Fintechは日本の金融を変えたのか?

飯田哲夫氏(以下、飯田):それでは「Fintechは日本の金融を変えたのか?」ということで、スタートしていきたいと思います。今日はマネックスベンチャーズから(代表取締役の)和田さんにお越しいただきました。和田さんは投資をしていくという観点、私はクラウドというプラットフォームを提供していく観点ということで、それぞれFintechに対する見方は違うところがあるかと思いますけれども、議論を深めていきたいなと思います。

内容ですが、最初にパネラーの紹介、そのあとディスカッションに入る前に、少し議論の前提として、Fintechのトレンドのポイントをいくつか振り返ってみたいなと思います。そのあとに、和田さんにいろいろ質問をしていくかたちで、Fintechの現在と、これからどっちの方向へ進んでいくのかについて話を深めていけたらと思います。

最初にパネラーの紹介です。まず、マネックスベンチャーズ代表取締役の和田さんから、簡単に自己紹介をお願いできればと思います。

和田誠一郎氏(以下、和田):マネックスベンチャーズの和田と申します。よろしくお願いします。

(スライドの)写真は、なんだかいけ好かない感じで撮っているものです(笑)。あまり登壇する機会をいただくことがないので、今日はすごく楽しみにして来ました。

キャリアのバックグラウンドとしては、大学を卒業したあとに、5人くらいの人材系のベンチャーに入りまして、そこで2年ほど働きました。その後、ドワンゴというニコニコ動画などをメインにしている会社の子会社で上場準備をするプロジェクトがあるということで、そちらに転職しました。

そのプロジェクトに2年半くらい携わったあと、ニコニコ動画のゲーム事業ということで、新規事業を担当して、月商数千万円くらいのサービスを作りました。

そのころ、グリーさんやディー・エヌ・エーさんが全盛期で、彼らのコンテンツの売上は月商数億の時代。(ドワンゴの)代表の川上さんが「こんなもの続けられない」ということで、サービスを閉じることになったのをきっかけに、マネックスにジョインしたのが2010年です。

そこから3年くらいのスパンで、僕自身にとってエポックメイキングなことが起きています。まず入社直後に、アメリカの証券会社を買収しました。その3年後くらいに、株主が静岡銀行という地域金融機関に移ることで、オフラインとオンラインの融合、銀行と証券の融合という新規事業の立ち上げみたいなものがプロジェクトとして走りました。それが、マネックスベンチャーズという活動をスタートさせるきっかけになりました。

その約3年後、2018年6月ですが、マネックスベンチャーズの代表取締役になりました。これまではCtoCというかたちで、自分たちのお金だけで投資をしてきたんですけれども、そのタイミングで、私どももスタートアップのみなさまと一緒で、資金調達して外部のお金を使って、レバレッジの効いた投資をしようということで、2019年1月に約30億円くらいのファンドをレイズしています。

こうして、3年ごとにマネックスにおいて大きな動きがありました。象徴的な動きとしては、コインチェックの買収があるかなと思います。

マネックスベンチャーズとしては、2014年から主にFintechにフォーカスして投資してきました。現在のポートフォリオカンパニーの数としては30社程度になっています。内訳としては、だいたい10~15社くらいがFintechで、残りの15社くらいがそれ以外の領域で、投資の幅を広げている会社でございます。

どんな企業に投資しているか?

飯田:ありがとうございます。投資のステージ、あるいはFintech以外では、どういうテーマ性を持って投資されているのかなど、少し教えていただけますか?

和田:ステージに関しては、シード、アーリーというところですけれども、もう少し細かくお伝えすると、だいたい僕らのところにご相談いただくタイミングが、スタートアップさん側から見たらセカンドファイナンスのタイミングです。

今は、エンジェルラウンド、創業直後のところでは、個人のエンジェルの方、あるいはシードVCの方々の活動が活発です。数千万円のお金が比較的集まりやすい環境にあるのかなと思います。

そこから少しジャンプアップして、プレシリーズA、シリーズAくらいの段階になってくると、みなさんもよく耳にされるような伝統的なVCさんが、億単位のロットで投資をされるというようなかたちです。

その間の、プロダクトを作ってからマーケットフィットさせるところや、マーケットフィットはしたけれど、もう少しマーケティング活動して、その検証を深めたいなど、いわゆるスタートアップの谷みたいなタイミングで、我々にご相談いただくことが多いです。

