2024.11.26
セキュリティ担当者への「現状把握」と「積極的諦め」のススメ “サイバーリスク=経営リスク”の時代の処方箋
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山口揚平氏(以下、山口):資本主義の課題として、例えば先ほど(鈴木)健さんが格差の問題があるとおっしゃっていましたが、それをどう解決していくのか、あるいはそれが本当に機能するのかといった話をしたいと思います。
柳澤大輔氏(以下、柳澤):資本主義とは、とにかく資本を増やし続けるっていうことじゃないですか? そういうものを追い求める指標としてGDPがあるんですけど、問題はGDPの成長が豊かさに直結しなくなっていることです。「その指標を追い求めることで幸せになる」というものを作り出すということなんだと思うんですよね。
GDPだけ追っかけて格差が広がったり、環境破壊が起きているからといって、「もう成長しなくていいんじゃないか」という話になると、資本主義を否定することになってしまう。僕はそれは違うと思っていて、「成長し続けるものは何か」を見つけて、それが幸せや豊かさに比例するという状況にしないと、資本主義の課題としては解決しない。
亀山敬司氏(以下、亀山):資本主義は「自分さえ良ければいい」という前向きで身勝手な活力を原動力にして伸びてきたもの。結局は俺も、起業の時は「稼いで女にモテよう」「ちょっといい車に乗りたい」ぐらいがスタートだったのよ。
でも、そのあとに家族ができたら「家族のために」、社員が増えたら「社員のこと」を考えないといけないみたいになった。ゆとりができてくると徐々に「社員が恥ずかしくないように、社会のことを考えようかなぁ」みたいな動きになってきて。明日手形が落ちるかどうかわかんないときは、そんなこと考えてられないけれど、余裕ができるごとにそう考えてきました。
亀山:最近俺がやろうとしてるのは「Ecole 42」みたいなものです。2週間ほど前にフランスに行ってきたんだけど、俺みたいにエロで稼いで、ITで金持ちになって、そのあとに社会奉仕やろうみたいな人がフランスにもいるんです。
その人が無料でエンジニアを育てる学校を始めたんです。タダで人を集めて、課題についてこれる人だけを残して2〜3年勉強し続けると、AppleでもGoogleでもどこでも引っ張りだこになるほどのエンジニアにはなれる。みんなでコーディングを朝から晩までしあうような学校が生まれたらしくて。
それがすごく面白いなって思ったんです。うちなんかは稼ぐことぐらいしかやっていないわけよ(笑)。だから、このままやってるとそのうち俺も(カルロス・)ゴーンみたいに捕まっちゃうんじゃないかと思ったのよね。
(会場笑)
いいことをしておかないと捕まっちゃうなと(笑)。だから利益の10パーセントぐらいでも、社会に価値のあること、未来に価値あることをやっといて、ちょっと「いいね」もらっとこうと思っていて。叩かれる前に先手を打っていいことをやるのが、俺流の会社の生き残り方かなと思います。
山口:なるほど。
亀山:「いいことやってたら生き残りやすいよ」というのを社長たちが理解し始めると、大きい会社も「社会貢献っていいよね」「二酸化炭素の出し過ぎはやめとこう」となっていく。それが評判になって、株価や世間の評判が良くなったり、不買運動が起きなかったり。こうなっていくのが資本主義の次の世界かなという感じです。
でも、たぶんみんなそうだろうけど、上場会社には基本的に株主がいる。株主に対する責任がある以上は、資本主義から逃れられないところがどうしてもあると思うんだよね。社長が「これくらいは寄付しよう」と思っていても、「そんな金があるなら利益を配当しろ!」なんて言われるから。
そういった点で、うちは非上場で好き勝手できるから。「俺が次の資本主義を作るんじゃないかなぁ」なんて思ってて。「俺がやらずに誰がやる」ってね(笑)。しゃべりすぎたかな?
