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「入社したときから転職のことを考えよう」 尾原和啓さん×北野唯我さん(全6記事)

新卒の特権は「失敗できること、教えてもらえること」 尾原和啓氏×北野唯我氏が説く、キャリアの築き方

2019年3月7日、紀伊國屋書店新宿本店9階にて、「『入社したときから転職のことを考えよう』 尾原和啓さん×北野唯我さんセミナー」が開催されました。尾原氏は『ITビジネスの原理』や『どこでも誰とでも働ける』など、多数の著書を執筆。北野氏の著書は『転職の思考法』で12万部、『天才を殺す凡人』で9万部を記録(いずれも2019年4月時点)。これまでにない「転職」と「働き方」の書籍を上梓し、大きな話題を呼んだ著者二人が、就活やキャリアの新常識を解説します。本パートでは、天才の定義や、新卒がどのようにキャリアを築いていくべきかについてアドバイスしました。

天才とは「時代が許した嘘を暴いた人」

北野唯我氏(以下、北野):最近、1月に『天才を殺す凡人』という本を出させていただいていて、それは略して「天殺(てんころ)」と呼ばれているんですが、ちなみに買ってくれている人はどれぐらいいらっしゃいますか?

天才を殺す凡人 職場の人間関係に悩む、すべての人へ

(会場挙手)

あの、全員買っていってください。

(会場笑)

という感じなんですが。

尾原和啓氏(以下、尾原):本当にいい本ですよ。

北野:ありがとうございます。それで、やっぱり「天才とはなんだと思いますか?」というようなことをめっちゃ聞かれるんですよ。それには、いろんな定義があって、本の中では「創造性を大事にしている」というように定義しているのですが、本当にフラットに「天才とはなんですか?」と聞かれたときに、僕がいつも話していることは、“時代が許した嘘を暴いた人”だと思っています。

尾原:かっこいいなぁ。

北野:当時はそれが正義であったし、正しかったけれども、それが嘘に変わるものがたくさんありますよね。例えば、天動説と地動説の話もそう。昔は天動というか、天が動いていたとみんなが思っていたし、それが真実だったのだけど、それがコペルニクスによって地動説としてひっくり返されてしまった。

ダーウィンの進化論もそうですよね。ダーウィンの進化論が生まれる前までは、神がすべてを設計していたんだけど、ダーウィンが進化論というものを考えたら、こんなふうに説明できますよと。

空を飛ぶのもそう。人類は空を飛べないと言われていたけれども、それをひっくり返した人たちがいたからこそ。だから、時代が許した嘘をひっくり返した人が、歴史に残るという意味で天才だと、僕はすごく思っているんです。

この中にも、起業をされている方や新規事業を作ろうとしている方たちもいらっしゃると思うのですが、たぶん振り返ってみたときに本当に価値のあるものは、「昔は本当だったけれど、それは嘘だよね」というようにひっくり返した人たちだと思っているんですよね。

北野唯我氏が実際に出会った天才は、Xiborgの遠藤謙氏

北野:だから、僕はすごく具体的な天才として「実際に会った人の中で天才といえば誰がいますか?」ということもよく聞かれます。たくさんいらっしゃるとは思いますが、いつも言っているのが、遠藤謙さんという、Xiborg(サイボーグ)という会社で義足エンジニアをやっている方がいらっしゃるのですが、彼はやっぱり、話したときにすげぇなと思いました。

彼はもともと慶應大学で、エンジニアをやっていて、MITに行って研究をされていたんですね。義足の研究をされていた。彼はあるとき、「パラリンピックというのは、人類の未来だ」と思ったそうなのですよ。パラリンピックは、それまでリハビリの延長線上だと思われていたんです。でも、彼が義足の選手の走りを見たときに、もうめっちゃ速かったんですよ。

その人は、オリンピックのレースに出たんですね。それで裁判になってしまった。なぜかというと、要は、義足をつけていることで速すぎたから。たまたまその走りを見たときに、「あっ、これは人類の未来だ」と。

すなわち、自分の人体にプラスでテクノロジーというものをつけることによって、普通の人間には跳べないような高さや、普通の人間では走れないようなスピードで走るというものを描くのがパラリンピックの将来の姿になると思って、それを目指しているんですね。

実際に、今、パラリンピックのマラソンなど、走る競技では、決勝レースなどを見ると、Xiborgの義足がめちゃめちゃ使われているんですね。僕はそれがすごく素敵なことだと思いまして。パラリンピックというものの既成概念をひっくり返そうとしているという。

だからそうした人たちが、やっぱり長い目というか、すごく大きな視点で見ると求められていると思うし、そうしたところを作っていける仲間と、一緒に働きたいということはすごく思いますね。

