己の「レゾンデートル」を認識する

杉原倫子(以下、杉原):いったん次のトークテーマにいってみようということで、「セルフプロデュース」とは、どういうことでしょうか。

これは、私は2つあるかなと思っています。選手自身のセルフプロデュースという観点もあるでしょうし、お二方ご自身のプロデュース、自分自身のプロデュースもあるかもしれません。後者は先ほどの話にもしかしたら近いかもしれませんね。自分自身をちゃんと認識すること。

それと、これは私がお聞きしたかったことですが、何を指導している、あるいは何を指導していないのか、意識していることがあればぜひ教えてください。自由にどうぞという感じです。

外池大亮氏(以下、外池):そうですね。まず選手の強みは、わりとよく言われることで、まず「君たちはなんでここに来ているの?」とか……例えば、なぜ早稲田大学ア式蹴球部、サッカー部に来ているのか。(早稲田大学では)サッカー部のことを「ア式蹴球部」といいます。

「なぜ君はサッカー部に来たの?」「なぜここじゃなかったらいけなかったの?」といったことを、いったん共有する。面談も含めて、それはフランス語で「レゾンデートル」といいます。

杉原:かっこいい(笑)。

外池:それは昨シーズンのキラーワードでした。言葉でみんなが共有していくというか……「存在意義」と言うのは重たいので、わざと「レゾンデートルって何? レゾンデートルってどういう意味か知っている?」みたいなところから入りました。キャッチーな部分から「俺のレゾンデートルって何かな?」とか(笑)。

杉原:なんかかっこいいですね。いいです。かっこいいです(笑)。

外池:部員は今、だいたい90人ぐらいいて、当然試合に関わるのは、試合の能力で考えたら、だいたい20人から30人ぐらい。イコールそれ以下の60人は、ほぼほぼ優劣があるなかで「じゃあそれでもここにいる理由は何?」というか。ここで何をやりたいのか、何を成し遂げたいのか。大学というポジションでいくと、やっぱりすぐそこの先に社会があります。

いかにその社会のなかで、まさに先ほど星野さんが言ったように「社会のなかで使える力とか経験を、ここでどうやって得ようとしているの?」みたいなところを、いったん制御するところ、そしてそれを共有するところからスタートしたほうがいいかなというのが、プロデュースのまずはスタートだったのかなあと思います。

杉原:「レゾンデートル」を、一人ひとりみんなちゃんと掲げたのですか?

外池:いや、あえてそれは掲げないんですよ。

杉原:あえて言葉にはせずに。

外池:やっぱり「(レゾンデートルは)何なの」というところをしっかり。

杉原:問いをちゃんと与えて。

外池:そうそう。問いなんです。

杉原:問いなんですね。なるほど、なるほど。ちょっとかっこいいですしね。少し考えるきっかけになりますね。

外池:そうなんですよ。「何だろう、何だろう」というのが、だんだんみんなのなかで言葉として出てくる。みんな、それぞれ違うことが前提だと思うんですよね。「俺はこうだからお前もそうでしょ?」というのは、そもそも「レゾンデートル」じゃないんですよ。

杉原:「レゾンデートル」、覚えました(笑)。

外池:みたいなことを言うんですよ。「お前はそうかもしれないけど、俺のレゾンデートルは違うんだよ」と。

杉原:「俺の」……(笑)、それだけで盛り上がっちゃうじゃないですか(笑)。

外池:それだけで、けっこう部員が盛り上がっているのを見ると……今の学生たちは本当に少子化になってきて、それぞれにすごく育てられているというか、優秀に育ってきているんです。だからこそ、それぞれに生きたい思いと、でもなにかを共有したい。なにか安全・安心を確保したい。そこは、僕は非常に環境づくりとしては重要かなと思っています。

自分を俯瞰して見ることの重要性

杉原:おもしろい。先生も「レゾンデートル」的なものはありますか? 

星野明宏氏(以下、星野):そうですね。レゾンなんとかは、ちょっと僕はよくわからないです。

杉原:「レゾンデートル」ですよ(笑)。

星野:ここまで来て、やっと覚えました。

杉原:そうなんですよ。言葉がなかなか頭に入らないんです(笑)。

星野:選手のセルフプロデュースで言うと、私なんかは選手時代、足が遅いし、パスができないし、ぜんぜんダメだったんですね。ところが、大学は先輩で足が速かったり、パスが上手かったりする人がする練習は、いわゆる楽な状況での普通の練習でした。

そのときのチームはフォワードが弱いチームだったんです。でも、練習でやるパスの状況は試合よりも楽な状態のパス練ばかりだったんですね。自主練でも同じで、試合では起きないような状況設定でやるんですよ。

杉原:さっきの坂ダッシュと一緒ですね。

星野:いっしょです。本来だったら、体重が重くて足が遅いと思っていたら、それは起き上がりが遅い可能性がありますよね。倒れたあとのシチュエーションを作って、起き上がってダッシュするのを、うちの生徒は普通の道路でやるんですよ。もう超迷惑です。大柄な選手が転がって起き上がって、ハアハア言いながら走っているわけですよ。

何が言いたいかというと、私は自主練から汚いボールをさばくことばかりを練習したんです。だって、自主練で楽な状況で20回パスしても、当時の立命館はフォワードが弱かったので、1試合の中では落ち着いた状況でさばけることが1回もないんですね。私は常に勝手に厳しい状況を作って、苦しい体勢からのパスばかりやっていました。

そればかりやっていたら、ライバル選手は「練習ではパスが私より速いけど、試合では星野のほうが良くさばいているな」となったわけです。要は結果に直結していたとなるんです。それは自分を俯瞰して見ているんですよ。

立ち位置は「SMAP理論」から学ぶ

星野:これはラグビー協会とかでもお話する時があって、「SMAP理論」と勝手に言っています。

杉原:「SMAP理論」?

この記事は無料会員登録で続きをお読み頂けます

既に会員登録がお済みの方はログインして下さい。

登録することで、本サービスにおける利用規約プライバシーポリシーに同意するものとします。

SNSで会員登録

メールアドレスで会員登録

パスワードは6文字以上の文字列である必要があります。