EUをマーケットに選んだ際の、入り口としてのエストニア

木村和貴氏(以下、木村):ありがとうございます。次のキーワードは「エストニアで起業するメリットは?」ということで、ポールさんからお願いします。

ハッラステ・ポール氏(以下、ポール):そうですね。EU進出を目指すのであれば、エストニアはベストといっていいほど良いと思います。とくに、旅行をすることが多かったりすれば、IDカードで銀行取引など、いろんなことが簡潔にできますから、かなり便利ではあります。

木村:齋藤さんはどうでしょう。

齋藤侑里子氏(以下、齋藤):あまりエストニアに行かないのであれば、正直「ない」という人が多いような気がしますが……。起業家のみなさんはどうなんですか? という感じです。

木村:個人的には、おっしゃるとおりで、EUを狙っていくということではありだと思っています。EUで起業しよう、会社登記しようと思うと、かなりハードルが高いですから。そこと比較して低いということもありますが、さらに電子化されているというところが魅力的なのです。

自分の管理画面から登記している状況が見れたり、お金のやりとりも電子化されて税の申告がすごく楽であるといったように、今以上のメリットも存在していると思っているので、あくまでもマーケット、EUを対象にしてスケールさせていくという目的であれば、その入り口としてのエストニアはありだと思います。

逆にいえば、それがないとエストニア自体のマーケットは本当に規模は川崎市や京都市という感じですので、やはり日本で勝負した方がデカいマーケットになるということですよね。

エストニアのエンジニア人口は5,000人

木村:あと気になったのは、これも個人的な興味なのですが、エストニアの優秀なエンジニアの方を向こうで起業する際の仲間にできるか、ということもあるかと。そういうところではどうですか? 仲間集めという部分で。

ポール:ぜんぜんできると思います。エストニア人のエンジニアですよね。

木村:そうです、そうです。

ポール:できると思いますね。ミートアップやFacebookなどを使えば、簡単に現地のエンジニアのコミュニティーに繋げられると思います。

齋藤:エストニアの有名なスタートアップで働いているエンジニアの半分、もしくは3割は、それこそ他国から来ているエンジニアだと聞いたりもしましたが。実際のところはどうなんでしょうね。母体が少ない感じなんですかね。

ポール:それはかなりあります。やっぱり、エストニアから北欧やアメリカなどに行っちゃう人もいますね。ただ、エンジニアの数自体はどんどん増えてきているんですよね。ここ数年は毎年30パーセント以上増えてます。今、総数で5,000人。それを少ないと見るか多いと見るか。川崎市に5,000人ですからね。

齋藤:エンジニアが住んでいると思えば。

2018年を席巻したエストニア熱はどこまで続くのか?

木村:続いてのテーマですが「エストニア熱、どこまで続く?」ということで、今日はみなさんもエストニアにすごく興味があって、なにかしら覚えたいということで本日も来ていただいているかと思います。我々もエストニアに注目して記事を出しており、とくに2018年はエストニアの情報が日本でもたくさん流れたように思いました。この熱がどこまで続くのか? また、エストニアは今後どうなるのか? というところについて話したいと思います。

この質問をする前にエストニアと近隣諸国の関係というところについて、東ヨーロッパの国々はわりと賃金が低いので、そこの人材がいい条件を求めてエストニアへと上がっていくということが一つあると思います。今エストニアで働いている人はどうかというと、それでもまだフィンランドに比べると賃金が低いので、より待遇のいいフィンランドへと上に流れていくと。

ロシアは脅威を与えてくる存在として隣り合わせている。今度は企業、会社という単位でみると、エストニアで作られた会社が次にスケールさせるため、結局ヘッドポーターをイギリスやドイツ、フランスに移していく。タリンやエストニア内に開発拠点を残すというパターンもあります。

ヘッドクオーターはずっとエストニアに置くのだという信念を持ってやっている企業もあるとは思いますが、なんとなく視察中に、いろんな会社の人による人材流出の話を聞いていくと、こうした構図があるんじゃないかというのがAMP編集部で出した構図です。

人材がフィンランドに流れていく現状は避けられない

木村:これについて、ポールさんの所感というか、実際にどうなのかについてお聞きしたいです。

ポール:まさにそのとおりです。e-Residencyにはたしかにこうした仕組みはあって、エストニアの立場をもっとよくするために作られたというところもあります。ラトビア、リトアニア人の友だちなどは、エストニアのメディアで「どうして我が国はエストニアに追いつけないのか」と下から見ているというところはありますが。

エストニアは逆に、フィンランドのほうに行ってしまっている人がまあまあ多くて。今、数万人のエストニア人がフィンランドに住んでいます。なので、それはかなり合っていると思います。

木村:企業のヘッドクオーターをイギリスやドイツ、フランスに移していくということに関して、エストニアの自分たちの国で最後までやっていくんだという気持ちなんでしょうか。そうした愛情が別にあるわけではないような。エストニアは好きだけど、そんなに強い愛国心ではなく、ぜんぜんヘッドクオーターを移すことに抵抗はないよとか。そうした国民性というか、感覚はどういった感じなんですか?

ポール:少なくとも、IT関係の人はほとんどそんなに愛国精神はないので、たぶんそのあたりは問題になっていないかと思います。たしかにTransferWiseは今一番注目されているエストニアのユニコーンですが、数年前にヘッドクオーターをロンドンにしたんです。その前からのタリンには2番目に大きなオフィスがありますし。それでも、エストニアのほうにもかなりお金が来ていると思います。

エストニアのスタートアップに投資するプレーヤーの存在

木村:この構図から、僕としてはエストニア熱がどこまで続くのかというところで、人材がフィンランドに流れてしまうこと、会社の拠点が結局ヨーロッパの人気のある国に移っていくとなると、厳しい戦いを強いられるんじゃないかと思います。

ブロックチェーンやサイバーセキュリティー周りの技術を、各国に売っていくことであったり、そうした技術面で戦っていく分には勝機はありそうだけれども、今日本で話題になっているような盛り上がり方でいくと、いったん熱は下がるという感覚です。

この話に戻って、おふたりがこのエストニア熱はどこまで続くのかというところを、どう感じているかお聞きしたいです。

ポール:そうですね、1つ重要なポイントとして、2018年はエストニアのスタートアップシーンが爆発的で、前より強くなっています。2012年にスタートアップシーンのキャッシュフローは800万ユーロでしたが、2018年度は5億ユーロくらいに上がってきました。そういった同じリズムでやっていけるなら、ぜんぜん問題ありません。

しかも、欧米や日本でも、メインのプレーヤーがエストニアのスタートアップに投資している人がいます。アメリカのピーター・ティールとリチャード・ブランソン、マーク・アンドリーセンなどがスタートアップに投資したので、たぶん2018年の始まりの仮想通貨が流行り出した時ほどは上がりませんが、それでも続くと思います。

齋藤さん:エストニアという国そのものではなくて、エストニアが保有する技術に対して、ニーズのある企業、その情報が欲しい企業や個人に対しては求めるものがあるのかもしれません。