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ワークショップ&セッション(全1記事)

お互いの想像力を引き出し合う「共読ワークショップ」の効果 創発型チームをつくる組織開発プログラム「Quest Link」とは

2018年11月22日、NTTドコモ・ベンチャーズ ラウンジにて「変化を味方につける 創発型チームのつくり方」が開催されました。これまで「読書術」「アナロジカル・シンキング」「アブダクション」「物語という方法」と続いていた本イベントも、今回がラスト。「創発型チームの作り方」という組織論をテーマに、株式会社編集工学研究所の安藤昭子氏が講演を行いました。本記事では、共読を用いたワークショップと続いて行われた講演の模様をお送りします。

読んだ本をグループ内にシェアする「共読」ワークショップ

安藤昭子氏(以下、安藤):それでは、まだ頭をぐるぐる動かしていただいていいのですが、もう一回グループでのディスカッションの時間に入りたいと思います。

ここではけっこう細かいルールを設定していますので、まずは聞いてください。今読んだ一冊の本を、グループでシェアするのですが、ここから先は共読という状態に深く入っていきます。

グループで探究していただくテーマは「チームの力を最大化する方法」ですね。これをみんなで考えてください。

まず、ルールを3つ書きました。1つ目が、今読んだ本の内容と、それから書いていただいた自分ごとのところがありましたね? 自分ごととしてどう考えるか。

あとはテーマに寄せてどういった発見があるかといったところを、ぎゅっとかいつまんで順番に発表してください。

そのときのルールです。発表者はほかの人の発言を、なにかしら引き取ってください。自分だけの発表をするのではなくて、誰かが何か言ったことを、無理矢理かもしれなくても引き取って、関係づけてしゃべる。

そのときにコツがあるんですね。「…と関係あるかもしれませんが」「…ということを聞いて思ったのですが」と言ってみる。もしくは、これが大事なのですが「…という見方とは私はまた違うのですが」と、違う意見を言う。それでもいいですね。

これらの枕詞をおいてみると、けっこうつなげて喋れますよ。これをまずやっていただく。グルッと回って戻ってきたら、先頭の人は、今度は全体の意見を、一旦こうした意見が出ましたと、上手にではなくていいので、まとめてみてください。

価値観にとらわれずに、世代間も超え、ダイバーシティをカオスにする

安藤:ここからがちょっと難しいのですが、さらに新たな問いを、これもレベルは問いませんので、とにかくなにか提案してみる。みなさんのお話しを聞いてみて、こういうことが今度はどうかと思ったのですが、というような、次の問いを出していく。最初の親にあたる人ですね。

そしたらもう一巡、その新たな問いについて、全員が思うことを発言してください。これも他の人の意見を一部でも引き取りながら、順番に発言していく。いいですか? ルールは分かりましたか? では、このルールを忘れないうちに始めましょうか。

最初、各テーブルの中で親になる人をまず決めてください。誰から始めるか。順繰りにこのルールの通りに、はい、始めてください、どうぞ。

(会場セッションスタート)

今はもう2番に入っていてもいい時間ですね。親の人がこまっていたら、みんなでアイデアを出してあげてください。

(会場議論中)

そろそろいいですか? 各グループから、今の議論の成果をマイクをむけてお聞きしたいと思います。グループとしての見解、とくに新たな問いと、チームの力を最大化するためのアイデアが出たかどうかということを、少し頭においてまとめてみてくださいね。

それぞれのテーブルで議論が盛り上がったようですが、簡単にどんな議論があったのか、どんな新しい問いが生まれたか、どんなアイデアが出たのかというようなことを、かいつまんでお話しいただきたい。どなたかお願いします。

グループ1:私たちのチームは、4冊の本の共通点として、遊びながら成果を出すため、世の中の役に立つためにはどうしたらいいかということについてディスカッションをしていました。

みんなで案出しをしていったのですが、型にとらわれない提案型の意見を自分から発信していく、好きなことを極める、価値観にとらわれずに世代間も超えてダイバーシティをカオスにしてコミュニケーションをとっていくといったことをしていけば、解決できるのではないかとまとまりました。

