買った側・買われた側が語る、失敗しないスタートアップの買収

田中祐介氏(以下、田中祐介):みなさん、こんにちは。ヤフーの田中祐介でございます。「M&A戦略〜失敗しないスタートアップの買収〜」ということで、今日は「買った側」「買われた側」、それぞれ話題のあるみなさまと一緒に、この話についていろいろうかがってまいりたいと思います。

私自身も18年前にヤフーに買収され、買われた身でございます。その後、買ったり買われたりというのをひたすら繰り返し、今もヤフーではメディア広告分野での買収担当ということで、仕事をさせていただいております。よろしくお願いいたします。

まず最初に、今日おめでたい発表がありました、エキサイト代表取締役社長の西條さんをご紹介させてください。西條さんはXTechを起業されてまだ間もないと思いますけれども、早々にエキサイトをTOBされたというところで、このトピックをみなさんがすごく気にされてらっしゃると思います。最近のそういった流れ・近況から、お話をうかがわせて下さい。

西條晋一氏(以下、西條):はい、西條でございます。XTechという会社を2018年1月に設立しました。設立してすぐにコインチェック問題というのが起きまして、私はアドバイザーをやっていた関係で暫く大人しくしておこうかなということで、だいたい4月くらいまで潜伏期間がありました。4月の中旬くらいに1号社員を採用して、そこからいくつか会社を作ったり買収したりということで、半年くらいで今グループで5社作りました。

TOBはなにかの取材でも答えたんですけれど、狙っていたというよりもたまたまそういう話があったので、冗談半分で「お金ないんですけど、ローンとかつくんですか?」と聞いてみました。そうしたら、つくということだったので「やってみよう!」と思った感じです。けっこうTOBってやる機会がないと思うんですけど、いろいろ学びが多かったので、2019年1月の下旬くらいに、みずほ証券と一緒にTOB勉強会というのをやろうと思っています。興味のある方がいたら、来ていただければと思います。

同じ100億円なら、絵画ではなく日本のVCに投じたい

田中祐介:ありがとうございます。じゃあ続いて、グリーの田中良和さん。最近はVtuberに非常に興味があるということです。最近の近況だとかトピックスを教えていただけますでしょうか?

田中良和氏(以下、田中良和):そうですね。最近僕がやっている出資・投資関係の活動ですが。某社の社長が、100億円を超える絵を買った事件があったじゃないですか!(笑) あれを見たときに僕は「100億円あったら、何を買いたいかな」と考えさせられました。

100億円の絵は自分にとってはいらないけれど、僕はインターネットが好きなので、「インターネットの会社を100億円で買った方がおもしろいんじゃないかな(笑)」という結論に達しました。

「それを会社でどうやるかな」と思ったときに、だいたい100億円くらいあるととりあえず日本で僕が「このVCいいな!」と思っているVCに投資し続けられるということが計算できました。じゃあ同じ100億円だったら絵を買うんじゃなくて日本のVCに100億円投じてみようということで、最近活動しています。

そのなかで半年とか3ヶ月にいっぺんくらい、いろんな部署の方とお会いする機会があり、投資や事業、M&Aのアイディアを貰うことが多くなりました。

じげんが力をいれるPMI

田中祐介:はい。ありがとうございます。M&Aに限らず、VCのLPとしても非常に活躍されているということだと思います。じゃあ続きまして、じげんの平尾さん。上場後にたくさん買収されていると思います。最近の近況を教えてください。

平尾丈氏(以下、平尾):はい。ありがとうございます。本日適時開示が出ております。M&Aを1件、発表させていただきました。我々は今上場して5年経ちます。今年の6月に東証一部にいきました。

わりとマザーズに出てから1年くらいで鞍替えされる、市場変更をされる方が多いと思います。我々は5年間かけて、12件のM&Aや出資をさせていただいています。12件中、11件が100パーセントM&Aをやらせていただいております。

