天才とは「時代が許した嘘を暴いた人」

北野唯我氏(以下、北野):最近、1月に『天才を殺す凡人』という本を出させていただいていて、それは略して「天殺(てんころ)」と呼ばれているんですが、ちなみに買ってくれている人はどれぐらいいらっしゃいますか?

天才を殺す凡人 職場の人間関係に悩む、すべての人へ

(会場挙手)

あの、全員買っていってください。

(会場笑)

という感じなんですが。

尾原和啓氏(以下、尾原):本当にいい本ですよ。

北野:ありがとうございます。それで、やっぱり「天才とはなんだと思いますか?」というようなことをめっちゃ聞かれるんですよ。それには、いろんな定義があって、本の中では「創造性を大事にしている」というように定義しているのですが、本当にフラットに「天才とはなんですか?」と聞かれたときに、僕がいつも話していることは、“時代が許した嘘を暴いた人”だと思っています。

尾原:かっこいいなぁ。

北野:当時はそれが正義であったし、正しかったけれども、それが嘘に変わるものがたくさんありますよね。例えば、天動説と地動説の話もそう。昔は天動というか、天が動いていたとみんなが思っていたし、それが真実だったのだけど、それがコペルニクスによって地動説としてひっくり返されてしまった。

ダーウィンの進化論もそうですよね。ダーウィンの進化論が生まれる前までは、神がすべてを設計していたんだけど、ダーウィンが進化論というものを考えたら、こんなふうに説明できますよと。

空を飛ぶのもそう。人類は空を飛べないと言われていたけれども、それをひっくり返した人たちがいたからこそ。だから、時代が許した嘘をひっくり返した人が、歴史に残るという意味で天才だと、僕はすごく思っているんです。

この中にも、起業をされている方や新規事業を作ろうとしている方たちもいらっしゃると思うのですが、たぶん振り返ってみたときに本当に価値のあるものは、「昔は本当だったけれど、それは嘘だよね」というようにひっくり返した人たちだと思っているんですよね。

北野唯我氏が実際に出会った天才は、Xiborgの遠藤謙氏

北野:だから、僕はすごく具体的な天才として「実際に会った人の中で天才といえば誰がいますか?」ということもよく聞かれます。たくさんいらっしゃるとは思いますが、いつも言っているのが、遠藤謙さんという、Xiborg(サイボーグ)という会社で義足エンジニアをやっている方がいらっしゃるのですが、彼はやっぱり、話したときにすげぇなと思いました。

彼はもともと慶應大学で、エンジニアをやっていて、MITに行って研究をされていたんですね。義足の研究をされていた。彼はあるとき、「パラリンピックというのは、人類の未来だ」と思ったそうなのですよ。パラリンピックは、それまでリハビリの延長線上だと思われていたんです。でも、彼が義足の選手の走りを見たときに、もうめっちゃ速かったんですよ。

その人は、オリンピックのレースに出たんですね。それで裁判になってしまった。なぜかというと、要は、義足をつけていることで速すぎたから。たまたまその走りを見たときに、「あっ、これは人類の未来だ」と。

すなわち、自分の人体にプラスでテクノロジーというものをつけることによって、普通の人間には跳べないような高さや、普通の人間では走れないようなスピードで走るというものを描くのがパラリンピックの将来の姿になると思って、それを目指しているんですね。

実際に、今、パラリンピックのマラソンなど、走る競技では、決勝レースなどを見ると、Xiborgの義足がめちゃめちゃ使われているんですね。僕はそれがすごく素敵なことだと思いまして。パラリンピックというものの既成概念をひっくり返そうとしているという。

だからそうした人たちが、やっぱり長い目というか、すごく大きな視点で見ると求められていると思うし、そうしたところを作っていける仲間と、一緒に働きたいということはすごく思いますね。

テクノロジーの進化によって、障害は個性になる

尾原:だからそれで言うと、やっぱり落合陽一さんはまったく同じことを言っています。落合さんは、障害というものはテクノロジーが加速することによって個性になると言っています。わかりやすい話でいうと、今メガネをかけていることを、障害者であると言う人は誰もいないんですよね。

北野:そうそう。

尾原:前は、メガネをかけなきゃいけない人というのは、ものが見えない方だから、社会の活動の中では脇に置かれざるを得ない人だったわけです。でも、メガネが発明されたことにより、むしろ「そのメガネの赤いフチ、いいですね」など、知的な感じも演出しているじゃないですか、横田さんも。というように、個性……。いや、褒めているんですよ?

