退職した社員に顧客がついていったらどうするか?

浜田敬子氏(以下、浜田):もう時間が10分を切りました。では、「『個』が尊重される時代に守るべきルールがいるよね」という話になって。おそらくその幸せな環境を保つために、個人と組織のどちらにも「これはやっちゃダメだよね」というルールがあるんだと。

先ほどおっしゃったように、謝りに行くケースですね。「これはやらないほうがいいよね」というアドバイスがあれば、ぜひ教えていただきたいです。

伊藤羊一氏(以下、伊藤):浜田さんのケースは微妙にそうかもしれないけど、リアルに個々のお客さんを取りあうようなこと。辞めたがゆえに、お客さんがごそっとそっち(個人)に行くようなことになりがちなところは、やっちゃダメというよりも、「そういうときはどうするの?」という。

浜田:どうするんですかね〜。

伊藤:僕の銀行のときみたいに会社の機能が大きければ、お客さんはそっち(会社)に行くわけですよ。だけど、こっち(個人)に来るということは、こちらのほうがいいから個人につくということで。そうなった場合はどうする、というルールをゆるやかにでも決めておくといいですね。

会社と個人の間であらかじめ取り決めをすべきこと

浜田:こういうケースで多いのが、人材エージェントの方は、かなり個人同士の契約だったりするので、「この人にエージェントをやってもらいたい」というふうに来る。だから、腕ききの人は、お客さんがそっち(個人)についちゃうんですね。

伊藤:でも、それはもうね。個人についているので。

浜田:しょうがないですよね。じゃあ、自分がさばききれないものと言ったら変だけれども、数がいきすぎてしまったものを元の会社に紹介する、という感じなんですかね。

伊藤:そういうことを契約とまではいかないまでも(決めておく)。

浜田:ゆるやかにでもね。

伊藤:そういった話をしておくことがマストなのかなという。だから、場合によっては会社に(人脈を)置いてきて、ぜんぜん違うところで勝負するのもありかもしれない。それでも話しておくということに尽きるのかなと。

それに「あなたたちの仕事を奪って、こっちで俺だけハッピーであればいいのだ!」と言っているやつらなんて、成果が出るわけがないので、何かしらちゃんと話をしておけば。

浜田:同じ業界にいるなかでややこしいことになると、お互いに仕事がやりにくくなりますよね。

伊藤:そうそうそう。

個人のキャリアにおける「実力」と「実績」の違い

浜田:北野さん、守るべき倫理観みたいなものって、どんなことなんですかね?

北野唯我氏(以下、北野):いわゆる義理というのは、また別の話じゃないですか。例えば、広告代理店の世界は、昔から独立するクリエイターの方がいらっしゃるじゃないですか。

そのときに、いま持っているクライアントをぜんぶ残していくか、それとも持っていっちゃうかというのは、もちろん法律上の問題もあるけど、それを超えた義とか友人としての部分だと思うので。

好き嫌いはあると思うんですけれど、罰せられるか罰せられないかは別の話であって、それはちゃんと整理したほうがいいなと。

あとは「個」の視点でいうと、やっぱり実力よりも実績がポイントだなと思っています。社名も実力と思っちゃうけど、実績はポータブルで持っていけるものじゃないですか。

例えば、伊藤さんがYahooの時代に「こういう成果を出しました」というのは実績なので、それを次の会社に持っていける。実力みたいなフワっとしたものは、主観的なものなので、転職すると「でも、もう朝日の浜田さんじゃないんでしょ?」というふうに言われちゃうので。

個のキャリアケースという意味においては、実力ではなく実績を意識したほうがよくて。Sansanのシステムもそうだと思うんですけれど、名刺で誰とつながっているかやFacebookで誰とつながっているかは、ある種の形で残るエビデンスだと思うんです。

ちょっと論点がずれているかもしれないですけれど、そこを構築していくのは、個のキャリアという意味でいうと大事かなと思いますね。

不思議な人を紹介してもらえる時は絶対に行く

伊藤:つながりということでいうと、どんどん経験を積んでいくとFacebookの共通の友達って、バカスカ増えていくんですよ(笑)。僕と浜田さんの共通の友達が300人を超えているんですよ。でも、そういう人ってわさわさいて。

浜田:毎回知っている感じになりますよね。

伊藤:そうなんです。多くなると1,000人を超えてくるわけですよね。そうすると、一人ひとりのネットワーク自体はわりと強固になってくる。

浜田:そうですね。

伊藤:複数の人から入ってくるような。だから、「北野さんとこのあいだ話したんだけどさ」と、僕の友人が言うようなことは、しょっちゅう起きるようになる。それってレファレンスが済んでいる感じになるので、ネットワークがどんどん強くなってくるということはありますよね。

浜田:Facebookで初めての人に取材を申し込んだり、お仕事をお願いすることが増えてきたんですけれど、逆にいま意識しているのは、たぶん似たような価値観の人でネットワークがつながっちゃうんですよね。

なので、自分がまったく知らない新しい人と知り合うような機会は、もしかしたら逸しているのではないかと。新しい血やアイディアを自分のネットワークで得るには、どうしたらいいのかなと。2人は意識していらっしゃることはありますか?

