経営学は生涯を通して挑みたいテーマ

田中祐介氏(以下、田中祐介):はい。ありがとうございます。もうちょっと聞きたいと思います。

会社の上場後の成長に、かなりM&A戦略というのが活用されているかなと思います。資金調達環境が恵まれているというお話もありましたけれども、戦略的に上場前から「そういうことをやっていこう」「そういう会社の成長を目指そう」ということを平尾さんがお考えになってやってこられたのでしょうか?

平尾丈氏(以下、平尾):そうですね。どちらかというと、私が思っていたよりはすごい時間がかかってしまったなという感覚ではあります。私はやっぱり経営学というのは自分が生涯通して挑みたいテーマです。「自分がどう経営していったら、終わりのないストーリーがずっと永続的に成長する会社を作れるんだろうか?」というところから考えていく、と。

やっぱり世の中、世界中、全部が経営資源であると考えたときにそれぞれ人と物とお金と情報が全部バラバラになっているところが……。例えばじげんのなかでもたぶんみなさん登っていく山って同じなんですけど、会社のステージが低いときには、どう登っていくのかで差がついちゃうなと思っています。

それをけっこう緻密に、いろいろなことを考えているというのがあります。もちろん戦略なので、競合環境であったり、もしくはマーケットがちょっとずれてしまったりするようなインタラクティブで、このパターンをかなり出してやっていっていると。それを活用すべく上場しました。

ヤフーとの提携で、10年かかるSEOの成果に好影響

田中祐介:はい。ありがとうございます。非常におもしろい話です。はい。delyの堀江さん。 ヤフーの傘下入りして、後悔していないでしょうか?

堀江裕介氏(以下、堀江):全くしていないです(笑)。していたらもうやばいですよ。

田中祐介:なぜヤフーに資本参加されてやっていこうと思ったのか、その辺の経緯からお話をうかがえればなと思います。

堀江:はい。1個目が、これは事業シナジーの面が1番大きいかなと思っています。僕たちのサービスはアプリを主軸始まっていますが、サービスのユーザー数を伸ばし続けるという点において次に重要な指標として、Webがあります。Webコンテンツふくめ、クラシルは全てオリジナルで動画を作っています。今、クラシルには2万6000のレシピがあるんですけれど、競合さんとか見ると、何百万レシピという会社さんもちらほらあります。

Webってやっぱり情報量が大事なので、そこをとりにいかなきゃいけないとなると、SEOで5年、10年かかるんですね。そこに力を入れていこうとすると、けっこう時間がかかりそうだなと。その点、メディア力を持っているヤフーさんと提携することでけっこういいシナジーを生むんじゃないかと思ったのですが実際M&A後グッと数字ががのびております。

あとは、もうすでにやると発表しているのが、生鮮のコマース。さっき田中さんとも少しお話していたのですが、レシピサイト含めバーティカルメディアはトラフィックが一定までいったあとのその先をどう描くかが大事だよね」というのが次のテーマになってくると思っています。

その際にコマースのところで言うと、生鮮はすぐに配達しなければいけなかったりだとか、倉庫を持つ必要が出てきたりという可能性があります。その辺は自社でやるよりは、「Softbankやヤフーと共同でやった方が大きなことができそうだね」という話が出てきて、コマース面とメディア面、大きく2つのでの事業提携を予定しています。この2つが今うまく機能しそうなので、非常によかったかなと思っています。

田中祐介:ありがとうございます。模範解答的ですね。

堀江:(笑)。本当です。ここからが大事です。

買ったあと、どれだけPMIをうまく進められるか

田中祐介:じゃあ逆に、今買われた側の堀江さんのお話があって、先ほど平尾さんがPMIに触れられていました。M&Aというのは当然買うまでのディールとしての交渉もあり、成功するかどうかというのは、買ったあとにどれだけPMIがうまく進められるかということになるかと思います。

この件については、買われた側の堀江さんから、PMIという観点で今どんなことを感じていて、どうやったらうまくいきそうか、あるいはうまくいっていることはこんなことがありますよとか、逆にうまくいっていないことはこんなことがありますよ、ということがあれば、ちょっと自由にお話しください。

