2024.11.25
「能動的サイバー防御」時代の幕開け 重要インフラ企業が知るべき法的課題と脅威インテリジェンス活用戦略
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山口幸穂氏(以下、山口):そろそろ、最後の質問にいきますね。いろいろと今日はうかがったのですが、今後のメディアに対する佐々木さんの展望と言いますか、これからの激動の世の中を生きるコツのような何かを教えていただければと思います。
佐々木俊尚氏(以下、佐々木):フェイクニュース問題に関していうと、先ほどもお話ししたように、「フェイクニュースを退治せよ」という話ではまったく解決しないんですよ。
そうやって何か言っているメディアが「お前んとこもフェイク流しているんじゃないか」と、よくツイッターで反論されているという笑えない現象が頻発しているわけです。「フェイクニュース撲滅」などと新聞が言っているけれども、だったら新聞報道はどうなのよ? という。
新聞自体も、見ているとかなり過激化していますよね。左右に。例えば、『東京新聞』と『産経新聞』を比べるのが一番わかりやすくて。両方とも昔はもうすこし穏健な新聞だったのに、これは部数が減ったせいなのかどうかわかりませんが、より読者に適合しようとするうちにどんどん過激化して、最後は離れていくような。ぐるぐる回しているうちに、どんどん遠心力で遠くなっていくようなことが起きています。
気が付くと教唆しているようなことになっているんですね。こうした現象が起きているので、たぶんフェイクニュース問題は、この状態では解決のしようがないと思います。
ただ、先ほどもお話ししたように世代の問題も絡んでいたりするので、「インターネットが始まってからまだ20年とちょっとだよね」と長い目でみれば、徐々に我々が過激な情報通信テクノロジーを飼い慣らして、もう少し有用に使えるようになるんじゃないかという話です。
軍事技術もそうだと思うんですよね。軍事革命というのが20世紀の初めに起きて、それまでは槍や、せいぜい鉄砲で殺し合っていたものが、飛行機やら大砲やら迫撃砲やら戦車やら、いろんな新兵器がバッと登場する。最初はみんなそれらをどう使いこなしていいかわからないので、使い回すわけです。
第一次世界大戦においては毒ガスで大量に人を殺したり、もうわけのわかんないことがいっぱいあって、大量に人が死にました。2回戦争……大戦争をやったあげく、やっぱりこれはいくらなんでも使いすぎだよね、これもうちょっと使いこなさないとダメだよねとなった。BC兵器禁止などいろんなことをやって、核も抑え込んで、だんだん世の中が平和になっていった。
もちろん、今でも紛争などがいっぱい起きていますが、大戦争は起きていない。それと同じように、やっぱり今のインターネットはすごく初期の段階で、もうほとんど欧州体制、第一次世界大戦ですね。毒ガスをみんなでまき散らして、人が死にまくっているのとあまり変わらない状況だと思います。
山口:なるほど。
佐々木:これがあと10年、20年、もしくはもう少し経てば、だんだんと使いこなせて穏やかになっていくんじゃないかと思います。炎上などもそうですよね。今でも例えば、誰かが誰かを炎上させる……もちろん本人が悪いケースもありますよ。しかし、たいていはそこまで責めなくてもいいんじゃないかというぐらいの話です。
山口:そう思います。
佐々木:ワッとみんなで悪口を言っているわけでしょ? でもみなさん、考えてみてください。東京メトロの電車に乗っていて、例えば女子高生が座っている前に酔っぱらったおじさんがいる。おじさんが女子高生に対して、真っ赤な顔で怒鳴っている。普通はそれを見たらどうしますか? 止めるか、遠巻きに見守るか、立ち去るかでしょ?
でも今のインターネットは、それを見つけてワァーと言って、おじさんと一緒に怒鳴っている。要するに、炎上に加担するというのは人に怒鳴りまくるのと同じ行為で、そんなことは日常生活であれば絶対やりませんよね?