伊藤:不思議な人を紹介してもらえるときは絶対に行く、という。

浜田:あ〜。

伊藤:近い人というか、「名前を知っている人はいつか会うよ」という。だから、知っている人を紹介してもらうときは、あえて「いつか会うよ」と言っています。

浜田:仕事で必ず(タイミングが)来たりすると。

伊藤:そうそうそう。だけど、「こういう知り合いがいて」と言われて、「え〜!」みたいな人は、貪欲に会いにいくというのはしますね。

個人のネットワークで仕事をする“心地よさとリスク”

浜田:北野さんはどうですか?

北野:いや、それは難しいですよね。

浜田:知り合いの中だけでグルグルやっていると、やりやすいんですよね。話は早いし、価値観も似ているのでパパッと仕事が進んでいく。スピーディに進む。だけれども、というような。

北野:でも、それは僕もまだどうやってやればいいか、わかっていないところなので。ただ、さっき言ったように共通の友達が多い人はいつか会うなと思って、優先度を下げていることはあります。それくらいのレベルですね。

浜田:あと、お二人とも講演が多いので、ぜんぜん違う業界との交流があったり。地方の講演に行くと、そういうチャンスがありませんか?

伊藤:そうそうそう。

浜田:自分では行かない地域や業界とかね。

伊藤:そうそうそう。それがダイバースにつながるというのは、やっぱり意識していないと。どうしても心地のいい行動を取ったり、そういう構造のネットワークを作っちゃうので。なるべくアウェーに行くことは心がけています。

浜田:個の人脈の時代になればなるほど、やっぱりアウェーとの接触の機会の問題が出てきて。組織にいると、強制的にアウェーに行かざるを得ないじゃないですか。仕事で「新しい営業先を開拓しろ」とか。

個人のネットワークだけで仕事をするのは、私はリスクもあるかもと思っていて。そこはちょっとみなさんが意識されたらいいかなとは思っています。

ポジション・パーソナル・リレーションの3つのパワーを育てる

浜田:さて、最後にお一人ずつ、この個の時代にどういうふうに生きていくのかということを含めて、一言ずついただきたいです。

伊藤:要は自分が持っているパワーは、そのポジションのパワー、それから自分個人のパーソナルパワーなんです。それとリレーショナルパワー。この3つなわけですよ。

ポジションパワーはもうあるのであれば使えばいいし、という話で。大事なのは、やっぱり個人の力ということになるんですけれど、個人の力だけで1人でなんでも仕事ができるかというと、できるわけないだろうと。

そうなったときに大事なのはネットワークの力。だから、それは会社のものか、自分のものか、というところはちゃんと折り合いをつけたうえで育成していくと。

個人の力は自分で育てたらいいんだけど、ネットワークの力は時間をかけないと耕せないですよね。だから、それを耕すことを意識してやっていて、それもパワーとして持っていることがすごく大事かなと思っています。

浜田:ありがとうございます。では、北野さん。

マネジメントのスタイルは「管理」から「透明化」へ

北野:3つありまして。1つは完全に宣伝なのですが、ぜひ『天才を殺す凡人』を買っていただけたらなと思います。

天才を殺す凡人 職場の人間関係に悩む、すべての人へ

2つ目に、僕が思っていることが管理じゃなく透明化。管理から透明化というのがマネジメントのスタイルになっていくと思っています。やはり、ある程度フリーだったとしても、多少のマネジメントや統率感が必要だと思うので。ポイントは管理じゃなく、透明化だと思っています。

最後の3つ目が、人事制度の話も含めてキャッチコピーっぽく言えば「同質化じゃなくて増質化」だと思っています。質を増やすというか。さっき言った「人事制度を増やす」というようなことが、次の時代なのかなと思っていたりしますね。

浜田:ありがとうございました。ほとんど時間ぴったりになりました。みなさん、いかがでしたでしょうか? よかったらお二人の本も買って読んでみてください。そうすると、より今日のお話の理解が深まると思います。

伊藤さん、北野さん、どうもありがとうございました。

伊藤・北野:ありがとうございました。

(会場拍手)