テクノロジーの進化によって、障害は個性になる

尾原:だからそれで言うと、やっぱり落合陽一さんはまったく同じことを言っています。落合さんは、障害というものはテクノロジーが加速することによって個性になると言っています。わかりやすい話でいうと、今メガネをかけていることを、障害者であると言う人は誰もいないんですよね。

北野:そうそう。

尾原:前は、メガネをかけなきゃいけない人というのは、ものが見えない方だから、社会の活動の中では脇に置かれざるを得ない人だったわけです。でも、メガネが発明されたことにより、むしろ「そのメガネの赤いフチ、いいですね」など、知的な感じも演出しているじゃないですか、横田さんも。というように、個性……。いや、褒めているんですよ?

横田大樹氏(以下、横田):はい(笑)。

尾原:あとで怒ったりしないでくださいね(笑)。

(会場笑)

このように、メガネというテクノロジーが生まれたことによって、障害が個性に変えられたのですよね。それと同じで、今の遠藤さんというのは、残念ながら足が動きにくいということが、むしろサイボーグ的な義足によって個性に変わるだろうという話です。

だからそうした意味で、もう僕たちは、テクノロジーによって、身体的にも思考的にも、意志的にも感情的にも拡張されていく時代なので。やっぱり、今まで自分たちが欠点と思っていることがどのように個性に変わるんだろう、という発想を持てるかどうかということが、すごく大事ですよね。

むしろ、コンプレックスを抱えている人間のほうが、これからは個性が豊かになるんじゃないかと。

落合陽一氏の「蛍のように光るゴキブリ」のメディアアート

北野:だから、先ほどのアービトラージの話もそうだと思うのですが、マイノリティであることが必ずしもマイナスにならない時代になってきたということは、なにか優しい時代になってきたのだと、僕はすごく思っていたりするんですよね。

何せ昔は、変わっている人は、ちょっと見ればあったと思いますが、それこそ落合さんなんてもう、異常値じゃないですか。

(会場笑)

尾原:あの人が最初にやっていたことは、ゴキブリに蛍の発光するものをつけて、暗い中に入れておくと、遠くから見れば蛍だから、女の子が「かわいい〜」といって、近寄るとゴキブリに変わるという。これで「きれいと恐怖の境界線はどこかというメディアアートです」と言っていた人ですからね、あの人。

北野:そうですよね(笑)。そうした、マイノリティであることが必ずしもマイナスにならない時代に生きているというのは、なにか僕らも勇気づけられます。

尾原:そうそう。

北野:優しい時代だなということはすごく思ったりします。こんな感じでいいんですか?

横田:今までのお話を聞いていると、お二人が理想に思っているような社会が、もうだんだん近づいてきているのがわかるんですね。

ただ一方で、冒頭でお話しいただいていたように、いざ大きな組織の中に入ってしまうと、新卒の分際でこんなことを言ったら「お前、何言ってんの?」と言われるようなリアルがあるわけじゃないですか。

そこでの個人のキャリアや、個人ができることとして考えたときに、具体的にいつ、お二人の理想のほうに足を向ければいいのか、どう向ければいいのかというアドバイスをいただければと思います。

北野:山口周さんが本の中で「オピニオンとイグジットしかできない」とかなり言っていました。オピニオン、意見を持つか、イグジット、やめるしかできないということを言っていて、元も子もねぇことを言うと思っていたのですが(笑)。

(会場笑)

でも、どうなんですか? そういうところは変えられるんですか? 

尾原:いや、僕は、なんだろう、やっぱりフェーズがあると思っています。それはオピニオンを持てるような人はいいですよ。先ほどのように、大学生の頃からゴキブリに蛍の発光材料を……。

(会場笑)

自分の個性やスキルを見つけるためにやるべきこと

尾原:それだけのオピニオンの強度があれば、魔法使いにたどり着けるという話です。でも、最初にやっぱりそんなオピニオンの強度を持てる人間なんてそんなにいないので。そうすると、僕はひとつだけ信じている言葉があるのです。「圧倒的な量が質に転換する」という言葉なんですよね。

確かにインターネットによって、自分の個性やスキルは見つかりやすくなっているし、早いうちから自分のオピニオンがあれば、なにかPixivで「ものすごく絵が上手いね」とファンがついたり、有料のnoteが売れるような人はいるかもしれませんが、そんな人は普通に考えれば1パーセントですよね。

では、99パーセントの人が何をやるかというと、いつかオピニオンにたどり着くまでに圧倒的な量を踏むということが大事だと思うんですよね。大事なことは、やっぱりスティーブ・ジョブズが言うように、結局「コネクティング・ドッツ(点と点をつなぐ)」なので、振り返ってみないと何の圧倒的な量が質に転換するかなんてわからない。

