EU進出の入り口として選ぶエストニアの価値
2018年を席巻したエストニア・スタートアップブームの行方

トークセッション - エストニアの強さに迫る - #2/2

2019年1月29日、WASEDA NEOにて「エストニア・スタートアップ最新動向レポート@東京・日本橋 by ビジネスメディアAMP(アンプ)」が開催されました。Skype発祥の地でもある世界最先端の電子国家エストニアは、電子政府とスタートアップ企業が密に連携することにより急成長を遂げています。創設当初よりエストニアのスタートアップ事情をレポートしていたビジネスメディア・AMPの共同編集長・木村和貴氏は、そのエストニアを丸3日間を訪問し、最新の情報をキャッチアップ。同国タリン大学へ留学経験のある齋藤侑里子氏と、エストニア出身でタリンの公式ツアーガイドを務めるハッラステ・ポール氏を招き、報告を兼ねたトークセッションを行ないました。本記事では、三者によるトークセッション「エストニアの強さに迫る」後半の模様をお送りします。

EUをマーケットに選んだ際の、入り口としてのエストニア

木村和貴氏(以下、木村):ありがとうございます。次のキーワードは「エストニアで起業するメリットは?」ということで、ポールさんからお願いします。

ハッラステ・ポール氏(以下、ポール):そうですね。EU進出を目指すのであれば、エストニアはベストといっていいほど良いと思います。とくに、旅行をすることが多かったりすれば、IDカードで銀行取引など、いろんなことが簡潔にできますから、かなり便利ではあります。

木村:齋藤さんはどうでしょう。

齋藤侑里子氏(以下、齋藤):あまりエストニアに行かないのであれば、正直「ない」という人が多いような気がしますが……。起業家のみなさんはどうなんですか? という感じです。

木村:個人的には、おっしゃるとおりで、EUを狙っていくということではありだと思っています。EUで起業しよう、会社登記しようと思うと、かなりハードルが高いですから。そこと比較して低いということもありますが、さらに電子化されているというところが魅力的なのです。

自分の管理画面から登記している状況が見れたり、お金のやりとりも電子化されて税の申告がすごく楽であるといったように、今以上のメリットも存在していると思っているので、あくまでもマーケット、EUを対象にしてスケールさせていくという目的であれば、その入り口としてのエストニアはありだと思います。

逆にいえば、それがないとエストニア自体のマーケットは本当に規模は川崎市や京都市という感じですので、やはり日本で勝負した方がデカいマーケットになるということですよね。

エストニアのエンジニア人口は5,000人

木村:あと気になったのは、これも個人的な興味なのですが、エストニアの優秀なエンジニアの方を向こうで起業する際の仲間にできるか、ということもあるかと。そういうところではどうですか? 仲間集めという部分で。

ポール:ぜんぜんできると思います。エストニア人のエンジニアですよね。

木村:そうです、そうです。

ポール:できると思いますね。ミートアップやFacebookなどを使えば、簡単に現地のエンジニアのコミュニティーに繋げられると思います。

齋藤:エストニアの有名なスタートアップで働いているエンジニアの半分、もしくは3割は、それこそ他国から来ているエンジニアだと聞いたりもしましたが。実際のところはどうなんでしょうね。母体が少ない感じなんですかね。

ポール:それはかなりあります。やっぱり、エストニアから北欧やアメリカなどに行っちゃう人もいますね。ただ、エンジニアの数自体はどんどん増えてきているんですよね。ここ数年は毎年30パーセント以上増えてます。今、総数で5,000人。それを少ないと見るか多いと見るか。川崎市に5,000人ですからね。

齋藤:エンジニアが住んでいると思えば。

2018年を席巻したエストニア熱はどこまで続くのか?

木村:続いてのテーマですが「エストニア熱、どこまで続く?」ということで、今日はみなさんもエストニアにすごく興味があって、なにかしら覚えたいということで本日も来ていただいているかと思います。我々もエストニアに注目して記事を出しており、とくに2018年はエストニアの情報が日本でもたくさん流れたように思いました。この熱がどこまで続くのか? また、エストニアは今後どうなるのか? というところについて話したいと思います。

この質問をする前にエストニアと近隣諸国の関係というところについて、東ヨーロッパの国々はわりと賃金が低いので、そこの人材がいい条件を求めてエストニアへと上がっていくということが一つあると思います。今エストニアで働いている人はどうかというと、それでもまだフィンランドに比べると賃金が低いので、より待遇のいいフィンランドへと上に流れていくと。

