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オリラジ中田、ピンチの時に言うべき言葉は「まだやれることがある」 アパレルブランド『幸福洗脳』の逆転劇

2019年3月10日、「中田敦彦氏講演会『僕たちはどう伝えるか』 in Kichijo-ji〜人生を成功させるプレゼンの力〜」が開催されました。芸人になるために親を説得したことを原点として、「人生をプレゼンの力で切り開いてきた」と語るオリエンタルラジオ中田敦彦氏。当講演では、自分の気持ちを伝え、相手に協力や賛同してもらうプレゼンの極意を明かします。次々に新しいことに挑戦し、そのたびにピンチに見舞われる中田氏が、アパレルブランド「幸福洗脳」をめぐる悪戦苦闘について語りました。

人生はすべて赤っ恥からのスタート

中田敦彦氏(以下、中田)「幸福洗脳」というロゴの入った服を着るのは、非常に怖いんですよ。僕は自分で実践する男ですから、それまでの自分の服を全部捨てて、この服を着て娘を幼稚園に送り届けるということをやったんですよ。アラサーの一人ですから、ぜひ信じてもらいたい。

(会場笑)

中田:この「幸福洗脳」を作ってどうしたかと言いますと、それをラジオでしゃべりにしゃべったんですね。

「『幸福洗脳』というTシャツを発売したぞ! どうしてこれを作ったのかを、全部しゃべるぞ」

ということまで、ラジオで言ったんですね。ラジオの前日には、実はもうネットショップがオープンしているんですよ。ネットショップをオープンして「よし見てろよ」と。俺の15年来のファンが必ず俺のメッセージを読み取り、必ず買ってくれるはずだ。Twitterなんかで「発売しました」と言ってね。それでやったんですね。

そうしたらなんと、1枚も売れなかったんです。

(会場笑)

さあ、地獄の始まりですよ。1枚も売れなかったよ。ここからどうするか、ですね。僕の人生はすべて赤っ恥からのスタートですよ。どうしてかというと『PERFECT HUMAN』もそうでしたよね。僕だけが歌えない、そして踊れない、だけど真ん中にいたいということなんですよ。

(会場笑)

中田:ファッションブランドを立ち上げたいけど、ローラのようにおしゃれアイドルでもないし、やってみると1枚も売れていない。これは地獄でしょ。想像してみてくださいよ。「俺、ブランド立ち上げたんだぜ」と言って、その翌日に1枚も売れてないという。

ああ終わったな、俺の人生。信頼、そしてプライド、あらゆるものがすべて崩れた。「幸福洗脳」というTシャツを発売して、1枚も売れなかった日をリアルに想像して欲しいんですよ。本当に嫌な日ですから。

「幸福洗脳」のTシャツが売れたきっかけもプレゼン

中田:その翌日に、僕のラジオが始まるんです。公開処刑ですよ。でも、これが大事なんだと僕は思ったんですね。そのラジオで「1枚も売れていません」というピッチを始めたわけですよ。

「1枚も売れていない。でも、なぜ『幸福洗脳』にしたのか。それは、世の中にないものだから。無印良品みたいに漢字4文字はあるけれども、『幸福洗脳』のような怖い漢字4文字のブランドはいままでにないだろう。ないからおもしろいんだよ。こんなもん売れないと思うだろう。

価格はいくらだと思う? 1枚2千円、3千円のTシャツがある中で、俺はあえて1万円で売り出したの。どう思う? 『幸福洗脳』というおぞましい、売れそうもない、ファッションアイドルでもない、ただの芸人が作ったTシャツを1万円で売り始めて、なんと昨日実績が出たら、1枚も売れてない。こんな男がどうなると思う? 見てみたくないか?」

というプレゼンなんですよ。それで、僕のラジオは半年間限定のものなんですね。野球中継がない。半年で終わる。

「だから、その半年の間に必ずひとかどのブランドにして見せるから、必ず楽しんで見せるから、俺を信じてくれ。俺は『武勇伝』も『PERFECT HUMAN』も作った中田敦彦だから、必ず成し遂げる。

だから信じてくれ。信じてくれたなら、1枚買って欲しいんだよ。なぜなら、それは今日1枚目のTシャツだから。今日、これを聴いているリスナー、おい、どうだ。1枚目のTシャツを買って、それが半年でどうなるかを全部見守るだけの価値はあると思うぜ。その1万円は安いと思わないか? 頼む!」