バリュエーションレンジで言いますと、4億円から6億円のプレバリュエーションに対して、我々は3,000万円から5,000万円くらいの投資をしています。

歴史的に振り返っていくような話になってしまうのですが、2014年にはFintechにフォーカスしていました。金融機関系のVCないしキャピタル部門で、Fintechフォーカス、シード・アーリー特化と、この掛け算で投資しているプレーヤーというのはほぼ0でした。

我々はVCとしては後発でしたので、そのポジションをあえて取りに行ったことによって、2014年から2017年くらいの3年間では、ほぼFintechしかやっていません。

ホームページ等を見ていただくと、我々の投資先のポートフォリオカンパニーが全部載っているんですけれども、表面的には「これはど真ん中のFintechだよね」というものもあれば、表面的には「これのどこがFintechなの?」と思われるものもあります。

それには意図があります。2017年以降の活動につながっていくんですが、やはりFintech単体のサービスで、VCとしてリターンを出していくのは難しいなというのが私の学びです。ある一定の事業体を作るビジネスモデルやサービスが、ある一定の顧客基盤を持ったときに、そのあとにレバレッジとしてのFintechサービス、金融サービスというものがあるべきじゃないかなと思っています。

顧客接点を先に取れるようなプレーヤーと金融とのサービスの相性がいいと考えて、そういったところに投資を始めたのが、その3年間の後半のところです。2017年以降にその動きを加速させています。まずは顧客接点を取れるところ、そしてトランザクションが頻繁に起こるようなサービスを探して投資しております。

飯田:ありがとうございます。そうすると、単に投資先を個別で見ているのではなくて、全体像として見ながらやられていると。

和田:そうですね。

AWSで金融の事業開発を担当

飯田:私自身についても少し自己紹介させていただくと、私はアマゾン ウェブ サービス ジャパンで金融の事業開発を担当しています。

誤解のないように申し上げておくと、Amazonとしての金融ビジネスではなく、AWSというクラウドサービスを金融の領域で使っていただくという観点での事業開発を担当しています。

AWSに入社して3年目になるんですけれども、以前はISIDというSIerの中で企画部門を担当していました。そのときに、FIBCという金融、Fintechのピッチコンテストも担当させていただいたのですが、そのあたりからFintech領域に関わりを持っています。

ISIDで、FIBCの延長としてスタートアップに投資するということをいくつかやらせていただいていて、そのときに和田さんと一緒に投資させていただいた先がありました。それがMFSさんという会社です。

さっき「モゲモゲ」と言っていたのは、その会社のサービスが「モゲチェック」というモーゲージ、つまり住宅ローンの借り換えサービスで、借り換えができるかどうかをモゲスコアで評価しながらやっているんです。モゲというキーワードで、サービスが拡大しているところです。

グローバルのFintechトレンドを振り返る

飯田:ディスカッションに入っていく前に、Fintechのトレンドについて、グローバルと国内で見えているところを少し振り返ったうえで、議論を進めていきたいと思います。グローバルは、CB Insightsというレポートを出している会社から、ポイントをいくつか引っ張ってきています。

4点ほど挙げております。2018年、投資額は過去最大で39ビリオンドルくらいまで拡大している。一方で、この中の30~40パーセントくらいが、中国のAnt Financialです。投資の領域、資金を提供する会社というのも、欧米だけではなく、かなりアジア、あるいは中国にも展開してきています。

一方で、投資先に関しては徐々にアーリーステージからミドルステージの会社のほうへ投資資金がシフトしていきています。まだまだ規模的には、全体の50パーセント超がアーリーステージではあるんですけれども、以前は60数パーセントでしたから、ミドルステージへシフトしてきています。

サービスライン拡大へ向けた動きというのは、あるサービスからスタートしたFintechの会社が、買収や提携を通じてほかの領域へ範囲を広げていくことです。例えばRevolutというバンキングサービスをスタートさせている会社が、仮想通貨へ入り込んでいったり。

あるいは、Coinbaseという仮想通貨のエクスチェンジをやっている会社がありますけれども、こちらが個人向けだけではなく、機関投資家向けのサービスを開始するなど、そういったサービスライン拡大へ向けた、つまり次のステージへ広がっていくような動きが出てきています。