今日ももしかしたら触れていただけるかもしれませんが、PMIにかなり力を入れております。ソーシングから入って、DDをしてM&Aしてからが非常に大変であるというのをたくさん経験しました。なぜ5年間マザーズにいたかというと、M&Aの型化をちゃんとしたいなと思ってやらせていただいておりました。

そうは言っても、泥臭いところはかなりあります。それを経て、なんとか5年経って、東証一部にいったというのが、近況かなと思っております。今日はよろしくお願いいたします。

田中祐介:ありがとうございます。平尾さん、じげんさんのIRを見ていると、いたるところで「PMI順調!」とか「PMIがうまくいっている!」ということがたくさん発表されています。その辺を後ほど詳しく聞かせていただければと思います。

平尾:はい。よろしくお願いいたします。

ヤフーグループ傘下に入ったdely

田中祐介:じゃあ続きまして、delyの堀江さん。

delyに関しては、私がモデレーターで買われた会社の社長がスピーカーという、確実にマッチポンプ感があるわけでございますけれども、最近ヤフーグループの傘下に入っていただいたということで、それにまつわる近況をお話しいただければなと思います。

堀江裕介氏(以下、堀江):クラシルを運営しているdelyの堀江と申します。よろしくお願いいたします。

今年の8月くらいに、ヤフーとYJキャピタルの株式割合を増やして連結を組めるようにし、事業シナジーをうむ、というスキームで買収をしていただきました。その時ヤフーさんには95億円くらい出していただいて、僕たちの会社では引き続き上場を目指しています。

今日は田中さんがいらっしゃいますが、正直にいろいろお話できれば言えればいいかなと思っているのでよろしくお願いします

田中祐介:ありがとうございます。ぶっちゃけ話を、ぜひお願いいたします。

増え続けるスタートアップの買収件数

田中祐介:スタートアップの買収ということで、資料をまとめてきましたので映してください。

スタートアップの動向ということで、最近のトレンドとして、やはり買収の件数がすごく増えています。今年は300億円を越してきて、今までで過去最高になるんじゃないかということです。スタートアップにとって資本政策が、従来のIPOをして引き続き成長というかたち以外に、M&A買収というかたちで、その後事業を成長させたり、資金調達をしたりというところが増えてきているのは、確実に言えるのかなと思います。

今年、最終的にどうなるかはまだわかりせんけれども、IPOの件数とスタートアップのM&Aの買収件数の動向を見ていると、昨年までは圧倒的にIPOの件数の方が多かったのが、今年上半期の進捗で言うと、実はIPOの件数よりも大企業による買収の方が件数として上回ってきているということで、そういう意味では大分選択肢の幅が広がってきた。

Delyのように、引き続きIPOを目指すけれども、一旦連結子会社として、大手から資本参加受けるというようなトレンドも出てきているのかなと思います。国内のIT企業のM&Aの傾向で言いますと、IT関連のM&Aの買い手が引き続き増えていて、一方で上場企業の売り手は少し減っているのかなというところです。一方でスタートアップは、バイアウトという選択肢もより増えているのが、昨今のトレンドかなと思います。

そういう意味では、国内IT企業関連だと、売り手がわりといろんなかたちで増えてきていて、じげんさんのように、もう12社買収されたというような、盛んなM&Aといった傾向が出ていると言えるなと思います。補足としては、最近のM&A市場の動向を見ますと、単純に国内の大手が国内のスタートアップを買収するだけではなくて、日本の大手が海外の会社を買収する(こともあります)。

ライフルさんが先にやられている例であるとか、逆に海外の大手さんが日本のスタートアップを買収するという意味で、インアウト、アウトイン共に、クロスボーダーでのM&Aというような事例も増えてきているのかなと……。こんなようなところが、昨今のスタートアップ、海外のMAで起きているコンディションかなと思います。はい。画面は戻していただいて、ここからは具体的にいろいろお話をうかがってまいりたいと思います。