安藤:素晴らしい。ありがとうございます。

(会場拍手)

俎上に上がったのは、「組織にリーダーは必要なのか?」

安藤:今日の学びも生かしていただいて、カオスを取り入れていかに遊ぶかということでしたね。では、こちらのチームも行きましょうか。

グループ2:我々の4冊の場合は、3冊が似ていて、1冊はすこし違うのですが、自分と他者、日本と世界だったり、そういったさまざまなものがあり、いろんな自己と相手の世界の中で、どうやって生きていくのか、どうさまざまな情報を考えていけばいいのかと考えたときに、50:50くらいで考えてるのがいいのかと。

自分と他者とどちらを重要視するかというような世界で、自分50、相手50、日本と世界も、日本50、世界50、といった感じで切り取っていくとうまくいくのではないかと考えました。

安藤:はい、ありがとうございます。

(会場拍手)

自分と他者というテーマが出てきたということですよね? それが、個々人という関係もあれば、国というようなレベルもある。面白いと思います。ありがとうございました。あと2チームぐらい聞きたいのですが、こちらは?

グループ3:私たちのチームは、4冊の本をそれぞれまとめますと、会社組織のようなヒエラルキーや、上司がいる、そういったところの組織と、もうすこし緩い組織、弱いつながりなどがキーワードで出てきている本がありました。

その中で新たな問いとして、そもそも組織、上司とはなにか。リーダーは必要なのか? それともそうではないのか? どういった見方ができるのかというテーマでした。

安藤:はい、ありがとうございます。

(会場拍手)

なかなか考え込んでしまうような問いにいたりましたね、ありがとうございました。短時間で見ず知らずの方同士が、1冊1冊の本を媒介にしながら、それでも各チームかなりのところまで話がおよんでいましたね。

バラバラな知識をつなぐリンキングネットワーク

安藤:今日は駆け足ですが、これが共読の力なんですね。仮にチームの力を最大化するアイデアをみなさんで出してくださいというお題があったとしても、生身の自分として意見を交わすだけではなかなかここまでは行っていないと思います。

これが本を思考の道具として使うということの威力です。そろそろまとめに入っていきます。

クエストリーディング1回目のときもいいましたが、個々人の頭の中、もしくは今のような共読をすればチームの中で、バラバラだった知識がつながっていく瞬間があります。このつながりを生む状態を私たちはリンキングネットワークと呼んでいますが、本を媒介にすることで、このつながり状態がつくりやすくなるのですね。

この本1冊は、こうして自分の外側にあれば情報に過ぎませんが、それが一旦、自分の中に取り込まれれば知識になる。取り込まれた知識はそれだけでは知識のままですが、活用すれば知恵になる。その知恵がネットワークされた状態というものを、知性というのではないでしょうか。

ですから、昨今、教養と言われていることや、リベラルアーツと言われていることなども、このような断片的な知識がつながっていくところにこそ意味があるんじゃないかと思います。

文字は、想像力を必要とする入力情報の少ないメディア

安藤:あらためて今みなさんに駆け足で、素晴らしくやっていただけた共読の力を振り返ってみたいのですが、そもそもどうして本なのかと。なぜ本を使うと有効なのか? ということですね。しかもそれを共読という状態でチームで読むとなぜいいのか? 

実は書物は、みなさんの中のイマジネーションを触発するという意味では、最強のメディアなんですね。

その理由を、言語脳科学者の酒井邦嘉さんという方が『脳を作る読書』という本の中でわかりやすく整理されています。

脳を創る読書

入力情報が少ないメディアほど、想像力が必要なんですね。入力情報の量でいうと、この順番に、少ないから多いになります。文字は一番入力情報が少なくて、その次が音声で、その次が映像。

文字に比べれば、YouTubeなどの映像から入ってくる情報のビット数は相当な量になりますよね? それは情報を受け取った後の頭のなかの想像力の量と反比例するんです。入力情報が少ないものほど想像力が活性化するということは、文字で情報を得るということが、自分自身の想像力を触発するという意味では、最も有効ということなんですね。