4点目が、Banking as a Serviceです。欧州を中心に、バンキングライセンスを取得して、実際に預金を預かっていくようなバンキングのビジネスをスタートし、さらにいろいろな会社と提携しながらエコシステムを作っていく。

Banking as a Serviceと言われる領域で、例えばN26というドイツの銀行、あるいはイギリスのStarling Bank、また先ほどのRevolutもそうですが、そういった会社がバンキングのビジネスへ入り込んでいくという、金融の本流のところへ展開していくような動きが出ているところが、海外の1つのトレンドかなと思います。

日本におけるFintechトレンド

飯田:では、日本はどうかということですが、去年非常に顕著だったのは、資金調達の大型化と集中です。和田さんのところでは、1案件数千万円くらいの案件、アーリーステージの会社さんが多いというお話でした。

確かに、Fintechの領域だと、数年前に同じタイミングで投資させていただいたところは、そのくらいの規模感で、多くても数億円。それくらいの調達金額が中心だったと思うんですけど、去年あたりから50億、60億円くらいの金額を、1回のラウンドで調達していくという、非常に大型の案件が増えてきている印象があります。

例えば、Origamiが66億円、freeeが65億円、FINATEXTが60億、FOLIOが69億円と、60億円台代が非常に多いのですが、そのくらいの案件が特定のところに集中していくような傾向があると思います。

とくにペイメント領域では、パワープレーヤーや海外勢の参入が顕著です。LINE、楽天、あるいはソフトバンクといったところが、モバイルのペイメントの領域で、QRコード決済にすごい資金を投下しながらビジネスを拡大していくという流れですね。

海外勢の参入というところは、先ほどのCoinbase、あるいは送金のTransferWise、あるいはバンキングのRevolutのような、大手企業が日本のFintech領域へ参入してくるという流れが出てきています。

一方海外ではBaaS、Banking as a Serviceという領域がFintechに担われているということがあります。日本だとまだBanking as a Serviceに自ら入ってくるFintechというものはおらず、大手のITベンダーで、例えばNTTデータがMambuというBanking as a Serviceのプラットフォームと提携して、日本に持ってくるという動きになります。

最近、富士通がFBaaSという、Banking as a Serviceのプラットフォームとなるようなソリューションを出しています。

逆に、それを採用しようとしているのは、必ずしもチャレンジャーバンクといった会社だけではなく、大手の銀行がセカンドブランドとして考えていたり、あるいはネットバンクが次のプラットフォームとして検討していくものとして出てきている。

資金調達の大型化と集中が起こっている理由

飯田:このあたりのトレンドで、なにかコメントはありますか?

和田:そうですね。あとあとのほうで出てくる話かもしれないんですけれども、なぜ資金調達が大型化して集中しているのかは、けっこう考えが分かれるところなのかなと思うんです。

単純に事業が大きく進捗し始めていて、必要資金がそれなりに大きくなってくる。当然、金融事業はかなり資本を食うビジネスモデルなので、そういった観点から必要資金をそれだけ多く調達しなければいけないという背景もあるとは思います。

一方で、投資はある意味で人気投票的なところもあるので、成果が出ているVCさんやそういった方々に相乗りする動きというのが多分にあります。そういった背景から、大型化と集中がけっこう加速しているのかなと見ています。

では、これからチャレンジできないのかという観点からすると、私はそうは思っていません。そう思っていないからこそ、シード、アーリーに特化してFintechを含めたスタートアップの支援をしていきたい。

Fintech領域においては、まだまだチャレンジできるところとして、どういったところがあるのか、これからいろいろお話できればと思います。マーケット全体でポテンシャルがものすごく大きいので、そういった意味では、まだまだ勝負できる領域というのは多分にあると思っています。

飯田:ありがとうございます。動きとしては確かに大型化、集中化みたいなことも起きていて、非常に大きなトレンドがFintech領域に起きている。そういう印象はあると言えばある。

実際に我々、会場にいるみなさんも、和田さんも、私も、一個人として金融サービスを使っているわけですが、本当に金利手数料が下がった実感があるかどうか。預金が投資へ移っていったのか。

大手の金融機関は本当にFintechに脅威を感じて動いているのか。脅威を感じてお客様の視点でサービスを再構築する動きが本当に出てきているのか。 

究極的には、我々の実感として、Fintechというサービスによってちょっと便利になったというレベルなのか、また、大きく生活が変わってきた実感があるのかという観点でいくと、正直を言って、まだまだではないでしょうか。

先ほど和田さんからも、まだまだ新しい投資先があるんじゃないかという話がありましたが、実感としては、まだまだ変わっていないんじゃないかなと思います。

Fintechとはそもそも何なのか?