もう、熱弁のピッチをしたんですね。そうしたら、めっちゃ売れたんですよ。ブワーッと。そこで、でも僕は思ったんですね。ここで終わったら一番つまらないですね。バッと一気に売れた。ラジオでちょっとしゃべったら売れました。「お疲れ様でした。ハワイへ行きます」。これが一番最悪ですよ。

(会場笑)

中田:「ウワーイ!」なんて言って、その後はなにもしない。これはもう、地獄の始まりですね。

(会場笑)

「やるな!」と言われるから、チャンスがある

中田:「あいつはなんだ」と。それで半年間ずっと、ダラダラダラダラ葉書きを読んで終わったら、それはおしまいですよ。だから、そのお金で僕は「店を出す」と言ったんですね。実際の店舗を出すんだと。これはもうZOZO TOWNの時代で止められたんですよ。

「ネットショップ全盛だぞ。お前はショップのリスクを抱えるぞ。在庫を抱えるぞ。アパレルで小売りと言ったって、ファストファッションとハイファッションの二極化がうたわれている中で、一人の芸人が作った1万円のTシャツでリアルな店舗を出しても大変な目に合うぞ。お前は大丈夫か?」

と言われるわけですよ。でも、だからおもしろいと僕は思ったんですね。ネットショップが全盛の時代だからこそ、みんなが「やるな!」「危ない!」「無理だ!」と言うことに、俺はチャンスがあると思っているんですよ。

「リズムネタ? なにそれ?」と言うからいい。「ネタ番組で歌? なにそれ?」だからいい。「なにそのナカタ、ナカタの歌?」だからいい。「『幸福洗脳』の実店舗はやめときな」だからいい、と僕は思ったんですね。それで、ついに店を構えたんですよ。

店を構える場所選びも、みんなが大事だよという前に、もう僕は一応決めていたんですね。それは乃木坂にあるんですよ。なぜ乃木坂なのか。それは、僕が原宿のほうがすごいということをあまり知らなかったから。素人だったんですね。その後に原宿に行って「ハッ、こっちに出したかった!」とすぐに思ったのですが。

(会場笑)

中田:時すでに遅しで、判子を押していたんですね。そして、ついにラジオ開始から3週間後に、「幸福洗脳」の店舗が閑静な住宅街に浮かび上がったんです。

(会場笑)

中田:もう事件です。逮捕は時間の問題ですね。「そういうお店ができたぞー」と言って、そうしたら「うそだろー!」と言って人が集まるんですね。「うわぁ!」と言って見に来るんですよ。本当に最初の1週間ぐらいは、うわーっと人が殺到していたんですね「ああ、おもしろい、おもしろい」「ああ、本当にあるんだー」と。

ピンチの時に言うべき言葉は「まだやれることがあるんだ」

中田:それがピタッと止んだ日。1枚も売れなかった日がついに現れた日。僕は夜中の3時に飛び起きましたね。「なにをしているんだ」と。

ネットショップは閉じればいいんですよ。実店舗は何年も借りる契約金を積んでいますから、動いているお金の額が違うわけです。隣で寝ている家族に対して「俺はなにをしているんだ?」と。もう、震えが止まらないわけなんですね。

僕はピンチに至るのがすごく好きなやつなんで、その『PERFECT HUMAN』のときの「よし!」という、そのときの感覚がまた来たと思ったんですね。「ああこれは大ピンチだ」と。「俺はもうすごいピンチ。だって閑静な住宅街に、わけのわからないTシャツの店を出したというんだもん」。

そう思って、そのときに必ず言う言葉があるんですよ。ピンチのときに必ず言うべき言葉というのは「まだやれることがあるんだ」。この言葉だけを覚えてほしいんですね。

「うわぁ、もう無理」というピンチが訪れたときに「まだやれることがある」と必ず言うんです。言ってから考える。では、なにがいけなかったんだろう。なにを改善できるんだろうというようにして、少しずつ商品や店の内装、店員や告知の仕方などを全部、毎週毎週アップデートして、それをラジオでしこたま放送したんですね。

「商品がTシャツしかなかったのが問題だと考えて、パーカーも用意してきました」「内装はどこどこに丸被りだったのでそれをやめました」「店員がつまらなそうだったので、店員をキャラクターにしました」などと。

今、僕の店では楽しんで写真を撮ってもらえるような内装にするだけではなくて、店員も普通の店員を置いていたらつまらないだろうということで、店員をコードネームで呼んでいるんですね。Tという謎の黒ずくめの丸いサングラスをしたひょろっとした男が接客をしてくれて、さらに、その謎のキャラクターはTシャツを買うと、なぜかタロット占いをしてくれるという。

