日本で労災申請が最も多いのは腰痛

岡崎慎一郎氏(以下、岡崎):昔は健康といってもメタボ対策だけだったと思うんですけど、最近はどんどんバリエーションが増えてきたんだなと。

腰痛だとかもそうだと思いますし。あとメタボ対策だといっても、1人でやるんじゃなくて、ピアプレッシャーみたいなのを使ってやっていくみたいな。どんどんサービスバリエーションが増えてきてる印象を受けますね。

大室正志氏(以下、大室):今回のお三方は3者3様で、いろいろなポイントを知っているなと思ったんですけれども。実は日本で一番、労災の申請件数が多いのって腰痛なんです。アジア人ってもともと筋肉が少ないので、腰痛になりやすい。欧米の方って筋肉がつきやすくなっているので、天然のコルセットみたいなものがあるんです。

例えば、普通のデスクワーカーや長距離運転手、とくに運転系や工場系だと、腰痛になったときに労災申請する方がけっこう多いんですよね。でも、これがほとんどはねられます。

要するに一般の私傷病と、業務起因性の区別がつきにくいのが腰痛なんです。だからみなさん、腰痛というのは、いくら会社で腰痛になったなと思っても、なかなか申請が受け入れられないので、自分で守るしかない分野だと思っていただければと。

ちょっと福谷さんにお聞きしたいんですけれども、腰痛って運転や工場系のイメージがあるんですけれども、実際問題どっちをイメージしているんですか? デスクワークの人も腰痛は多いんですよね?

福谷直人氏(以下、福谷):1番多いのは、やっぱりデスクワークですね。

というのは、私もともと京都大学で博士を取って、健康経営の研究をずっとやっていて、いろんなフィールドで研究したんですね。工場労働者、デスクワーカー、あとは介護士、看護師とか。その中で痛みがいろいろあっても、生産性がガクっと下がる人と下がらない人がいるんですね。

その中の大きな特徴が、デスクワーカーが圧倒的にポンってプレゼンティズムが出るというデータが得られました。

前屈みの姿勢は、脊柱にスイカ1個分の圧力をかける

大室:なるほど。一般的には体を動かす業種のほうが、腰痛だと生産性が下がりそうなんだけれども、データで見たら、実はデスクワークをしている人の生産性が下がるということがわかったと。

確かに今現在、いわゆるラップトップパソコンを使ってる方が8割ぐらいだと思うんですけど。だいたいこう前屈みになりますね。そうすると30度だったら、スイカを1個ぶら下げるぐらいの圧が脊柱にかかっているといいます。ただ、だからと言って腰痛に企業がお金を出してくれるんですか? 

福谷:我々がなぜ出してくれるかというと、生産性をその症状によって、どれぐらいお金としてコスト損失しているか、というプレゼンティズムをコスト換算します。研究をやっていれば、どう換算すればよいかというのは、必ずエビデンスはわかっているので。

これぐらいの費用が実は目に見えない損失ですよ、というところを出して。例えば、こういうアプローチをして、こうなったらこれぐらいのROI望めますよ、ということをやっているので、それでお金を企業に出してもらうっていう。

大室:いわゆるちょっと目に見えない分野を、ちゃんと可視化させて、ちゃんとご説明してるということですね。

福谷:そうですね。

大室:ありがとうございました。

不健康に脅しをかけても、人は変わらない

大室:次は長坂さんのお話にいきたいんですけれども。かわいいカラフルなアプリを、こんな真面目そうな方が作ったんだと思ってですね(笑)。ちょっと感心してたんですけれども、最近のトレンドの1つですよね。自分たちで励ましあいながらということと、ちょっとゲームっぽい要素もあって。

僕、医者をやっているのでわかるんですけれども、例えば、血糖値が高い方を呼び出しても、まず1回目は来ないんですね。いやなことを言われるのがわかってるから。2回目にしかたなく来るんですよ。

そういうときにこっちも、「これ以上いくと、本当にもう就業制限をかけざるをえないよ」とか、脅かしの方向にどうしても行ってしまう。脅かしと、あとプラスアルファ医学的に正しい事実を積み上げていく。実はこれで人はあんまり変わらないってことも、なんとなくわかってきたんですけれども。

みなさん、励ましあってというところで。今まで変わらない人が変わったというような例は結構あるんですか?

