2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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大貫美鈴氏(以下、大貫):佐藤さんはいかがでしょうか?
佐藤航陽氏(以下、佐藤):私は、「アウターネット」と言うんですかね、「宇宙インターネット」が一番おもしろいなと思っています。今だいたい30~40億人くらいが、まだインターネットにつながっていないんですよね。
アフリカなどだと基地局を作るコスト自体がかなり高いですし、広すぎるのでできていなくて、衛星からインターネットが接続できるようになると、30億人が掘り起こされる市場ができます。
今はソフトバンクなどのキャリアがすごく儲かっていますけれども、もしかしたら通信キャリアのビジネスモデルを崩壊させ、リプレイスにしくるプレイヤーは、宇宙企業もしくは衛星を飛ばす会社で、そうなるとまったく新しい通信キャリアになる可能性があるなと思っています。
インターネットのユーザーも増えますし、あとは通信量も増えると思うんですけれども、新しいインターネットの市場を開拓する可能性があるという意味で、宇宙にはすごく注目しています。通信キャリアは通信料でどんどん儲かっているので、ビジネスモデルとしてはすごく有望だなと思っています。
大貫:そうですね。この分野では例えば宇宙開発では、やはり小型になっても衛星と、あとはロケットが注目されがちなんですけれども、今もちょっとお話に出ました地球上のグランドシステムというところにも実は革命が起きています。
この小型の通信衛星がコンステレーションで(インターネットにつながっていない)残りの40億人をつなぐ上で、アンテナが小さくなってどこにでも置けること、大きなアンテナを接続しなくてもいいということも一方ではあります。
その中で、例えば一番大きな企業体を作っているOneWebという組織が小型衛星を飛ばすんですけれども、そのグローバルパートナーシップの中には、コカ・コーラという企業も入っているんですね。
コカ・コーラがどういう役割でこのグローバルパートナーシップに入っているのかといったときに、コカ・コーラはアフリカの奥地にもキオスクを持っています。そこに小さなアンテナ、フェーズドアレイアンテナを設置すればブロードバンドでつながるというコネクティビティの地上側で貢献しているのです。ロケット、衛星、そしてデータ利用がありますけれども、地上の仕組みも1つ重要なポイントだと思います。
最後の3問目にいきます。3問目は今日のまとめの意味も込めまして、一番みなさんに伝えたいことも兼ねて、革新的な今後の可能性、the next big thingについてお二人に意見をうかがえたらと思いますけれども、いかがでしょうか?
金本成生氏(以下、金本):まとまった動きになるかどうかわからないんですけれども、まず1つ、インターネットが今こういう状況で使われるようになる前を思い起こしてみます。20年前、Googleが登場したんですけれども、その時点では誰もが「インターネットは、今までのメディアの代替である」と考えていました。みなさんは例えばEメールも、それまでファックスなどの代替だと捉えて、使っていたと思うんです。
しかし、実際にGoogleがすべてのデータを検索可能にして、そのネットワーク網を使って物を売る・買うということが発生してくると、だんだんインターネットの使い方も変わってきました。そこにデバイスとしてスマートフォンやタブレットが普及して、今はもうすでに生活とは切り離せないような存在になっていると思います。
例えば、こういうSansanさんがされているようなサービス展開も、インターネットがあるからできることで、インターネットはいろんな価値を生んできたんです。
これからはやはり、宇宙の利用・宇宙データの利用というのは、インターネットの活用と同じように、情報流通のインフラとか、あとはデータを取得するための大きなセンサーの役割をしていくんだろうなと思っています。
これまでどうしても「ここが見たい」ということで、例えば「ここのミサイル基地が見たい」という考え方で撮影をしていたんですけれども、すでに「地球全体を24時間に1回撮る」というような衛星も現れていて、データ販売も行われています。
ただ、データを使ってインターネットと同じような変革、イノベーションを起こすところにはまだまだ人が足りていないし、会社の数も足りていないと考えています。まさにインターネットがGoogleの登場と同時に爆発したというような現象が、この2~3年で起こってくるんじゃないかと考えています。
そのときに、「衛星のデータだけじゃなくて、地上のデータをどういうふうに組み合わせるか」「それを使って、最終的にどういうふうに事業に付加価値を付けていくか」というところの大きなプレイヤーが、これからたくさん出てくることが必要です。
すでにあるGoogle、Facebookも同じようなことに挑んでいるわけですけれども、現在の事業も保たないといけないということで、ここはまったく別の角度から、衛星データの価値や特徴を捕まえて、事業の付加価値を最大化できる人たちが出てくるんじゃないかなと思います。
大貫:佐藤さん、いかがでしょうか?
