オンラインコミュニケーションで薬歴情報をいかに担保するか

沼田佳之氏(以下、沼田):中尾さんはいかがでしょうか。

中尾豊氏(以下、中尾):テクノロジーがスケールするかどうかの条件ですが、付加価値のあるサービスを確実にオペレーションに差し込むのは難しくて。今ある業務に対してまず効率化をして、そこに対して付加的なものを入れないと、現場が回らないということをすごく痛感しています。スケールする条件としては必ず業務効率化が必須だと思っているので、それが1点目です。

2つ目として、物流に関しては僕らはまったく太刀打ちできる立場ではないのでコメントが難しいのですが、オンラインという話になってくると、すごく条件が重要になってきます。医師はトリアージという能力を持っているので診断しやすいのですが、薬剤師さんは患者さんの顔だけを見ても、何を飲んでいるのかとか、過去にどんな副作用があったのかといった情報がわからないと。安全を担保できる服薬指導を提供することはなかなか難しくなってきます。

やはり、その患者さんが過去にどんな薬を飲んでどんな副作用があったのかということを、服薬指導する側に情報を完全に提供するということをきちんとしていかないと、なかなか安全面を担保するオンラインコミュニケーションとして成り立たないのではないかというのを、今事業をしていて思っているところです。

薬学教育の見直しよりもICT・AIの活用を

沼田:なるほど、ありがとうございます。薬の話が続いておりますが、セルフメディケーションというところで、Medical Compassを運営しております宮田さんはどうでしょうか。

宮田俊男氏(以下、宮田):基本的に医療職種は、ものすごく専門分化が強いですよね。医師の世界でも、なかなかプライマリ・ケア、総合診療医の制度が広がらないなどと、いろいろ言われているわけですよ。

一方、薬局の薬剤師さんもこういった服薬指導……いわゆる医療用のお薬の説明をすることの専門性が高くても、いざOTCやセルフメディケーションについて自信を持ってきちんとできる薬剤師さんがどれくらいいるのかというと、実はそんなにいない。

僕はよく都会で一般の方向けの講演もしています。そこで「かかりつけ医がいますか?」と聞くと、持っている方はかなり少ないんですよね。そこへさらに「かかりつけ薬剤師を持っていますか?」と聞くと、もっと少ないんです。そこがまず今の現状なわけです。

でも、今から薬学教育を見直す、あるいは医師の教育を見直すというのは、なかなか難しいと思います。そこをICTやAIを使いながら、こうしたワンストップな医療、あるいはセルフメディケーションを勧めていく必要があるんじゃないかと思うんですね。

実際、アメリカにおいても、ドラッグストアの中に医師との相談が可能いったように、だんだん融合してきているんですよね。そこでもかなりテクノロジーが使われている。日本も頑張らないといけません。

こうしたテクノロジーの産業もどんどん外国から来て、せっかく日本がいろいろと……私自身ももともと早稲田の機械科にいて、それも1つの原点ですが、せっかくアイデアがあってプログラミングの力もあるのに、それを産業として活かせないんじゃおもしろくないので。国でできることは、どんどんチャレンジをしていくべきだと思います。

介護医療に携わる人へのITリテラシー教育

沼田:ぜひチャレンジしていただきたいと思います。次の話題になりますが、リアルとテクノロジーとなると、やはりそこに壁があったりするわけです。

その壁をどうやって超えていくか、あるいは壊していくか。あるいは壁を作りなおすのかというものもあると思いますが、これについて実際に関わっていらっしゃる馬場さんからおうかがいしたいのですが、現場でテクノロジーのギャップを感じることはありますか?

馬場拓也氏(以下、馬場):ギャップしかないですね。うちの愛川舜寿会ミノワホームという特養です。その中では、若い人から70歳のパートのおばちゃんまで、全員がスマートフォンを手に仕事をしています。

スマートフォンの情報共有ツールのグループウェアは、サイボウズ (Office) と、あとは、自社で2015年からケアコラボという介護記録システムを開発して、今市場に出ています。先ほど中尾さんがおっしゃったような、緩やかに意識を高めていくようなことといいますか。そういったところで言うと、当然壁があってスマホの文字が見えないという話をするんだけど、「スマホだと文字が大きくなるよ」というようなところから始めています。

介護や福祉からすると、地域包括ケアのシステムを何にするのかみたいなところというのも当然あるんです。しかしその前に、ITのリテラシー、介護医療に関わる人にはリテラシー教育のようなものから始めていって、10年後に備えてやっていこうというのがうちの考えとして今やっているところではあります。結論は、まだまだ壁はすごく高いですね。

