「どんな問題が起きても、絶対経営者を辞めへん」

――今もいろいろな悩みや迷いはあると思いますが、起業してから最大の失敗や困難はどんなことですか?

中馬一登氏(以下、中馬):最大の失敗ってないなぁ。

中村多伽氏(以下、中村):そうなんですよね。それは失敗と定義してないだけでたぶん死ぬほどあるんだろうけど。うまくいかんかったというか、予想通りじゃなかったパターンはいくらでもあります。期日に着金されないとか。あと、イベントやったら集客とかもありますよね。

中馬:一番は人・組織の問題じゃない? お金の問題はなんとかなるけど、人・組織の問題はしんどかったですかね。実は僕、ほんまに去年の9月・10月まで経営者を辞めようとしてたんです。会社を弟や幹部らに譲って、3~4年くらいは世界一周しようと思ったんですよ。

35歳までは、もう好きに生きようと。もう一回ゼロから世界を見ようと思って、いい場所があったらそこに住んで「もういったん、日本いいわ」と思ってたんですよね。

ただ、なんでもう一回がんばったかというと、去年の10月に日経産業新聞に僕らの会社がけっこう大きめに取り上げられたんですよ。「京都の活性化に三兄弟が走る」みたいな。やっぱり全国の先輩や経営者の方が見てくれはって。

「お前めちゃくちゃがんばってんなぁ」「お前ががんばってくれてるのが、俺らの元気にもなる」。友人を含めて先輩らがいっぱい言ってくれて、「俺は世の中に希望を生み出したかったし、かっこいい人間を増やしたかったのに、何俺逃げようとしてんのや」と。

正直、人間って思考を止めたら楽なんですよ。経営者を辞めようとした時に、「あぁ、俺は人間的魅力もなくなってるし、思考も停止してるから成長しない」とわかって。それがホンマに嫌で「もうどんな問題が起きても、絶対経営者を辞めへん」って決めたから、脳が絶対なんとかしようと成長する。この半年くらい、うちが事業を含め伸びてきてるのも、そうやって切り替えたからなんですよ。

会社の経営とかも全部変わってきてますし、怖いものがないというか。いかに「自分が生みたい世界か」をひたすら言い続けて仲間も集まってきたのは、その日経産業新聞でみんなが「希望の存在だ」と言ってくれたのと、自分の思考が止まったときに人間として終わっていく感じがわかったので、その2つがきっかけというか。

経営者を辞めたくなったときに乗り越えさせてくれたもの

中村:ということは、31歳でも人間変われるんですね。

中馬:あぁ、そうね。

(一同笑)

中馬:それは確率が低いだけね。変化への免疫力の問題。

中村:あー、確かに。経営者辞めたいとか、会社辞めたいとか、ぜんぜん毎日思いますね。辞めないけど、そう思います。スタートアップが死ぬ3つの要因のうちの1番は、「顧客のニーズがないこと」なんですよ。結局、プロダクトやサービスが受けて初めて、会社として成り立つ。残りの2つが仲違いとキャッシュアウト。

それで、私の場合は、けっこうハイコンテクストなことをやろうとするんですよ。空中戦の格闘技みたいなことをするんですよね。だから、いま絶対お金が回らへんところにどう回すかって、普通の力学だったらけっこう難しいし、社会起業家を儲けさせるって本当に大変で。

私は、社会起業家にお金が流れるべきだし、それによって社会が循環すると思ってたけど、自分が無知なだけで、「それが間違ってるんじゃないか」って、半年間ぐらいずっと死にたかったことはありましたね。

それを乗り越えたのは……信じて支援していた子たちが、みんな25歳以下とかなので、やっぱり徐々に芽を出し始めるんですよね。インキュベーションしてる最中は、めっちゃ心配だらけやし、しんどいけど、半年ぐらい経って「お店作りました」「創立しました」「資金調達しました」「ユーザー見つけました」って連絡がすごく来るようになって。

そのあたりから、「私のやってたことは正しかったんだ」というのを再認識して、乗り越えさせてもらったという感じでした。私もぜんぜん世界行きたいですよ(笑)。

中馬:僕も今、「会社を経営しながら世界に行こう!」ってなってる。

中村:そう(笑)。結局、向こうで仕事を作ったらいいしね。

担当者も参加者も、熱い思いを持って集まれる場所

――お二人が、この京都リサーチパーク(KRP)のイベントスペース「たまり場」で、イベントを開催されている理由はなんですか?