飯田:この前提で、いろいろと和田さんに話を聞いていきたいと思います。今は、Fintechと当然のことのように言っていますけれども、そもそもFintechはどう始まって、何なのかといったあたりを、まずはコメントいただけたらと思います。

和田:みなさん、それぞれにいろいろな考えがあるのかなと思うんですけれども、私なりの考えとしては、弊社のグループの代表である松本もよく話すことで、もともと金融サービス、金融業界とテクノロジーというのは非常に相性がよく、金融の進化はテクノロジーで支えられてきた背景もあるということです。

その最たる例がデリバティブだったりします。例えば、そういった金融派生商品の発生の背景も考えてみると、それなりに複雑な計算が高速で回る環境がどうしても必要でした。それができるようになったのは、半導体の進化であったり、テクノロジーの進化によってもたらされた恩恵だと考えると、そもそもフィナンシャルとテクノロジーというのは、非常に相性がいい関係だということで、よく当社の中で話題になります。

そんな中で、トレンドキーワードとしてのFintechをどう捉えるのか。私としては、1つは民主化、もう1つがサービスのアンバンドル化であるとお話することにしています。

両方ともリンクする話なので、まとめてまるっと話します。ある特定の人しか使えないサービス、ある特定の人しか見られない情報を、どんどん、どんどん一般開放していくことを、私の中では民主化と表現していて、こと金融サービスにおいては、これが非常に顕著に表れていると思っています。

例えば、弊社の投資先で恐縮なんですけれども、ユーザベースさんが提供しているSPEEDAという経済情報分析プラットフォーム。あの類のものは、基本的には使いにくいものを使いやすくしたり、分析しにくかったものを分析しやすくしたりするものです。そういった「〇〇しにくいものを、〇〇しやすくする」みたいなものは、Fintechというか、民主化の1つの代表的な例なのかなとは思っています。

もう1つ、アンバンドル化みたいな話で言うと、さっきのBanking as a Serviceの話もそうなんですが、基本的に大きな資本を持っていることを前提として、いろんなサービスが設計されています。

だから、基本的な送金手数料だったり、我々にもっと付利されていいはずの金利がぜんぜん付かなかったりする。前提条件が、そもそもコストが高くて大きい資本が必要で、ジャイアントプレーヤーがやるゲームで成り立っているのが、これまでの金融業界では当たり前だったのかなと思っています。

そのうえで成り立っているのが、国内送金、海外送金、あるいはお金を借りる、お金の投資で、それぞれにおいて、コストがどうしても高くなってしまう。そこに、いろんなテクノロジーを武器に参入されているFintechプレーヤーのおかげで、既存の金融機関にしかできないと思い込んでいたことが、実はできてしまっているんです。

「意外とできるじゃん」みたいなかたちになっているのがFintechの流れであり、既存の銀行サービスのアンバンドル化という流れなのかなと思います。要は、サービスがまるっと一体で提供されるのではなく、エンドユーザーである顧客が使いたいときに使いたいだけ使える環境になっていっているんだろうなと思っています。

リーマンショックが転換点

和田:我々自身が証券会社なので、その流れと勢いを感じています。例えば、先ほど出ましたFinatextさんが最たる例で、証券会社として……例えば、これも社内でけっこう議論になる話なのですが、上場銘柄は3,000銘柄以上あるわけですが、そのすべてを1つの証券会社が取引できるようにしておく必要があるのだろうかと。これもけっこう大きな動きだなと思っています。

当たり前の話だったことが、実際は、もしかしたらそうじゃないよねと、みんなが考えを変えてきているというのが、新しいプレーヤーが出てきている効能なのかなと思っています。

証券会社として今後どうしていくべきなのかみたいなことを考えたときに、サービスのアンバンドル化をちゃんと捉えて、自分たちの強みが何なのかみたいなものを考えていくようなフェーズかなと思っています。わかりにくかったですかね? あとで質問いただければと思います。

