無理難題が降ってきたときにどうするか

廣澤祐氏(以下、廣澤):(倉田氏と櫻田氏に対して)例えばお二人だったら、「今回120パーセント成長しないといけない」というような、なかなかの無理難題が降ってきたら、どうされます? 

先ほど、「目的が……」というかたちで突き返すという話がありましたけど、そもそも「売上を上げたいんだ」ということに対して、目的を突き返すことはほぼなく、目的の内容が「今までのCAGR(年平均成長率)は103パーセントだけど、今回目指すのは120パーセントだから」と言われたら、どうします?

倉田達也氏(以下、倉田):「いい案件が来たなあ」と思います。結果的にはやるんですけれども、まず自分を奮い立たせて、冷静になる。

廣澤:「そこは120パーセントではないんじゃないですか?」とは言わないということですか?

倉田:目的がもうピン留めされていたら、それに対してどうやって伝えていきたいかとか、一番良い動きができるかという感じになっちゃうと思うんですよね。

兒嶋仁視氏(以下、兒嶋):「なんで売上を上げたいのか」というところまで落とし込んでいる担当者っているんですか?

廣澤:僕はけっこう大事だと思っているんですが、櫻田さんの話を聞いてからにします。

櫻田拓也氏(以下、櫻田):「現実的にこのご予算であれば、このぐらいまでいけます」というのを提示した上で、あとは「がんばります」という感じですね。

廣澤:努力目標として、降ってきた数値と積み上げた数値をぶつけるのが3人の基本的なアプローチというところですね。

櫻田:そうですね。そこをすり合わせていかないと、「120パーセント、いけます!」と言った後に「いけませんでした!」となるよりも、「たぶん、今回いけるのはこのくらい。110パーセントだと思います!」と言っておいて、120パーセントにいった方がうれしいじゃないですか。

廣澤:もちろんそうですね。

櫻田:そういうことです。あとは目的というよりも、120パーセント、110パーセントという話はKPIの方に入ってくると思うので、そこは解釈を変えてみるという話かなと思いますね。

人を動かすのは論理とパッション

廣澤:さっき櫻田さんがWhyと言っていたのは、どちらかというと「その事業、あるいは施策をなぜやるか」という意味や意義のところだと思っています。まず「それをやるべきか」ということです。「やるべきか」となってくると、「事業、あるいは施策そのものが、お客さんに対してどんな貢献ができるか」ということに言い換えられると思うんですよね。

その時に、貢献度が世の中の105パーセント、つまり今いる人たちに対して5パーセントのプラスで作られるのか、(貢献度110パーセントとして)今いる人たちに対してプラス10パーセントで作られるのかは、ゴール目標を作るのにすごく重要だと思うんです。

日本は人口が減少していて、物もこれだけありふれていて安く、コンビニでもドラッグストアでも、なんでも買えるような時代です。その中で例えば「新しいシャンプーを作りましょう」「歯磨き粉を作りましょう」と言った時に、なぜそれが市場に必要なのか。

もちろん選好性の中で、相対性で選んでもらうのはあるんだけれども、その前に、そもそもそこの市場を作っていくとか拡大していくという時に、どれだけのカバレッジがあるかを考えないと、事業の説明はけっこう難しいんじゃないかなと思うんですよ。そこは、経営に関わっている倉田さんとしてはどうですか?

倉田:難しいですが、今の話だと「なぜその目的に至ったか」という話ですよね。それで僕が大事だと思うのが、1つが論理。もう1つがパッション。理屈だけであんまり気持ちって高ぶらないですからね。

廣澤:110パーセントだと言われて、それがすごく積み上げられていても?

倉田:そうです。さっきインターンの話をしましたけれど、人は本当に理屈で動かないなというのは、ブリーフィングを受けていても、していてもすごく経験します。なので、論理とパッションとがいいバランスだと、いいんじゃないかなと思います。

廣澤:倉田さんは経営の側に入っているけれども、経営者としてやるべきなのは、あくまでその熱量と、ある程度乖離しすぎていない数値目標を作ってあげるということですか?