佐藤:私は、テクノロジー同士のコラボレーションがすごく大きいんじゃないかなと思っています。今回、ネット系でいうとディープラーニングや、ブロックチェーンなどもそうです。
あとは、バーチャルリアリティもかな。そういう新しい技術と今回の衛星データ、ロケットなどの技術がかみ合ったときに、まったく違う新しいビジネスや市場を作り出すんじゃないかなと思っています。
この前、NVIDIAは、カメラの解析をして(スケッチなどから)自動的に3Dの風景画像を作り出すというものをやって、すごく話題になっていました。最終的にはVRやディープラーニングなど、衛星データというのも融合して1つのビジネスを作っていく気がするんですよね。
それがさっきの仮想世界だったりするかもしれませんし、まったく新しい宇宙旅行かもしれません。そういったものは、一つひとつのテクノロジーや産業じゃなくて、「横の連携」ですよね。産業同士の連携と技術同士の連携。コラボレーションというのはまったく違う価値を生むと思っているので、1つの市場だけを見ずに、いろんなものを並行で見ながら、「どう組み合わせられるんだっけ?」というのを私は考えていますね。
なのでthe next big thingがあるとしたら、「既存の深掘り」ではなくて、まったく関係ない「横と横」の連携だと思います。
大貫:ありがとうございます。もう少し時間があります。お二人ともベンチャー企業で活動なさっているんですけれども、たぶん活動の対象としては最初から、国内マーケットというよりはグローバルでという概念で活動されていると思うんです。
そういった立ち位置と言いますか、こういった科学技術の中で事業を進めていくにあたって何か課題ですとか、日本にいて困ること、日本にいていいこと、いろいろありますでしょうか?
制度的なものでもいいですし、突破しなければならないことでもいいです。今日は、政府関係の方がいらしているかどうかはちょっとわからないですけれども、その辺のことも含めて何かありますか?
佐藤:そうですね。私は売上の比率的にいうと6~7割が海外なので、あんまり日本に依存してはいないんですけれども、別に技術的な規制があっても、できる国に移動すればいいという価値観を持ってやっています。
仮に日本の法律で何か制約があったとしても、「じゃあ、アフリカにいけばいいじゃないか」「アメリカに行けばいいじゃないか」ということが、すぐできる時代かなと思っています。なので、あまり「制約」っていうのは存在しないかな。一番やりやすいところでやればいいと思います。
大貫:場所にこだわらないということですね。金本さん、いかがでしょうか?
