人生はすべて赤っ恥からのスタート

中田敦彦氏(以下、中田)「幸福洗脳」というロゴの入った服を着るのは、非常に怖いんですよ。僕は自分で実践する男ですから、それまでの自分の服を全部捨てて、この服を着て娘を幼稚園に送り届けるということをやったんですよ。アラサーの一人ですから、ぜひ信じてもらいたい。

(会場笑)

中田:この「幸福洗脳」を作ってどうしたかと言いますと、それをラジオでしゃべりにしゃべったんですね。

「『幸福洗脳』というTシャツを発売したぞ! どうしてこれを作ったのかを、全部しゃべるぞ」

ということまで、ラジオで言ったんですね。ラジオの前日には、実はもうネットショップがオープンしているんですよ。ネットショップをオープンして「よし見てろよ」と。俺の15年来のファンが必ず俺のメッセージを読み取り、必ず買ってくれるはずだ。Twitterなんかで「発売しました」と言ってね。それでやったんですね。

そうしたらなんと、1枚も売れなかったんです。

(会場笑)

さあ、地獄の始まりですよ。1枚も売れなかったよ。ここからどうするか、ですね。僕の人生はすべて赤っ恥からのスタートですよ。どうしてかというと『PERFECT HUMAN』もそうでしたよね。僕だけが歌えない、そして踊れない、だけど真ん中にいたいということなんですよ。

(会場笑)

中田:ファッションブランドを立ち上げたいけど、ローラのようにおしゃれアイドルでもないし、やってみると1枚も売れていない。これは地獄でしょ。想像してみてくださいよ。「俺、ブランド立ち上げたんだぜ」と言って、その翌日に1枚も売れてないという。

ああ終わったな、俺の人生。信頼、そしてプライド、あらゆるものがすべて崩れた。「幸福洗脳」というTシャツを発売して、1枚も売れなかった日をリアルに想像して欲しいんですよ。本当に嫌な日ですから。

「幸福洗脳」のTシャツが売れたきっかけもプレゼン

中田:その翌日に、僕のラジオが始まるんです。公開処刑ですよ。でも、これが大事なんだと僕は思ったんですね。そのラジオで「1枚も売れていません」というピッチを始めたわけですよ。

「1枚も売れていない。でも、なぜ『幸福洗脳』にしたのか。それは、世の中にないものだから。無印良品みたいに漢字4文字はあるけれども、『幸福洗脳』のような怖い漢字4文字のブランドはいままでにないだろう。ないからおもしろいんだよ。こんなもん売れないと思うだろう。

価格はいくらだと思う? 1枚2千円、3千円のTシャツがある中で、俺はあえて1万円で売り出したの。どう思う? 『幸福洗脳』というおぞましい、売れそうもない、ファッションアイドルでもない、ただの芸人が作ったTシャツを1万円で売り始めて、なんと昨日実績が出たら、1枚も売れてない。こんな男がどうなると思う? 見てみたくないか?」

というプレゼンなんですよ。それで、僕のラジオは半年間限定のものなんですね。野球中継がない。半年で終わる。

「だから、その半年の間に必ずひとかどのブランドにして見せるから、必ず楽しんで見せるから、俺を信じてくれ。俺は『武勇伝』も『PERFECT HUMAN』も作った中田敦彦だから、必ず成し遂げる。

だから信じてくれ。信じてくれたなら、1枚買って欲しいんだよ。なぜなら、それは今日1枚目のTシャツだから。今日、これを聴いているリスナー、おい、どうだ。1枚目のTシャツを買って、それが半年でどうなるかを全部見守るだけの価値はあると思うぜ。その1万円は安いと思わないか? 頼む!」

もう、熱弁のピッチをしたんですね。そうしたら、めっちゃ売れたんですよ。ブワーッと。そこで、でも僕は思ったんですね。ここで終わったら一番つまらないですね。バッと一気に売れた。ラジオでちょっとしゃべったら売れました。「お疲れ様でした。ハワイへ行きます」。これが一番最悪ですよ。

(会場笑)

中田:「ウワーイ!」なんて言って、その後はなにもしない。これはもう、地獄の始まりですね。

(会場笑)

「やるな!」と言われるから、チャンスがある

中田:「あいつはなんだ」と。それで半年間ずっと、ダラダラダラダラ葉書きを読んで終わったら、それはおしまいですよ。だから、そのお金で僕は「店を出す」と言ったんですね。実際の店舗を出すんだと。これはもうZOZO TOWNの時代で止められたんですよ。

「ネットショップ全盛だぞ。お前はショップのリスクを抱えるぞ。在庫を抱えるぞ。アパレルで小売りと言ったって、ファストファッションとハイファッションの二極化がうたわれている中で、一人の芸人が作った1万円のTシャツでリアルな店舗を出しても大変な目に合うぞ。お前は大丈夫か?」

と言われるわけですよ。でも、だからおもしろいと僕は思ったんですね。ネットショップが全盛の時代だからこそ、みんなが「やるな!」「危ない!」「無理だ!」と言うことに、俺はチャンスがあると思っているんですよ。

「リズムネタ? なにそれ?」と言うからいい。「ネタ番組で歌? なにそれ?」だからいい。「なにそのナカタ、ナカタの歌?」だからいい。「『幸福洗脳』の実店舗はやめときな」だからいい、と僕は思ったんですね。それで、ついに店を構えたんですよ。