倉田:そうですね。まず目標が大事です。大事なんですけれど、絶対「なんで?」と聞いてくるメンバーがいるので、意思決定の時に大事なのが覚悟と度胸ですね。自分がリスクを背負ってその判断をしたということに、ストーリーと熱が伝わっているといいんじゃないかなと思います。

誰もが共感できる「大きな物語」が失われた時代

廣澤:なぜこんなに抽象度が高い話をしているかというと、日本は高度経済成長期の1960年以降は、物を投入したら市場が大きくなるし、人がハッピーになる時代だったわけです。例えばシャンプーが生まれた時は、世の中の人は週に1回しかお風呂に入らなかったわけです。週に1回しかお風呂に入らなかったら、当然頭はかゆいし、フケもいっぱい出ます。

そういう時代を生きてきた人に対して、毎日手軽に洗えるシャンプーを安価で提供するのは、その当時はものすごいイノベーションだったんです。なぜなら毎日洗えるわけですから。ただ、今のように毎日洗うのが普通になったら、そうそう髪がバッサバサになって、切れ毛だらけになっている人は……中にはいますけどね。

(一同笑)

今はそういう人ばかりではないし、みんながみんな、フケが出ているわけではない。そうなってくると、シャンプーを新たにどんどん投入していくことは、すでに高いお客様の「Quality of Life」をさらに上げる提案になります。嗜好性が高まっているというか、本当に悩んでいるものに対して提供しているものではなくなってきていると思うんですよね。

そういった時に、昔のように「大きな物語」があって、「ものを作れば経済が成長する」「経済が成長するのはいいことだから、とにかくそこにひたむきにがんばればいい」という時代を生きていた人たちと我々とでは、取り巻く環境が違うと思っています。僕たちが生きている時代は「今、何をやっているのか」「何のためにこれをやっているのか」というアジェンダを設定するのが、すごく難しいと思っているんですよ。

そこがないと、若い人がよく言うように、「なぜ働くべきなのかわからない」「働きたい理由がない」「やりたい仕事がない」という現象に陥っていくかなと思っています。なんだかすごく宗教くさいなと思われるかもしれませんが、僕は花王という会社のミッションにすごく共感していて、けっこう大事にしている派なんですね。

兒嶋さんはたぶん「ミッションがすべてという感じではない」という意味ですが、「そうじゃない」と思っていますね?

働くモチベーションは自分の成長のため

兒嶋:そうですね。ハミガキもそうなのですが、僕の扱っているのは「悩み」が前提としてある商材なんですよね。そこがあるので、シャンプーみたいにほぼ香りだけしか差別化要素がなく、どの商品も同じように「ガッツリ洗える」みたいな感じではないので、そこのスタンスが少し違うかもしれませんね。

廣澤:兒嶋さんは通販やダイレクトをされていて、健康系の商材も扱っているんですけれど、健康系商材は日本でこれから伸びていく事業だし、誰かを健康にしていくのはすごく意義深いことだと思います。だけど、きっと兒嶋さんの中の「働くモチベーション」は、そこにすごく近いけれども、そこが一番じゃないんですよね。

兒嶋:前提としてはあるのですが、僕個人として「会社のために」みたいなものがあるかというと、それは一番ではないですね。どちらかというとゲーム感覚というか、そういうスタンスで仕事をしていますね。

廣澤:ゲーム感覚ということは、成長はしていきたいわけですよね?

兒嶋:そうですね。

廣澤:「成長していきたい」というモチベーションは、やはり単純に「レベルを上げたい」ということなのですか?

兒嶋:レベルが上がったら違う武器が買えたり、違う魔法が使えたりするじゃないですか。

廣澤:「自分のやれる幅が広がって、よりゲームが面白くなるんじゃないか」ということですね?

兒嶋:そうです。

廣澤:一応、兒嶋君の人格を否定しているわけじゃないです。

(一同笑)

ミッションは必要か?

廣澤:こういう割り切りもありだと思っているのですが、僕はミッションを大事にしてしまうタイプなので、「なぜこれをやるべきなのか」という話をブリーフィングの時にけっこうするんですよね。「それは今、僕がこういうふうに意義があると思っているから、キュレルという商品でこういうことやるんだ!」みたいな話をするんです。

そうじゃないクライアントは絶対にいるはずで、ただ売上目標が105パーセントだから、「じゃあ105パーセントよろしくね」「ちなみにその時に必要な認知数はこれだよ」というような、ロジックはしっかりしているんだけれど、「なんで105パーセントなんですか?」というところが僕は気になってしまうタイプなんです。みんなは、そこをがんばってついていくということですかね?

櫻田:「105パーセント」と言われたら、ついていきます。あとは、ぜんぜんブリーフィングの話とは変わっちゃいますが、さっきのシャンプーの話ではないですけれど、今の世の中、やっぱり物があふれています。だから、「ベースの要求」というよりも「自己実現的な要求」をきちんと満たしてあげるようなコミュニケーションを作ってあげたいなと思っています。

クライアントさんが作った商品がユーザーにきちんと届くことによって、ユーザーに幸せになってほしいなと思います。だから、いいUXを提供できるようなものを考えた方がいいと思います。

廣澤:今、すごくいいまとめ風の話をしてくれたんですけれど、倉田さんは何かありますか?