金本:衛星のデータ活用ということになると、衛星は世界中、90分で地球を1周しながら、1日に13~14周して世界中のデータを集めていきます。
なので、もちろん日本だけを見ているわけではなくて、世界中を見ることができますし、衛星データの適用先も世界中がマーケットになりますので、当然「日本から発信する」という感じではなくて、当たり前のように手元に世界中のデータがありますし、世界のいろんな場所の特徴を捉えて事業活動をやっています。
その中で日本に拠点を置いているのは、ある意味便利な点もあります。日本政府が宇宙産業に非常に応援をしているという状況の中で、データを無償化して気軽に利用できたり、あとは東京という街を考えると、世界で見ても非常に維持費が安い場所です。
世界的にもアクセスが充実していると考えていますので、今の自分の事業にとっては、この日本を拠点にするというところでは、制約もとくにないです。
「日本企業である」ということで、衛星データを他の用途に使うことが想像されづらいというのもあります。優秀なエンジニアを環境のいい場所で集めて、衛星データを解析し、解析したデータを世界中に販売しようと考えています。
大貫:そうですね。今、衛星データに限った話をしますと、日本の中でも制度が整ってきたところでもあります。このところずっと、オープン&フリー化が進められていて、今、オープン&フリーで使えるという状況にあると思います。経産省ではTellus(テルース)というプログラムが進行しているんですけど、オープン&フリー化は海外の方が早かったんです。
日本がそれに追いついたということなのかもしれないですけれども、日本でもオープン&フリー化が確立しています。あるいは内閣府も経産省も、いろいろなコンペティションやプログラムを選定し、ちゃんと出口まで面倒を見るようなかたちで進められている「衛星データの利用の『掘り起こし』」のようなものがいくつかあると思います。
「宇宙ベースのデータ」は、狭義には「衛星データ」なんですけれども、今は衛星だけではなくて、国際宇宙ステーションでも「宇宙ベースのデータ」を取れるんですね。国際宇宙ステーションって拠点の利用で、そこから衛星を放出したり、そこにセンサーとかカメラを載せたりして、そこでも膨大なデータが取られているわけです。
衛星だけじゃないので「宇宙ベースのデータ」って言うこともあるんですけれども、そのデータがアクショナブルデータとしてデータエコノミーに貢献し、あるいは先ほどちょっと出てきましたけれども、デジタルトランスフォーメーションにも貢献するということです。
それらが、「あらゆる産業に新たな価値をもたらす」ということが、1つ、このセッションでご紹介できたらいいなと考えていました。佐藤さんからは、「あらゆる産業に」というところは、産業を超えて、国を越えて、あるいは地球を越えて「地球をもう1つ仮想で作る」というお話もありました。
新たな社会システムすらも作ることができるんじゃないかというお話だったと思うんですけれども、そういった可能性があることが、このセッションではご紹介できたんじゃないかと思います。
金本:そういう未来が待っていると思います。今日この話を聞いていただいておわかりいただけたと思いますが、あらゆる産業の方に関係があるかもしれないし、インターネットがあらゆる産業で活用されているのと同じように、宇宙のデータや宇宙利用が、これからすべての産業に大きなインパクトを与えていきます。ぜひ注目していただきたいと思います。
大貫:佐藤さんの方からは、最初「そんなに甘くないよ」「やはりここにギャップがあるよ」というお話がありましたけれども、そのへんも含めていかがでしょうか?
佐藤:マネタイズという意味では、まだまだ相当に苦労しなければならない領域かなと思っています。それはITの容易さに比べると、やはりハードルが高いなとすごく感じます。
ちょうど先週、堀江貴文さんと話をしていたんですけれども、「やっぱりアメリカの企業は政府の予算があるから立ち上がるんだ」「前払いで衛星の費用をもらえるから、結果的にSpaceXみたいな会社ができたんだ」と話していました。
堀江氏はまた、「日本に関しては(政府から)なかなか予算が付かないので、結果的にベンチャー企業が自分たちで資金調達しなきゃいけない」「当然、儲からないのでなかなかファイナンスもできないという状況で今、ぐずついているんだよね」という話をしていて、まさにそのとおりだなと思っています。
国ぐるみで盛りあげていこうという意思がもうちょっと出てくると、もしかしたら大きな会社も何個かできてくるんじゃないかなと思っています。ただ、前澤さんみたいに自力で、自己資金でやるという過激な人たちもいると思いますので、私は「そこを誰が突破するのか」「日本からもそういう企業が出るのか」ということを楽しみにして見ています。
大貫:ありがとうございます。前澤さんというのはZOZOの前澤友作社長のことですけれども、去年(2018年)の9月に月旅行を自費で買ったとのことです。しかも自分だけのシートではなくて、チャーターフライト、機体丸ごと1機を買いました。100人乗りと言われている機体なんですけれども、1機チャーターして、10人くらいで乗って月にいくというものなんです。
日本の中でも、2018年の3月に、S-Matching(宇宙ビジネス投資マッチング・プラットフォーム)といって、政府が1,000億円のリスクマネーを用意するプログラムも出てきています。環境整備も進んでいることも含め、このセッションで宇宙ベースのデータ利用の可能性をみなさんにご紹介できました。ご静聴、どうもありがとうございました。
(会場拍手)
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