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資本の本質(全4記事)

「お金は稼ぐより使うほうが難しい」 100億のファンドを運用する男が語る、資本主義との戦い方

2018年9月7日~17日にかけて、日本財団「SOCIAL INNOVATION FORUM」と、渋谷区で開催した複合カンファレンスイベント「DIVE DIVERSITY SUMMIT SHIBUYA」が連携し、都市回遊型イベント「SOCIAL INNOVATION WEEK SHIBUYA」が開催されました。今回は「DIVE DIVERSITY SESSION」の中から、トークセッション「資本の本質」をお届けします。本記事では家入一真氏・佐別当隆志氏・永田暁彦氏が登壇し、「何のためにお金を稼ぐのか?」について意見を交わしました。

収入の伸びが幸福度に比例しなくても稼ぎ続ける人

佐別当隆志氏(以下、佐別当):去年、実は僕もクラウドファンディングで1億7千4百万集めたんですけど。不動産投資型に特化した、不動産を担保にしたクラウドファンディングなので、リターンは利子なんですね。年間6.5パーセント利子を返します。

プロジェクトとしては、渋谷区代々木上原に保育園付きのシェアハウスとゲストハウスを作るというので、土地さえ見つかれば保育園は補助金が出て、民泊とシェアハウスの部分は銀行が貸してくれるんですけど、土地がどうしても買えないと。

銀行は事業がうまくいくかどうかわからないので貸してくれないというので、クラウドファンディングで募集をしたら、11日間で1億7千万とか集まって。

家入一真氏(以下、家入):あっという間に集まりましたよね。

佐別当:まあひぃひぃ言いながら集めましたけど(笑)。でも、個人の声でそれだけのお金が短時間で集まるというのは、改めてP2Pのクラウドファンディングという仕組みがすごいなと感じて。

最近も家入さん、北海道の件で、こういうときこそみんなクラウドファンディングで寄付しようよ、みたいなことを呟かれたと思うんですけれども。人の善意がお金を通じて直接届くみたいな、なんかそういう社会が近づいてきているんじゃないかなと感じますね。

お二人に質問したいんですけれども、データとして「先進国の労働生産性」というのが、戦後から右肩上がりに何倍、何十倍と上がってきているという。実際にデータとして証明されているものがあって。あと、収入の伸びが幸福度に比例しないと。

年収600万から700万くらい稼ぐと、それ以上、1千万とか2千万とかは一定して幸福度は上がらないって昔からデータで証明されていて。

下手したら5千万円、1億円稼いだ人たちは、500~600万円、700万円以上稼いだとしても幸せにならないことがわかっているにもかかわらず、また稼ごうみたいな。そういう稼ぐ人がまた稼ぐみたいなおかしなループが回ってきてるんじゃないかなと思うんですけど。

何のためにお金を稼ぐのか?

佐別当:お二人はそこから抜け出してきている気もしていて、お聞きしたいのが「なんのために稼ぐのか」「なんで金稼ぎをしてるのか」という、このところを教えてほしいなと思っていまして、永田さんから聞かせてもらっていいですか。

永田暁彦氏(以下、永田):そうですね。「収入が1千万以上になっても幸福度が上がりませんよ」と言われても、1千万もらうまではふざけんなと思うと思うんですよ。それがすごく大切だと思っていて。さっき家入さんの話を聞いてて思ったのが、過去の自分を救いたいというようなものはないですか?

家入:たぶんね、そこに行き着くんですよね。

永田:確かに収入とか個人資産が増えても幸福度は変わらないというのは事実だと思っているんですけど、それをどう社会に全員を納得させていくかって難しいなと思っていて。僕はお金の使い方って、世の中がマーケティングによって支配されていて、マーケティングの根元を殺すというのが大切なんじゃないかなと思っていて。それで、最近そういうアプローチを始めています。

佐別当:「マーケティングの根元を殺す」と言うとどういうことなんですか。

永田:それこそリアルテックファンドって、日本の超先端技術に投資するファンドなんですけど、日本の大企業30社が出資してるんですね。ソフトバンクとか電通とかJTとか清水建設とかなんですけど、「なんのためにお金を使うんですか?」と。

「10億円を20億円にしてうれしいんですか」という気がずっとしていて。10億円をゼロにする代わりに、「見たことないものを持ってきてやる」と。「ドラえもんがやってくる」と。だって、「どこでもドア」があったらうれしいじゃないですか。「その代わり、お金ゼロになります」みたいな。

そういうことでお金を集めたんですけど。今まで、お金を払う理由って「お金が増えます」「おしゃれなお召し物が」とか。

小さな幸せの集積が「本当の幸せ」

佐別当:普通、ファンドってそういうものですよね。

永田:そうなんですよね。なので、根本からお金を払う理由を変えていくものを。そのBtoC、たぶん家入さんはそれをコンシューマー向けに強くやっていると思っていて、僕は「B」を変えたいという思いが大きくてやっているところがあると思いますね。

佐別当:じゃあ家入さん、なんで稼いでるんですか?

