2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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稲谷芳文氏(以下、稲谷):しばらくの間、今のお話に基づいて私のほうから。たぶん今日来られているみなさんは、イノベーションとかビジネスとか、いろいろなご関心を持って来られていると思いますので、そこにつながるようなお話ができたらなと思っております。
まず最初に、ジムさん。サイエンスとビジネスの世界を結びつけるために、いろいろなことを月で知らないといけないという意味で、まず水があるのかないのか。「どこにあるのか?」が大きな話題になっていますが、NASAのサイエンスを代表して、ギャランティがあるのかどうかわかりませんけど(笑)、ジムさんのコメントをうかがいたいと思います。
ジム・グリーン氏(以下、グリーン):月に関して非常にめざましいのは、やはり「水の発見」ですね。これは革命的なことです。
その単純な理由としては、アポロが持ち帰ったサンプルは非常に乾燥していたんです。月の極域には、自転しても太陽光の届かない、常に日陰となるクレーターがあって、観測の結果そこにおそらく何十億年ものあいだ貯め続けられている水があるとわかったんです。
蓄えられた水はさらに発見されています。この水は自由水であり、太陽放射によって分解され逃げていきますが、一部は非常に寒い領域である「コールド・トラップ」に降りてきます。もちろん、常に日陰となっている部分なのですが、そこに水が存在しているのです。
現時点では月の南半球には1~2億トン、北半球にも少し水があると推測しており、その活用について考え始めることができるようになりました。水はもちろん水素と酸素でできており、ロケットの燃料には欠かせません。酸素は呼吸に、水は飲用としても重要です。
極域の広範囲において水が発見されたことにより、未来での活用が変わってきます。非常にワクワクしますし、恒久的な居住地を月に作る計画を立てられますよね。
稲谷:ありがとうございます。さっき申しました、月でいろいろな経済活動が自立的にできるためには、月の資源をどうやって使うか。それがあるかないか、今いろいろ論争的なことがあって、今のような大量のもの(水)があると。それを見つけるためにどうやって探るか、そこにサイエンスのミッションがいかないといけない、という話でした。ありがとうございます。
袴田さんたちは、その情報を使ってビジネスにしようという。そこでなにかもう少し、最初のミッションからその次の展開みたいなことがあればお願いします。
袴田武史氏(以下、袴田):はい。将来的なことを考えると、使えるだけの水があるかどうかは非常に重要なところになります。まずは、それをサイエンスの力を借りながら確定をしていくことが重要です。
そのためには、やはり何回も月に行く、またはサンプルを持って帰ってくる、という輸送を作らなければいけないと考えています。今まで国では非常に大型なミッションを数年に1回やっていたと思うんですけど、それだと3回やるともう15年、20年先になってしまう。そのスピードだとやはり、これからの宇宙開発ではすごく遅くなってしまいます。
我々としては、小型・軽量で月面に行く頻度を高くすることで、より早くなにかを試して経験を積んで、次の改善に活かしていくというプロセスを作っていきたいと考えています。
稲谷:はい。ありがとうございます。ちょっと私が「どうなるんだろうな」と思うことの1つは、NASAも国が税金でオペレートしています。我々も、JAXAとか宇宙科学とかいうのは税金でやられています。税金でやられている世界は、基本的にすべての情報が公開される。
一方で民間がやるとなると、その情報をどうやって使うか。誰でも使えるのか。民間の獲得した情報は、それ自身が価値だと思いますので、それをどうやってみんなが使えるか。あるいは使うためにまたビジネスが改善するのか。たぶん今日お越しのみなさんは、そのへんのビジネスセンスに長けている方ではないかと思うんですけれども(笑)。そういう情報の扱いですね。
それから、国の活動として国独自でやることと、インターナショナルでやること。そこの間にも、情報が完全に行き来できるのかできないのか。あるいは民間が入って、そのミクスチャーになったときに、そのへんの権利というか知財というか……そこがどういうふうになるのかが関心事です。そこの狭間にビジネス機会があるのかもしれない、という気がします。
インターナショナルでやるか、ナショナルでやるか。タックスペイドなお金でやるか、シビルセクターのお金でやるか。その仕分けが気になります。
