンツ」の(単数形の)コンテントには、「満足」という意味があって。でもサティスファクション(一般的に使う満足)はもともと目的があって、それが達成できたから満足することなんです。

コンテントは心の満足なんですよね。だから、最初に「役に立つこと・おもしろいこと」というのがあったけど、どちらかというと「おもしろくてよかったな」という感じが残るようなものだと思うんです。コンテンツはコンテントなんじゃないかな。

田中:これはおもしろいです。さっき小林さんから教えていただいて、「そうか、満足させるという意味もあるんだ」と思って。コンテンツマーケティングやコンテンツ制作には、実は「相手を満足させてなんぼだ」ということが内包されている。

非常に興味深い結論でした。最後に短くていいんですけど、会場に来ていただいているみなさんに、勇気づけるようなメッセージをいただければ幸いです。岡さんから、お願いします。

コンテンツは、制作者と受け手を「楽しさ」でつなぐもの

:勇気づける……。難しいですね。

田中:感想でも。

:バ美肉おじさんの話を聞けたのがすごく印象的でしたね。やっぱり、自分が今まで気付かなかったところにおもしろいことがたくさんあるんだと思います。こういうイベントやふだん接しない場面に行ったり見たり聞いたりすると、いろいろなヒントがあるんじゃないかな。

田中:ありがとうございます。じゃあ、ヌケメさん。

ヌケメ:なんでしょうね、バ美肉おじさんの動画はぜひ見ていただきたいんですけど、なんというか……さっきのモチベーションの話もそうですけど、自分がどうして活動を続けていられるのかと言ったら、知的好奇心がすごいからなんです。自分のエンジンをドライブさせていって、好奇心を捨てずに育てていくのがいいと思います。

田中:なるほど、ありがとうございます。じゃあ、最後に小林さん。

小林:言ったことのまとめになっちゃうんですけど、やっぱりコンテンツは親身になって作ったほうが良いコンテンツになります。親身になっていないと、やっぱりバレてしまうんですよ。

そして親身になるためには、受け手のことが想像できなきゃいけない。それは自分の中にバラエティに富んだ受け手である他人がたくさん住んでいるということであり、コンテンツにとっても、それはすごく楽しいことです。

だからきっと、制作者にとってもそういう作り方をしたほうが楽しくなるのかなと。それに楽しく作っていれば、それが人にも伝わると思います。そういうことなのかな。楽しさのある内容のコンテンツは、たくさんの他人や広い目で世の中のものを見られているんじゃないかな、という気がしていますね。

田中:なるほど、ありがとうございます。みなさんぜひ、楽しんでコンテンツを作っていただいて、そのコンテンツを我々がどこかで目にして「これ、おもしろいな」と。そういった再会ができることを心待ちにして、今日は締めさせていただいきたいと思います。では本日はみなさん、お忙しい中どうもありがとうございました。

(会場拍手)

田中:続きまして、書籍付きのチケットをお買い上げいただいた方は、これからあちらでサイン会がございます。小林さんとの写真撮影は……。

小林:はい。どんどん写真を撮って、Twitterとかにあげてください。

ヌケメ:めっちゃ……。小林さん、想像していたより、スカートの丈が短いんですよ。

(会場笑)

小林:これね、お腹のあたりがずり上がってきてね……どんどん短くなってきている。

ヌケメ:(笑)。

田中:出会った頃よりも短くなっているなと……。

ヌケメ:そう。昔お見かけしたことがあるんですけど、昔より校則に違反している感じに……。

(一同笑)