ただ、「うちなんかは」といっちゃうとそこで終わっちゃうので、先行投資というかたちで3年くらい前から、すべてをスマートフォンで状況管理しています。バイタルなどの管理もすべて、そういったものを含めてやっていますという感じです。

沼田:1つは育成の壁がありますし、もう1つはそのテクノロジーの、作り手側の作り込み側の壁というのもありますね。

馬場:今はクラウドで、アジャイルによる開発ができるので、そこで常にフレッシュな現場の知見を練り込んでいくといいましょうか、そうした立て付けが必要になると思っています。

テクノロジーが入ることで実現できる世界

沼田:川原さんにも同じ質問です。サービス開発側と現場サイドをより近づけていかなければならない。それがうまくいかないと、さっきご紹介いただいたマッチングシステムのようなところにできないというようになってしまいますが、そのあたりはどうでしょうか。

川原大樹氏(以下、川原):そうですね、先ほどのお話もそうですが、違和感しかないというのは、現場の意見もそうなんです。僕たちはBPOサービスといって、カスタマーサポートは全員有資格者で固めています。テックだけではなく、あえてプラス人で実際に現場に赴いてオペレーションをまわしています。プラス人というところは、なじむまで必要なのかと。

たぶん、中尾さんもそうですが、オペレーションはなるべく変えるというところが1点目。もう1点が、僕たちにはプロダクトがあり、「患者様はベストセレクトできますよ」というところとは逆説になりますが、「この条件だと介護施設ないですよ」という提示が明確にできちゃう。

そういうところは、現場が本当にほしい情報だったりするんですよね。テックが入ることで、おおよそ実現できる世界だと思っています。

沼田:ありがとうございます。地域包括の問題というのは永遠の問題になってくると思います。地域包括システムというものが確立されているわけではありませんから、ここから本当に動かすには、今はどちらかというと人の問題が大きかった。他職種連携などですね。

それが、まさにテクノロジーの活用次第になってくるのではないかと。いよいよ、テクノロジーをどう融合させていくか、ここが成功へのポイントになると思います。

2038年の多死社会を見据えて

沼田:みなさまもぜひ、地域包括ケアを成功させるためのテクノロジーについて、コメントをうかがいたいと思います。馬場さんから順番にいきましょうか。

馬場:地域包括を成功させるためのテクノロジーですね。地域包括というのは、他職種連携といわれていますが、地域包括ケアから共生社会の実現など、その先を見据えると2038年の多死社会があります。

そういった人口減少社会の中での医療従事者たちが、いかに商店街のおばちゃんの健康意識ではありませんが、共生意識といいましょうか、包括意識のようなものを、ひとつひとつ紐解いて導いていくということが必要なのではないかと。

地域の中でLINEやメッセンジャーのような非同期型の通信が我々を繋げているのと同じように、本当に簡単なテクノロジーでインタラクティブなコミュニケーションがとれるようなものを、いかに福祉・医療者以外が一歩超えてこれるかというところが非常に鍵になってきています。

撮影すると簡単につながれる、そういったものを開発されている方もいらっしゃいます。先ほどお2人の方がご紹介したようなシステムが、よりみんなが手に取れるところにあるというような環境を作るといいますか。そういうことが重要なんじゃないかと考えています。

地域包括ケアの完成は、高齢者が健康で居続けてくれること

沼田:ありがとうございます。では、杉浦さん、お願いします。

杉浦伸哉氏(以下、杉浦):他職種連携というところでいいますと、単純作業を全部テクノロジーに担ってもらうというところかと、今の時間の中で聞いていて考えました。例えば、薬歴というカケハシの中尾社長が入れられたものでも、書くという行為を省くことができるというシステムがあれば、しゃべったことを入力してくれるわけですから。

それが機能を担うのであればそれで十分ですと、そう考えると、各職種においての単純作業をどれだけテクノロジーでカバーできるかという視点があれば、どんどんそこの部分が良くなっていく。

もう1つは、まさに今回の「Health 2.0」で出ていると思いますが、いかに高齢者の方が健康であり続けてくれるかというところが、地域包括ケアの完成といいますか、一番いいモデルだと思っております。ずっと快適に過ごしていただくためには、当然フレイル、虚弱にならないことです。

そのためには、その方がどんな状態かがわかるものを……例えばスマホなどでわかるという状態もそうですし、そういったテクノロジーを個人個人が受け入れられる状態がもっと整ってくると、地域包括ケアがいいかたちで着地していくのかと思っています。

