トマト・キノコ類・熟成したチーズなどを美味しく感じる理由

ステファン・チン氏:美食家たちは「うまみ」について話したがります。「うまみ」とは深みのある味覚で、料理界に非常に大きな影響を与えています。それは人間の舌が知覚することのできる、甘味、酸味、苦味、塩味と並ぶ、5つの基本的味覚のうちの一つです。しかし、あなたがもし中華料理のテイクアウトのファンでしたら、根っからの「うまみ」チームの一員と言えるかもしれません。

なぜなら、アメリカの中華料理に馴染みのある「MSG」という調味料は「うまみ」の最も純粋な形だからです。そして、もしかしたら「MSG」は体に悪い、とか「チャイニーズレストラン症候群」の原因となるといった話を聞いたことがあるかもしれませんが、科学はそれを認めていません。私たちは「MSG」と聞くと中華料理だと考えるかもしれませんが、本質的に中国人やアジア人とその化合物に関係があるわけではありません。

「MSG」は「グルタミン酸ナトリウム」の力で、「グルタミン酸ナトリウム」はグルタミン酸のナトリウム塩で、それは人間が体内で合成できるアミノ酸ですが、食物から摂取することもできます。他のアミノ酸とは異なり、グルタミン酸はタンパク質を形成する重要な物質で、それはまた神経細胞が体内の他の細胞に信号を送る助けもします。

これは、脊椎動物にとって最も豊富な興奮性神経伝達物質です。この物質は私たちにとって非常に重要なので、これに味を感じるようになっても不思議ではありません。人間は、「うまみ」を知覚できる受容体を舌と胃に持っています。それにより、私たちはグルタミン酸を含む、トマト・キノコ類・そして熟成したチーズなどを美味しく感じるのです。

「うまみ」成分を多く含む食物は、人間の食生活において、ずっと主要な役割を果たしてきました。例えば、歴史家が「ガルム」と呼ぶ混合物は、発酵した魚の内臓でできた「うまみ」成分たっぷりのソースで、古代ローマにおいて私たちのケチャップのような役割をしていました。

その後、人類はアミノ酸が何であるのかを知るずっと前から、干したトマトや塩漬けにした肉などを食べることにより、自然に生じるグルタミン酸を摂取してきたのです。

なんと赤ちゃんも「MSG」を好む傾向があるようですが、それは道理にかなっています。なぜなら母乳にはグルタミン酸が自然に多く含まれているからです。

日本人科学者が昆布から取り出した「うまみ」

しかし、1908年になるまで、「MSG」を精製することはありませんでした。その年、ある日本人の科学者が自分のスープの中に入れた昆布が、「うまみ」を付与しているということに気がつきました。「うまみ」はそれまでに定着していた4つの味覚にはまだ含まれていなかったのです。

彼はすぐに昆布からグルタミン酸の結晶塩を取り出し、これが「料理界の金」となったのです。彼はその結晶を、味覚の素、つまり「味の素」と呼ぶようになりました。それからしばらくすると「MSG」が商品化されるようになりました。

アジアでは、料理をする際によく使われる調味料となり、日本や中国のどこの家庭の台所でも見られるようになりました。1930年代初頭までには、それが世界に広まり、ハインツやキャンベルといった企業も商品の中に「MSG」を入れるようになりました。それに何とアメリカ軍も「MSG」の波に乗りました。第二次世界大戦で、アメリカ軍は科学の最先端で、可能な限り栄養価が高く保存期間の長い「K号携帯食」という食料を用いていました。

しかし、それは本当に味気なかったので、兵士たちは嫌っていました。そこで1940年代後半、この携帯食に「MSG」を加え始めるようになりました。すると、兵士たちから酷評されることがなくなったのです。

私たちの「MSG」に対する愛情は、その塩気のある美味しさだけにとどまりません。研究によれば「うまみ」は味覚の増強剤ともなり、さまざまな味とアロマと合わせると、その両方に深みが生じるようになるのです。この現象は「うまみの相乗効果」として知られています。

そう聞くと、かなり漠然としているように感じられるかもしれませんが、2007年にある実験結果が「The European Journal of Neuroscience」誌に掲載されました。その実験ではオックスフォード大学の科学者たちが12名の被験者たちに水、「MSG」、そして「ヌクレオチドⅡ」でできた「うまみドリンク」を飲ませました。被験者たちは同時に野菜の匂いも嗅がされました。

それぞれ別々だと、「うまみドリンク」も野菜の匂いもあまりよくなく、味気がないとされました。しかし、それを合わせると、しょっぱい飲料と同じ匂いを嗅がせた時よりもより美味しいと評価されました。これは非常に興味深い研究結果です。脳の活動を示すマップを見ると、それぞれ別々の時の反応を合わせたよりも、その両方を同時に感じた時の方が、ずっと多くの味覚と快感のニューロンが反応していることがわかったのです。

減塩やダイエットにも役立つ「うま味調味料」の利点

これらすべてを考慮すると、「では、なぜ近年企業は自社製品にMSGが含まれていないということを自慢げに宣伝しているのだろう」または「MSGを食べると具合が悪くなる人がいるのはなぜだろう」と不思議に思われるかもしれません。

私たちが「MSG」を好むのは生物学に基づいていますが、「MSG」を嫌う人の理由はまったく違うところにあるようです。それは「人種差別」です。この現象は、1968年に『The New England Journal of Medicine』誌の編集者に宛てられた手紙に端を発しています。

その手紙で、筆者とその友人は中華料理を食べた後、「チャイニーズレストラン症候群」にかかり、動悸や全身の脱力感、そしてしびれが生じるのだと述べました。するとその考えが根付くようになり、間違った仮説に基づく、偏見に満ちた科学の学説により「チャイニーズレストラン症候群」は本物で、「MSG」がその原因であるとされるようになったのです。

その後の動物実験では、その主張に信憑性があるように見られましたが、その実験では高度に濃縮された「MSG」を直接動物の腹部に注入するという、フライパンに「MSG」をふりかけるのとはまったく異なる方法が用いられていたのです。

もっと最近の「MSG」に対する嫌悪感に関する研究によれば、それは「外人恐怖症」や「人種差別」との関係があることがわかっています。過去30年以上にわたり、二重盲検のプラセボ対照研究がなされました。その中で、「MSG」に過敏に反応するという被験者が、「MSG」を含有する食物を摂取しても同じ症状を再現することはできませんでした。

中華料理のテイクアウトを食べた後に気分が悪くなる理由の有力なものは、「ノセボ効果」かもしれません。つまり、食べたもので自分の具合が悪くなるんだと信じ込むことにより、本当に具合が悪くなってしまうということです。

幸いなことに、科学は「MSG」を嫌う人たちより一歩先を進んでいます。「MSG」が健康上の利益をもたらしてくれるかもしれないという実験が進んでいます。研究者によれば、「MSG」は唾液の分泌を促し、高齢者に食欲を持たせることができ、また飽満感をさらに感じることができるので、ダイエットをする人のカロリー摂取を減らすことができます。

さらに、塩分を控えても美味しく食事ができる助けともなるのです。ですから、「MSG」は毒であるという評判は正しくありません。「MSG」を多少使うからといって、お気に入りのレストランを避ける必要もないのです。