2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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阿部広太郎氏(以下、阿部):僕の大学時代のクラスメイトでもある松居大悟君が映画監督になっていて、彼とすごく仕事をしています。その出会いを僕は形にし続けていて……元はと言うと1通のメールから始まっているんですけど、大学時代はたまにランチを一緒にするぐらいで、社会人になってからは疎遠になっていました。
久しぶりに再会したときに、彼が「クリープハイプ」というロックバンドの映画(『君が君で君だ』)をつくりました、というニュースを見たんです。2013年ぐらいですね。
同級生だった人が、自分がいいなと思っているバンドの映画をつくっている。「すげぇいいな、めちゃくちゃうらやましい」と思って、そのときに「映画、楽しみにしています!」とメールしたんですよね。
すると彼が「試写見て、なんか盛り上げたりできる?」と聞いてきたので、「アイデアや企画なら貢献できるはず」と返して。そして、映画を観たんですよ。池松壮亮さんが出演していてすごいなと思って。それで、バンドのファンだけじゃなくて、映画のファンの方たちに来てもらいたいと思ってるんだよね」と松居監督から話を聞いてたんです。
あのメールのやりとりを見てもらえたらわかると思うんですけど、まだ当時はそんなに付き合いもなかったので、僕を信頼もしていないし、期待もしていない。そういうときは、むしろすごいチャンスだなと思って、逆に120パーセント全力で返しました。最初が肝心なので、120パ―セントで返してみて、相手の期待をはるかに越える、そのギャップが大事だから、がんばろうと思いました。
諸石真吾氏(以下、諸石):けっこう打算的じゃないですか(笑)。
阿部:やるからには記憶に残りたいじゃないですか(笑)。また、感想に提案をのせていくのが大事ですね。「自分はこう受け取ったんだけど、もっとこうしたら良くなるんじゃないかな」という提案を込めていくのが大事だと思っていて。僕はその企画書で……けっこう衝撃が強い映画だったので、それをしっかり言語化することで、観た人の心の拠りどころにしようと思って、「心をなぐる106分」というコピーを書いたわけで。
阿部:そして、(スライドを指して)文章の最初の文字を縦読みすると、「明日には変われる」と。『イノチミジカシコイセヨオトメ』という、クリープハイプの曲があるんですけど、その曲のフレーズをここに仕込んで、ファンがここに気付いたら拡散したくなるようなことも仕掛けたり。あとは、本当に映画のタイトルがおもしろいので、それをもじって、いろんなところにゲリラ的に貼っていって、見かけたらツイートしたくなるようなことをしました。
そうして、彼が映画祭に出た時に、僕が作ったポスターも飾ってもらって、書いたコピーが一緒にその場所に立てたのはよかったなと思います。そのときに思ったんですけど、コピーライターはイメージ的には、手で稼ぐ職業なんですけど、ゆえに、足で稼いだらチャンスが大きい可能性があるんじゃないかなと思っています。言葉の人であり、行動の人でありたい。行動で仕事をつくっていこうというスタンスにしようと思いました。
よく「Facebookでは平均4.7人の知り合いをたどると全ユーザーに到達できる」と言われたりするんですね。どんなに小さい規模でも自分が動いていって、ちゃんと仕事に形にしていれば、おもしろいことをやっているという評判は着実についてくるし、金額の大小とかよりも、どんな志、パッションを持って仕事をしているのかがけっこう大事になっている。2013~2014年ぐらいからそう感じていて、とにかく動いていこうと思って、映画の宣伝を手伝いました。
手伝った後、そこから次に繋げていく必要があって。その次は、好きなバンドであるクリープハイプと仕事をさせてもらいたいと思って、今度は彼らのバンドがどういうふうに国民的バンドになっていくかという企画書を勝手につくって、ユニバーサルミュージックさんに突入というか、会いに行って。
諸石:勝手に行ったんですか?