店を構える場所選びも、みんなが大事だよという前に、もう僕は一応決めていたんですね。それは乃木坂にあるんですよ。なぜ乃木坂なのか。それは、僕が原宿のほうがすごいということをあまり知らなかったから。素人だったんですね。その後に原宿に行って「ハッ、こっちに出したかった!」とすぐに思ったのですが。

(会場笑)

中田:時すでに遅しで、判子を押していたんですね。そして、ついにラジオ開始から3週間後に、「幸福洗脳」の店舗が閑静な住宅街に浮かび上がったんです。

(会場笑)

中田:もう事件です。逮捕は時間の問題ですね。「そういうお店ができたぞー」と言って、そうしたら「うそだろー!」と言って人が集まるんですね。「うわぁ!」と言って見に来るんですよ。本当に最初の1週間ぐらいは、うわーっと人が殺到していたんですね「ああ、おもしろい、おもしろい」「ああ、本当にあるんだー」と。

ピンチの時に言うべき言葉は「まだやれることがあるんだ」

中田:それがピタッと止んだ日。1枚も売れなかった日がついに現れた日。僕は夜中の3時に飛び起きましたね。「なにをしているんだ」と。

ネットショップは閉じればいいんですよ。実店舗は何年も借りる契約金を積んでいますから、動いているお金の額が違うわけです。隣で寝ている家族に対して「俺はなにをしているんだ?」と。もう、震えが止まらないわけなんですね。

僕はピンチに至るのがすごく好きなやつなんで、その『PERFECT HUMAN』のときの「よし!」という、そのときの感覚がまた来たと思ったんですね。「ああこれは大ピンチだ」と。「俺はもうすごいピンチ。だって閑静な住宅街に、わけのわからないTシャツの店を出したというんだもん」。

そう思って、そのときに必ず言う言葉があるんですよ。ピンチのときに必ず言うべき言葉というのは「まだやれることがあるんだ」。この言葉だけを覚えてほしいんですね。

「うわぁ、もう無理」というピンチが訪れたときに「まだやれることがある」と必ず言うんです。言ってから考える。では、なにがいけなかったんだろう。なにを改善できるんだろうというようにして、少しずつ商品や店の内装、店員や告知の仕方などを全部、毎週毎週アップデートして、それをラジオでしこたま放送したんですね。

「商品がTシャツしかなかったのが問題だと考えて、パーカーも用意してきました」「内装はどこどこに丸被りだったのでそれをやめました」「店員がつまらなそうだったので、店員をキャラクターにしました」などと。

今、僕の店では楽しんで写真を撮ってもらえるような内装にするだけではなくて、店員も普通の店員を置いていたらつまらないだろうということで、店員をコードネームで呼んでいるんですね。Tという謎の黒ずくめの丸いサングラスをしたひょろっとした男が接客をしてくれて、さらに、その謎のキャラクターはTシャツを買うと、なぜかタロット占いをしてくれるという。

(会場笑)

中田:今はそういった付加価値を付けているんですね。そうやって、毎週毎週アップデートをしていくと、やっぱり人が来るんですよ。「なんか絵が変わったらしいな」「Tって誰なんだよ」「俺はTが見たいんだよな」と。だんだんTに会いに来る客が増えて「うわぁ、Tさん会いたかったんです」という状況になったりして、だんだんアップデートされてくるんですね。

腕はあるのにやりたいことができない職人たちとの出会い

中田:そうこうしているうちに、いろんな人から声をいただきまして。「中田がなにをやっているのか注目して見ていたけれども、どうやらまだ続いている」「どうやらまだ客が来ている。しかも1万円の高額。それ以上の額のものも売り始めている。どうして続くんだ? 僕たちも参加させて欲しい」という職人さんたちが現れたわけなんですよ。

どういう職人さんかというと、良いものを作っているんだけど、商売にはなっていない人、お金にはなっていない人たち。そういう人たちが、その真逆のような僕を見る。決して良いものを作っているわけではないのに、商売はできているという。真逆の事例を見て、「なんであいつはものが売れるんだ?」ということで、良いものを持っている人たちが近づいてくるようになってきたんですよ。

シルバーの職人さんが声を掛けてきてくれたんですよ。それで、「シルバーも作ってみたかったので、ちょっと話を聞きたいのですが、どういうことなんですか?」と言ったんです。

そうしたら、その職人さんが、「いやぁ僕ね、本当に苦しんでいて。今、すごく安い給料で、雑貨屋さんでアルバイトのようなかたちで雇われていて、とにかく細い女性向けの真鍮のリングを作っているんです。

安い値段で、それを大量に作って卸しているんですよ。でも、俺が本当に作りたいのは、クロムハーツみたいな、ゴリゴリの男が好きなああいうシルバーなんですよ。これ、見てくださいよ。俺はこういうのが作りたくてシルバーの職人になったんですよ。でっけードクロなんですよ。でっけードクロなんですけど、中田さん、俺はでっけードクロが作りてえっす!」

(会場笑)

中田:その瞬間、『スラムダンク』の三井寿に見えたんですね。

(会場笑)

中田:「でっかいドクロが作りたいんです」というね。なんかもう安西先生のような気持ちになりまして。ああ、そういう人たちがいっぱいいるんだと。自分のやりたいことができていない。食うためにギリギリやりたくないことをやっている。しかも、それが安く買い叩かれて、自分のキャパシティをオーバーするような発注を受けさせられている、と。