イカはカムフラージュの達人である

ハンク・グリーン氏:イカはかくれんぼの名人です。イカは一瞬で自分の周囲の色、コントラスト、質感までもコピーすることができるのです。

しかも夜の暗闇であってもそうすることができます。イカはカモフラージュの名人です! イカの技術でとても驚かされるのは、イカが色盲であるにもかかわらずそのようなカモフラージュができるという点です。イカが色盲であるという事実はしばらく前から知られていました。

20世紀初頭には白熱した討論が行われましたが、生物学者がイカの目を解剖して、視色素が一つしかないということを発見することにより、その討論は終わりました。視色素が一つしかないということは、イカには白黒しか見えていないという可能性が濃厚になったのです。

それでも、それを論証するために、科学者たちは近年イカのカモフラージュの能力を、さまざまな色や明るさの市松模様を用いてテストしました。すると、色の濃さが同じ場合、イカはそれに溶け込むことができませんでした。それで、イカはそれらの色の違いを見分けることができないようでした。

イカやタコなどの頭足類が、自分は見えないにもかかわらず、周りのカラフルな模様をコピーできるのはなぜかという疑問は、何十年にも渡り科学者たちを当惑させ、大胆な仮定を提唱させてきました。

例えば、イカは目よりも皮膚でものを見ているという説がありますが、この説はもしかしたらそんなに的外れなのではないかもしれません。イカは光を感じ取ることのできる、「オプシン」というタンパク質を皮膚全体に持っています。

オプシンは通常眼球にあり、光を感じることのできる分子なので、研究者たちは皮膚に存在するオプシンが動物に、カモフラージュするために必要な色を知るための「視覚」を与えているのかもしれないと考えました。この理論は1930年に行われた研究結果を支持するかたちとなりました。

その研究では、その能力は「若干弱まる」ものの、頭足類が片目、または両目をなくしても体の色を変えることができることがわかりました。

しかし、5年間にも及ぶ骨の折れるような研究がなされたにもかかわらず、科学者たちは未だにはっきりとオプシンというタンパク質が、イカのカモフラージュの能力とどのような関係性があるのかを解明できていません。

そこで2016年、科学者たちはまた新たな仮定を提唱しました。彼らは、イカは思われてきたような色盲ではなく、「色収差」を用いて色を見分けることができると述べたのです。「色収差」とは、異なる光の波長がレンズを曲がって通るので、さまざまな色の光が異なる距離で焦点に集まるという現象です。

この現象が起こると、写真に虹色の縁取りのようなものが写ってしまいます。

イカのように瞳孔が中心からずれているとこのような「色収差」が、カメラのレンズのように生じてしまい、しかもそれはかなり強く現れます。

もしイカが焦点をずらすことができ、それにより赤、黄色そして青を分けることができれば、カモフラージュするために周囲の色を直接見る必要がなくなります。この説の現在の問題点は、この仮説はコンピューターモデルによってしかテストされたことがないという点で、そのため、多くの科学者たちは納得していません。

実際これらのアイディアは、動物が全く光のない夜でもカモフラージュできるのはなぜかという疑問の答えにはなっていません。ですから今のところ、色盲の頭足類が変装の達人になれるのはなぜかという疑問は謎のままです。少なくとも私はその点に感心してしまいます。