山口:いえいえ。
家入一真氏(以下、家入):僕もよくこういうテーマでお話しすることが多いんですけど、最近「資本主義の限界」みたいな話ってよくあるじゃないですか。僕もたぶんそういうことを言っていたし。
だけど、実は資本主義に限界がきているとかではないと思っていて。高度経済成長のなかで国も会社も個人も豊かになって、パイが大きくなっていくなかでの成長といった意味合いだと、「パイがどんどん大きくなっていくんだから、僕たちも大きくなっていこう」という攻め方ですよね。
逆に、これから少子化高齢化が進んでいくなかでは、パイがどんどん小さくなっていく。先ほど健さんも言っていましたけど、縮小し分断されていくパイを取り合うのって、結局フィットしないよねという話なだけです。
だから資本主義が限界なんじゃなくて、従来の資本主義の構造のなかで大きくなってきた僕らが、今適応できなくなってきているだけなんじゃないかなとも思う。
ちょっと前に、ある大きな芸能事務所の社長さんから「これから先どうしていいかわからない。相談に乗ってくれ」みたいな感じでお話をいただいて。別に相談に乗れるほど偉くもないんですが、話を聞いてると、映画にしろ出版にしろ芸能事務所にしろ、いろんな業界で同じようなことが起きているのを感じたんです。
家入:それは何かっていうと、その社長さんがおっしゃっていたのは「今まではトップアーティストや本当のヒットを出した人たちの売上でみんなを養えていた。それこそ、マネージャーやアシスタント、経理、舞台裏の人たちも養えていた。自分たちの経済圏にまつわる人すべてをそれで食わせてたんだ」と。
俺はこれで食わせてたんだという自負やプライドもある。だけど、今はもう音楽は売れないし、どんどん売上も減っていくなかで、今までのやり方ではお金が回らなくなってきているんですね。
それで誰がいちばん割りを食うのかというと、末端の人たちやこれから育てていかなきゃいけないアーティストのタマゴです。そこにお金がまったく回らない世界になってきているんですよね。
経済が伸びて、音楽が売れて、それでみんなを養うという構造が回っていた時代はよかったんだけど、音楽も売れなくなってきている今、こぼれ落ちてしまっている人たちがたくさん出てきている。それをどうすくい上げるのか、みたいな話なんだと思うんですよね。
山口:なるほど。芸能界のエコシステムも崩壊していて、次に回せなくなっているということですか。
家入:再分配の話なのかなという気はするんですよね。
柳澤:世界の富そのものが減ってるわけじゃないし、資本は増え続けてるんですよ。だけど結果的には富の格差と環境破壊が起きている。従来の資本主義における成長と、幸せ度はどうも比例しないということが問題なのであって、「成長しない」ということではないんです。
再分配のシステムの見直しが必要かどうかは産業や業界によると思いますが、全体で見た時の再分配システム自体は、必ずしも変えなくてもいいのかなと思います。
亀山:それで言うと「GDPを上げる」ことで競い合うのは間違っていると?
柳澤:それだと苦しい国がある、ということですよね。全体で見るとたぶん大丈夫なんでしょうけど。
亀山:話題のシェアエコノミーだって、みんなが自転車を買わなくなってレンタルにしたら、GDPが上がらないわけじゃない。「それでも幸せだ」っていう話にならないといけないよね。
「自動車の売上が減って、レンタサイクルになったら幸せじゃなくなった」というのはおかしいし、そろそろGDPじゃない幸せの指標を作らないといけない。ちょっとわかりにくくなってきていると。
柳澤:そうですね、指標を変えなきゃいけない。「成長し続けることを否定すると、資本主義そのものを否定することになるのかな」と思っていろいろ本を読んだ結果、やっとそれが理解できましたという感じです。
鈴木健氏(以下、鈴木):この10年ぐらいのタイムスパンで見ると、日本では劇的な少子高齢化が起きているように見えますが、これを50年とか100年単位にすると、世界中で少子高齢化が起きていることになるんですね。
次は中国もそうなるって言われていますし、人口が増えているインドもおそらく30年もするとピークになって落ちていくと。予測はいろいろありますけど、世界人口全体はだいたい100億人前後でピークアウトして、そのあとは減っていくと言われています。どうして起こるかっていうと、それは都市化によって起こるわけですよね。
鈴木:農村部などで暮らしている人には「子どもが7人、8人いた」みたいなのが普通だったじゃないですか。でも、みんな都市部に移ってきて、今世界中で都市化が進んでいる。そうすると教育コストも高くなるし、子どももたくさん産めなくなってきているから、世界中で少子化が進んでいく。
今はマネーが中国やインド、もしくはアフリカなどの新興国に向かっていくんですが、この成長も数十年すると止まるわけですよね。その時に、真の意味で世界全体が少子化していく。
市場が拡大するためのパイが世界レベルでなくなってしまうなかで、世界全体が「どんな新しい資本主義を作っていくのか」ということに向き合わないといけなくなる。そう思うんですよ。