また、本を媒介にした対話というのは、相互の想像力を引き出しあうというところで、今度は出力情報になります。出力情報が多いほど、想像力が活性化する。これは入力情報とは逆なんですね。

つまり、出力情報が多いのは、例えば今、みなさんが読んだことをここにメモしていただく。このように書くことも1つのアウトプットとしては有効なのですが、それよりも喋るほうが、ボディーランゲージや声の調子といったいろんな情報が含まれるので、情報量が多くなっていく。

さらにそれよりも、対話をするほうが、相手の反応をみたり、誰かの詞を引き取ったりというかたちで、どんどん情報量が増えていくんですね。ですから、少ない情報量のメディアでインプットして、多い情報量のフォーマットでアウトプットする。このプロセスがもっとも自分のイマジネーションを働かせることになるわけです。

このグルグルの繰り返しが、書物を使った共読という行為で引き出されるというのが、この脳科学的な図から成り立つというところなんですね。

共読文化が、部分から全体へ影響を及ぼすアプローチとなる

安藤:もうひとつ。今体験していただいたと思いますが、本は自分がなにか伝えたいメッセージの媒介にもなってくれるし、隠れ蓑にもなってくれるんですよね。

生身で言おうと思ったらなかなか言えないことも、この本にこう書いてありまして、自分はそれでこう思ったのです、といったかたちであれば喋れる。それを使って、今の共読状態を起こしていくというのが、このプログラムです。

これと組織開発をどうつなげていくか。共読というのは、今までの今日の話を振り返ってみると、学習2から学習3への移行、もしくはバッドサイクルからグッドサイクルへの転換だということを、安全に素早く導くことができる手法だと思っています。

ここが大事なのですが、違う意見をぶつからせるというのは、ともするとリスキーですよね。矛盾や葛藤を引き起こすだけで終わってしまうと、関係性はむしろ悪くなるかもしれない。

けれど、さきほどもベイトソンのダブルバインドの理論のところでお話ししたように、矛盾や葛藤を乗り越えた先にこそ、新たな学習のフェーズが開けるのです。それを本の力を使いながら、今のようなかたちで新しい問いを生むようなディスカッションをしていくことで、安全に素早く導くことができて、学習3の状態に到達することができると思っています。

また、組織の中で全体を変えることはやっぱりなかなか難しい。なかなか難しいので、一部に共読文化を入れていくことによって、部分から全体に対して影響を及ぼしていくアプローチが現実的だろうと思います。

すでに共読の手法を導入されている企業さんの中にも従業員何万人という規模の会社さんもあります。ある企業様の場合は次期幹部候補生ぐらいの方たちが集まって、この共読のプログラムを継続的にやられていますが、このように小さな点から全体を変えていくということをやっていくといいと思います。

創発を考えるための3冊の本

安藤:最後になりますが、今日は1冊の本をみなさんに駆け足で読んでいただきましたが、ここで大事なのは知識をインプットすることではないんですね。

みなさんの想像力をいかに引き出すかということがここでは最も重要なことです。そのための道具として、本に働いてもらうんですね。ここにあるように、アインシュタインは想像力は知識よりも需要だということを言っています。

ですから、今日の裏のキーワードは想像力、イマジネーションでもあるんです。それを組織として、チーム単位でいかに引き出して、活性化させるかというところですね。

ワークショップ自体はここまでですが、今日一日お話をさせていただいたことの補足として、ブックリストを添えました。創発を考える3冊と、創発と学習を考える3冊、創発型組織を考える3冊というものをもってきたのですが、これも駆け足でざっとお話します。

まずは、その名も『創発』という本があるんですね。いろいろと事例が出ているので、パラパラッとめくって、ふーん創発ってこういうことかと、感じるていただくといいと思います。

創発―蟻・脳・都市・ソフトウェアの自己組織化ネットワーク

次の『オートポイエーシス』というのはシステム論なのですが、創発そのものといってもいいですね。システム論の変遷自体をとても上手にまとめてある本なので、ちょっと難しい本ではあるのですが、どこかでチャレンジしてみるといいかもしれません。