中馬:僕にとって1つ大きいのは、KRPで担当してくれている井上さんがめっちゃ好きなんですよ。

中村:わかるー(笑)。

中馬:多伽ちゃんもそうだと思うんですけど、いろんなところから声をかけられるじゃないですか。利害関係というほどじゃないけど、自分たちもどことやりたいかなとか。イベントをやるのは、企画から集客含めて大変やし。その中で担当してくれたKRPの井上さんという人が熱いんですよ。あんまり熱く見えないけど。

井上さんと話せば話すほど盛り上がってきて、自分の世界観とかパッションを全部受け入れてくれるし、ぜひいろいろやるよ、というのが、まず本当に一番大きくて。もう一つは、僕と同世代の30歳前後の人で、起業を考え始めている人が増えてきたんですよ。

起業とか考えてなさそう、と思ってた同級生から「中馬さ、ちょっと相談乗ってくれへん?」みたいな。今はやっぱり情報社会やから、いろんな情報入ってくるじゃないですか。「この先50年、60年くらい、この感じで働くのは感覚的になんかちゃう気がする」と。

「とはいえ子どもも奥さんもいるし、絶対いまのままじゃあかん気がしてて、このまま流れたらたぶんもう起業とかできんと思うから、相談乗ってくれへん?」という相談が出てきたんですよ。大好きな友達やから、自分ができることで未来が広がったらいいなと、ほんまに思ってて。

京都には、起業家だけじゃなくて熱い社会人仲間がけっこういるので、じゃあみんな集めたいですね、という話でイベントをやってるんです。僕は井上さんが大好きなんと、僕の好きな友達の人生が豊かになるような場所になったらいいなと思って。だから、この「たまり場」で敷居が低いおもしろおかしいイベントばっかりやろう、と。

重要なのは、いかに起業家目線で親身になってくれるか

中村:この間は、なにしてはりました?

中馬:前は本田圭佑選手の右腕をしていた人に出てもらって、「ナンバー2最強説」っていう。その人って、あんまり表に出てこないんですけど、僕が「やりましょうよ」と言ったら来てくれはって。そんならみんな話を聞きたいじゃないですか。その時もいろんな同級生が来て、「めっちゃ勉強になった」と。

めっちゃ反響があって、想像もしなかったような人らまで、「いや、あれは良かった」「ヤバい」と言ってくれてはって。トップやナンバー1が注目されますけど、あえてナンバー2のスポットを当てたら、「自分はトップにはなれへんと思ったけど、今回、ナンバー2やったら輝けるんじゃないかと思った」とか。そのときに、やっぱりこういうイベントいいな、と。

トップや起業家向けのイベントではなくて、「いかにサラリーマンが素晴らしいか」みたいなイベントもたぶんおもしろいと思うんですけど。僕は「たまり場」で、仲間とか京都でがんばってる人らの人生が豊かになるような時間が作れたらなと思ってます。あと井上さんが大好き。

(一同笑)

中馬:何回も言います。これ、井上さんがバリ偉そうで、「いや、マジでKRPヤバいんで~」みたいな感じできたら、「いや、ちょっといいっすわ。ほか行ってください」となりますよね(笑)。

中村:それはありますね。

中馬:KRPの人、いい人多いよね。イベントのときも、お偉いさんが最後までいてくれはったり。

中村:そうそう、めっちゃ好き(笑)。でも、本当にそう思ってる。talikiは、KRPさんと起業家支援という意味では同業なんですよ。多くの場合、起業家支援って本業の付属なんです。例えば、大企業がCVCや不動産の傍らでやるような感じなので、だいたい起業家という生態への理解が少なく、起業家の目線に立たないんですよね。起業家って、1分1秒で状況も気分も変わるし、1週間後にはぜんぜん違う気持ちになってるし。

中馬:変わるよね。わかるわかる。起業家は不安定になりがちやもんね。気持ちじゃなくて状況もね。1日でも変わるもんね。午前中こうやったのに午後にもう嘘みたいな。

同業だからこそ忌憚なく意見が言い合える関係性

中村:起業家は不安定になりがちやし、初期はどうしても経済合理性が合わないこともある。例えば資金調達したいけど、そのための事業計画が上手くいってないから、余計お金がないとか。私もけっこう合理性に則れない場合もあるから、そこの気持ちをわかってくれたり、寄り添ってくれたり。

同じ目線でどうしたらいいかを一緒に考えてくれる人こそ必要やのに、そういう起業家支援がぜんぜんないんですよね。起業したこともないおっさんが、「メンタリングしてやるよ」って、事業計画にダメ出しするみたいな。

中馬:わかるわー。

中村:「お前、明日創業してこい」(笑)。

(一同笑)

中村:それはそれでまあ、彼らのお仕事だからいいんですけど。でも、KRPのみなさんがミーティングに入ると、なんかミーティングでもすごくファミリー感が出ません?