堀江:はい。今本当に楽しくやらせてもらっています。正直に言いますけど、一切苦なくやっております。基本的に買われた会社側が買った会社側に上手にフィットしていく方がいいんじゃないかなと思っています。そっちの方がヤフーのような、大きな会社が持ってらっしゃるアセットを大きく使わせてもらいやすいですし。

ヤフーのように大きな会社になるとグループ会社もたくさんあるわけです。 であれば、僕らのようなグループ会社がいかに事業シナジーを生めるか提案できるかが肝になるのではないかなと。その時に親会社からの信頼というのがものすごく大事になってきます。

田中良和先生から学んだ、買われる側の極意

堀江:グループ会社化された当時、ヤフーのアセットを使わせてもらおうと、ヤフーにdelyを全力で合わせにいこうと思ったんですけど、いざグループ入りしてみると、CEOの川邊さんをはじめ、小澤さん、田中さん、宮澤さん、みんなそこまで僕らとカルチャーが変わらなかったんです。

いい意味でやんちゃな、子どものわくわくしたような精神みたいなものを事業に対して持っていて、イメージしてた以上にヤフーの経営陣の方たちとdelyが近かったので、あまり自分らを変えることなく、いい感じにフィットさせてもらっているかなというのがあります。PMIというPMIをほぼしていないですし。

僕が買収の後に1回ブログを書いたときにバーンとバズったんですけど、そのあと唯一、田中良和先生から「お前! これダメだよ!」とお叱りを受けました。なんていうんでしょうね? 買われる側の極意みたいなものを、会食でいろいろ教えていただきました。

独立して経営すること、カルチャーとして残すというのは大事なんですけれど、親会社とうまくやることで合理的にうまくいくことって、ものすごく大きいなと思います。

特に今、delyの経営陣はヤフーと一丸となってなにかを成し遂げていこうという方向に向かわせている感じですね。田中さんありがとうございました。いろいろ助かりました。いろいろ勉強になりました(笑)。

買収後の成長を左右する、親会社とのシナジー

田中祐介:ちょっと捕捉しますと、いろんな意味合いをさせていただいています。クラシルの堀江さんに関して言うと、ヤフーの経営陣自体ももともとスタートアップの経営者であったということもあって、確かにカルチャーのフィットは近いのかもしれません。

そのなかで僕が1ついいなと思ったのが、例えばヤフーから同業にパートナーシップで誘導をかけているということ。これはいろいろなコンテンツパートナー含めてやっていて、「なんでクラシルとこんな近いサービスのコンテンツがかかってるんだ?」と普通に僕にメッセが来るんですよ。

買ったはずの会社から、お叱りが来るんですね。このカジュアルさとか、事業に対する貪欲なスタンスというのが、買った・買われたに関わらず、コミュニケーションとして密にやれている。これはdely社のM&Aでうまくいっている、1つの要因かなと思いますね。

堀江:そうですね。基本的に、お互い言いたいことはオープンに言える状況にはあるかなと思っています。それが非常にうまくいっているというか、むしろ直近でPayPayがあったのがうちの会社にとってはけっこう大きかったです。「もっとヤフー・Softbankと一緒になにかできるようにがんばろう!」「ちっちゃい事業をやるよりは、でかい世の中を動かしたいよね!」みたいなことを、目の前でかまされた感じがしました。

それでモチベーションがグッと上がって、僕らも「ヤフーともっと何か事業をやっていこう」みたいな空気になっているので、僕らからもリクエストを出して、ヤフーからもいろいろなリクエストをもらって、一緒にやっているかなと。

田中祐介:どこの会社が嘘だってこと?