今までの宇宙開発は、少なくとも月や火星のミッションについては、ほとんど100パーセント国でやるというふうに限られていたわけです。そのへんの今後の展望のようなこと、あるいは期待のようなことで、ジムさん、もしもなにかご意見がおありでしたら、おっしゃっていただければありがたいです。
グリーン:これは実に重要な質問だと思います。NASAは、なるべく早く全データを公共で使用できるように努めています。アメリカ合衆国内にとどまらず、全世界的にです。
私たちは、企業が材料や情報を保持できるようにしたり、競争可能にしたり、正確な着地や乗り物を開発可能な状態にしたり、リソースを独自に発見したり、といったことを交渉する立場となります。それを踏まえた上で、私たちは公である必要があります。
話し合っていくなかで、「こういうことがしたい」ということがあって、それに対してのデータ公表があるんです。さらに、私たちが尊重し理解を示したいのは、企業競争が可能である状態や実行可能であること、そして情報やデータが必要なこと。それらは、なによりも優先的な事項です。だから、ネゴシエーションなんですね。
稲谷:袴田さんは民間の立場で、すべての民間宇宙活動を代表して……(笑)。
(会場笑)
イーロン・マスクやジェフ・ベゾスの代弁をするかどうかはわかりませんが、そういった国あるいは税金を使う世界の活動に対して、なにか希望とか注文とか、そういうものがあれば。
それはたぶん、ここでイノベーションを目指すみなさんの代弁にもなると思うので。もし袴田さんが代表してなにかおっしゃるとしたら、ジムさんに対してでも。私にはあんまりなかったかもしれませんが(笑)、お願いします。
袴田:はい。非常に大きな振り方をされてしまいましたが(笑)。
(会場笑)
まず、我々はこの新しい産業を宇宙に作っていくというミッションを持っているんです。それをするには、やはり多くの人が参加できる仕組みを作っていく必要があると思っています。
その多くのプレイヤーがしっかりと事業や価値を出して、経済圏を作っていく必要があると思っています。そういう意味では、1社がなにかを独占してやっていくというのは、経済が拡大する上ではあまり効果的ではないと考えています。
なので、インフラストラクチャーになるようなところはやはり、政府がある程度投資をしてやっていくことが重要なんじゃないかなと思っています。昔よく自分が例えていたのは、地上でいえば道路は国が整備をしていきます、と。その上に走る自動車などは、民間企業が事業としてやっていきます。今後、宇宙開発もそういった方向に進んでいくのではないかと思っていますね。
稲谷:はい、ありがとうございます。それは要望になったんでしたっけ、オブザベーションになったんだっけ。どっちでしたっけ、今のは(笑)。
袴田:その上でもう少しお話しますと……(笑)。我々民間企業だけでは、そういった産業を一から作ることは難しいと思っています。ですので、NASAがCLPSでやっているように、最初にサービスの公開というかたちで産業を盛り上げていく視点は必要かと思います。
非常に重要なポイントは、今まで国の宇宙開発は技術開発に対してお金を出していましたが、NASAが最近やっているのはサービスを買うということです。そこは民間からすると、事業としてはまったく違う視点になります。
今後の事業の成長性を考えると、今後は政府も「サービスを買っていただく」という視点で見ていただけると、我々としては成長性があってやりやすいと考えています。
稲谷:ジムさん。
グリーン:それは実に正しいです。NASAにとって、また世界中の宇宙機関にとって「サービスを購入する」というのは新しいことですが、このイノベーションを歓迎しています。というのは、この概念を取り入れることは、業務にもNASAにも良いことでしょうし、それを購入するためのノウハウを得られるからです。
それに、こういった刺激は、企業側にとっても「開発してきた専門性や能力をサービスとして供給している」という姿を改めて知ることを可能にします。新しい市場や団体が出てくることでしょうね。
宇宙ステーションで始まったことですが、私たちがやってきたような無重力での実験を企業が行うことを支援しています。各種医薬品や原料を作ったり、さまざまな生命科学に関する実験を行ったりすることを大変歓迎しています。
例えば、宇宙ステーションから帰ってきた宇宙飛行士の免疫システムは無防備な状態で、老人のようになっていました。しかし、身体はそれをすばやくよみがえらせたんです。そのメカニズムはわかっていませんが、もしそれを解明できたなら、免疫システムの再生へ貢献することができるでしょう。
