スポーツ界から学ぶリーダーシップ

真田茂人氏(以下、真田):それでは進行役だけ簡単にさせていただきます。今からのお時間は、大きく4部構成になっています。最初に鈴木先生からお話を頂戴します。今回、スポーツにおけるリーダーシップがテーマになっていますが、少し大局的な観点でお話を頂戴したいと思っています。

その次に東海林先生のほうから、より具体的・実践的なお話を頂戴します。その次に、共通のクエスチョンをいくつか用意しておりますので、お二人の先生から見解を頂戴できればと思います。

最後、会場のみなさまから質問をお受けして、会場全体で一緒に考えるような時間にできればと思っております。それでは鈴木先生、さっそくお願いできますでしょうか。

鈴木寛氏(以下、鈴木):おはようございます。鈴木でございます。今日はお招きいただきまして、ありがとうございました。真田さんとはもう10年を超える、サーバントリーダーシップ協会立ち上げの頃から本当に素晴らしい活動をしておられるなと思っている、友人でございます。

今日は一見部外者のように思われるかもしれませんけども(笑)、私は青山学院とは大変深いご縁がございます。

(会場笑)

家族親戚にも青学が多数おりますし、私の祖父が、青山学院の兄弟校であります名古屋学院の理事長をいたしておりました。東京に青山学院、名古屋に名古屋学院がございます。ですので、私は東京に来た時にはここにお邪魔していたそうで(笑)、生まれた時からよく青山学院のことを聞いて育ちました。そういう部分でもある意味でホームに帰ってきた感じで(笑)、やらせていただきたいと思っております。

それで今日は、とにかくみなさんからいろいろなご意見、あるいはご質問をいただきたいと思います。とにかく私は話が長いので、極力短くさせていただきたいと思っております。

ということで、若干導入をお話させていただきました。私はプレーヤーとしては3流なんですけども、中学・高校からサッカーをやっておりまして。これは人生で最大の私の自己肯定感の源泉なんですけども、マネージャーとして神戸市1部リーグで優勝いたしました。

相手チームは、のちにガンバ大阪のJリーガーにもなられる永島(昭浩)さんや、ヴィッセル神戸の監督になられる和田(昌裕)さんなどを擁する強豪校でした。それと引き分けたり、勝ったりして、なんとか優勝することができました。それが今日本サッカー協会の理事をしている原点でもございまして(笑)。

そのときに私がおりました灘高校には、監督がいなかったんですね。顧問はいたんですけども、全部キャプテンの西川弘君と、マネージャーの私とで、練習方法から試合の日程から試合の交渉からやって。私、兵庫県高校サッカー協会の事務局に相当貢献したんですけども(笑)。

今振り返れば、青山学院の原(晋)監督がやっておられる、生徒や学生が自ら考えて自ら作るチーム作りをやっていたのかなと思います。その時の体験が、本当に私のベースになっております。

「3勝2敗」の人生を送る

私はそのあと通産省に入りまして、Jリーグの立ち上げや、2002年日韓サッカーワールドカップの招致、そして2002年の時は組織委員会の委員も1999年、1998年から務めました。

そのあとは東京オリンピックの招致。1回目は失敗し、2回目で成功いたしました。それから2022年のサッカーワールドカップの招致。これはカタールに負けました(笑)。

そして今年はまさにラグビーワールドカップでありますが、その招致。そういう国際的なサッカー、あるいはラグビー、あるいはオリンピック、パラリンピック、こうした招致に携わってまいりました。私、「人生3勝2敗」というふうに言ってるんですけども(笑)。そういう人生を送ってまいりました。

そういうスポーツの施策に携わるということだけじゃなくて、私の大学での教鞭、あるいは通産省での仕事、そしてもちろん国会議員の仕事、文部科学省の幹部としての仕事、その原点にあるのが私自身「スポーツだな」と感じております。

私もいろいろなスポーツ関係に携わっておりますけれども、スポーツは本当に人材育成や組織論などで、いろんな意味での最先端を行っているなと。良い部分も悪い部分も含めてですね。

それからスポーツをずっと見てると良いのは、例えばノーベル賞というのは、受賞されるのが70歳とかですね(笑)。

結果が出るのに時間がかかる。……もちろん理数教育はすごく重要なんですけども。理数教育がうまくいったかどうかというのはある意味で、それこそ3歳ぐらいから理数を始めて、結論が出るのは70歳とか80歳とかですね。結果が出るのに、それぐらいかかっちゃうわけですね。

スポーツの場合は、ある意味でそのサイクルが短いと言いますか。だいたい20代中盤ぐらいには、スポーツ人材としての育成に成功したのかどうなのか、ということの結論が出るわけですね。

