投資のプロが考える「いい会社」

中竹竜二氏(以下、中竹):それでは、さっそく僕から質問をさせていただきます。藤野さんへの質問ですが、投資家としておそらくいろんな企業を見て、「今が投資しどきだ」などと思うこともがあるわけですよね。投資はスポーツで言うと、練習して勝たせるために、今はまだ見えない可能性に賭けるわけです。その根本的な「見る視点」というのはどこなんでしょう。

藤野英人氏(以下、藤野):今、(レオス・キャピタルワークスの)ひふみ投信では220社くらいに投資をしています。投資をしている会社ですが、根本的には「この会社が社会になくてはならない」、もしくは「その経営者の考え方に共感できる」というところをとても大事にしています。

根本的には、それが変わらない限りは原則投資をし続ける、というようにしています。結果的にウエイトで調整をするんですね。少しだけ持つ、たくさん持つ、というかたちで考えています。

株価がガーンと上がった、または業績が悪いというときにはどうするのかと言うと、一部、でもある程度は持っているんですね。それはどうしてかと言うと、その会社を応援したい、信じているという気持ちがある限り持つ、ということをしています。

では、どういった会社がいい会社なのか。これが大事なことです。一般的に言うと、ファンドマネージャーやアナリストという人は、この「いい会社」というところの定義が明確です。こうした会社がいい会社であると。

でも実をいうと私は、わりと不明確なほうなんです。それは何かと言うと、「いい会社」の「いい」というのは、たくさんあると思っているからです。切り口によって「いい」というのはたくさんあると思っているので、なるべくその「いい」というところの切り口をたくさん持とう、というのが私の考え方です。

例えば1つの例で言うと、私が一番好きな組織、好きな会社がどんなものかというと……それは自分の会社であるレオス・キャピタルワークスもどうありたいかということですが、個人的に考えているのは「学習組織」なんですよ。

それは、トップももちろんリーダーシップを発揮するけれども、一人ひとり、チーム、それからマネジメントから新卒の人まで、一人ひとりが考えて、学んで、議論して。全体的に上意下達の命令で進むわけではない、非常に柔軟性の高い組織が、個人的には好きです。こうした組織が大好きです。

でも「全部そういう、すばらしい会社に投資をするんだ」というのは、あまり良くありません。どうしてかと言うと、みなさんのように、雪のときにもこうした場所に来て学ぶ、これはとっても例外的で。みなさんは変わった人なんですね。

(会場笑)

すごく変わった人。一般的には怠惰で、雪が降ると来ないし、それから三日坊主にもなるし。でも、これが一般的な、普通の人ですよね。さらに言うと、やる気や能力というのも、それが育まれる環境があってこそなのですから。みなさんは良い環境に恵まれた、もしくは悪い環境があってもそれをはねのけた人たちではないかと思います。

でも日本の中で言うと、悪い環境のところで腐っている人もいっぱいいるわけです。そうした人は助けなくてもいいのか、ということなんです。例えば地方のところで専制君主のような経営者がいて、反論できない子たちを集めてなんとかやっている会社がありますね。1つの命令系の組織になっています。悪い意味での体育会系です。

「ベターなもの」に投資をする

藤野:では、そうした会社に投資をしなくてもいいのか、ということなのですが。その中で僕は、よりベターな会社に投資をしようとしているんです。どうしてかと言えば、あらゆる人があらゆるところで行動し、それで生きてくという面で見れば、そうした人たちを捨ててしまうのは、かえって悪いエリート意識だと思うんですね。

ですから、いい会社というか、その業種・業態・考え方・文化に合わせてベターなものに投資をするのが私の今の考え方ですね。

中竹:そう考えると、きっちりアナリスティックに分析してというよりは、かなりザックリな感じがしますね。

藤野:ふんわりしています。ですから、会社のタイプがバラバラですね。そのためかよく言われるのは、私のライバルのファンドマネージャーなどに……毎年1回、全銘柄が開示されるときがあるのでそれを見ると、「君の考えていることはわかんないな」ということです。

ITにベットしているようだけどベットしていない。それからオールドエコノミーが好きっぽいのにそうじゃないものも入っている。そして、古い会社もけっこうあるということなので。趣向がバラバラで、「何を考えているのかがよくわからない」とはよく言われるんですね。

でも、僕の中で一貫しているのは、それぞれのセクターやそれぞれの中の、言葉はあまりよくないかもしれないけれど、「マシな会社」に投資をしていくんだということです。マシといっても、それが曖昧なのかというと意外とかなり曖昧ではない。では、何がマシなのかというところは、かなり深いところがあるのです。

そうすると、結果的に僕らの成績というのは3年、5年、10年と見ると、ほとんどのファンドの成績を打ち破っているわけです。でも冒頭の理由は曖昧でよくわからないですよね。それはなぜかと言うと、そこにすごく強さがあるんです。

要は、1つの考え方で「これはすばらしい」というところで集めたものは、世の中の変化や社会の流れによって、結果的には成績が極端に悪くなったりするときもあるんですね。僕らのファンドは劇的にバーンと勝つことはないけれども、激負けもなかなかしにくい構造になっている。

それはどうしてかと言うと、社会構造の中でベターなものを入れる、という考え方をしているからなのだと思います。ただもちろん、「ITの中ではこういう会社が僕は好きだ」と、それから「オールドエコノミーの中でもこういう会社がベターなんだ」というところに関しては、わりと明確なものさしがありますから。決してものさしがないわけではないと思います。