IT業界と既存産業の垣根はなくなってきている

田中祐介:まず西條さんからお願いしたいと思います。すでにXTechでも買収されていて、以前にもいろいろとMAの経験を持っていらっしゃるかと思います。会社を買うと決めるときに、どんな基準で買うか買わないかだとかを考えてらっしゃるのか、その辺から教えていただけますでしょうか。

西條:はい。前職のときも含めて、いわゆる小さいサイズの会社は買ったりしていたことがあります。イメージ的に、大きいところが小さいところを買うという発想をみなさんお持ちだと思うんですけれど、どっちかというと僕が目を付けているところは、小さい会社が大企業がなんとかできなくなったものを買う方が、けっこう割安だったりとか、自分たちの力を活かせるなと思っています。エキサイトにしても、地球の歩き方T&Eにしても、もともと持っていた会社さんがけっこう持て余していた感じなんですね。

大企業側が高く売りたいというのは全然なくて、エキサイトの場合は市場の価格がついていました。地球の歩き方T&Eに関しても、「高く売りたい」というよりは、「誰かなんとかしてほしい!」みたいなところがあったので。だからここにいらっしゃるみなさんは、小さいベンチャーを買うとか、逆に大きなところに売るというのが中心の方が多いと思うんですけれど、僕のおすすめの狙い目は、今インターネットと既存産業の垣根がなくなってきているなかで、逆に大きいところから買うこと。

あるいは、カーブアウトで持ってくるみたいなことをやった方が、けっこう良い買収ができるのではないかなと思っています。今回TOBをやってみて思ったこと。けっこうベンチャーは、特に上場とかしていないと、メインバンクとかちゃんとあるところが少ないと思います。金融機関って、なんとなく口座を開設したらもうなにもなし、みたいなことが多いと思うんですけど、彼らは相当な取引先をお持ちですので、こっちから正しいボールを投げるとけっこういい感じで返ってくるというのがあります。

いろんなM&Aのターゲット先も、明確に使えればそれなりのものが出てきます。あとファイナンスは、信頼残高を積んでおくと、「こんなに借りられるんだ!」と思うくらいお金が借りられます。借入金とかでレバレッジを掛けていくということで言うと、もう少しみなさん活用した方がいいのではないかなとは思います。

買収先企業の経営陣が全員辞めた後に、何が残るか

田中祐介:はい。ありがとうございます。小さい会社が大きい会社を買うというところは、まさにXTechのエキサイトのTOBはびっくりしました。ファイナンスのテクニックは、非常に信頼が積み上がっていくことでできたのだろうなと、本当に思います。

続いて、グリーの田中良和さん。今まで相当数のM&Aをやられてこられたかと思います。うまくいったものも、そうでないものもあろうかと思います。

「こういう目線でM&Aをしたらうまくいったな」とか、「こういう価値観で会社を探したらうまく見つけられたな」といった事例があったら、その背景も含めてお話しいただければなと。画面で今、グリーのM&A事例を出させていただきますので、映してください。はい。じゃあお願いします。

田中良和:確かにいっぱいありますね。うちの会社は、かなり昔からいろんなM&Aを繰り返しています。やっていくなかで自分としては、変な話、「買収した会社の経営陣が全員辞めてしまっても、何が残る会社なのか」というのが、まず1個目の論点だなと思っています。例えばゲームとかだとIPが残るとか、システムが残るとか。別に買収した会社の経営陣に辞めてほしいということではないです。

辞めたとしても何が残るのか、アセットがある会社というのが、ボトムラインにあって魅力的だなと思っています。。ただ、当然買収した会社の経営陣の方にはがんばっていただきたいんですけれども、正直相当、経営陣の資質というか趣味趣向と自分たちの会社がフィットするかどうかということが大きいなと思っています。やっぱりなかなかフィットしない場合が多かったなと思っています。

いくら投資されたかを理解してくれる経営陣とはやっていける

田中良和:逆に最高にフィットしている例が、この中で言うとポケラボです。ポケラボは今、うちの会社でも有数のゲームスタジオになっています。社長の前田はグリーの取締役としてもうなん年もやってもらっています。ヤフーさんもそうですけど、そういった意味では、ロックアップ期限が切れたからといって、すぐ「辞めます!」という感じではないですね。