だから、やっぱりまずは圧倒的な量を踏むことが大事。でも、もしひとつだけ圧倒的な量を踏む場所を選ぶとしたら、他の人がまだ気づいていない、新しい場所で圧倒的な量を踏んだほうが確率は高いよ、ということだと思うんですよね。

北野:最近では大きな会社でも、働きやすい会社というものがありますよね。別にベンチャーだから、IT企業だからこそ働きやすいというのは、僕はまったくの嘘だと思っていて、そんなこともない会社がいっぱいです。

でも、大きな会社の中で本当にもうがんじがらめで、歯車のような会社というものを、若手の20代半ばの人に変えられるのかというと、現実的には相当無理があるだろうという気がします。

だから、それはもうイグジットするか、先ほど尾原さんがおっしゃっていたように、大きな会社やトラディショナルな会社は、必ず新規事業をやろうとしていますよね。新しいことをやらざるを得ないので、僕がいつも言っているのは、大きな会社の新規事業や新しい領域に行くのは、もうほぼノーリスク・ミドルリターンだよと。

今の会社の中で、例えば取締役など出世している人たちの経歴を見ると、今は花形に見えても、20年前や30年前はめっちゃちっちゃなところで、窓際みたいな部署だったけれども、それがブワッと伸びて、一気に出世されたようなケースが多いと思っています。そうなる可能性が、新規事業にはあるのです。

狙い目は、大企業の新規事業部門やアーリーステージの企業

北野:仮にもし失敗したとしても、別に社内のジョブローテで他の部署へ行けるわけですから、転職のときにも「こういった新規事業をやりました」ということが言えるので、大きな会社の中で新規事業をやることは、ほぼノーリスクでミドルリターン。

ハイリターンではないと思いますが、ミドルリターンぐらいだと思うので、なにかそういった現実的な選択をするということは、僕はかなりお勧めだと思っています。

尾原:でも、逆もまた然りで、起業家的な人生を生きるということは、日本の中ではまだ珍しいことなので、逆に起業をすることであったり、何しろ友達が起業しているとか。そこで2人目〜5人目の社員になることも、またノーリスクだと思っています。

たとえその起業で成功しなかったとしても、その方はちゃんとリスクを踏んで、それなりのコミットをしてやりきったのだということを、人に語れますから。そうすると、先ほど言ったように、大企業は新規事業をやりたいわけじゃないですか。

北野:そうですね。本当そう。

尾原:そのときには、そういう人を採用したいですよね。

北野:マジでそうですよね。

尾原:だから、大企業の中で新規事業的なことをやるのも、ノーリスク・ミドルリターンではあるし。一方で、できるだけアーリーステージの企業の中に飛び込んでやるというのも、ノーリスク・ミドルリターン。

北野:いや、本当にそうですよね。最近よく、いろいろなベンチャーや経済新聞の方などに、「最近の新卒のマーケットはどうですか?」というようなことを聞かれていて。「ベンチャーはどうですか?」と100パーセント聞かれるのですが、そのときに言っているのは、今のベンチャーは、一言で言うのであれば、「消極的ポジティブな意味でベンチャーを選ぶ人がかなりいますよ」ということ。

尾原:あぁ、そうですね。本当にクソみたいな人が多いですよね(笑)。

横田:ははは(笑)。

新卒の一番の権利は、失敗できることや教えてもらえること

北野:いやいや(笑)。それはどういうことかと言うと、20年前や30年前は、もう背水の陣でベンチャーへ行くようなイメージがありましたが、今の子たちはかなり違っています。

普通に大企業のインターンも行ってきて、ベンチャーのインターンも行ってみて、それで「別に大企業はイヤだなんて思っていなかったけれども、自分に働きやすい環境で、プライベートも充実させたくて、だから普通にこれぐらいのベンチャーでいい」というような子がかなりいるんです、というように。

尾原:言葉を選んで言いますけれども、一言で言えば、ファッションベンチャー野郎ですよ。

(会場笑)

尾原:いるんですよ。もう僕もね、TEDxというカンファレンスのお手伝いもしていたんですが、「TEDxTOKYO」というTシャツを着て、Instagramに写真をあげたいがためにボランティアをやるやつなどもいるんですよ。Googleの社員なんかも、最近では残念ながらそういう方がいらっしゃいますよ、本当に。

(会場笑)

北野:いただきました。ファッションベンチャー(笑)。

尾原:でも、僕がいつも言うのは、「結局はあなたが損をしているんですよ」ということ。新卒に与えられた一番のものは、失敗できるという権利であったり、「まだわかんないんで、教えてください」と言う権利だからです。