長坂剛氏(以下、長坂):そうですね。アプリストアのユーザーレビューで、「みんチャレ」で検索していただければと思うんですけれども。「人生が変わりました」みたいなレビューを大量に寄せていただいています。今までできなかったことが、みんチャレを使うことによってできるようになる、という体験をけっこうされています。

大室:ポケモンGOのダウンロード数が世界中で増えたときに、引きこもりなどで困ってる家庭で、どうやっても外に出るのが無理だった人が、急に外に出て歩いたっていう話もあるくらいで。やっぱりこうゲームというか、そういった雰囲気でやる力って非常にあるのかな、というのが印象深かったです。ありがとうございます。

産業医が求められるのは、圧倒的にメンタル領域が多い

大室:次に石川先生。産業医という分野は、例えば、病院でカルテの保管はこうねとか、いろいろ書類とか決まってますけども。遠隔診療なんかの分野だと、医師法とかでそういったことも規制がありますよね。

これを産業医の分野で、準医療というか、どこにどう位置づけるかという解釈が難しいんです。その一方で会社としては今後どんどん働き方改革法案が通って、産業医がフィーチャーされてくるんだと思うんですけれも。

実際に、いろんな会社の人事担当者とお話をしていて、社員の健康に関して、人事の方がどのあたりに課題を感じてるかって、肌感覚として何かございますか?

石川陽平氏(以下、石川):大室先生に言うのは、ちょっとはばかられるくらいなんですけれども。大室先生もおっしゃっていた通り、産業医という制度自体は、工場をイメージしてもともと作られています。最近は工場ももちろんありますけども、都会ですともうほぼオフィスになってきていて。そうなると、もうメンタル問題が圧倒的に需要としてはあるかなと思います。

やっぱり100名とか200名を超える会社さんですと、ほぼ確率論的に間違いなく、メンタルの不調の方がいらっしゃって。そういったことをどうサポートいくかで、どの会社さんも悩まれているかなと思います。

「体調が悪いからリモートワークにします」の違和感

大室:ありがとうございます。それでいうと、ちょっと経産省の方にお聞きしたいんですけれども、昨今、いわゆる働き方改革という流れの中で、大きなところではリモートワークってありますよね。

リモートワークにすると、最近いろいろな会社で聞くんですけど、なんか「今日は体調が悪いのでリモートワークにさせてください」って。これはありなのかって、いつも思うんですけれども(笑)。

良くも悪くも、さっきのプレゼンティズムという話で。アブセンティズムというのは、いわゆる欠勤ですね。プレゼンティズムというのは、出勤はしているんだけど、生産性が下がっている状態。来ているけどうまく働けていない状態のことを、プレゼンティズムといいます。

今までは体調が悪いと「来れない」っていうところで可視化されたんですよ。最近だとリモートワークでは、仕事ができているかを判断するのが難しいんですよね。また特にメンタル不調って、100%脳のCPUが下がった状態なんですね。

ここって今までだったら朝に、良くも悪くも満員電車に乗れないってことで、可視化されてしまったことが、ちょっと見えにくくなっているな、というのが肌感覚としてあるんですけど。このあたりって経産省的に何か考えていらっしゃたりするんですか?

岡崎:そうですね。やっぱり国としては、働き方改革は進めていきたい。同時に働き方改革というのは、労務改革が大きいんですけど、健康のこともやるっていう。

なんというか表と裏だと思うんですよ。やっぱりリモートワークみたいなものを進めていくと、これまではいろんな事情で仕事に来られなかった人が、リモートワークにすると働けるような。

大室:それは子育てとか、そういう話ですよね。

岡崎:だからいいと思うんですよね。確かに可視化されにくくなっている。そこは別問題として対処していくのかな、と直感的に思っていますね。