ロシアは脅威を与えてくる存在として隣り合わせている。今度は企業、会社という単位でみると、エストニアで作られた会社が次にスケールさせるため、結局ヘッドポーターをイギリスやドイツ、フランスに移していく。タリンやエストニア内に開発拠点を残すというパターンもあります。

ヘッドクオーターはずっとエストニアに置くのだという信念を持ってやっている企業もあるとは思いますが、なんとなく視察中に、いろんな会社の人による人材流出の話を聞いていくと、こうした構図があるんじゃないかというのがAMP編集部で出した構図です。

人材がフィンランドに流れていく現状は避けられない

木村:これについて、ポールさんの所感というか、実際にどうなのかについてお聞きしたいです。

ポール:まさにそのとおりです。e-Residencyにはたしかにこうした仕組みはあって、エストニアの立場をもっとよくするために作られたというところもあります。ラトビア、リトアニア人の友だちなどは、エストニアのメディアで「どうして我が国はエストニアに追いつけないのか」と下から見ているというところはありますが。

エストニアは逆に、フィンランドのほうに行ってしまっている人がまあまあ多くて。今、数万人のエストニア人がフィンランドに住んでいます。なので、それはかなり合っていると思います。

木村:企業のヘッドクオーターをイギリスやドイツ、フランスに移していくということに関して、エストニアの自分たちの国で最後までやっていくんだという気持ちなんでしょうか。そうした愛情が別にあるわけではないような。エストニアは好きだけど、そんなに強い愛国心ではなく、ぜんぜんヘッドクオーターを移すことに抵抗はないよとか。そうした国民性というか、感覚はどういった感じなんですか?

ポール:少なくとも、IT関係の人はほとんどそんなに愛国精神はないので、たぶんそのあたりは問題になっていないかと思います。たしかにTransferWiseは今一番注目されているエストニアのユニコーンですが、数年前にヘッドクオーターをロンドンにしたんです。その前からのタリンには2番目に大きなオフィスがありますし。それでも、エストニアのほうにもかなりお金が来ていると思います。

エストニアのスタートアップに投資するプレーヤーの存在

木村:この構図から、僕としてはエストニア熱がどこまで続くのかというところで、人材がフィンランドに流れてしまうこと、会社の拠点が結局ヨーロッパの人気のある国に移っていくとなると、厳しい戦いを強いられるんじゃないかと思います。

ブロックチェーンやサイバーセキュリティー周りの技術を、各国に売っていくことであったり、そうした技術面で戦っていく分には勝機はありそうだけれども、今日本で話題になっているような盛り上がり方でいくと、いったん熱は下がるという感覚です。

この話に戻って、おふたりがこのエストニア熱はどこまで続くのかというところを、どう感じているかお聞きしたいです。

ポール:そうですね、1つ重要なポイントとして、2018年はエストニアのスタートアップシーンが爆発的で、前より強くなっています。2012年にスタートアップシーンのキャッシュフローは800万ユーロでしたが、2018年度は5億ユーロくらいに上がってきました。そういった同じリズムでやっていけるなら、ぜんぜん問題ありません。

しかも、欧米や日本でも、メインのプレーヤーがエストニアのスタートアップに投資している人がいます。アメリカのピーター・ティールとリチャード・ブランソン、マーク・アンドリーセンなどがスタートアップに投資したので、たぶん2018年の始まりの仮想通貨が流行り出した時ほどは上がりませんが、それでも続くと思います。

齋藤さん:エストニアという国そのものではなくて、エストニアが保有する技術に対して、ニーズのある企業、その情報が欲しい企業や個人に対しては求めるものがあるのかもしれません。

日本人がエストニアを関わるためのルート

木村:なるほど、ありがとうございます。では、ここからは会場のみなさんから質問を受けたいと思います。

質問者1:2014年にエストニア大使館に電話をしたり、リトアニア大使館に電話をしたのですが、エストニア大使館はかなり反応が悪かったんですね。リトアニア大使館は大使の方が「インベスト・リトアニアという機関がありますよ」と紹介してくれて。

リトアニアのビルムス病院に連れて行ってくれたり、カンザス病院に連れていってくれたり、「病院系でシンガポールのようになりたいと思っています。なぜならソ連邦のときに、心臓手術を一番最初にしたのはリトアニアなんですよ」などと教えてくれました。

そんな動きがあったためにリトアニアに入り込めたのですが、エストニアには入り込めていなかったのです。そうこうしているうちに孫泰造さんたちが行っちゃったんで、出遅れているんです。ですから、今日は楽しみにしていました。まず、どうすれば日本人も入れるのかということを教えていただければうれしいのが1点。