阿部:駆け込みで(笑)。知り合いはどこかに絶対いるんです。紹介してもらって、2013年のクリスマスの時に、20ページぐらいの企画書を持って提案しました。やっぱり、こんな変な人はいないんですよ。すごく情熱的で、いきなりやってきて、「こうこうこういうふうにしたら、もっとよくなると思います」と……。こんな人に、みなさんなかなか会わないじゃないですか。
それで、「阿部さんやばいですね」となって、宣伝やジャケットなども一緒にやりましょうということで、会社の仕事としてやるようになったり。その宣伝のコンセプトを一緒に考えて、渋谷の街で広告をやりましょうということで、やらせてもらいました。
アーティストと信頼関係が築けると、違う仕事を一緒にできたりするんです。当時、『R25』がまだ紙媒体のときに、創刊10周年で30歳の男性をテーマにしたキャンペーンをしましょう、ということになりました。
僕ら世代の人は、上の世代の人からがんばれと言われるよりも、同世代の人ががんばっているから、自分も鼓舞されてがんばる気持ちが強いので、ちょうど30歳のタイミングになる尾崎世界観さんにテーマソングをつくってもらいましょうということで、『二十九、三十』というテーマソングをつくってもらったりしました。
思いが強い仕事は、やっぱりそうやって繋がっていくんですよ。銀杏BOYZというバンドが『二十九、三十』という曲をカバーしてくださったり。思いの強い仕事は繋がっていくんだなぁと思います。
僕は、オセロをどうひっくり返していくかということをけっこう意識していました。新入りが入り込む余地なんて、やっぱりないと思うんですよ。一面黒だったり、一面白だったりすると、どうやってそこに入っていったらいいかはわからないんですけど、仲間、つまり同じ白の人と出会って、少しずつひっくり返していくしかないなと思うんです。
そうして出会いを大切にしながら、自分にしかできない方法で、仕事をおもしろくしていきつつ、出会いのわらしべ長者のように、どんどん人と仕事をつくっていくスタイルにしています。
会社の仕事と自分の仕事……自分の仕事は趣味の領域ですけど、全然違うものが混ざり合って、僕はこんな気持ちでこの仕事をやっていますよということを、コツコツ地道に発信していきます。
さっき言ったように、(スライドを指して)さっきの図の右下の「自分の仕事」のところで発信をすると、「なんか、あいつおもしろいことやってるじゃん」ということで、FacebookやTwitterを見てくれる会社の人がいて、あいつに相談してみようということで、右下から右上の自分の仕事になるんだなと思いました。
僕がいつも大事だと思っているのは「行動、企画、発信」の3つです。この3つがただ並んでいるわけではなくて、企画が真ん中にあって、それが行動にもなるし、発信にもなると思っています。企画というエンジンを積み込んで、行動と発信の両輪で突っ走るかたちです。
企画というと難しく聞こえるかもしれないけど、「もっとこうしましょう」とか、「もっとこうできますよね」という提案みたいなことと一緒で、それと一緒にエンジンを積みながら、行動と発信で突っ走るんです。
あと、僕は、意識してSNSをきちんとやるようにしています。Twitterしかり、Facebookしかり、Instagramやnoteしかり。自分を増やす手段ですね。今、こうして話している間にも、Twitterのアカウントを見てくれている人がいるということは、自分を増やす手段だと思って、ちゃんと発信しています。
最後に、クロージングになります。仕事をしていて、みなさんも衝動を感じる時があると思うんですよ。本当はこうしたいとか、本当はこれをやりたいとか、これはおかしくないかと思うことがあるはずです。そう思ったときに、衝動は乱反射のようなイメージだと思います。衝動がいろんなところに乱反射している状態で、そのままにしちゃうと、時に自分や他人を傷つけちゃうんです。
イライラしたり、フラストレーションを抱えたりして、誰かに当たっちゃったりすることもあると思うんです。それを持て余す前に、その感情が何なのかなと、信じて、見つめて、言葉にすることが大事かなと思っています。
自分の中に持っている衝動みたいなものが、一体どういうものなのか、しつこくしつこく言葉にしてあげて、乱反射を1本の太い矢印にして、それを企画にして届けにいくといいんじゃないかと思います。
僕の中で、企画とは、こうなったらいいな、ああなったらいいなという、幸せなイメージに向かう意志だと思っています。そういうものを、とにかく言語化することが大事だと思っていて、ビジュアルにする方が得意だったら、それはビジュアルにすれはいい。僕は言語化するタイプの人間なんで、「こうすればいいんじゃないか」「こういうふうに思う」という感想に提案を混ぜ込んで企画にしていきます。
最初に仕事の概念が生まれたのはいつなのかはちょっとわからないですけど、原始時代を想像すると、最初に仕事をした人も、自分ができることや、やりたいこと、思いというものがあって、それを目の前の人に言って、プレゼントして、喜んでもらって、その対価をもらうというところから始めたんだと思います。まずは自分が本当に好きで、イキイキできることを探すところから始まるんじゃないかなと思っています。
仕事をする上で大切にしているのは情熱と愛情なんですけど、相手に贈ることを意識するのが大事かなと思います。手と足を使って、仕事をつくっていこう。そして、それを発信までしよう、さらに考え続けよう、と。さて、諸石さん、どうでした?