そうすると自分たちがやってきたことの評価、まさにPDCAサイクルを回せるスピードが、だいたい10年、15年ぐらいでやっていけるわけですから。

そういう意味で、いろいろなトライアルと、そしてそこからの学びというものが、スポーツを通じて……とくに私は人づくり、あるいは健康ということをテーマにやっていて、非常に学ぶところが多いし、活かすところが多いなと感じております。

パブリックスクールがリーダー育成を担う

スポーツの教育効果ということで、今年はまさにラグビーワールドカップでございます。実は先週たまたま、イギリスのラグビー校の校長先生が日本に見えておりまして、私もお会いしました。

教育とスポーツというものを結びつけたのは、イギリスのパブリックスクールです。これ「パブリック」スクールと言いますけど、私立です。一番最初はウィンチェスターという学校が1300年代に出ております。

イギリスには9つのいわゆる名門中の名門のパブリックスクールがありまして。そこでの教育というのは、いわゆる知識・技能だけではなくて、むしろスポーツだとか、あるいは芸術だとかが重要視されます。そしてもちろん学校には、すべてチャーチが真ん中にあってですね。

そういう全人格的教育をしてきて、世界史を作る。それぞれの分野でいろいろな世界の歴史を作る、まさに「リーダー」を輩出してきた。そのもっとも実績のあるのがパブリックスクールだと申し上げていいと思います。

そのパブリックスクールの教育の中心には、まさにスポーツというのを明示的に位置付けているわけであります。

パブリックスクールに行きますと、ラグビー場が5面とか6面あるというのは当たり前で(笑)。場合によれば10面ぐらいあったりですね。そういうものすごく恵まれた環境の中で、子どもたちは育っていくわけであります。

とくにイギリスの場合は、フットボール、あるいは乗馬、あるいはセーリングと。こういったことを通じて、まず個々をどう磨くのかということと、それから仲間・チームですね。

スポーツも大きく申し上げれば、要するに個を磨くということですね。磨かれた個がどういうふうにチームとしてシンクロナイズドして、1+1が3になり5になり10になるかと。こういうことを通じて教育しているんだと思います。イギリスにその教育効果を見ることができるわけですね。

その中で、青学ご出身の岩渕(健輔)さんも、7人制ラグビーの総監督になられましたし。それから日本代表のずっとGMを長らくやっておられまして、私も故平尾(誠二)さんと大変仲良しでしたが、日本ラグビーの原点は青学ラグビー部が作っていると(笑)、支えていると申し上げても過言ではないと思います。ラグビーがその象徴であります。

ほかの話もいろいろしたいのですが、サッカーの話をしだすと3時間ぐらい話すのでやめますが。

(会場笑)

「One for all, All for one」の精神

ラグビーの一番有名な評語に「One for all, All for one」という言葉がございます。これこそまさにサーバントリーダーシップそのものでありまして、そういうことをずっとラグビーを通じて教えながら、リーダーが育っていると。こういうことであります。

日本におきましては、日曜日の8時からNHKで『いだてん』というのも始まっております。これで私は説明がだいぶ楽になったわけですが(笑)。近代のリーダーシップ教育とスポーツとの関係というものを日本に持ち込んだ人物が、『いだてん』の主人公の一人であります、嘉納治五郎という方でございます。

嘉納治五郎先生は、筑波大学の前身であります東京高等師範(学校)の校長を、本当に長くおやりになった方であります。それから文部省の局長もその当時おやりになりましたし。若い頃は学習院の教頭先生とか、第一高等学校の校長、それから第五高等学校、今の熊本大学でありますが。一高というのは東大の教育学部ですね。

学習院や東大や熊本大学、そして筑波大学の前身にお勤めになって、人生の最後にお作りになったのが、実は灘高校でございます。それと同時にご案内のように、柔道の講道館の創設者であるのが、嘉納治五郎先生なわけですね。

嘉納先生は「精力善用」「自他共栄」というコンセプトを講道館でも掲げられましたし、これはどこへ行ってもそうですね。東海林さんがお詳しいと思いますが、筑波大学に行っても、あるいは灘高校に行っても、この二つを教育の柱として。これは柔道の柱だけじゃなくて、人材育成の柱としてですね。まさに「自他共栄」ということをずっと言ってきた人でありまして。

『いだてん』でたぶん明日、ストックホルムのシーンが出てくると思いますけれども(笑)。大日本体育協会という、今のJOCだとか、日本体育協会が日本スポーツ協会という名前に変わりましたけれども、それの前身を嘉納治五郎が作ったり。