こんなにいろんな人にぶつかっていくような、ぶつかり稽古ができるタイミングを、「ファッションで過ごしちゃうんだ、ふーん。あぁ、あなたもったいないね」と、本当に心から侮蔑しているんですよ。

(会場笑)

アメリカでは「2種類のエリート」がいる

北野:厳しいなぁ〜、尾原さん。厳しい。でも、一方で僕、この前尾原さんと対談させていただいたときの「ブックエリート」と「ストリートエリート」の話がめっちゃ好きなのです。あの話を聞いてもいいですか? ブックエリートとストリートエリートの2つがあるという話。

尾原:そうそう、アメリカではエリートやスマートということに対して、2種類の言い方があって、「ストリートスマート」と「ブックスマート」という言い方をするんですよね。

これは何かというと、ストリートスマートというのは、僕がよく例えて言っているのは、世代的に古くなってごめんね、ジャッキー・チェンの格闘シーンなのです。ジャッキー・チェンは、めっちゃ不利な戦いの中でも、街場に置いてある椅子、窓、傘などを使って、巧妙に相手をやり込めて、多人数をやっつけますよね。あんなふうに、目の前にあるものを全部を武器に変えて、それで戦い抜く能力がストリートスマート。

それに対してブックスマートというのは、どちらかというと、「○○くん、あれってどうだっけ?」と聞いたら、「あっ、○○の本の△△に書いてあります」というように、本の中にある知識に対してものすごくスマートな人のことを言うんですね。

要は問題が決まっていて、正解を探すときは、ブックスマートが圧倒的に強い。けれども、もう変化の時代で、いつどこから敵が来るかもわからないときは、圧倒的にストリートスマートのほうが強いんですね。そうなったときに、「今、世の中はどうですか?」という話です。

北野:いや、おもしろいですね。『天才を殺す凡人』の中にも、いわゆる創造性で戦う人と再現性で戦う人の話があります。共感性もあるんですが。再現性の弱点のひとつは、やっぱりちゃんと教科書になって、その教科書を読み込むことで勉強するような、タイムラグがかかるというか。そういうものがブックスマートの世界。

ストリートスマートは、今あるもので戦っていって、「とりあえずやってみる」というような、「ざっくりとした地図だけ持っていくぜ」というような感じの方がなぜか強いというか、レイヤー度が高いのではないかと思いました。

創造性のある人も再現性のある人も、どちらも必要な存在

尾原:そうだよね。それこそ本当に北野さんの本の話じゃありませんが、とはいえ再現性がなかったら大量生産はできないし、国を支えるような企業ができないわけですよ。けれども、時代は変わってしまうから、先ほどのトヨタの話もあるように、あの再現性の鬼のトヨタですら、やっぱり一部創造性がある人が必要だという話です。

だからそれは、やっぱり、『天殺』の話をいっぱいしてもいいのかどうかはわかりませんが……。

北野:出版社が違いますからね(笑)。

尾原:そうなんですが(笑)。まぁ、やっぱり結局はあなたが憧れるのは創造性ですよ。ストリートスマートですよ。そして、たまたま登壇側にいる人間は、そっち系の人間が多いです(笑)。でも、本当に社会を支えてくださっているのは、再現性の……。

北野:いや、本当にそう!

尾原:共感の方であったりもするから、それは「自分はどちらが強みなんですか?」ということであったり。さらにもっと言えば、「どちらが快感ですか?」。

世の中には、やっぱり共感してみんなでやることに喜びを感じる人もいるし、再現性を持ってやりきることが快感だと思う方もいるし、僕のように、後ろでやらかすんだけれど、散らかして全部横田さんが拾ってくれて、最初に「これがおもしろいと思いまーす!」ということだけが得意な人もいる。

北野:いや、本当にそうですよね。

尾原:「天殺」で彼が言っていたことね(笑)。

横田:ははは(笑)。

北野:いや、でも、そうなんですよね。先ほどの尾原さんの発言は、今日初めて聞けた優しい発言でしたね。

尾原:あっ、そうですね。

(会場笑)

北野:今日はとにかく初めてのね。「Googleはダメだ」とも言っていましたが(笑)。

尾原:違うんですよ、僕は、エリートが本当のエリートじゃなくて、「エリート面したエリート」というのが大嫌いだというだけで。

北野:ははは(笑)。

尾原:基本的にはエリートがエリートたることをやっている人は大好きだし、社会の礎の仕事をして再現性に徹している方も大好きだし、共感性に徹している人も大好きです。中途半端なファッションエリートが大嫌いだと言っているだけで。

北野:ちょ……書けるんですか? これ。大丈夫ですか?(笑)

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