中馬:優しい。重宝してくれる。

中村:そうそう。初めてKRPのガラス張りの会議室に行ったとき、「うわヤバい、なんかお兄さん方めっちゃ入ってきた、どうしよう」と思ってたら、「うわー、ようこそ、ようこそー!」みたいな。「いやーえらいねー」「すごいねー」って。実家かな、みたいな(笑)。

中馬:実家感出てる(笑)。

中村:逆に同業やから、「これってほんまは必要ですよね」とか「ほんまは意味ないんじゃないですか」と言ったときに、「あ、確かにそうかもしれん」とか、「いやでも、こういうのは自分らもやりたいと思ってる」と返してくれるから、私、「KRPめっちゃ好き、入りたい」って言ってましたもん。今日も、talikiがKRPで2回目のイベントをやったときのTシャツ着てきました(笑)。「excite the society」、かっこいいでしょ。まあそれはおいといて。

(一同笑)

関東圏や世界から見る、京都の絶妙な存在感

中村:talikiにもコワーキングスペースがあったんですけど、「たまり場」に来ることによって、投資家とか民間企業とか普通の起業家、学生、NPO、年齢、場所みたいな境界線がなくなるというか。

私たちが関わるのは投資家やアンダー25の社会起業家が多いんですけど、KRPにはいわゆるサラリーマンの方々も、銀行の方も、起業家支援の文脈の方も来る。そういう人にはふだん、アンダー25の起業家の子は出会えないので。

そこで、「こういうの一緒にやったらおもしろそう」というものが出てくるのが、taliki的には超ありがたいんです。そういう意味で起業家の子たちを集めて、そういう方々に見てもらうイベントをやったんですけど、カオスになっちゃって(笑)。でも、それも許してくれはるから、本当にいつもお世話になってます。

――お二人は、活動の場をなぜ京都にされたんですか?

中馬:京都を出てわかったんですけど、やっぱり京都最強なんですよ。東京で「出身どこですか?」って訊かれて「京都」って言ったら、みんな「おおー」「いいとこですよね、品がありますよね」って言われるんです。たまに「腹黒い」とか言われるけど。関東に行った時に、京都ってけっこう絶妙やなと。

あと、やっぱり京都は海外でも知られてる。日本に来た外国人はだいたい京都に寄るので、京都って、全国で見ても特別な場所だし、海外から見ても東京と負けへんくらい特別な場所なんだってわかったんですよ。

東京で独立するかなと考えたときに、僕は26歳やったんですけど、東京はライバルが多すぎるんです。自分みたいなゴリゴリ営業するやつはごろごろおるし、すごい社長もいっぱいいる。だけど、いま京都に帰ったら、「たぶん俺みたいな勢いだけのアホなやつはいいひんぞ」と。京都やったら最速でてっぺん取れると思って、けっこう狙って帰りました。

(一同笑)

中馬:結局、京都はコスパが高いと思ったんですよ。東京で同じことをやったら埋もれる、地方でやっても、国内外へのインパクトがそんなにない。京都は絶妙にインパクトある場所で、しかも地元やから、友達とか知り合いもいっぱいいる。

京都で起業するメリット・デメリット

中村:確かに。ポジション取りやすいですよね。私が京大に入ったのも、東大生の兄が「京大生めちゃくちゃおもしろい」って言ってたから、日本一の大学はたぶん京大なんだろうなと思って入ったんですけど。

中馬:入れたのがすごいよね。

(一同笑)

中村:でも、京都で実際に思ったことがあって。人間の脳が1日に処理できる情報量は限られてるんですよ。でも、東京に帰ると、文字が目に入らない瞬間って基本的にないんですよね。文字以外にも人とか動くものとかすべて、常に情報のオーバーフローが起きてるんです。