飯田:ありがとうございます。Fintechを過去から遡ってみると、1つの転換点としては、リーマンショックがあるかなと思います。

とくにアメリカだと、あのタイミングで、大手金融機関に対する不信感が募って、和田さんがおっしゃった、自分たちが使いたい民主化されたサービスを自分たちで作っていくんだというトレンドから、Fintechの新しいサービスが生まれてきたのかなと思います。

クラウドの観点からいくと、ちょうどそれくらいのタイミングからAWSみたいなクラウドサービスが出始めたんです。AWSの最初のサービスはストレージサービスで、2006年にスタートしています。

それからだんだんサービスが増えていき、たぶんリーマンショックくらいあたりでだいぶサービスの種類も揃ってきた。スタートアップが、それこそアンバンドリングされた個々のサービスを立ち上げていこうとしたときに、大資本がなくても小さな資本があればサービスを作ることができるという環境が、実は組み合わさっています。

まさに、民主化が進められるようになってきたのかなというところが、テクノロジーの側面から見えてくるところです。

Fintechはすでに成熟期に入っているのか?

飯田:では、次の質問に行きたいと思います。先ほど背景のところでご説明したとおり、今の動きとしてアーリーからミドルへ、あるいは特定のところに集中するみたいな動きが出てきていると。もしかすると、Fintechの領域も一定の年数が経ってきて、成熟期に入ってきたんじゃないかという見方をすることもできるかと思います。そこはどうですか?

和田:みなさんがすごく想起しやすいFintechサービスでいうと、2013、2014年ごろから一巡したのかなと思っています。俗っぽい言い方ですが、Fintech1.0みたいに捉えるとすると、既存の金融サービスのUI/UXの改善みたいなところが大きな柱かなと思っています。

まずは送金がしやすくなる、投資がしやすくなる、というのはアクセスがしやすいということと、小資本で投資ができるようになるということで、そうしたUI/UXの改善がこれまでの流れなのかなと思います。

そうした領域においては、確かに先行者メリットが多分にあるので、先に走っていてより大きな資本を獲得して、他社の参入をどんどん排除していくゲームが有効です。そういうフェーズに入っているのかなと思っています。

その意味で、そういった領域においては成熟期に入っていて、今後そういったところにガチンコで戦いに行くというのはなかなか難しいゲームになるのかなと思います。

一方で、ホワイトスペースがまったくないのかと言うとそうではなく、そこは後発の有利性があるのかなと思っています。先人たちが築いてきた新しい道であったり、もしかしたらうまくいかなかった事例であったりを学んでいくと、いきなりFintechサービスのど真ん中でやっていく必要があるのかなとも思うんです。

例えば、先ほど投資の方針的なところでもお話しした内容で、ある一定の事業体になったあとに、Fintechサービスがテコになって一段上の事業体に成長させていくようなストーリーを描いていくと、そもそもWeb事業というのは、極論を言えばなんでもいいんですよね。

ユーザープールが作れて、ある一定の事業体になるまでのサービスがあれば、まずはそれをやってみて、将来的にそのユーザーに対して金融サービスが提供されることが適切だという判断ができれば、Fintechの領域に進出すればいいだけなのかなと思っています。

そういった意味では、新しいFintechへの取り組みのアプローチみたいなものが今後も出てくるんじゃないかなと思っているところでもあり、そういう意味で、Fintechというものを広義で捉えていくと、まだまだホワイトスペースはあるのかなと思っています。

金融資産に関する情報がたまりつつある

飯田:ありがとうございます。Fintechのサービスは、なんとなくもう1段来そうな感じがあるんですよね。例えば、マネックスベンチャーズが投資されているマネーフォワード。私も使わせていただいているんですけれども、どんどん情報が貯まっている感じがします。

私の情報だけではなく、いろんな人たちの金融資産に関する情報が貯まってきていて、もっといいサービスを提供してくれるだろうと。そのあたりはどうでしょう?