柳澤:拡大するパイがなくなっていくとしたら、今まで可視化されてきていないものを資本と見なさない限り、人口も減っていくし、キツくなってくるということなんだと思うんですよね。
地方創生の議論って、だいたい経済資本の話だけなんですよ。「一時的に消費を増やす」「地方を活性化しよう」とか。たとえば産業を作ったり、赤字を減らすために地域内の消費を増やそうと。これはこれで必要なのですが、同時にこれまで経済資本で計測されてこなかった価値、お金で買えなくて幸せに直結しそうなものを指標化して、追加していかないと大きくならない。
そこって、人のつながりや自然じゃないかなと思うんです。これを資本とみなして、ブロックチェーンを絡めて、それを増やすことにしか使えないお金をつくれば、見えない資本を定量化できるのではないかと思います。
企業はまず儲けていなきゃいけないんだけど、投資の仕方や社員への報酬の払い方を、経済資本だけでなく、見えない資本を増やすように設計して、「人とつながらない限り使えませんよ」みたいな手当を出すとか。そういった新しい豊かさの指標をつくっていく必要があるんじゃないかと。
そういう見えない資本って地域に多いから、地域で実験しましょうっていうのが「地域資本主義」なんですね。
山口:なるほど、おもしろいですね。みなさん深いお考えをそれぞれお持ちで、いろんな観点が錯綜しているかと思います。
ここでみなさんで話してみたいのは「経済を回していくにあたって、資本はこれから必要か」ということです。こちらに関してはどう思うでしょうか?
例えば家入さんだったら社会的な包摂、つまり「主流派のシステムからこぼれ落ちていく人をどう救うのか」。亀山会長だったら「資本主義の世界で稼いだお金をどうやって社会のために使っていくか」だと思います。
鈴木健さんだと、「価値を創ったた大元にどうやって還元するのか」という社会システムの話。それからカヤックの柳澤さんだと「資本が膨張するなかで社会関係資本や環境資本をいかに保全するのか」という話だと思います。
「信用を外部化したもの」というが貨幣の定義ですが、資本を使わないで経済を回すのは可能でしょうか?
亀山:さっき「Echole42みたいなものを作って、ちょっといいことしちゃおうかなぁ」みたいなことを言っていたけども、俺の構想では「年間10億の予算を5年間は出す」みたいな考え方をしているんだよね。だから「最大50億までしか出さない」という感じ。
それは、もし5年間その組織が生き残ったら、それ以降は「卒業生たちで寄付して支えろよ」とみんなに言っていこうと思っているから。
亀山:ある意味これは社会実験で、例えば1,000人受け入れるところから始めたとしても、卒業生が寄付をすれば1,200人、1,300人と増えていくけれど、卒業生が誰も寄付しなかったらどんどん減っていって、最後はなくなっちゃうわけ。
こういった「誰がこれを支えるか」という仕組み自体がうまく回れば、ちょっとおもしろいと思う。プログラミングだけじゃなく、例えばデザイン学校でも寿司学校でもいいんだけど、その教育自体を卒業した先輩たちが支えると。
そこで世話になって、収入が上がった人たち、例えばプログラミングを2〜3年勉強して収入が500万から1,000万になったヤツが、そこから10万とか100万を毎年寄付してくれたら成り立つといったことです。
もしこれがうまく回れば、自分の卒業した学校、世話になった学校を支えようみたいなことに自然となっていくんじゃないかと。ビル・ゲイツみたいに「アフリカを助けましょう」「遠い国の人たちを助けましょう」「知らない人を助けましょう」というのは、普通の人ではなかなか難しいから。
身近なところを支えることから寄付みたいなものが根付いていって、日本になかった新しい寄付が定着することはありうるかなと思っています。
クリスチャンには、宗教的に「金持ちは天国へ行けない」というのがあって、最後はみんな「寄付しちゃえ」となるんだけど、日本はそういうのがない。「世話になった人に恩返し」みたいな文化が日本には合っていて、それが回っていくような方向かなぁと。俺は起爆剤になって、「あとは自分たちでやれよ」みたいな。
山口:エコシステムの中で、価値が回る世界ですね。
亀山:あとは知ったこっちゃないから。「あとは任せたよ。次の世代に」という感じかな。
山口:なるほど。亀山会長のお話を聞くと「資本主義のなかで上り詰めて、あとは全部使って死んでいく」ということですよね。すべての資本を新しいエコシステムに投資するという意味では、資本が最終的にはゼロになる。プラマイゼロで終わるという意味では、完結している。そういう人生の終わらせ方や見方はあるのかなと思います。
ですが、資本主義を否定してほしいという思いがあります。「資本を超えたところで価値が循環しないだろうか」というところで、ベンチャーも新しいサービスを作っていくと考えています。そこの解は……健さん、どうですかね(笑)。
資本主義を超えるというのは、資本=数字ではないエネルギーで循環は作れるか、信用を外部化したお金を使わずに幸せや価値は作れるのかということです。可能なんでしょうか?
