成功のフォーマットがコモディティ化している

許直人氏(以下、許):箕輪さん、ありがとうございます。この会場の中に、私が知る限りで、上場企業で本部長クラスまでいった方が何人かいます。事業化の承認を通したことがある人だったら、「このビジネスの成功の確率は?」「蓋然性は?」と聞かれたことのある人はたくさんいると思うんですよね。

箕輪さんの言っていることは、成功の確率や蓋然性みたいなものとは真っ向から背反しているけれど、アカツキさんもその他のクライアントも、一部の人は気づいていると。

箕輪厚介氏(以下、箕輪):逆に、今まで言われていたその可能性が当たらなくなってきた。そういう切実な思いがあるんだと思いますよ。「可能性が高いですよね」と言っても、本当にふわっとしか当たらない。本とかでもそうですよ。

実はこれ、今に始まったことじゃなくて。「誰か1人が熱狂していたら上手くいく」というのは、昔からサービスやコンテンツはそうだったけど、それがもう如実すぎるんです。あまりにも成功のフォーマットがコモディティ化したということですよね。

だからもう、そこにしか答えがない。「これは何パーセント当たる可能性があります」というものが、本当に単なるグレーになってしまった。だから、人間が差異を生み出すのはゼロイチのクリエイティビティか、あとはもう人間関係しかない。要はエモーショナルで、「この人のためだったらがんばろう」というもの。この2つ以外はお金にならないと僕は思いますね。

主語を「自分」として行動できるか

:はい。おっしゃる通りだと思います。「合理性の先に成功がない」というのは意外と合理的なんですよね。みんなが同じ情報を持って、みんなが合理的に考えたら、結局みんな同じ戦略になる。だからその先をやっていっても、勝ち目はないんです。

ここにいる人たちはみんなそれに気づいているから、こういうイベントに、その「変なもの」に触れようと思って足を運んでいる。だけど、これを会社に持ち帰って、合理性のビジネスや意思決定プロセスの中に持ち込んだときに、どうやってそこを通り抜けていくのか。

箕輪:そこは各会社によって違うと思うんですけど、「主語が自分」なのが前提です。

ドラマの台本のように「自分」というものがいて、例えば主人公となる自分の名前がタカシだったら、タカシがこの会社をどう変えていくか。

「この旧態依然とした会社で、どうやってめちゃくちゃな企画を出して通すか」という物語を楽しもうと思うだけ。それができないのであれば、その会社は無理だから辞めた方がいいと思う。

「うち、パナソニックだからな」とか「うち、〇〇だからな」とか言っているくらいだったら、もう無理だと思います。

会社にではなく、市場で評価される人間になれ

:今のお話の中で、箕輪さんは「俺だから」と言っているけれど、その「俺だから」という結果が出る前に、その行動ができたところがポイントだと思っていて。会社員は選択肢がないじゃないですか。上司から言われたら、言うことを聞く以外には辞めるしか選択肢がない。

箕輪:でも、そうなっている時点で絶対に終わりです。よく言われる話ですけど、上司や会社を見るんじゃなくて市場を見るってことで。僕が強いのは、幻冬舎に……まあ見城さんと特別な関係なのは置いておいて、前の会社でも今の会社でも、幻冬舎や双葉社に評価されているわけじゃなくて、市場に評価されているわけです。

僕は別に、会社をクビになっても、次の日から誰よりも売れる本を作れるフリーの編集者として生きていけるので、むしろ強いですよ。でも、それでうまくいったからといって会社に文句を言っていたらだめです。

:そうですよね。だから「自分が中心になれるか」ということだと思うんですよね。仕事は人生であり、会社はその仕事を与えてくれるけれど、人生のオーナーシップは自分にあるわけです。

だけど、会社から仕事をもらっているうちに、人生のオーナーシップまで会社に奪われてしまっているのかもしれない。

そんな中で、「辞める」という選択肢や、「こうしたら」という別の選択肢を持つことで、自分の人生が支配されるのを突っぱねられるようになったところがあるのかなと。

箕輪:まったくそうです。社内で強くなりたかったら、社外で有名になれという、単純にそれだけです。だから市場を見ろということです。

サッカー選手化していくビジネスパーソン

箕輪:例えばスポーツはビジネスの10年先くらいをいっていて、中田英寿やカズがヨーロッパに行ってグローバルになった10年後には、ビジネスもグローバルになっていたり。