山口:そうですよね。
佐々木:それこそが、いかにインターネットというものが我々の日常生活の感覚から乖離しているものかという、ひとつの表れなんじゃないのかな。だんだんとマナーができてくるんです。自然に。
例えば、レストランもそう。外食という文化は、かつてのヨーロッパでは旅行中しかありませんでした。昔のレストランのようなものは、ホテルと一緒になっている。ホテルに泊まったときに初めて食事をするのがレストランです。
それが18世紀ぐらいに、確かパリの街頭で初めてスープを出す店が現れて、それがレストランの始まりだったんです。当初はそのレストランに、みんなが見よう見まねで物珍しくて行くわけですよ。行って、テーブルを離れてご飯を食べるわけでしょう。みんな興味があるから、隣の人が食べる様子をじっと見ていたんです。
(会場笑)
佐々木:でも、今はそんなことをする人はいませんよね? なぜかというと、そんなことをする人は不躾で失礼だから。今のインターネットは、まだそこが不躾で失礼になっていない。10年ぐらい経てばきっと、炎上させているわけのわからない人がいても、「これは違うから」とわかるようになるんじゃないかという感じはしますよね。
そんなにこの、メディアの未来を暗黒視していないというか。わりと楽観的に考えています。徐々に徐々に使いこなせるようになると。
同時に、今のツイッターやフェイスブックといったSNSや、ネットメディアにおいてはかなり不備が多いですよね。さらにいろんなメディアが出てきて、より有効な議論がなされるようになる。先ほど言った、文化空間をみんなでつくる共同体の基礎になるもの、そういうものがどんどん出てくることが期待できます。一番大事なのは、とにかくその波に乗っていくことですね。
山口:私たち一人ひとりが、その波に?
佐々木:そうそう。どんどん新しいものを作っていく。作っていなくても、作られたらそれに乗っかって、みんなで盛り上げていくということをどんどん繰り返しやっていくしかないんじゃないかな。明快な道筋はまったく用意されていないので、とりあえずそうしたかたちでやっていくということが大事だと思います。
山口:わかりました。ありがとうございます。
Erjon Mehmeti 氏(以下、Erjon):そのうえで、インフルエンサーのような人たちはどうしていけばいいでしょうか。みんな、もっとお金を稼げるといいなと思うんですが。
佐々木:どうやってそこでお金をもたらすかというのは……かなり難しい。答えは今のところありませんよね。「じゃあ、怪しいオンラインサロンをやるのがいいのか?」となると、それもまた違う話ですから。もっといろんな方法があると思います。
だからといって、広告だけに頼るのもなかなか難しい。ネイティブアドのようなブランド広告をきちんと作っていくという方法は、やっぱりまだ一つの可能性としては十分にある。
ネイティブアドはよく誤解されているんです。記事広告という言葉だと「単なる広告なのに、通常の記事と同じ形式なのっておかしいじゃないか」というのだけど。あれは一種の企業による貢献活動に近いと思います。
なぜかというと、実際にメディアは若い人たちがやっていると思いますが、広告予算が入ると、いいフォトグラファーを使って、いいライターを使って、いい記事が作れるんですよ、いいデザイナーを入れることもできます。
その記事で会社の宣伝をガンガンしているのではなくて、例え第三者的な記事であっても、いい記事を作ってそれがみんなに読まれるのであれば、クライアントは自分のところのブランディングになればうれしいですよね。もちろんメディアは、それが読まれるとうれしいだろうし、お金も入る。読者としても、いい記事が読めればそれでいいじゃんと。わりとそこは、賛否両論のところがあるんです。
別に、いい景色が見られて、クライアントの企業にはそれが宣伝になって、メディアにお金が入ればそれでみんな満足っていうぐらいのところで、ありなんじゃないかと思います。それとね、企業の悪口に関しては別なんですけど、それだけじゃなくてとにかくそういう、いろんな方策を考えながらビジネスを模索していくこともやっぱり大事。
現状では「これをやればすべて大丈夫なんだ」というものは存在しないし、実際に僕も、あいかわらず試行錯誤して、フリーランスで何のあてもない生活ですけど、これはいろいろやってみるとしか言いようがないんじゃないでしょうか。
山口:ありがとうございました。それではそろそろQ&Aに移りましょうか。
Erjon:これからQ&Aを始めます。聞きたいことがある方、コメントしたい方はいらっしゃいますか?