これは一例にすぎませんが、全分野において研究がなされているのです。ここに企業が市場を見出し、研究に参加することを歓迎しているんです。
稲谷:Thank you very much. どうもありがとうございました。そのへんの民と官といいますか、そういう共同はだんだん民間のほうに移っていって、経済活動に発展していく。そういうスタートのところにいるんだと思います。
一方で、少し違う話をします。ちょっと私自身のことで申し訳ありませんが、今、日本の宇宙科学、JAXAなどがやっている「はやぶさ2」という小惑星探査機が飛んでいて、(小惑星リュウグウに)着陸したというニュースで世の中を騒がせていますよね。
今は「はやぶさ2」ですが、我々の世代では「はやぶさ1」というのをやりました。ミッションは成功したと言われていますが、予想外のことがいっぱい起きて、やっとのことで帰ってきて、それは成功したと言われている。
今はもう若い人たちが「はやぶさ2」をやっていますので、我々よりはもっとスマートにやるだろうと思います。そして、現在のところまでは非常にスマートにやっている。
一方で、宇宙ミッションは、それほど簡単ではないんです。きれいな絵を描いたりCGを作ったりするのは簡単ですが、現実にモノを作って飛ばしてそれを運用して、さらに人が乗って安全に帰ってくるというのは、それほど簡単なことではありません。
我々は、ある面ではオプティミスティックにやりたいと思いますが、またある面では悪魔のように細心に物事を設計しなきゃいけない。
実際に宇宙のミッションをやっている人たちは、そういうことを思っています。そこを乗り越えて、さらに良い経済活動が発展するようにという意味で、ジムさんがサイエンスの世話をされている。袴田さんたち、あるいは民間の人たちが新しいやり方で突破しようとされている。今は非常に良い時代になっていると思います。
ですから、それは簡単なことではないということが1つと、そうであるがゆえに、みんなでがんばって新しい世界を作ろうと。私はそう思いますので、今日来られているみなさんもそれを後ろでプッシュするとか、引き上げるとか。あるいはサポートする側で、いろいろなビジネス機会を見つけていただければと思います。
そのコンテクストで、最後にひと言ずつ、ジムさんと袴田さんにコメントをいただきたいと思います。お願いします。
グリーン:時間が迫っているので手短にしたいと思います。 素晴らしいミッションの準備が整ったことに対して、JAXAと日本の方々を祝いたいと思います。もしまだ月面へ降りたり、サンプルを集めたりするイメージなどをご覧になっていないのであれば、ぜひ見てみてください。
そのサンプルは非常に大切なもので、この物質、炭素質コンドライトには水が含まれていると推測されており、複雑な有機分子を持ち、地球上の生命体において重要なアミノ酸すら入っていると言われています。そして、こういった物質が、私たちの進化の途中で地球に墜落し、もしかしたら影響を与えたかもしれないのです。
それから、私たちは何年も宇宙機関のパートナーたちと働いてきたわけですが、JAXAとはすばらしいパートナーシップを発揮し、業務と経験を分かち合うことを可能にしてくれました。ですから、今後もこのコラボレーションを過去と変わらず続けていけたらと思っています。ありがとうございました。
稲谷:Thank you for your time. For him. 袴田さん、どうですか。
袴田:そうですね、何を言いましょうか……。宇宙産業を考えるときに自分がよく言うことなんですけれども、多くの人は「宇宙」という言葉を聞くと、すぐに「夢」という言葉に変換してしまうんですね。そして、その「夢」という言葉に変換した瞬間に、なにも考えなくなってしまう。そのハードルをまず越える必要があると思っています。
そこのハードルを越えれば、どうやって課題を解決していくのかというステップが踏めると思います。まずはそのハードルを越えることで、いろんなことが見えてくるんじゃないかと思っています。
稲谷:ありがとうございました。私の進行のせいでちょっと時間がなくなりまして(笑)。みなさんともディスカッションしたいと思いますが、Slackかフロアのどこか別の場所でお願いしたいと思います。
では、このセッションはこれで終わりにしたいと思いますが、よろしいでしょうか。33秒頂戴しました、申し訳ありません。
(会場笑)
ありがとうございました。
(会場拍手)
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