スポーツにはそういうところがあるんですけど、今はすべてのビジネスパーソンがサッカー選手みたいなものだと思うんですよ。優秀で点を取ったりして活躍するなら、どんどん年俸も上がるし移籍もできる。

でも、例えば東京ヴェルディで監督と仲がいいから試合に出れるみたいなやつは、どうしようもないじゃないですか。監督が変わったら終わりだし、監督とよくご飯を食べるからフォワードに使ってもらえるみたいなやつって、そもそも意味がない。

今まで日本の企業で当たり前に起こっていたこういうことは、もう通用しなくなっている。ビジネスパーソンの価値を決めるのは市場の評価だけになったという、ただそれだけです。

だから、ガチで面倒くさいといえば面倒くさい。今までは監督に「うーす」「がんばってますよ」と、監督の前だけで筋トレしていればよかったのが、監督の前で遊んでいても、試合で点を取れば評価されるようになってきた。

これは健全で、別にがんばっているふりをしなくても、結果を出せばいいわけです。逆に結果を出さないでがんばっているふりをしているやつは使われない。本当にヨーロッパのサッカーみたいになっただけなんですよ。

だから「ここからはサバイバルでがんばりましょう」と。そうなると「つらいわ」と思うかもしれないけど……まあつらいですよね(笑)。

(会場笑)

もう「奴隷の幸福」を感じられる時代ではなくなった

箕輪:今までよりつらいし、今までが本当にゆるかったんだと思う。僕が言うのもなんだけど、新卒で入って、あとは言われたことをやっていればよかった時代ってゆるいですよね。逆に言われたことをやりたくない僕みたいな人は、その人生のほうがつらかった。

「奴隷の幸福」という言葉があるんだけど、与えられたものをやっていればいいという、ある意味奴隷的な幸福が今はなくなって、自由競争になってしまった。

「そんなの受け入れられないよ」という気持ちはわかるんですけど、否が応でもそうなってしまったんですよね。だから上や会社を見るんじゃなくて、市場を見る。そうすれば超自由ですよ。

:おもしろいですよね。箕輪さんは、会社と個人の働き方の関係の話をしているときに、「会社が」という話は一切しない。「お前がどう変わるんだ」「ビジネスパーソンとしてどう生きるんだ」という、自分中心の、主体性をフォーカスすることに振り切っている。

箕輪:それはそうですよ。だって本当に極端な話、会社を通さずに僕とホリエモンが組んで本を作って、勝手に流通させちゃえば売れるわけですよ。そういう世の中になってきているんです。すべての既得権益が溶けていって、「誰がなにをやるか」の「誰」が強くなってきている。そこで勝負するしかないですよね。

:そうですね。さっき自分は「不安で毎日飲んでいます」と話したんですけど、私、けっこう不安な状況が好きで。逆に不安がない状況はやばいなと思って、あえて飛び込むところがある。なんだか、そのやばい状況でしか成長できないところがあると思って。

箕輪:それはそうですよ。

関わる人が増えると、それだけ波及効果も大きくなる

:そんな中で、箕輪さんは個人じゃなくてチームの方向にいっていますよね。若干しんどそうに見えるところもあるんだけど、あえて1人でやっていかずにチームや社会を見て、そこに自分を持っていっているのは、どういう思いなんでしょうか。

箕輪:それはちょっとわからないですけれど、個人でやると本当に影響力が小さくて。関わる人の数だけ影響力が大きくなるので、それを拡大している感じですね。僕が「これをやりたい」と思って1人でやると、クオリティがいいソフトは生まれるかもしれないけれど、それだけ。

でも1万人で作れば「1万人×そいつの影響力」の波及効果がある。関わる人を増やそうというのは、単純にできるだけ大きな一歩を与えるための手段としてチームメンバーを増やしている、というところがありますね。

:その編集室を動かしてきて、今2年くらいですか。

箕輪:はい。

:その中でいいこととして、若手がどんどん育ってきて、できることもどんどん増えてきたと。逆に苦しかったことやつらかったことはありますか? 