家入:好きな言葉なのかわからないけど、ずっと残っている昔の有名な言葉があって。「幸せのかたちは同じだが、不幸せのかたちは人の数だけある」みたいなことを言った人がいるんですよ。

「こうなれば幸せだよね」みたいな価値観って、幻想のように僕らの間に蔓延していて、「お金があれば幸せ」とか「時間があれば幸せ」とか、なんかこう幸せっぽいなにかを追い求めて日々を生きているわけだけど。僕もたぶんそういうのがあるんだろうし。

だけど、例えば「本当の幸せ」って、小さなものの一つひとつの集積というか、仕事が終わった後に飲むビールが美味いとか、子どもの寝顔だったり。今日も帰るの遅くなっちゃったけど、寝てる子どもの顔を見て癒されるとか、なんだかそういう1個1個の小さな幸せみたいなものを、大事にしながら前に進んでいくようなことだと思っていて。

上場してお金をバーッと使っているときって、そういうのがぜんぜん見えてなくって、そのお金が無くなったあとに、CAMPFIREとかいろんな活動を始めて、今いろんな地域を回ることが増えました。

一人ひとりが自分の生き方や幸せの物差しを持つ

家入:この話はよくしちゃうんですが、日本の地方で海士町(あまちょう)という島根県の上の隠岐諸島って呼ばれる島があって。人口2千人くらいの村なんですけど、そこの1割くらいが移住者なんですよね。移住者というか、ぜんぜん縁もゆかりもない人たちがそこに住んでいて。

もちろんそこに至るまでにはいろんな苦労があって、行政とか民間とかいろんな人たちががんばった結果、1割くらいの若い人たちがそこに住むようになったんです。そこの人たちと触れ合ってると、「自分たちの生き方を見つけた人たちなんだな」ってことをすごく実感するんですよね。

本当にそれこそ「上場企業を辞めてきました」とか、「外資金融で働いていたけどちょっと鬱になって引っ越してきました」とか、いろんな人がいるんですけど。働き方どうこうとか幸せどうこうじゃなく、自分の生き方みたいなものを見つけて移り住んできていて、その逆算で「自分はこういうふうに働きたい」とか、「収入はめっちゃ減るけど5時には終わってビール飲みたい」とか、「海で遊びたい」みたいな、一人ひとり、人それぞれの小さな幸せがそこにある気がしたんですよね。

だから、この年収と幸福度みたいなものも、確かに先ほど永田さんがおっしゃったことと近いのかもしれないですけど、「本当に実際そうなのか」「じゃあその幸福度ってどうやって調べるんだ」みたいな話もあって。

自分はしんどいけど、東京で高層マンションに住んで夜景を見る瞬間が好きなんだという人もいるだろうし、一方で年収めちゃめちゃ少ないけど海を見ながら仕事ができてそれで幸せなんだって人もいるだろうし。自分の幸せの物差しみたいなものを、一人ひとりが自分の中に持つってことなんだろうなと。それで、なんだっけ、僕がなぜ稼ぐのか?

永田:確かにそれは僕も……。

家入:そうですよね。稼いでないと思うんだけど、稼いでるのかな。稼いでない……。

佐別当:お金のために仕事をしてる感覚はないということですね。

「お金がないからできない」を制約にしたくない

家入:うーん……。そうだな、でも、リバ邸をやるだとか、「あの村」を買わせていただくとか、その時の思想はどうしてもプラットフォーマーなんです。自分がどうなりたいというのは本当に希薄で、自分の夢もいまだにないですし、自分がこうしたいああしたいも本当にない。

だから、それによって振り回してしまっている人もいるんだけど、一方でプラットフォームにしていきたいというのはあって、それをやるときに、お金やリソースみたいなものが必要になってくるときに、選択肢として「お金がないからできない」みたいなものは自分の中ではあまり。

佐別当:制約条件にしたくない?