堀江:実際、買収された後うまくいかないケースもかなり多いと思います。delyの場合は実際にヤフーとのシナジーが多かったので、非常によかったかなと。あと僕らはコンテンツを持っていて、ヤフーはメディアを持っているいうところで、両社のメリットがあったパートナーシップになったので、非常にうまくいったのかなと思います。

田中祐介:はい。だんだんマッチポンプ感が出てきたので、この辺でヤフーとdelyの話は一旦終わります。PMIの話に戻しましょう。

これは良かったと思えるPMIは何か

田中祐介:じげんさんはPMIをいろいろ成功されていると思います。じげんのM&A事例というのを作ってまいりましたので、画面を見ながら、どんなMAがうまくいったのかをお話しいただきたいなと思います。なぜか画面が消えておりますね。

すみません。これは……。駄目ですね! ごめんなさい。電源が切れてしまいました! すみません(笑)。なので画面はないのですが、12社のなかでこれはと思えるよかったPMI。社名を出すか出さないかはともかくとして、お話しいただければと思います。

平尾:12件やったとはいえ、総額で言うとまだ僕らの会社はとても小さいです。金額的には、トータルで100億円12件で割っていただくと1件平均8億円くらいのものです。PMIは言うは易し行うは難しですし、通常は3割以下が成功率という話です。

さっきの堀江社長の話とか、M&Aされた会社からPMIのアイディアが逆に出るというのは、あまりないんじゃないかと思って、すごいなと思って聞いていました。僕らは逆に言うと、M&A前からPMIの計画をぶつけに行くというのがスタイルです。

いかに「我々にお譲りいただくと伸びます」という話をプレゼンするか。通常であればM&Aって、相手の会社の理解をDDで深めるということがメインだと思います。けど、我々はいかに、我々とご一緒させていただけたら伸ばせるかというところに集中してやらせていただいています。

意外と参入障壁の高いネット求人広告業界

平尾:業種は、インターネット系・ヤフーさん関連でいくと、トレードカービューですね。カービュー社さんからお譲りいただきまして、ありがとうございます。

これはまだ始まったばかりです。日本の中古車をアフリカに輸出するプラットフォームで、いろんな話をやらせていただいている最中です。アップルワールドは、直近ファンドさんから買わせていただいた案件でありました。我々じげんがやっているアグリケーションのB to B版ですね。

B to C、B to B、B to B to C、いろんなものをM&Aしています。わりと小粒ですが、それぞれみなさんたぶん上場できるくらい伸びてらっしゃる会社の方が今のところは多いです。彼らとしても、これから上場に向かっていくだけではなくて、出口としてのM&Aを我々と一緒に必死になって会社も伸ばしつつ、彼らのリソースでできなかったことを目指す。

例えば三光アドという紙のチラシの求人の会社にグループ入りしていただいて、名古屋で本社があるので、なかなか東京に比べるとまだまだネット系の人材が少なくて、採用に苦労してらっしゃる方が多いです。インターネット求人広告って、みなさんからすると簡単に思われるかもしれませんが、意外と参入障壁が高くて、参入ができない。

そのタイミングで、オーナーの方から将来の共創可能性を視野にお譲りいただきました。現状実績で大きく伸ばせた1つの事例だとリジョブ。私の後輩が、大学を卒業してからずっと経営していました。久しぶりにお会いしてみたら、ものすごく伸びていて、我々に譲ってほしいと必死に口説いてご一緒させていただきました。今日も元経営陣の方とかいらっしゃってます。

「M&Aは有事である!」

平尾:ご一緒してまずやったこと。我々じげんというところは、2つのPMIがあると思ってます。

1つは、じげんの1番の強みであるコンバージョンを出すマッチングテクノロジー。ヤフーさんは非常に大きなプラットフォームをお持ちだと思いますけれど、我々はどちらかというと、集めるというよりは動かす力に集中してやってきています。人数は少ないんですけど、求人の応募だったりとか、不動産の反響であったりとか、人が動かすコンバージョンレートにひたすら注目して十何年経営してきたので、そのノウハウが大きいです。

2つ目は、いわゆるPEファンドさんがやっていらっしゃるような、経営計画をひたすらご一緒に書いていって、伸ばしていくということをやっております。全会社違うやり方をやっていってるので、汎用的ではないのですが、その仕組みでしっかりやるところと、ちゃんと泥臭くやるところに分けてやっているところが実情かなと思っています。