和田:そうですね。これは結果論になってしまいますけど、2012年にマネーフォワードが創業されましたが、社長の辻さんは当社の社員でもあったので、そのころからよく事業の成長を見届けてきました。

マネーフォワードというサービスを、単純な家計のサービスとして評価するのか、飯田さんがお話ししたような、将来的にデータが集約されていき、そのデータを活用した新たな金融サービスへの進出の可能性のある2段階くらい前のサービスと認識するのかで、ぜんぜん見方が違うと思います。

その意味では、今何をやっているのか、今提供している価値が何なのかみたいな表面的な部分にあまり縛られず、自社が提供するサービスにおいて、顧客がどんなデータを提供してくれるのか、またサービスを提供する側としてどんなデータが取れるのかみたいな観点でサービス設計をしていく必要があるのかなと思っています。

そうした、既存のFintechサービスと言われる、Fintech1.0のプレーヤーの方々が提供しているサービスが、今の時点ではど真ん中というような見立ててですけど、もしかしたらこれは3年後にど真ん中ではなく、もっと周辺にすごい可能性があったよね、なんてことになるのかなという可能性もあります。

私たちの生活を変えるFintechとは何か?

飯田:僕らの生活を変えるFintechについて、次のステージとして来るであろうものは、どんなものを想像されますか?

和田:私も含めたエンドユーザーとして、Fintechサービスを使っているなという認識はもはや持たないものが増えてくるんだろうなとは思っています。

例えばよくある話で、お金を借りようと思って、じゃあどこへ借りに行こうかみたいな行動パターンは、なかなか見えないと思っています。ともすると「お金が借りやすいです」、あるいは「このアプリを使えば低金利のお金が借りられます」みたいなアプローチをしていくと、当然その対象となるユーザーはすごく限定的になりますよね。

一方で、例えば「うちで物を買ってくれたら、将来的には何かいいことがあります」みたいなかたちで、とりあえずうちで物を買っておいてください、というのをどんどん積み重ねることで、将来的にお金を借りるのに便利だったよねとか、あるいは投資のチャンスがそこで生まれたりといったサービスが出てきてほしいと思っています。

そういった意味では、結果的にお金を借りるためにそのサービスを使っていない。物を買うためにサービスを使っていて、結果としてお金が借りられたといったつながりやユーザー行動みたいなかたちになってくるんだろうなと思っています。

お金を借りるFintechサービスはこうであるべき、みたいには思っていない。どんどん日常的に使われているサービスとして、行動パターンの中に溶け込んでいくものが結果的に生活をよくしていき、我々の生活を劇的に変えるスパイスになっていくと考えています。

飯田:金融そのもの、ど真ん中でいくというよりは、生活が先にあって、その裏側に金融がくっついてくる。そういうイメージですよね?

和田:そうですね。

飯田:最近、住信SBIネット銀行が設立10周年を迎えましたが、「さよなら、銀行。」というコンセプトで、銀行としての存在を裏側へ消していこうみたいな流れがあります。

もう1つ例を挙げると、シンガポールのDBSという銀行が、すごくデジタル化で有名な銀行なんですけれども、標語として掲げているのが「Make DBS invisible」ということで、やはり裏に引っ込んでいこうとしているんですね。

銀行サービスの周辺にAPIを張り巡らせて、いろいろな会社さんと連携していきながら、その後ろへバンキングサービスを引っ込めていこうみたいなトレンドが1つあるかなという感じがします。

日本のスタートアップ・VCはどちらへ向かうべきか?

飯田:では、話を先へ進めます。我々の生活により密着していくような金融サービス、次のFintechを作っていこうとしたときに、その文脈の中で日本のスタートアップの会社、あるいはお金を出せるVCなどは、アイデアや考え方をどのように進めていくのがいいのでしょう? 

和田:すごく個人的に、スタートアップする方に期待したいところについてです。金融業界のマーケットサイズは何兆円みたいな世界で、そこに対して、ど真ん中のサービスをぶつけて、その1パーセントなりを取れれば数百億程度のマーケットサイズが取れますといったプレゼンが非常に多いなと思っています。そういったゲームにチャレンジできる環境だったのが、2014年から2017年くらい。

これからの流れとして、僕としては、サービスのアンバンドル化の流れに則って個別の金融サービスに特化して、尖ったものを提供する方々に会いたいなと思っています。

そうすると、単純にマーケットサイズが大きくてうんぬんかんぬんみたいなプレゼンにはならずに、「自社サービスのエッジの効いたポイントというものが、こういう流れで、ここのユーザーが、このサービスを使ってくれるんです。その結果、こういったマーケットにアプローチができるんです」といったものになる。手段と目的が逆転してほしいなと思っています。