横田大樹氏(以下、横田):はい(笑)。

尾原:あとで怒ったりしないでくださいね(笑)。

(会場笑)

このように、メガネというテクノロジーが生まれたことによって、障害が個性に変えられたのですよね。それと同じで、今の遠藤さんというのは、残念ながら足が動きにくいということが、むしろサイボーグ的な義足によって個性に変わるだろうという話です。

だからそうした意味で、もう僕たちは、テクノロジーによって、身体的にも思考的にも、意志的にも感情的にも拡張されていく時代なので。やっぱり、今まで自分たちが欠点と思っていることがどのように個性に変わるんだろう、という発想を持てるかどうかということが、すごく大事ですよね。

むしろ、コンプレックスを抱えている人間のほうが、これからは個性が豊かになるんじゃないかと。

落合陽一氏の「蛍のように光るゴキブリ」のメディアアート

北野:だから、先ほどのアービトラージの話もそうだと思うのですが、マイノリティであることが必ずしもマイナスにならない時代になってきたということは、なにか優しい時代になってきたのだと、僕はすごく思っていたりするんですよね。

何せ昔は、変わっている人は、ちょっと見ればあったと思いますが、それこそ落合さんなんてもう、異常値じゃないですか。

(会場笑)

尾原:あの人が最初にやっていたことは、ゴキブリに蛍の発光するものをつけて、暗い中に入れておくと、遠くから見れば蛍だから、女の子が「かわいい〜」といって、近寄るとゴキブリに変わるという。これで「きれいと恐怖の境界線はどこかというメディアアートです」と言っていた人ですからね、あの人。

北野:そうですよね(笑)。そうした、マイノリティであることが必ずしもマイナスにならない時代に生きているというのは、なにか僕らも勇気づけられます。

尾原:そうそう。

北野:優しい時代だなということはすごく思ったりします。こんな感じでいいんですか?

横田:今までのお話を聞いていると、お二人が理想に思っているような社会が、もうだんだん近づいてきているのがわかるんですね。

ただ一方で、冒頭でお話しいただいていたように、いざ大きな組織の中に入ってしまうと、新卒の分際でこんなことを言ったら「お前、何言ってんの?」と言われるようなリアルがあるわけじゃないですか。

そこでの個人のキャリアや、個人ができることとして考えたときに、具体的にいつ、お二人の理想のほうに足を向ければいいのか、どう向ければいいのかというアドバイスをいただければと思います。

北野:山口周さんが本の中で「オピニオンとイグジットしかできない」とかなり言っていました。オピニオン、意見を持つか、イグジット、やめるしかできないということを言っていて、元も子もねぇことを言うと思っていたのですが(笑)。

(会場笑)

でも、どうなんですか? そういうところは変えられるんですか? 

尾原:いや、僕は、なんだろう、やっぱりフェーズがあると思っています。それはオピニオンを持てるような人はいいですよ。先ほどのように、大学生の頃からゴキブリに蛍の発光材料を……。

(会場笑)

自分の個性やスキルを見つけるためにやるべきこと

尾原:それだけのオピニオンの強度があれば、魔法使いにたどり着けるという話です。でも、最初にやっぱりそんなオピニオンの強度を持てる人間なんてそんなにいないので。そうすると、僕はひとつだけ信じている言葉があるのです。「圧倒的な量が質に転換する」という言葉なんですよね。

確かにインターネットによって、自分の個性やスキルは見つかりやすくなっているし、早いうちから自分のオピニオンがあれば、なにかPixivで「ものすごく絵が上手いね」とファンがついたり、有料のnoteが売れるような人はいるかもしれませんが、そんな人は普通に考えれば1パーセントですよね。

では、99パーセントの人が何をやるかというと、いつかオピニオンにたどり着くまでに圧倒的な量を踏むということが大事だと思うんですよね。大事なことは、やっぱりスティーブ・ジョブズが言うように、結局「コネクティング・ドッツ(点と点をつなぐ)」なので、振り返ってみないと何の圧倒的な量が質に転換するかなんてわからない。

だから、やっぱりまずは圧倒的な量を踏むことが大事。でも、もしひとつだけ圧倒的な量を踏む場所を選ぶとしたら、他の人がまだ気づいていない、新しい場所で圧倒的な量を踏んだほうが確率は高いよ、ということだと思うんですよね。

北野:最近では大きな会社でも、働きやすい会社というものがありますよね。別にベンチャーだから、IT企業だからこそ働きやすいというのは、僕はまったくの嘘だと思っていて、そんなこともない会社がいっぱいです。

でも、大きな会社の中で本当にもうがんじがらめで、歯車のような会社というものを、若手の20代半ばの人に変えられるのかというと、現実的には相当無理があるだろうという気がします。

だから、それはもうイグジットするか、先ほど尾原さんがおっしゃっていたように、大きな会社やトラディショナルな会社は、必ず新規事業をやろうとしていますよね。新しいことをやらざるを得ないので、僕がいつも言っているのは、大きな会社の新規事業や新しい領域に行くのは、もうほぼノーリスク・ミドルリターンだよと。

今の会社の中で、例えば取締役など出世している人たちの経歴を見ると、今は花形に見えても、20年前や30年前はめっちゃちっちゃなところで、窓際みたいな部署だったけれども、それがブワッと伸びて、一気に出世されたようなケースが多いと思っています。そうなる可能性が、新規事業にはあるのです。