無意識のうちに健康意識をいかに高められるか

沼田:ありがとうございます。中尾さん、お願いします。

中尾:僕は明確にIT経営者の立場ですが、ITだけでは絶対成功しないと思っています。おじいちゃんおばあちゃんはアプリをなかなかダウンロードしませんし、生活習慣病の人は痛みを伴わないので、自発的に何かを行動するということがなかなか難しい。きっかけ作りがけっこう難しいので、無意識のうちに健康意識をどう高められるかが、本当に問題解決のキーになると思っています。

医療体系上、医師や薬剤師と会話しているあいだに「自分はもっとこのようにしたらいいんだ」という理解度だったり、やる気になってもらうということの価値をいかに最大化できるかが、本当にキーになってくると思っているので。ITはただのサブ的な位置づけだと思いながらも、医療従事者、もしくは地域の人が患者さんに接するポイントをいかに価値最大化できるかが重要です。地域包括ケアを成功させるためのテクノロジーは、そのポジションだと思っております。

沼田:ありがとうございます。すみません、飛ばしてしまって。川原さん、お願いします。

川原:地域包括ケアをひと言でいうと、僕はまちづくりだと思っています。例えば夕張市のようにある程度terribleな状況じゃないと、たぶん僕は動かないと思うんですよ。どんなにテックがあったとしても。

KURASERUでできることは情報共有ができることで、「あ、これ本当に入るところないんだ。じゃあ、地域で見ないとダメだよね」という定義を明確化できる。ですから、人が動くというのが順番だと思っていて、そこがまずは僕たちにできるポジションなのだと思っています。

ITリテラシーと同時に、ヘルスリテラシーも上げなければならない

沼田:ありがとうございます。最後に宮田さん、締めていただければ。

宮田:はい。おっしゃるように、1つは情報共有ですよね。これだけクラウド技術が進んでいるのに、医療、介護ではまだまだ進んでいない。政府も医療等IDをやっていくというわりには、スピードはぜんぜん遅いということがあります。

例えば患者さんや、あるいはケアマネさんや薬剤師さんなど、この人がどんな検査結果なのか、どんなお薬が出ているのか、そうしたものはすぐ共有できるようなものじゃないといけないと思います。

もう1つ、AIは誰が責任を持つのかといった議論があります。しかしAIを積極的に進めていかなければ業務の効率化ができないと思います。あと、もう1つは規制改革ですね。こうした電子処方箋などもまだまだ進んでいない。厚労省も実証事業をやっていくということになっていますが、適切なルールを定め、電子処方箋が早く可能になる方向に持っていかないと、いつまでたってもITで効率アップが進んでいかないと思います。

あともう1つは、自治体が活かせるまちづくりといいました。市民のヘルスリテラシーを上げていくことです。例えば、今のところ、ポリファーマシーの問題がずっと残っています。糖尿病の患者さんなども、実際は薬をちゃんと飲んでいないんですね。ちゃんと内服していない一方で、ドラッグストアなどで血糖を下げる食品などを一生懸命に摂取したりしているわけです。

そういったところを同時に上げていくことが必要です。その面では、スギさんがドラッグストアで地域のまさに核なんで、そういったところもヘルスリテラシーを上げていかれると思うんですね。ご尽力していただければと思います。

沼田:ありがとうございました。

医療従事者も開発者も、同じ土台に乗って実現する地域包括ケア

沼田:もういよいよ時間になってしまいました。クロージングになります。地域包括ケアを動かすのは、これからはテクノロジーの時代に変わってきています。

テクノロジーの力を使って、どうやって作っていくかということになるわけです。つまり、医療関係者や介護の関係者と同じ土俵に乗って、技術者の方たちと一緒に、ひょっとしたらオープンイノベーション型でプラットフォームに乗っけて、そこでシステムまわしていかなければならない。

そういうところには、たぶんいろんな業種の人が入ってくると思うんですよね。いろんな人たちが入ってくるかたちでソリューション開発していくような流れ。それで地域を回していくという流れになってくればいいんじゃないか。

またこの「Health 2.0」でこのモデルを取り上げるときは、もっとエコシステムまわせるようになっているかもしれません。次につなげていくようなかたちでセッションを終わりたいと思います。

本日のパネリストのみなさん、本当にありがとうございました。また、会場のみなさま、ありがとうございました。これで、セッションをクローズさせていただきます。本当にどうもありがとうございました。

(会場拍手)