(会場笑)

中田:今はそういった付加価値を付けているんですね。そうやって、毎週毎週アップデートをしていくと、やっぱり人が来るんですよ。「なんか絵が変わったらしいな」「Tって誰なんだよ」「俺はTが見たいんだよな」と。だんだんTに会いに来る客が増えて「うわぁ、Tさん会いたかったんです」という状況になったりして、だんだんアップデートされてくるんですね。

腕はあるのにやりたいことができない職人たちとの出会い

中田:そうこうしているうちに、いろんな人から声をいただきまして。「中田がなにをやっているのか注目して見ていたけれども、どうやらまだ続いている」「どうやらまだ客が来ている。しかも1万円の高額。それ以上の額のものも売り始めている。どうして続くんだ? 僕たちも参加させて欲しい」という職人さんたちが現れたわけなんですよ。

どういう職人さんかというと、良いものを作っているんだけど、商売にはなっていない人、お金にはなっていない人たち。そういう人たちが、その真逆のような僕を見る。決して良いものを作っているわけではないのに、商売はできているという。真逆の事例を見て、「なんであいつはものが売れるんだ?」ということで、良いものを持っている人たちが近づいてくるようになってきたんですよ。

シルバーの職人さんが声を掛けてきてくれたんですよ。それで、「シルバーも作ってみたかったので、ちょっと話を聞きたいのですが、どういうことなんですか?」と言ったんです。

そうしたら、その職人さんが、「いやぁ僕ね、本当に苦しんでいて。今、すごく安い給料で、雑貨屋さんでアルバイトのようなかたちで雇われていて、とにかく細い女性向けの真鍮のリングを作っているんです。

安い値段で、それを大量に作って卸しているんですよ。でも、俺が本当に作りたいのは、クロムハーツみたいな、ゴリゴリの男が好きなああいうシルバーなんですよ。これ、見てくださいよ。俺はこういうのが作りたくてシルバーの職人になったんですよ。でっけードクロなんですよ。でっけードクロなんですけど、中田さん、俺はでっけードクロが作りてえっす!」

(会場笑)

中田:その瞬間、『スラムダンク』の三井寿に見えたんですね。

(会場笑)

中田:「でっかいドクロが作りたいんです」というね。なんかもう安西先生のような気持ちになりまして。ああ、そういう人たちがいっぱいいるんだと。自分のやりたいことができていない。食うためにギリギリやりたくないことをやっている。しかも、それが安く買い叩かれて、自分のキャパシティをオーバーするような発注を受けさせられている、と。

「メガ盛り・爆安・下請け」に苦しみ、絶滅しかけている職人たち

中田:これを僕は「メガ盛り・爆安・下請け」と呼んでいるんですが、「メガ盛り・爆安・下請け」の苦しみから救う、という公共性が浮かび上がってきたんですよ。「幸福洗脳」は革新性だけです。

さっき言っていた通り、公共性が浮かび上がり「いろんな食うに困っている職人集まれー!」と言ったところ、めちゃくちゃ集まってきたんですよ。俺も俺もと。それでシルバーの職人や、革ジャンを作れる人や、ブーツを作れる人といったように、いろんな人が集まってきて、どんどん雰囲気がルイーダの酒場的になってきたわけですよ。仲間が増えてきたわけですよね。

中にはふとん屋さんの職人が、わけもわからずに枕を送りつけてきて「どうすればいいですか? なんとかしてください!」と言ってね。「なんとかと言われても……」というような。僕は「とりあえず買いますから」としか言いようがない。

でも、ECサイトもなくて、ブログも4年前に止まっていて、千葉の奥地に住んでいる。

「なんとか枕を売りたいんですけど!」

「無理だろ! ネットでも売ってないし、現地も遠いし。ブログも4年前に止まっているやないかい!」

「ネットがわからないんです。でも、枕を手作りで作っている職人です。」

「職人は他にもいるんですか?」

「いや、千葉では絶滅しかけていて、僕は残り2人のうちの1名です」という。もうトキみたいなやつが現れてね。

(会場笑)

中田:なんとかしなきゃと思って、僕はその枕に「幸福洗脳」と書いた黒いカバーを掛けて売り始めるんですね。「洗脳枕」ができました。「冷やし中華始めました」とはわけが違います。「洗脳枕」できました。脳に一番近いという、一番売れそうな商品が、ついにできたんですよね。