オートポイエーシス―第三世代システム

創発自体が、細胞や遺伝子分子といった話も出たように、非常にミクロなところに発生する現象です。それを情報生命論として一旦とらえてみると、その先の組織や社会を考えるというときに必ず役に立ちますので、創発ということにご興味がおありであれば、一度情報生命論をのぞいてみるといいと思います。

そのときのガイドとして、松岡正剛の千夜千冊をまとめた文庫の中に、『情報生命』というものがあります。情報生命をザーッと駆け足でたどるには最強の本となっているので、これを見ていただくといいのではないかと思います。

千夜千冊エディション 情報生命 (角川ソフィア文庫)

これが創発を考える3冊で、その創発というのは学習を進めるものです。

創発と学習を考える3冊と、創発型組織を考える3冊

安藤:どのように見られているのかということを考えるときに、先ほどグレゴリー・ベイトソンをご紹介しましたが『精神の生態学』という本があるんですね。今日の学習理論などはこの『精神の生態学』から持ってきたものです。この本は今はもう入手しにくく、古本でも結構お値段するのですけど、どこか図書館などででも手に取れるときがあれば、1回チラッとのぞいてみるといいと思います。

精神の生態学

難解ではあるのですが、先ほどお話ししたような、情報生命のあたりをが少し見ておくと、比較的読めます。なによりもベイトソンのベイトソン節といいますか、それに1回触れてみて頂くといいかと。

これは難しいという人には、こうした本も出ているんです。『やさしいベイトソン』。こちらは2,000円くらいで買えますので、おすすめです。

やさしいベイトソン―コミュニケーション理論を学ぼう!

今日のダブルバインド理論こそが学習の活性化にとって大事なのだということを言い切っている人に、エンゲストロームという人がいるのですが、この『拡張による学習』という本では、今日ご紹介したベイトソンの学習の4段階を下敷きにして、その中でダブルバインド、矛盾、葛藤がどのように学習を前に進めていくかということを、いろいろな角度から考えています。

拡張による学習―活動理論からのアプローチ

最後に組織論ですが、ピーターセンゲの『学習する組織』は有名だと思います。

学習する組織――システム思考で未来を創造する

あとは経営学者の野中郁次郎さんはずっと組織論を扱っていらっしゃいますが、2010年に出された『流れを経営する』という本は、相当情報生命論からとってきている感じですね。創発ということを、全体的に会社経営ということに重ね合わせて考えるためにいい1冊だと思います。

流れを経営する ―持続的イノベーション企業の動態理論

『ティール組織』というのも、去年あたりから流行っているものですね。これはもう本当に、組織そのものが創発状態である、それを引き起こすためにはどうするべきか、というようなことがまとめてある本です。

ティール組織――マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現

共読による組織開発プログラム「Quest Link」

安藤:最近はこうした本も流行ってきていますし、組織が創発状態であることを目指す企業さんも増えているので、こうしたブックリストも紹介してみました。

こういう流行りの組織論を読んでみようかと思われたら、おススメなのは是非このあたりの、その奥にあるベイトソンや情報生命論といったところに一度戻ってみるといいと思います。『ティール組織』などは、それでより面白く読めるのではないかと思います。

駆け足で今日はここまで時間が過ぎちゃいましたが、お疲れ様でした。印象としては、これだけまったく知らないみなさんが集まって、1冊の本を10分で読めなどという無茶なことを言われて、にもかかわらずかなりの議論が各テーブルで起こっていたのではないかと思います。

編集工学研究所では、今日みなさんとご一緒した共読による組織開発プログラム「Quest Link(クエストリンク)」に関して、会社の中で簡単に実践いただけるようなサービスパッケージを、ちょうど今つくっているところです。

春先にはリリースする予定ですので、ご関心おありの方はぜひ編集工学研究所のウェブサイト等をチェックしてみてください。

私からは一旦ここで閉めさせていただきます。みなさん今日は本当にお疲れ様でした。

(会場拍手)

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