ただ、1つだけ私が申し上げたいのは、今のところは、累計12件のM&Aのうち直近取得2社・売却済み1社を除くEV77億円に対してEBITDA28億円くらい出ております。もちろんそこ(M&A)にリソースも送っているので、綺麗に分けられないのですが、今のところは成功とはいえるのかなと思っております。

ただ、私はJTの新貝CFOがよくおっしゃっているセリフがすごく好きです。「M&Aは有事である!」という話があります。

本当に、一発で致命傷になるくらい、のれん代の問題であったりとか、会計だけでなくて組織のカルチャーであったりとか、やっぱり金額が大きくなってくるといろいろ難しいことも増えると思います。そういったことを考えながらやっていくと、今のところはうまくいってますけど、毎回緊張感を持ちながら、一個一個丁寧にやっていくことかなと思っています。

何年で営業利益を出し、どれくらいで回収するかの見込み方

田中祐介:はい。ありがとうございます。コンバージョンさせる力を持っているからこそというところで……。

堀江:1個いいですか?

田中祐介:はい。どうぞ。

堀江:買収するときに、営業利益を何年で回収とか、原則は自分らのなかでいくら以内と決めているんですか?

平尾:そうですね。もともとは私がM&Aをやりたいということから入っているんですけど、今は、投資委員会をしっかり運営しています。取締役会の前段でインプットする会をやって、そこを通過すると、取締役会に上程してやっていくという会社のガバナンスにしています。その投資委員会のなかにも、撤退基準であったり、投資基準というところのハードル・レートがあります。

そこに対して、ちゃんといけるのかどうかというのを、うちでいうと、ボトムケース・ベースケース・アップサイドと分けた上で、ボトムであってもその投資基準に満たされているのかであったり、ベースシナジーがないとそこはいかないんじゃないかというのをみなさん大体数十~100枚くらいのパワーポイントを作って、がんばって提案します。ひたすらいろんなことを言われながら通していきます。

堀江:なるほど。ありがとうございます。

統合後に実感する「2:6:2の法則」

田中祐介:そういう意味では、コンバージョンのノウハウを持って、それをベースに事業シナジーはすごくわかりやすいM&Aをされているのかなと、見てて思うんですね。事業シナジーという意味ではよいと思うんですけど、例えば買収した会社のカルチャーであったり、買われた会社の経営陣の経営の独立性的なものだとかは、どう考えてやってらっしゃるのでしょうか?

平尾:まだ12件で、答えがぜんぜん出てないんですけど、先ほど失敗事例として、意識高い系集団じげんみたいなところを振りかざしたときのことを申し上げました。例えば、ブレイン・ラボは、人材紹介会社のシステムを作っている会社です。じげんはいろんな職種がいるので調和がとれていたのですが、(ブレイン・ラボは社員の)8割がエンジニアの会社で、より近い距離感で意見を吸い上げていく組織に変えてきました。

休日バーベキューするとか、じげんは飲みニケーションとかせず、「勝手にみんなついてこい!」「みんな意識高いから大丈夫でしょう!」みたいな経営をしています。それではあまり上手くいきませんでした。一方でリジョブなんかは、非常に社会貢献性が高い方々で、女性が大多数。

アップルワールドは、平均年齢は40代くらいの組織でした。システム会社ではあるんですが、さっきのブレイン・ラボとも違うPMIをやっていかなければいけないというところがありました。ここばっかりは、事前に事業シナジーをいっぱい作ってプロポーザルを持っていくところではわからない、統合後の最初のチャレンジ、壁ですよね。ここは毎回非常にぴりぴりもします。やっぱり2:6:2の法則って、よくできています。

上位の2割の方はわくわくされているんですよね。6割の方は、わりと反応がないです。やっぱりどうしても、2割の方々は拒否反応される方も多いです。やっぱりご一緒してから早く結果を出さないと、我々とご一緒してよかったなという実感がなかなか出ないので、この辺は意識しながらやっていますね。

田中祐介:はい。ありがとうございます。引き続き模索しながら、PMIをひたすら成功していただきたいなと思います。

平尾:ありがとうございます。がんばります。

田中祐介:利益の半分をそこで創出しているって、すごいですよね!