「主観の壁」をいかに破るか

中竹:今の言葉で印象深かったのが、「社会構造の中でベターか」ということは大きいですね。これこそまさに俯瞰した視点だと思いますが、なかなかスポーツ界ではありません。

藤野:結局、僕らは、主観の奴隷なわけです。そりゃそうですよね、僕らは自分の心を介してしかものを考えることができないのですから。そうでしょう? みなさんはみなさんの頭の中で考えているわけです。だから、主観の壁をなかなか抜けることができない。でも投資の世界というのは、あらゆる参加者、それも賢いやつがいるわけじゃ……いるけれども、ほとんどは賢くない人が市場に参加しているわけですよね。

(会場笑)

森本千賀子氏(以下、森本):言っちゃっていいんですか(笑)。

藤野:いや、そりゃ僕らは全員賢くないから。神のようにわかっている人はいないでしょう。そうした目で見ると、市場参加者はすべからく全員が不完全なわけです。ところがおもしろいのは、不完全な人がわらわら集まってくるとあら不思議、長期で見ると比較的まともな答えを出していくというのがマーケットということなんですよね。

自分が不完全であることを意識して、そのうえであらゆる価値観を議論していく。それは世代による価値観の違いであったり、男女であったり、外国人であったり、キャリアであったりするところを、なるべく議論をして話をしながら、自分の主観の壁をいかに壊すことができるのかということが、わりと大事なテーマなんですね。

ですから、地方に行って、それからいろんな人と話す。話すのもエリートだけではなくて、いわゆる非エリートと言われている街のおじちゃん、おばちゃんとふつうに雑談するなど。

それからFacebookやTwitterをすごく見ています。何を見ているのかと言うと、かなりランダムにフォローして、ランダムに見ているんです。山梨の果樹園の農家の方で、35歳でバツイチの女の人といったように。

(会場笑)

(笑)。そうした、なるべくバラバラのキャリアの人たちをたくさんフォローする。そうすると、なにかイベントがあるとみんなワーッと言い出すわけですよ。このように1つのイベントに対して、それぞれの立場やそれぞれの主観の壁の中で、いったい何を話して、何を感じているのかということを知るのがすごく大事なのです。それそのものがマーケットなんですね。

「偏見の塊」であると自覚せよ

藤野:「常識とは学生時代に集めた偏見のコレクションだ」というようにアインシュタインが言っているんだけど、そこに気づくことがすごく大事。「僕らは根本的には偏見の塊なんだ」と思ったほうがいい。僕もそう思っていて、自分は偏見の塊だから、いかにその偏見の塊であることを自覚しながら、マーケットというバラバラな偏見の塊の主体の人たちとどのように向き合っていくのかということが、大きなテーマになっています。

中竹:今、「人はそれぞれ不完全だ」と。たぶん、だから学ぶことが大事なのですね。

藤野:そうですね。先ほど「学ぶ場が大事だ」というお話をされましたよね。僕はその話を聞いていて本当にそうだと思ったのは……中竹さんとはもともと、ある会社をお互いに株主として支援していて、そこの会社をどのように成長させればいいのかということについて、キャンプをしながら語り合おうという場で出会いました。それまでは接点もなかったんですよ。

そこで学びの場に行きました。心理的安全性という面で見れば、知らない人たちが集まる場所なので安全性はないところなのだけれども、その中でお互いの立場やお互いの話を語る場があった。そのあと、今度は焚火をしながら「焚火トーク」というものがありました。たまたま食事の場で隣り合ったのが彼だった。まさに隣人じゃないですか。

そこでディスカッションをしたところ、彼の考え方と僕の考え方がすごく共鳴したので、1度お話をしたり、ネットで対談する機会もあったりして、この場があるんですね。今回またすごくうれしいのは、僕は初めて森本さんと会って、お話をしました。

森本:はい。

藤野:また隣同士になりました。先ほどあそこの場所で、この(カンファレンスの)話はせずに雑談で盛り上がったのだけれども、すごく共感できた。

森本:めちゃめちゃ共感。ね。

藤野:たぶんまた、なにか仕事をすることになると思います。

森本:はい。

藤野:そうやって隣人から学び合うということはすごく大事なのだと、また今日改めて思いました。「まさに実践しているよ!」と。

中竹:ありがとうございます。まさにそうですね。

焚き火を囲う勉強会で発見したこと

中竹:僕はおもしろい会社を支援しておりまして、スノーピークという会社の株主なんですよね。株主が自分たちで「勉強会をするぞ!」という、そんな会社はあまりありません(笑)。キャンプができるところで、薪を囲んでやる。それがすばらしくて。

藤野:勉強会で隣だったんですよね。

中竹:その中でも僕は藤野さんに一番興味があった。会ったときは、僕よりガタイが良いし、なんだか僕よりラガーマンっぽくて……。

(一同笑)

森本:そうですよね。ラグビーやっていませんよね?(笑)。

藤野:いやいや(笑)。

中竹:ちょっと怖いと思っていたんですが(笑)。薪を囲んで、やっぱりすごくいいんですよね。自然とみんなが藤野さんの周りに寄ってきた。僕はチャンスと思って、すぐ隣に座ったのですが、それが良かった。

良かったのは、みんなが「学びに来よう」という雰囲気があったことです。そうした組織はやっぱりすごく強いと思いました。けれども、ちょっとドキドキしたり、壁がありますよね。そうしたものをいろんなきっかけで崩せればいいということを、改めて藤野さんとの出会いを思い返したときに感じました。

藤野:そうですね。

中竹:ありがとうございます。たぶん、今の投資の視線はまたあとで戻ってきて、必ずつながります。それでは、森本さん。

森本:はい。