鈴木:基本的に、経済システムが小さければ資本って必要ないんです。村でやればそこまで大きな資本は必要ないと思うんですよね。資本主義が出てきたことと、経済が産業革命以降ずっとグローバル化してきているのは、やっぱり関係しています。
小さい経済、まさに地域経済だけで完結できるような、それだけでモノが流通していくというものであれば、そんなに大きな資本は必要ないわけですよ。グローバル経済自体をあきらめるのが一つの方法で、究極までいくと原始共産制とかになってしまうわけです。
「資本主義とは一体なんなのか」を根本的に言うと、最近はあんまり流行らない経済学者ですが、マルクスという人が昔「資本とは基本的に再生産様式である」と言ったんですよね。
簡単に言うと、これは「基本的に資本は自己増殖していく性質がある」ということなんです。それがマルクスの時代においては、資本というものは純粋にお金だったわけですよね。そのお金が蓄積することによって「より自分自身を増やしていく性質」を増殖させていくと。
つまり、お金を持っている人はどんどんお金が増えてくるし、持っていない人はどんどん減っていくっていうことなんですよ。これが格差になる。
鈴木:でも、マルクスが言ったことはこれだけではなくて。重要なことは「これによって格差が広がることだけが本質ではなく、人間が疎外される」と言ったんです。「人間が人間らしく生きられなくなってしまう」ということを言ったわけですよ。
このあと1970年代になって資本という概念はどんどん拡張していくんですね。お金だけが資本ではありません。先ほど言いました社会関係資本の他にブルデューのいわゆる文化資本があります。
例えば、お父さんやお母さんがどんな本を読んでいるか、家の中にどんな本棚が並んでいるかなどによって、子どもたちの学歴や知識レベル、文化的な好みなどに決定的な影響を与えてしまうと。これが文化資本と言われるものです。
このように、あらゆるものが資本です。今「環境資本」という言葉がありましたが、どれだけ自然があるかも資本だし、資本というものが実は極めて広い概念であるということにみんな気づいていくわけですよ。「お金だけじゃない」と。
今テクノロジーの力で何が起きているかというと、お金だけが資本だった時代から「他のものが資本だ」「他にもいろんな資本があるよね」となった時に、資本投資がバラバラだったほうが実は幸せなものが、資本同士が結びつき始めてしまうということがこれから起きるんですよね。これが本当に幸せなのかどうかってわからない。
例えば、僕と亀山さんの家族がいて、それぞれ子育てが大変でそれぞれの子どもを手伝っていると。「子育てが大変だから手伝います」って言ったら、それってお金一切発生しないじゃないですか。
ところが、いわゆる資本主義的に言えば、ここにお金を介在させたほうがGDPが伸びるわけです。やっていることはまったく変わらないのに、僕が亀山さんの子どもを預かったら「お金ください」と。逆もあります。
今までお金が発生していなかった社会関係資本だけの世界にお金を結びつけるとGDPが伸びて、そこにマネーが投下されるようになるわけです。それが本当に幸せな社会なのかどうかって、わからないわけですよ。環境資本もそうで、結局結びつけていくのはインターネットの性質やテクノロジーの性質なですが、結びつけることによって、どんどんマネーになるんです。
柳澤:わかります。今まで価値化していなかったものを価値化すると言ったんですけど、それについてはすごく議論しています。法定通貨を使っている取引って、同じように二者の間でお金でやりとりしていても相手の顔も見えないし、人のつながりをまったく増やしていない。そういった使い方と、人のつながりを増やしている使い方をちゃんと分けて、こちらも指標化していくと。