マーケットが大きいから、そこにチャレンジしていく。テクノロジーならけっこう解決できることがありますと。でも、そうではなくて、そもそもこれって必要なのかみたいなところから、先ほどの生活の中に入り込んでいくような金融サービスを、全体として、パッケージとして考えられているようなものに出会いたいと思っています。

その意味では、「このサービスって何なんですか?」という問いかけに対して、例えば「ダイレクトなモバイルアプリで、隣の人に簡単に送金ができるんです」といったものは、僕としてはもう厳しなと考えています。

それよりも、送金するきっかけを生むサービスであったり、例えばメッセージと一緒にお金を送れば……すごくダサいアイデアですけど、なぜその金融サービスを利用することになるのかみたいなコンテキストで、もう少しユーザーサイドにというか、普通の一般的な行動に落とし込んだうえで、金融サービスが溶け込んでいくようなサービスをすごく求めています。

そうすると、我々が提供できる価値としては、金融サービスを提供する上での難しさであったり、どうやっていくべきかみたいなところは多分にアドバイスできるのかなと思います。

生活に根ざしたサービスから切り込んでいくべき

和田:一方で、個々人における、お金に関わらないなにがしかのトランザクション、コミュニケーションといったものを設計していくということは、我々の出自からすると非常に苦手なところですので、そういったところをスタートアップの方々に担っていただいて、一緒になることで新しいフュージョンみたいなものができるといいなと思っています。

飯田:言い換えると、今ある金融サービスがクラウドを使うと安くなりますとか、ちょっと便利になります、あるいは運用でAIを使えばコストが下がるので、今までよりもよくなります、みたいなものはもう一通り終わりましたよということですね。

和田:出切ったかなと思います。

飯田:そうすると、もう1回僕らが本当に欲しいものは何かというところから見直して、サービスを作っていくのが求められているということですね。

和田:よく海外事例を参考にされて、それを日本に持ち込むビジネスモデルもけっこうあると思うんですけれども、「日本×Fintech」みたいな領域においては、それは効かないなと思っています。

みなさんもそうだと思うんですけど、日々の生活において、そこまで金融サービスに対するペインはないと思うんですよね。そうすると、海外、とくに新興国系のサービスで、日本に持ち込めばこういうことができますよねと思っていても、前提条件がまったく異なっている。

新興国の人は、基本的に銀行にアクセスできないし、みんなが銀行口座を持てないという前提なんですよ。その差はけっこう大きい。そういう文脈では、タイムマシン経営みたいなものはぜんぜん合わないマーケットだと思っています。

だからこそ、金融サービスでドーン! みたいなものではなくて、生活に根ざしたサービスから入り込んでいくことが重要なんだろうなと思っているところです。

Fintechのステークホルダーは何をすべきか?

飯田:最後の質問になります。それ以外のステークホルダー……金融だと、当局もあれば、金融機関もあり、最近だと事業法人もかなり金融に入ってきていますが、彼らが果たすべき役割はどのあたりにありますか?

和田:何度も同じ表現をして申し訳ないんですけど、サービスがアンバンドル化されていくと、結局は自分たちの提供できる本質的な価値は何かを考えなければいけなくなってくる部分があるんですよね。

我々は証券会社なので、証券会社が提供できる本質的な価値は何なのかなと考えてみたときには、やっぱり適切なかたちで、適切な値段で取引してもらい、その結果をしっかりと管理するのが、証券会社というか、金融機関の果たすべき本質的な役割なんだろうなと思っています。そこにどんどん特化していくというか、そこに強みを発揮していく必要があると思います。

その意味で、証券会社が信用取引という文脈でエンドユーザーに対してお金を貸すわけですけれども、それ以外の文脈で、銀行さんがやっているようなレンディングの機会を模索するのは、もはや難しいなと思っています。自分たちが果たすべき役割に注力して尖っていくことが必要なのかなと思います。

そうすると、アンバンドル化されたサービスにおいても、さまざまなプレーヤーがそれぞれに尖ったサービスを提供してくれますよね。そうなると、最終的にはエンドユーザーに対して、これまで以上にすばらしいサービスが提供できる。