倉田:このあと、話しづらいですね。

(一同笑)

廣澤:僕はわりと大義とか、ミッションやパッションを大事にしたいタイプなんですけれど、受け手の倉田さんたちとしては、クライアントのそこが曖昧だとしても、ついていくのが「正」なんですかね?

倉田:「正」かどうかと言われると、また難しいのですが……。

廣澤:「正」というとあれですけれど、とりあえずそういうスタイルで仕事をしていく感じなんですか?

「問題を解く力」と「問題を作る力」

倉田:お互い、あるいはどちらかでもいいのですが、誰かが本気になれば、プロジェクトやキャンペーンなどのチームで動くものは、どんどんいい流れが発生すると思います。なので、例えば120パーセント目標とか、けっこうな無理難題が来ても、本気で食いつくのは大事かなと思っています。

廣澤:(兒嶋氏に対して)最後に、何か言いたいことはありますか?

兒嶋:人格否定されて終わるというのはちょっと(笑)。

廣澤:いやいや(笑)。

(一同笑)

兒嶋:だから、「情熱の出どころは違う可能性があるよ」という話ですよ。

廣澤:言っておくと、僕はすごく兒嶋君と仲がいいんですよ(笑)。たぶん、そもそも根源として、違うスタンスを持っているからおもしろくて会話をしているんだと思うんです。

なんで今、こんなに視座の高い話をしたかというと、「目的を作る」という話に関係しますが、今は、「問題を解く力」がある人はめちゃくちゃいるんですよ。

「105パーセントです」と言われた時に「105パーセントに対して、認知率がこうで、リピート率がこうで、トライアル率がこうで……」ということを設計して、そのために必要なソリューションを当て込んでいくことができる人は、すごく多いと思うんです。

なぜなら、今はあらゆるビジネス本があるし、ググればわかることがいっぱいあるし、それこそこういうセミナーも開かれているからです。トレーニングをしてドリルをいっぱいやれば、簡単にできるようになるんですよね。

ただ我々の時代は、それこそさっき話した高度経済成長期みたいに、目の前で問題が明らかになっているわけじゃない。だから、今度は「問題を作る力」が必要になってきていて、「アジェンダの設定能力」が僕はけっこう大事だと思っているんですね。そうなった時に、「なぜその問題を作ったんですか?」を語れないとだめなんです。

「簡潔なブリーフィング」というところでは、それこそさっき言ったような「解く力」が発揮できるような、「理路整然としたブリーフィング」ができればOKだった時代から、次は「なぜそのブリーフィングをやっているのか?」というところが問われてくるんじゃないかなと思っているんです。そこについて、みんなで話してみたかった。それが今日の僕の裏テーマでした。

兒嶋:なるほど。

いい問題を作れる人材が求められている

櫻田:入試を解く方じゃなくて、その問題を作る側ということですよね。

廣澤:それこそ入試の問題も、ひどい問題だったら。今回(2019年1月)のセンター試験で絵が……。

兒嶋:人参の絵ですよね。

廣澤:そうそう。「英語のテストの絵が、すごくふざけている!」みたいなことでバズっていておもしろかったんだけれども、ああいう演出の話ではなくて、「そもそも、なんでそんな問題を出しているんですか?」ということですよね。例えば今、教育システムが批判されているのは、「そもそも、なんでこんな入試制度をやっているんですか?」と問われ始めているからですよね。

それは人が育っていないからであって、現実的に問題を作れる人が減ってきているからだと思っています。そういう力を経営視点や担当者の視点で発揮して、「経営者はこう考えているんじゃないか?」あるいは「自分だったらこう考える!」というところのすり合わせがあると、もしかしたら次の時代のいいブリーフィングが作れるんじゃないかなと思っているところです。

兒嶋:平成の次!

廣澤:平成の次、「ポスト平成」を生きる我々としてね。すみません、なかなかふわっとした話が続いてしまったのですが、「巻け」と言われているのでこのあたりで終わりたいと思います。

兒嶋:また、懇親会とかでやりましょう。

廣澤:そうですね。抽象度が高かったので、「正直、何を言っているのかわからなかった」ということがあれば、TwitterのDMでも受け付けますし、ネットワーキングパーティーでも聞いてくれればと思います。ありがとうございました。

一同:ありがとうございました。

(会場拍手)