(会場笑)

予想もしなかった「幸福洗脳」の公共性

中田:効果がすごそうですよね。「洗脳枕」ができたんですよ。「『洗脳枕』できたぞー!」と言って、「こんなの売れると思うか? 枕に洗脳って書いてあったらやばいだろ」という話をしたら、この「幸福洗脳枕」が一番人気ぐらいの商品になったんですよ。「枕ありますか?」というお客さんが増えて、これでは一体なに屋さんなんだと。なんであってもいいんですが、枕以外も売れてきたんですよね。インテリアを作りたいという。

「俺は鉄だけで生きてきているんですわ」というTwitterのアイコンの名前が“鉄太郎”という男からも連絡がきて、そんなやつもいるんだと。想像を絶するような人材から声がかかるんですよ。「俺は鉄のために生きているんだ!」という鉄太郎なんてわけがわかりませんよね。

「なんとかしたいんだ!」と言って、鉄太郎と作ったランプを店のそこここに飾って、一応値札を貼っておいて、売り始めたんですわ。最初は誰も気付かなかったのですが、「鉄太郎のランプあるよ」とずっと言っていたら、何個か売れ始めた。

それを見て、だんだんわかってきたんですね。この「幸福洗脳」というのは、「メガ盛り・爆安・下請け」の職人たちが作りたいものが作れないという悩みを、なんとかウワァッと。

俺は「幸福洗脳」という、まがまがしくても目立つ旗を振り続けて、そこでみんなを売るというプラットフォームブランドになれるんじゃないか、という公共性が出てきたんですね。

その公共性が浮かび上がってきて、これはある意味、倉庫商品が売れるんじゃないか。アパレルだけではなくて、枕やインテリアが売れるのであれば、「アッ、待てよこれ、無印良品みたいになってきているじゃん」と。無印……有印不良品というような。

(会場笑)

ブランド立ち上げから数か月で高級メンズデパートに出店

中田:まがまがしいけど、すごい商品が入っているというような。そういうことができるんじゃないかと言って、ウワァウワァとやっていたら、ついに声がかかったんですよ。大手から。

あの阪急が、ですよ。「阪急メンズ東京」という有楽町にある、本当に下はグッチだ、イヴ・サンローランだというような、そういった高級ブランドが1階に入っている、高級メンズデパートですよね。「阪急メンズ東京」から「うちで出店してみませんか?」という声がかかったわけです。

「おもしろい」と。「でも、ただの出店じゃないですよ。こんな名前で、すごいところのフロアに出せるんですか?」と言ったときに、「うちとしても実験なんですが、ここのフロアに直ではなくて、自販機で売るというのはどうですか?」と言われたんですよ。よくわからないけれどもやってみよう。

(会場笑)

中田:やってみる。とりあえずやってみて、だめだったらだめでもやってみようと。でも、阪急から声がかかっただけでもすごいことじゃないですか。普通、Tシャツブランドを立ち上げて、4ヶ月で阪急から声はかかりませんよ。4、5ヶ月で阪急から声がかかった。そして出せる。さらに、いろんな人材がまた集まってくる。

現在はそういった状況で、その阪急に出店できるのが3月15日。今日は何日ですか? あと5日後なんですよ。本当ですよね。超ホットな現在に辿り着いたわけですよね。5日後に有楽町の「阪急メンズ東京」に行ってみてくださいよ。

「幸福洗脳」が「阪急メンズ東京」に入っているんですよ。すごくないですか? これは僕の中では、めちゃくちゃおもしろい出来事なんですね。Tシャツを売り始めて、わけのわからない職人が集まって、枕の職人も集まって、ギャーギャー大騒ぎをしていたら、阪急から声がかかって、そこで出店する。そこまでのすべてがまとまった本が、なんとその出店の翌日に出ると。

(会場笑)

中田:そんなことがありますか? 『労働2.0』という本で、「メガ盛り・爆安・下請け」からの解放。やりたいことで食べていくという『労働2.0』という本が、16日に出る。つまり、6日後ですよ。阪急に行って、その翌日に買うことができます。もしかしたら書店によっては、フライングゲットでそれを阪急に持っていくこともできるかもしれない。そんな上手いことになっているわけです。

労働2.0 やりたいことして、食べていく

そして、そんなビジネスのプランも本に全部まとまった男が、春からなんと、青山学院大学の経営学部の講師をさせていただきます。

(会場拍手)

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