そうすると、お金は使うんだけど使い方が変わってくるというか、人とつながるほうに使おうとなってきて、そっちに少しでも流れてくれたらたぶん幸せ度が高いんじゃないか。そんなことを仮説立ててやっています。
可視化できない資本を全部可視化しようとしてもたぶん無理なんですけど、一部をとって「どうも人のつながりが多い地域だ」ということは言える気がするんですよ。一人当たりの社会関係資本の流通量が多いなどといったことです。それにブロックチェーンが使えるかなと思っています。
鈴木:昔、和同開珎とかあったじゃないですか。あれって物々交換のためにやってたのではなくて、呪術的な目的のために使ってたんですよね。そういう貨幣やお金の中に呪術性や物語性みたいなものを埋め込んでいって、「こういう時にしか使えない」「こういう時は使っちゃダメ」というものが入ったほうが、実は豊かなんじゃないかなと。
柳澤:おもしろくなるんじゃないかと。エロみたいに、自分が何を使っているか絶対公開されたくない匿名性が今までのお金の良さだったのを、逆に人におごったりコミュニティを盛り上げる時にしか使えなくて、その使いみちが公開されるような設計も技術的には可能ですから、インセンティブを埋め込むこともできる。
そこにおもしろさも加わるから、そっちの流通量が増えてきて、それは結果として豊かさにつながる指標になる可能性があるっていう。
山口:ちょっと抽象的な話なんですけれども、いわゆる資本主義の問題ってだいたい3つぐらい言われています。ひとつは「富の偏在」の問題です。だいたい1パーセントの人が50パーセント以上の富を世界で独占していますと。もうひとつは、「信用管理」の問題。リーマンショックみたいに、大きな金融のブーム&バーストが実体経済に影響を与えること。
ところが、根本的な問題というのは実は違うのではないかと言われていて、それは「文脈の毀損」というものです。お金を使って取引をすると、お金って数字なので匿名性を持ってるんですけども、それまでの物語や文脈を漂白してしまうんです。
例えばここにモレスキンの手帳があって、2,000円で買えます。これは僕にとってとても大事なので、「これを拾った人は5万円もらえますよ」って中に書いてあるんです。こういうふうに、モノとの関係には物語とか文脈とかを持っていて、お金を使うことによってそれらがすべて漂白されていくと。
幸せっていうのは、本質的には意識が交わること、人と一体になることしかありません。お金を使えば使うほど分断されて、より不幸になっていくのではと思っています。お金の、信用を数字化して交換に用いるという、その根本的な原理原則のところに、実は文脈の阻害という問題が潜んでいると。
でも、これから出てくるテクノロジーは、もしかしたらその文脈っていうものを内包したまま価値を流通できたりするものなのではと思っています。あるいは、今までは我々が求めてたのはモノだったりとかコトだったりしたけど、今は関係経済といって、ほとんど人のお金払うものっていうのは、モノでもないしコトでもない。
もちろんメディアとして食事の場などが用意されていますが、「ピア」といって、誰かと一緒にいることに対してお金を払います。
それはもう、学校の選択やパートナーの選択、WeWorkが2兆円のビジネスになっていることや、ボーディングスクールに1,500万円もかかることなどからも明らかです。あれは、空間の意識をみんなが共有するっていうことに対してみんながお金を払っている。このIVSもそうだと思うんですけれども。そういうものにしかみんなお金を払わなくなってると。
こんなふうに「関係経済」っていうものが中心になってくると考えています。交換の貨幣じゃなくて、共感のための「時間」のほうが、実は貨幣として有効なんじゃないかという話っていうのも出てきはじめているのかなって思いますね。
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