私はルーマニアから上がっていったのですが、例えばリトアニアに行ったときに教えてくれたのは、エストニア、リトアニア、EUのハブにして、裏のエンジニアはベラルーシやウクライナなど、エンジニアでボリュームは取れないと。そこのボリュームを使うけど、でも言葉がロシア語で、日本人というのはできません。

ですから、英語が堪能なエストニア、リトアニア人をうまく使ってEUとしてやっていますよと。そう理解しているんですね。そうなると、例えばルーマニアから直接上がってきていたんですけど、ブルガリアはどうなのとか。ウクライナは戦争でもめていたりするけどどうなのといった質問もあったりします。

木村:なるほど。わかりました。質問は2つで、1つめはエストニアの中に入り込んで行くにはどこから入っていくのが一番良いかですね。

エストニアでイノベーションを起こし、ジョン万次郎となって帰ってこれるか

質問者1:どうしてこんな質問をしているのかというと、ヘルスケア起業を日本でやろうとすると、規制があったり医師会が強かったりするのでイノベーションが起きないんですね。ですから、僕は海外でイノベーションスタートアップを探しに行ったりするのですが、今やっているスタートアップも経産省の方に「外で見つけてこい」といわれたので、外で見つけられたらと思っています。

同じようにリトアニアであれば、プロトタイピングをリトアニアやビルムス病院でやっていて。政府の人たちが30代なので、厚生労働省にも会いに行ったのですが、厚労大臣が「やりたいね」という話をされるので、それでイエスになると。もともとロシアは共産党なので、政府と要員と大学とすべてがワンハンドの中に入っているため、動きがめちゃくちゃ速いんです。

ですから、僕は日本でやるよりも、リトアニアやエストニアでイノベーションを作って黒船にして、ジョン万次郎になって戻ってきたいというのがあるので、それで今日は来てそういった話を質問したいと思います。

木村:前提としてヘルスケア領域でのイノベーションを、テストマーケ的にエストニアで実践したい。規制が緩いというか、実践できそうな場所でやって広げていくにあたって、どこから入っていくといいのかというところと、あとは近隣諸国、ウクライナなどそういったところとの関係がどうかというところの2つですね。お答えできればと思います。では、1個目の質問から、ポールさん。

ポール:正直、あんまりわかんないですね。誰がメインプレイヤーかにもよるんですね。たぶん最近の方が大使館の対応がすごく良くなったと思います。

木村:そうですね。そこは思いまして、e-residencyで日本からも登録できて、そういうことが始まったのが確か2015年4月、そのくらいの時期だったと思うので。それ以前とそれ以後というのは、対応が違うと思うところがひとつありますね。

スタートアップコミュニティや投資家といった、大使館以外の入り口

木村:あとは、大使館からの入り方以外のスタートアップコミュニティや投資家など、そういったところの入り方に詳しそうな齋藤さんはどうですか?

齋藤:ヘルスケアの領域に詳しくないのです……すみません! ただ自分は毎週あるスタートアップイベントにしょっちゅう足を運んでいました。「留学生なんだけどエストニアで働きたいんだ」というと、そこにいるSTARTUP ESTONIAのメンバーやLIFT99の人たちがホイホイとコミュニティに入れてくれたりしました。

STARTUP ESTONIAがやっている外国人の起業家向けのSlackがあるんですよね。Foreign Founder EstoniaのSlackではエストニアで起業しようとしている・すでに起業している起業家たちが自由に情報発信をしたり、STARTUP ESTONIAからから情報共有されたり、アクティブでした!

本当に投資家を探していこうというのであれば、数期間ぐらい、長めの期間で滞在して、ミートアップに足を運んだり、投資家はおそらくSTARTUP ESTONIAに紹介してもらって会いに行くというのを、遠隔ではなくface to faceでやるのが一番早いかということが、現実に出て思った印象です。

木村:けっこう政府と民間の人材の流動も多いみたいで、もともと政府のこういう重要な役割になっていた人が今この会社の人ですとか、逆のパターンもあったりとかするので、Lift99とか足を運んで、スタートアップの人たちと仲良くなると、だいたい、「ああ、この人繋がってるからなんかできるんじゃない?」みたいな、けっこう軽いノリでどんどん芋づる式に繋がっていくかな。

質問者1:スタートアップのイベントのLatitudeでしたっけ? 5月でしたっけ? 今回行こうと思っているんですけど。それ以外にも、行ったほうがいいイベントの月があれば旅行を組んじゃうので教えていただければ。それくらい本当に入り込みたいんです。日本じゃなかなかイノベーションは起きないので。

そういう意味では、バルト三国の政府の力を使えると、正直小さいからやりやすいんです。とくに、日本人にイノベーティブの話をして連れていってやれば動くので。

齋藤:ああ、そうですね。おっしゃるとおりです。エストニアでいうと、Latitude 59の5月が最大級のスタートアップカンファレンスで日本からも福岡市がブースを出すなど盛り上がっていましたね。

木村:12月のSlushはデカすぎですか。どうですか? バルト三国の人がきたりするんですか?