めっちゃ情報過多だから、浅く考える機会しかない。そもそも物理的に、一つの物事について、深くじっくり考える時間があんまり取れない。私にとっては、それがおもしろみに欠けるんですけど。

関西に来てすごく思ったのは、なんか「山!」「川!」「チャリ!」「コンビニ15分!」みたいな(笑)。

(一同笑)

中馬:「鴨川!」「嵐山!」「大文字!」。

中村:確かに東京に比べたら関西の子は情報量がすごく少ないから、トレンドにも敏感ではないかもしれないんですけど、一つひとつのことに一生懸命というか、すごく深く考えられる。関西の大学生は機会の少なさというところではすごく不利なんだけど、脳の構造的にはけっこうおもしろいなぁと。

もう一つが、シリコンバレーのエコシステムって、大企業、中小企業、大学、研究機関、投資家、アクセラレーターがいい感じにエコシステムを補完し合って発展してる感じなんですよね。京都にはそれがだいたいある。

圧倒的に足りないのが、投資家とアクセラレーターなので、逆にそこさえはめ込めば、エコシステムが作れる。それで私はアクセラレーターをやろうと思って、投資家は引っ張ってくるという感じで、京都で始めました。

中馬:京都は素直な学生が多いですよね。

中村:多い〜! ピュア。

中馬:ほんま素直。ピュア。童貞が多い。いや、次回にしましょう、これは熱弁したい。

(一同笑)

人々の生き方・働き方をアップデートする京都発のイベント

――最後に、そんな京都で7月に「KRP WEEK」という「イノベーション創発と交流の場づくり」を目指すイベントが開催されるということで、見どころを教えていただけますか?

中村:talikiの大テーマは「ウェルビーイング」です。最近、自分らしさとか、それで本当に幸せなのかとか、普通に生きてるだけですごく問われますよね。そこで、人間がウェルビーイングであるために、資本主義の綻びとか、テクノロジーの発展とか社会情勢とかとどう付き合って自分の本当の”よくあること”に活用すべきかということを、そろそろみんなで考えなきゃいけないよね、と。

いまは社会学の人とか心理学の人とか、専門家はすごく考えてるんですけど、結局テクノロジーを使ったり、社会で意思決定を行うのは我々なので、本当は全員が考えて意思決定しなきゃいけない。

要は、今まで個人やコミュニティの持続的な「幸せ」をけっこうおざなりにしてきた発展だったんですよね。なので、経済やテクノロジーの発展をないがしろにせずに、持続的なウェルビーイングを達成するにはどうしたら良いのかというのを会場のみなさまと投資家・起業家・その他豪華ゲストの方々と一緒に考えます。ウェルビーイングなプロダクト開発する若者のピッチバトルとか、「死のワークショップ」とか用意してて、ゲストだけじゃなくてコンテンツもめちゃくちゃ濃ゆくなってます。

中馬:僕たちのイベントは、サッカーの本田選手、Little本田(本田圭佑選手が自分自身に問いかけている心の中のもう一人の自分のこと)にちなんで、「Little You 2019」っていう名前なんですけど。あなたの中にいる、小さな気づきだったり気持ちというのをもっと大事にして表に出そうというコンセプトです。

ポイントは、本田選手を始め、さまざまな人が関わってくれるところ。ちょっと学生コンテストみたいな感じなんですけど、10万円と60日間を与えられて、自分がしたいことにどれだけ近づけられるかを、10組の学生がプレゼンし合うんです。

ビジコンはだいたい自分のビジネスモデルとかを話すわけですけど、僕らはやっぱり起業がすべてじゃないので、自分の生きたい人生を歩んでくれる学生が増えたらいいと思うから。起業に限らず、いろんなアイデアを見た学生たちが、「あっ、こんなふうに自分の学生生活、人生って、工夫して生きられるんだ」「あっ、こんな同年代がいるんだ」っていう刺激が得られる場所になると思うんですよ。

本田選手もインタビューを受けてくれはって、まぁたぶんイベントにはこぉへんと思うんですけど。そこでもし気に入ってもらえたら、メンターになってもらえるかもしれない。あとAbemaTVとも内容調整してるんですよ。けっこうごっついんじゃないですかね。

――学生やビジネスパーソン、親御さん・お子さんまで、いい刺激が受けられそうですね。本日はありがとうございました。

中馬・中村:ありがとうございました。