ポケラボは130億円のバリューでグリーが投資してM&Aしたので、前田としては、それを上回るバリューを出すのが自分の使命であると思ってがんばってくれていると思っています。正直、これは生き方なので、いい悪いということではないです。けれども、(バリューを出す)と思ってやる人と、「ロックアップ切れたら、もう契約もなにもないわけだから、それはもう買った会社の経営陣の責任ですよね!」という人と分かれると思います。

そういう意味ではタレントバイというか……。チームを買うときには、いくらでこの会社は買われたのか、投資されたのかを理解して努力してくれる経営陣とはやっていけるし、「あれはあれ、これはこれ」と思う人とは、たぶん中長期的にはやっていけないという目線で考えていますね。

田中祐介:ありがとうございます。深いですね。買われた側として、買われた額をしっかり噛み締めて仕事をした方がいいと……。

田中良和:まあそうですね。中長期的に同じチームでやっていくのであれば、そうであってほしいし、そうじゃない人はやっぱり続かない。ただ別に、それがM&Aのすべてではないと思います。そうじゃない時のボトムラインとしては、そういう人が辞めても何が残るのか、ということは意識しますね。

上場した理由の一つは「M&Aをしたかった」

田中祐介:はい。ありがとうございます。続きまして、じげんの平尾さん、お願いします。

平尾:いろんなお話がありまして、私たちも2013年に上場しましたが、上場前には金融機関さんとの付き合いってほとんどなくて、私は「M&Aをしたい」という気持ちが強かったのが上場した理由の1つです。

さっき西條さんがおっしゃったような、デットの活用みたいなところは、日本国内に本社がある理由かと思うんですよね。調達環境は低金利で、よくなってきているところもあります。ありがたい金利で借入することができました。私はしっかりBSを使って経営したいと思って出ていきました。

M&Aのソーシングをして、取締役会で議論をさせていただきながら始まっていき、この5年で大分ソーシングルートやDDの仕方も変わってきました。最初、事業のDDの仕方とかも、どうしても買い手と売り手の……。交渉論とかをやったことある方はわかりますけど、やっぱり希少性がある方が勝ちます。

なので、お金を持ってる方が強くなってしまったり、売りたい方がどうしても強いと、オルタナティブがなくて、買い手サイドが強くなってしまうということもあります。

自社のカルチャーをM&Å先に求めることの弊害

平尾:ただ一方で、今、田中さんにスライドで出していただいたように、M&Aの件数も相当増えています。IPOとM&Aの相関もあると思っていて、IPO件数が伸びているということは、逆にファンドさんなんかもM&Aで仕入れて、上場させていくような方も増えてらっしゃいます。

バイサイドとしてもすごい競争が激しくなってきているので、5年前に比べるとやっぱり良い案件はすぐ売れてしまう。長く時間をかけて口説いていかないといけなかったり、ソーシングもDDも変わってきた。

あとPMIのところも大分変わってきているなと思っています。もともとじげん自体が、資本市場・労働市場・商品市場を、すべてパラレルに相互で組み合わせで考えられる経営ができたらおもしろいなと思っています。

いい人は採用市場でとって、箱はほかのいい会社があって、さっきの、会社はあるんだけれどなかなかうまくいっていない会社さんってけっこうおありなので、そこの経営のリソースを全部アンバンドルしていくのはどうか、というところからはいっていきました。

じげんの企業文化って、意識高い系で「世の中に対して、社会の問題を事業で解決するんだ!」という人員ばっかりでやっていました。このカルチャーをM&A先にも求めて失敗したり、いろいろなことをしながら、企業風土や文化のPMIって非常に難しいんだと思っています。

今、カルチャーコングロマリットという表現をよく使っていて、組織カルチャー自体はそこまでPMIしないやり方で、それ以外の機能であったり、組織の制度であったりをご支援するかたちに変えていって、今はM&Aをさせていただいているのかなと思っています。