価格が安くなったり、使いやすくなったり、そういったさまざまな効能を提供できるんじゃないかなと思っています。

一方、対当局となると、なかなか難しいなと思いますが、だいぶ開かれてきているとも思っています。実際に起こってくるであろうマイナスの事象や、消費者に開放しすぎた結果、不利益を被る事例がどんどん出てきてしまうと、閉じる方向になっていくと思います。しかし、今はまだかなり開いた状態だと思いますので、引き続きそういったスタンスを維持していただけるとありがたいなと思います。

こと事業法人さんにおいても、彼らの持っている強みはなにかしらあるはずなので、そこと既存の金融機関とのコワークであったり、スタートアップとのコワークを通じて、新しい価値を生み出してほしいですね。

ブロックチェーンスタートアップへの投資基準

飯田:ありがとうございます。そろそろ時間になってきたので、会場からの質問を1つ取り上げてみたいと思います。和田さんへの質問で「ブロックチェーンを使っているスタートアップに出資されていますか? 出資されている場合は、どういうポイントで出資を決められたのですか?」ということですが、いかがでしょうか?

和田:出資をしているか、いないかで言うと、出資しています。具体的には、キーチェーンという会社でして、ブロックチェーンテクノロジーを活用したセキュリティプラットフォームを提供している会社です。

もともと2013年から2014年くらい、ビットコインがまだ1枚1万円くらいのときだったと思うんですけれども……マネックスベンチャーズの投資判断には代表の松本は一切関与しないんですが、そのときに1つだけ「(ビットコインの)取引所に投資をするな」と言われました。「取引所が儲かるのであれば、そもそもビットコイン自体の価値が上がっているはずだから、そこに投資するお金があるならビットコインを買っておきなさい」と。

我々は、業務の定款上の問題でビットコインを買うことができなかったので、マネックスグループ本体のほうで一定のポーションで実際に買っていました。どのタイミングで売ったかは知らないんですけど、まあ儲かったと聞いています。

その意味では、我々は取引所ビジネス自体に投資をするのではなく、テクノロジーが汎用的であることが大切なのかなと思っています。

これからのIoT時代やエッジコンピューティングの時代の流れを考えたときに、キーチェーンのプロダクトの汎用性を評価して、投資させていただきました。

飯田:仮想通貨そのものの観点でいくと、本体側でいろいろ投資されているけれども、ベンチャー投資の観点でいくと、それが汎用的なサービスとしてのブロックチェーンの可能性に投資をしているという捉え方ですかね?

和田:そうですね。

適切なやり方は今後変わっていく

飯田:これから起業を考えられている方や、そういうタイミングにおられる方、Fintech領域で何かやろうと考えられている方に、和田さんからメッセージをいただけたらと思います。

和田:どうしてもFintechは、けっこう大人のゲームが必要になってくるんですよね。監督官庁とうまく渡り合うみたいなことも重要になってくるので、ど真ん中を攻めていくというのは、なかなかスタートアップにはしんどいゲームだなと思っています。

その意味では、そういったところを攻めに行かずに、尖って……何回も同じことを言うんですけれども、ど真ん中のFintechサービスを作るのではなく、もっと生活に根ざしたサービスを作って、その結果、Fintechに入っていくというアプローチでチャレンジしていただきたいなと思っています。

そこには必ずホワイトスペースがあります。KDDIさんも含めて、金融事業を評価したり、事業会社の方々が金融にどんどん参入してくる流れというのは、結局はそういうことだと思うんです。

金融マーケット自体はすごく魅力的なマーケットで、ビジネスとしても適切にやれば必ず儲かるビジネス領域ではある。ただ、適切なやり方というものが、これまでとはぜんぜん違うものになってくるんだろうなと思っています。そういった観点でチャレンジいただいて、そのときにはマネックスにご相談いただけたら非常に嬉しいなと思います。

飯田:今日は、和田さんは最後までいらっしゃいますか?

和田:はい、おります。

飯田:もし今日の話を聞いて「ぜひ」という方は、和田さんを捕まえてご相談いただけたらと思います。その際、クラウドはAWSでお願いできたらと思います(笑)。今日はどうもありがとうございました。和田さんに拍手をお願いいたします。

和田:ありがとうございました。

(会場拍手)