ポール:行ったりもします。

質問者1:リガのやつも行ったことがあるんです。再度お聞きしたいのですが、リトアニアでは、インベスト・リトアニアの人たちが招待してくれたイベントに行ったのですが、そこそこボリューム感がありました。まだLatitudeは行けていないのです。

齋藤: ぜひ!

ポール:私、6ヶ月くらい前にとある案件でいくつかエストニアのヘルスケア関連のスタートアップに問い合わせをしたんで、あとでぜひ名刺交換をしましょう。

高等教育を学ぶ場としてのエストニア

木村:このあとじっくりお話をうかがっていただければ。お時間が迫っておりまして、過ぎてしまったので、最後にひとつだけ。では、今、手を上げたおふたりで終わりにしたいと思います。お願いします。

質問者2:ありがとうございます。今年の夏頃に電子政府の分野でエストニアの大学院に在学しまして、疑問なのが、高等教育を受ける場所としてエストニアはどうなのだろうと思っています。

優秀な人材が欧米やヨーロッパに行ってしまうということはあると思いますが、そうしたアカデミックなことも回る場所としてエストニアはどうなのかということでのご意見をうかがいたいです。

ポール:エストニアはヨーロッパの中でもITは確実に強い方ですね。とくにタリンにあるTTU(タリン工科大学)と、タルトゥのタルトゥ大学はITが強いので、かなりいい選択肢だと思います。

齋藤:友人がタリン工科大学summer schoolで電子政府の授業を受けていましたね。人材育成でいうと教育機関がソフトウェア、かつ、ビジネス人材育成に力を入れているが故に、R&E、研究でしっかりやっていく人材が少ないということが国としての課題であるというのは、大使館の方がおっしゃっていました。

質問者2:マスターの2年です。

齋藤:マスターで。サマープログラムのようなものですか? 留学?

質問者2:そうですね。

齋藤:正規留学にしてもすごく倍率が上がっていたり、夏の短期プログラムはすっごくもう全ヨーロッパで、私の友だちも参加していて人気だったので行ってみる価値はあるのか、話題性なのかというのはあれですが、友だちは通っていたのでおつなぎします。

質問者2:ありがとうございます。

人員を一層し、生まれ変わった大使館

木村:では、最後の質問をお願いします。

質問者3:福原と申します。本日はありがとうございました。実はしゃべらずにあとでご挨拶をしようと思っていたんですが、大使館がというような話になってしまったので、改めて自己紹介をさせてください。

エストニア大使館のほうで、今年の1月から大使の特別補佐官になりました福原と申します。よろしくお願い申し上げます。みなさんのセミナーを落とそうという気はまったくなく、隅で聞いてあとでご挨拶をしようとしたのですが、やはり大使館がいけなかったということで。

(会場笑)

申し訳ございませんでした。エストニアとしましては、去年安倍首相が来ていただいたこともあり、大使も全面的に交代をいたしました。11月に赴任し、12月に正式に天皇陛下に拝命して、レオナルド大使は前カーター、前が米国の駐米大使がおられました。ですから、エストニア共和国としてはかなり力を入れて、すごくいろんな大使を送り込んだというかたちです。

また、この2019年に向けまして、人員を全部一掃いたしまして、いろいろと変えるといったことです。

(会場笑)

今後は、民間のみなさんでがんばってくれる方々を我々も後ろからサポートするという体制を作りたいと思いますので、AMPさんも窓口というかたちでのちほどご連絡をいただければと思います。ありがとうございました。

木村:最初に知っていれば、完全にこっち側の席に。

(会場笑)

失礼しました。はい。そういうわけで、お時間が過ぎてしまいましたが、以上にてすべてのプログラムが終了となります。齋藤さん、ポールさんありがとうございました。

(会場拍手)

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1 スタートアップ精神を持つ国 エストニアの強みに迫る 電子政府の裏側を支える、産学官連携の仕組みとは
2 EU進出の入り口として選ぶエストニアの価値 2018年を席巻したエストニア・スタートアップブームの行方

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