家入:そうそう、言い訳にもしたくないですし、制約条件にもしたくないなというのは確かにあるかもしれない。

佐別当:じゃあ永田さんに。今日すみません、飲みながら。別にふざけているわけじゃなくて、いっぱい話せるようにというので。

永田:着いた瞬間、「飲め」って(笑)。

(会場笑)

「恐ろしい会だな」と思いました(笑)。

佐別当:だから、トップスピードで行こうと思うんですけど(笑)。永田さんの中で、資本主義と民主主義について話したいって話を楽屋でしてると思うんですけど(笑)。

お金は稼ぐよりも使うことのほうが難しい

永田:お金を稼ぐより、使うことの方が難しいと思ってるんですね。政党に近いんですけど、正しく使ってくれる人にお金が集まればいいなと思ってるんですよ。

それって実は会社も一緒で、例えばユーグレナって9万人株主がいるんですけど、これって日本でトップ50くらいなんですね。日本全部の中で50番目くらいに株主が多いんですよ。来年60億円くらいの赤字を出すんですけど、それは決まってるんですけど、これは今までに日本になかったバイオ燃料の実証製造プラントを作るんですね。

それにみんながお金を出してるということって、「君たち、使っていいよ」って言ってくれてることだと思ってるんですよ。僕ファンドやってるって言ったんですけど、「なんで稼ぐんですか」って話で言うと、別に個人では稼いでないんですね。

上場してるので年収も開示されてるんですけど、僕がユーグレナからもらってる年収って、この中でたぶん上下あると思うんですけど、そのみんなが想像する個人資産の稼ぎ方じゃないですよね。

佐別当:一部上場企業のCFO。

永田:たぶん最下層だと思います。だけど、僕が欲しいのはあれなんですよ。本当に正しいと思ったときに金が使える力で、それって自分の貯金もあれば、それこそクラウドファンディングもあれば、そのファンドもあれば、僕は「日本の研究者をなんとかしたい」と言って、自分が右手を挙げたときに、日本中から100億集められたということの方が、自分が10億持ってることよりもはるかに大切で。

だから、貯金が1万円でも、自分には使えなくても社会が使うべきだと思うものに対して手を挙げたら、100億集められる能力の方が、自分は欲しいんですね。

なので、「なんで稼いでるんですか」というよりも、「なんでお金が集まる機能を自分に備えようとしているんですか」という質問に対して、自分が使おうとしている先に正義があって。でも、正義って常に宗教なので、そこに賛同してくれる人とお金を集める能力がセットになると、社会が動くんじゃないかなと思っているという感じですね。

会社を大きくすることで資本主義に立ち向かう

佐別当:その延長線上で、それだけのお金を集めて、さらに「もっともっと社会を変えていこう」と思ったら、お金が必要なのかもしれないんですけど。資本主義の限界とか資本主義の次の社会、僕らだったらシェアリングエコノミーとかシェア社会というのは、もう資本中心ではなくてみんなで物々交換の社会でもいいし、もう間接金融なんて使わずに、個人個人が繋がった方が手触り感のある社会ができるよね、みたいな価値観が持てたりするんですけど。

永田さんはその資本主義のルールで戦って、資本主義の仕組みを活用してお金を集めて、別に自分のためではないと思うんですけど。資本主義の中でなにかをされようとしているのか、またはさっき言われていた民主主義というものと、考えというのを持たれてるんだったら、家入さんも含めてお話してもらえると。

永田:前室で「僕、今日そういう話したいです」って言ったら、最初の方に出していただいたんですけど、(家入さんは)それこそ選挙に出られてるじゃないですか。民主主義と資本主義の最大の違いってなにかというと、ここにいる全員が平等に1票持っている世界と、持ってない世界だと思ってるんですよね。

だって、世界の富の半分を8人が持ってるんですよ。すごくないですか。この人たちが全員トヨタの株を空売りしたらどうなるかって話じゃないですか。だけど、国連でもアフリカは1国1票持ってるし、民主主義においては全員が1票持っているから、そのところの戦い方と、民主主義の戦い方と資本主義の戦い方って、本当にどれぐらい一緒なんだろうかというのは、自分の中で問いがあるんですよね。

なので、いわゆる民衆からのポピュリズムを集められる人が民主主義で勝てるとすると、資本主義の世界で勝てるのは独裁者な可能性もあると思っていて。民主主義で独裁者になろうとすると、もう軍事力になってしまうので、それはすごく難しいと思うんですけど。正しくお金を集めて正しく革命を起こそうとすると、めちゃくちゃでかい会社にするとか、そういうことで資本主義に立ち向かうということが大切なんじゃないかなと思っていて。

僕はユーグレナをめちゃくちゃでかい会社にしたいし、リアルテックファンドを1兆円の会社にしたいんですね。そして、僕が投資するべきところに投資していくというのが、ある種、資本主義の戦い方かなと思っていて。

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