(会場挙手)
山口:はい、お願いします。
質問者1:最初のところで、ネット世代は新聞を信じないという話がありました。60代、70代は過激な情報を信じるけど、若い人たちはバランスが取れているみたいなお話があったと思います。
しかし、よく見ると新聞を信じない人たちはたくさんいて、「マスゴミ」というような言い方もします。その一方で、その人たちも新聞からネタを持ってきて、2ちゃんねるに投稿したり、まとめサイトで記事を作ったりしているわけですよね。そのあたりについて、ちょっとうかがいたいです。
佐々木:「一次情報は新聞じゃないか説」ということですか?
質問者1:そうですね。
佐々木:よく新聞社の人が「新聞こそが一次情報だ」って言うんだけど、新聞紙面が40数ページある内、独自取材ってほんの1〜2割ですよ。
山口:そうなんですか!
佐々木:ほとんどは発表後のリリースを記事にしたものだったりするんです。記者クラブで会見があったものを記事にしたり。いわゆる当局なり企業なりが、直接配信してもそう問題ないものが新聞を経由して配信されているだけということです。
僕は社会部の記者だったので社会面を担当していました。社会面は全体の1、2ページなんですね。そのくらいのページ数の社会面で、独自取材なんて3分の1もありません。2割ぐらいです。ほとんどが警察発表とか、行政の発表とかです。
つまり「新聞こそが一次情報である」というのはそもそも幻想だっていう前提から、まず考えていかないといけないんじゃないかなって話です。あとね、すぐにまとめサイトの話になるんだけど、例えば今Twitterをやっている人の総数って、2ちゃんねるのユーザー数どころじゃないですよ。
今は、当事者が直接発信しているYouTubeだったりTwitterだったり、あるいはどこかの大企業のプレスリリースだったり、もちろんそのなかに新聞記事も入っていますが、その新聞記事の内容は単にプレスリリースの記事化だったりするのであって、Twitterでやりとりされている議論のソースがどこかの新聞社の独自取材のものである確率って、そんなに高くないんじゃないかなと思います。
質問者1:そうは言っても「これから新聞はなくなる」とか「経営的に成り立たなくなる」って話があるじゃないですか。そうなると、本当のこと調べるっていう人とか、そういう人がいなくなると困るんじゃないかなって思うんです。
佐々木:ジャーナリズムの意義というのはもちろんあって、例えば権力監視というのも重要な役割ですよね。もしくは、みんなが気付いていないけど重大な秘密って、この社会ではあちこちに隠されている。それをちゃんと暴いて「こんな問題が起きているんですよ」ってことを白日のもとにさらすって機能はもちろん大事です。
でも、それはこれから考えるしかない。そのためだけに今の新聞を維持しなきゃいけないっていうのは本末転倒じゃないですか?
質問者1:たしかに、そうですね。
佐々木:でしょ? そういうことだと思います。
質問者1:何が代わりが必要になるんでしょうか。
佐々木:代わりを作らないといけないという話だと思いますね。「代わりがないから今の新聞を維持しましょう」と、誰も読んでいない新聞をこれからも生産し続けるのはどうかと思います。現時点で新聞を読んでない人に、どうやって紙の新聞を読ませるんですかということですね。
「これだけ消費増税を推進しているのに、なんで自分たちは軽減税率を通しているんですか」とか、「あれだけジャーナリズムだと言っておきながら、Twitterで妄言撒き散らしているのは誰ですか」とかね。いろんな批判がいっぱい出ていますよね。
それに対して答えないまま「新聞はジャーナリズムのために大事だ」って言い続けるのは、現状ではちょっと無理筋なんじゃないかと思っています。
もちろんジャーナリズムは必要なんだけど、それは新聞ありきなんじゃなくて、新聞がビジネスで成立しなくなったあとにも成り立つようなジャーナリズムは何なのかを、みんなで考えていかないといけない。そういう意味では、これからスタートすることの方が大事じゃないかなと思うんです。
質問者1:わかりました。ありがとうございます。
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