日本のスポーツの祖とも言われておりますし、それから日本は1940年に東京オリンピックの招致に1回成功しております。これは戦争で返上しますけども、その時の招致をしていて。そしてアジア人初のIOC、国際オリンピック委員会の理事でもあったわけです。

まさに軍部が軍事教練を通じてトップダウン型のリーダーシップと言いますか。そうしたガバナンスの中でずっと一貫して、まさにサーバントリーダーシップ的な人材育成を貫いてこられた。

ちなみに灘高校は、戦時中に英語が敵性語として教育が禁止された時にも、まさに軍部に対抗して英語教育をやっていた、ということもありまして。あるいは中国からの留学生の受け入れなどもしていた。ある意味で非常にコスモポリタンな方であったわけですね。そういう歴史がございます。

従いまして筑波大学は、東海林さんを始め、日本中に優れた体育指導者を輩出したと。そういう流れになっています。

20世紀のリーダーシップ論

あと競技別ということで、おもしろい研究がありまして。これは東海林さんのほうがお詳しいんですけども、大きく言うと、チームスポーツと個人スポーツがあると。

ただ個人スポーツにしても、1人で戦えるわけではなくて、そのチームを支えてくれるいろいろなコーチやトレーナーの方などがいて、初めて成り立つわけですね。サッカーやラグビーは、長男・長女が活躍しているケースが多くて(笑)。

(会場笑)

個人種目は末っ子が活躍してることが多い、ということもあったりですね(笑)。

それからラグビーの場合は、体格のいい人が務めるポジションと、小さくても足の速い人が務めるポジションと、いろんなポジションがございます。いろいろな適材適所、そして多様な能力・資質・才能を持った人たちが、チームを構成することによって、掛け算の力を発揮していくと。そのようなことをやって、できているわけであります。

各国の違いという面で、スポーツの大国というと、今はアメリカということになります。アメリカはある意味では、非常に近代的といいますか、合理的といいますか。かなりタスクが細分化されていて、例えばアメリカンフットボールなんかは典型で、コーチが外に行って全部見てるんですね。

それで非常に細かい、それぞれのディレクション・指示が、がんがんインカムで飛ぶ。選手はそれをしっかりDo(遂行)すると。こういうかたちで、ある意味では20世紀の工業化とアメリカンフットボールとは、極めて似ているわけであります。

今、スポーツ界自体がリーダーシップのあり方をものすごく転換しようとしている。いわゆる、こういう工業生産型のリーダー、あるいは軍事教練型のリーダーは、20世紀のリーダーの特徴でありますけども、リーダーシップ育成といえば、例えばアメリカ海軍の士官学校の教科書。これが非常にベースになっているわけですね。

それともう一つはテーラーシステムという、フォードの大量生産システム。これが社会において極めて重要で。軍事と工業生産というアクティビティをどういうふうによくしていくか、というのが20世紀のリーダーシップ論の基本でありました。

21世紀、Empathy・Sympathyが人の仕事になる

しかしながら21世紀は、先ほど真田先生もおっしゃったように、もうそういう話はAIにやってもらえばいいわけですね。大量生産・大量消費・大量流通というのはね。

むしろ人と人とのコミュニケーションだとか、人に寄り添うだとかですね。そういう合理性や論理だけではカタのつかない、EmpathyとかSympathy(注:ともに「共感」の意)ということが人の仕事になっていくと。これは後半で述べたいと思いますけど、私もAI時代の教育ということをやっています。

そうなった時に、人の有り様、リーダーシップの有り様というのを徹底的に変えていかなきゃいけない。そうなった時に、もう1回スポーツの原点に還る。従ってアメリカではなくて、もう1回ヨーロッパの原点に還ると。

ラグビーでは監督は試合中どこにいるか? 観客席にいるわけですよね(笑)。メンバーを決めたら、あとはプレイヤーに任せる。次どういうふうに攻めるのか、どういうふうに守るのか、というのは監督がいちいち指示するのではないですね。

アメリカンフットボールは、フォーメーションまで完全に指示しますけども、そうじゃなくて自分たちで考える。現場で考える。仲間同士で考えると。これがまさにラグビーの特徴であります。

そういうふうな原点に立ち返りながら、加えて新しい21世紀の要素というものを考えていく。こういう時代の変わり目というのは、常に原点回帰ということでありますので。そういう中でスポーツというもの自体が今変わってきています。

スポーツでのリーダーシップの変化と、世の中の変化と、そしていろいろな企業や組織のリーダーシップの変化というものを、同期させて見ていくことが非常に有意義ではないか、というふうに思っております。

私からは以上でございます、ありがとうございました。

真田:ありがとうございました。

(会場拍手)

まだまだお聞きしたいことがいっぱいあるのですが、このあともお時間がありますので、またお話いただければと思います。