諸石:急にふられた~。「この後の懇親会の食料を温めましょうか?」という連絡がきていたので、意識が飛んでいました(笑)。失礼しました。
僕は、広告も好きなんですけど、コピーが好きなんですよ。これを言語化するのすごく難しいんですけど……こう、心に「ぶっ刺さる」じゃないですか。あの感覚、僕もバンドをやっていたので、一緒なんですよね。バンドやって、音楽やって、勇気づけられましたとか、すごくグッと来る。
デジタルマーケティング領域でのコピーは少し軽んじられているケースが多い気がしていて。そういう目線で阿部さんに話してもらうのもいいんじゃないかなと思っていたんですけど、僕はちょうど30才で……ここの会場にいる方達のちょうど間ぐらいの年齢なんですけど、うっかりするとこの熱量という言葉を忘れちゃうんですよ。
そういう部分を、みなさんに「もう1回、やるか」と思ってもらえたらいいのかなと思います。もうね、適当でもできるんですよ。僕はずっと営業をやってきたので、そんなに準備しなくても、「この提案どうですか? やりましょうよ」みたいな感じでできちゃうんですけど、そうなってくると、全然自分が進歩していないことがわかる。
この3か月間、俺は何も成長できていないぞ、みたいな。そんな、うだうだしている時もあったんですけど、このイベント自体も、見返りを求めずにチャンスとして動いていくという……ただ、どういうチャンスかというと、こうして若い人たちとお会いするじゃないですか?
いろんなクライアント、広告主がいて、名刺交換して、「今後営業させてください」みたいなものではなくて、さっき阿部さんがおっしゃっていたように、5年後、10年後に、同じ業界で知り合いの人と一緒に仕事しようよ、おもしろいことやろうよといったことだったり、お互いに相談している関係だったり、そういう素敵な人と出会える環境を自分で開いてみたいというか……。
ひたすら街コン開いてるみたいな感じなんですけどね。イベントをやるのもけっこう大変なんですよ。もう二度とやりたくないって毎度思うんですけど、これが終わった後に、やっぱりよかったなと思いますよね。
僕の仕事で、そういうふうに思ってもらえるような……このイベントで、もっと熱量が上がったりしたら、また別のことがやれたりするのかなと思います。また、そういうかたちで動いていけたらいいかなと思いますね。
阿部:僕は、人生は出会い頭だと思っています。ここで出会うことで、また仕事がつくられていったり、満たされていったりすると思うので、出会いも大事だし、愛のある感想を送ることから始めてみるというのもいいですね。
ここに登壇されている方の話を受けて、自分はどう感じるかという感想がない人はいなくて、必ず何かを感じているはず。その人の中に眠っている言葉は、他者にとっては宝物みたいなものだったりするんですよね。
「自分が感じていることなんて、価値がない」なんて思わずに、自分が感じたことを、まずは言語化して、届けてほしいなと思います。僕は今日、ネットワーキングパーティーはどうしても出席できません。でも、Twitterをやっているので、誰でも、言ってくれれば返していきます。あと、noteに『待っていても、はじまらない。』という書籍の全文公開をしているので、興味を持ってくれた方がいたら、読んでみてください。
諸石:買いますって(笑)。
阿部:もちろん、買ってもらえたらうれしいです(笑)。あと、最後に告知だけ良いですか? 今、下北沢で「みみばしる」という舞台をやっています。もしよかったら、調べてもらえたらうれしいです。菅田将暉さんやあいみょんさんも観に来てくださって、本当にエモーショナルな舞台です。
諸石:阿部さんが関わっているアーティストは、クリープハイプとか……なんていうんですかね……刺さるアーティストなんです。普段、みんなが思っているけど、言語化できていないものを、押し付けがましくない、すっと入って来る言葉や音楽にして流す。そういうのがすごい。阿部さんも同じだと思うんですよ。
そこと仕事ができる……もともと自分が会うはずだった仕事とミックスしてやると、作品として繋げられるから、最高に楽しいし、自分自身が生かされる状況、認められる状況になっていくと思います。
阿部:ありがとうございます。今日、ちょうど、フォークデュオのさくらしめじという2人組の『先に言うね』という楽曲の作詞をしました。配信もされてYouTubeにMusicVideoもアップされているのでぜひ聞いてみてください。
最後まで駆け足になっちゃったんですけど、今日は本当に最後まで聞いていただいて、ありがとうございました。
諸石:ありがとうございました。
(会場拍手)
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