箕輪:それは1個もないですね。箕輪編集室に関しては、本当に1個もないかな。苦しかったら「苦しい」と言うし、嫌だったら「嫌だ」と言うし。なんだろう、オンラインサロンって不思議だなと思うのは、みんなが程よい距離感だというか。

今日は会場のみなさんの年齢層が高いから違うと思うんだけど、学生向けのイベントだと本当にずっと話しかけられて、質問される。それは別にいいんだけど、終わって家に帰ったら「あのとき質問できなかったんですけど」というDMがたくさん来るんですよ。

「いや、そのときに質問しろよ、バカ」と思うんだけど、本当に延々と絡んできて。あれは擦り減るんですよ。ありがたいことなんですけど。

サロンの合宿でご神体化する箕輪氏

箕輪:箕輪編集室は、月5千円も会費を払って僕と一緒にがんばってくれる人たちだから、やっぱり僕のことをすごく理解してくれているんです。この前合宿をしたんだけど、部屋が寒かったんですよ。

エアコンのリモコンがちょっと遠くにあって、そこまで取りに行くには布団から出なきゃいけなかったんです。「俺、布団から出られないな」と思って布団にくるまって延々とYouTubeを見ながらずっと過ごして、1回もみんなと会わなかったんです。でも誰も怒らない。

「箕輪さん、疲れているからな。休んでください」みたいな感じなんですよ。俺が「あーっ」とあくびをして、起きて夕飯を食べに行っても、「俺、お化けなのかな」と思うくらい誰も俺に話しかけない。

(会場笑)

「見えてる? 俺だよ? 俺のサロンのみんなでしょ?」と思うくらい話しかけないんですよ。もうちょっと飲んでから、ゆるやかに話しかけるみたいな。そういう距離感みたいなのがね。それはちょっと遠すぎるんだけど(笑)。

(会場笑)

その距離感が程よいし、俺が怒ったらあれだし。だから1回もストレスを感じたことがないです。

:ご神体というか、生きる経営理念みたいなものでしょうか。

仕事量が増えると「得した」と感じられるサロン運営の魅力

箕輪:これはおもしろいもので、お金というのはある種、モチベーションを削ぐ道具だと思っているんですよ。会社員が10の仕事で「月30万円もらっていますよ」というときに、上司に12の仕事を振られると、+2のぶんを損したと思うんですよ。

でも、オンライサロンみたいに自分からお金を払っていると、10の活動をしていて今回それが12になったら、「よりコミットできて得した」と思うんです。要は能動性を引き出すんですね。

みの編(箕輪編集室)は「なんで箕輪と一緒にこんなことをやらなきゃいけないんだ」と思うやつは辞めていくので、すごく風通しがいいんですよ。会社は辞めたくても「ローンがあるから」とかで辞められないじゃないですか。

:みの編に対して、一般的な会社組織は新陳代謝が悪いと。

箕輪:そう、だから金のためにしがみつくんですよ。うちはモチベーションがなかったら辞めるので、常に全員モチベーションがある状態なんです。だからそこのストレスはないですね。

:今日この話を聞いて狂介さん(箕輪さんがアーティストとして活動するときの名義) のイメージが変わった方もいるかもしれないですね。

箕輪:キョウスケ?(笑)。

:(笑)。箕輪さんのことを勉強すればするほど、仕事人としてすごく勉強になっておもしろいんですよ。

第一歩を踏み出すときに、どう後押しすればいいか

:この話を聞いている、いわゆるザ・サラリーマンみたいな人に話を聞いてみたいなと思うんですけど、(会場を指して)○○さん、どうですか? 

質問者2:例えば「新しいものにチャレンジしたい」と思った人がいたとして、どこから始めたらいいのかなと。僕からすると、そういう人たちをどう支援したらいいのか。

その人にまず「とりあえずやりたいことをやれよ」みたいなコミュニケーションを取るとか、一度インストールする場を与えてあげるとか。そういうこと含めて、彼らにとってどういうスタートの仕方がいいのか、なにか教えていただけるでしょうか。

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