カヤックはなぜ鎌倉本拠なのか?

武井浩三氏(以下、武井):では問2。今までとは異なる新しい価値観に対して、われわれはどう生きるべきなのか、向き合うべきなのか。これ、さっきの質問とだいたい一緒ですね。

柳澤大輔氏(以下、柳澤):これ、武ちゃんの問いなの?

武井:そうですね。これは運営元からこういうのがいいんじゃないのってことで、4つ考えて。

柳澤:新しい価値観というのは、どういうことを指しているの?

武井:僕の問いはぜんぶ却下されちゃって。書き換えられたんですけど。

山口周氏(以下、山口):柳澤さんはすごくわかりやすくて、わざわざ会社をわりと不便なところにおいて、でも、何か利便性や効率と違う物差しがあって。これって「鎌倉資本主義」の話にも繋がると思うんだけど。

鎌倉資本主義

資本主義って基本的には経済性が上がるという、1つの物差しで見るのに対して、デュアルとかトリプルでいろいろな物差しを当てて、積分値が最大化するようなことを、僕は考えていかなければいけないのかなと思っていて。

柳澤:そうそう。そうです。

山口:ですよね。どう生きるべきなのか、というのもちょっと補足できそうなんですけど。

柳澤:それもいいのかな。その話はその話でできるんですよ。ただ、細かくいうとちょっと違わない? 

武井:いいですよ。

柳澤:今の話だけちょっと補足させてもらうと、(会社を)鎌倉に置かせてやっていただいているという話ですけど。地方創生にお金を国も使っていますけど、それがやむを得ない事情というか、このままじゃ消滅するから、なんとかしなきゃというところからきているのかなと。

生物の進化的な話で多様性があったほうが、よりいいんじゃないかという流れなのか、なんとなく抗えない流れで地方創生がきているのか、ちょっとわからないですけど。ただ地方創生の議論をする時に、経済的な話と経済以外の指標が混ざっている時があるんですね。とにかく地産地消を進めよう、という話もよく聞きますよね。

それについて書かれている本があって。要は国と一緒で貿易赤字と黒字の中で、中で作って外に出して買うほうは、多ければ赤字になっちゃうから、バケツが漏れないように中で消費しようと。そうすると、域内の赤字が減るから、経営的によいんじゃないかというのはひとつありますよね。

地域の赤字を減らそうというのはもちろん大事ですが、それだけではないんじゃないかと。従来の指標でいったら決して儲かっていないんだけど、ごはんは旨いし空気はきれいで非常に幸せだから、うちは最高の街ですって言い切る別の指標がないと、本当の対案にはならないと思うんですよ。

それで、会社は基本的に売上と利益を追いかけることしかできない生き物だから、他の指標を立てることができないかと思って。そういう取り組みを今、鎌倉市としています。

簡単に言うと、たとえば社員に給料を払う時に、報酬の一部を仮想通貨にして、その通貨が、人と人のつながりである社会資本だったり、美しい自然のような環境資本に還元されるようになれば、そうした価値観を企業活動の指標として取り入れて、結果として、持続可能な資本主義を実現できるんじゃないかとか、そういうようなイメージですね。

巣鴨固有の事情から見る「孤独」という問題

石川善樹氏(以下、石川):僕話していいですか? この間、巣鴨に行ったんですよ。年をとるのってどういうことなのだろうか、というのを実感したいなと思って、巣鴨に降り立ったんですね。驚いたのが巣鴨の駅前って、宗教の勧誘だらけなんですよ。駅前ですよ。

ちょっと試しに近くのカフェに入ろうと思ったら、入り口に「マルチ、宗教お断り」って書いてあるんですよ。ネットワークビジネスと宗教の人たちが、おじいさんやおばあさんにたかっているんですね。パッと横を見たら、おばあさんが勧誘されているわけですよ。案の定、禁止なのに(笑)。

でも、話を聞いていて思ったのが、(お年寄りたちが)もう宗教でもいいやっていう気になっているんですよ。私の話を聞いてくれるならって。さっき退屈という問題があるって言いましたけど、孤独という問題がやっぱりあるなというのと、あと今は寿命がのびちゃっているから。漠然とした不安があるんですよ。

何歳まで生きるかわからないし、でもすがるものがない。孤独と退屈と不安。漠然とした不安というのが、年をとると三大悩みになのかなと思って。

柳澤:街に住んでいるお年寄りが、超ニコニコ楽しそうにしている街は絶対に人気になりますよ。だって自分が住んだら、そうなるのがわかるから。そこを充実させるのが、最高の移住政策になると思います。

石川:だから街でいうと、さっき聞いたのが千葉のユーカリが丘がおもしろいって聞いて。住んでいる人がすごく繋がりが多くてという話と、もう1個、巣鴨に重要な気付きがあったんですよ。新しい価値観ですけど、とげぬき地蔵に入る時に、薬局はやっぱりいっぱいあるわけですね。おじいさん、おばあさんって何に困るんだろうと思って見ていたら「口3日、体10日」って書いてあるんですよ。でっかいポスターで。

「口3日、体10日」っていったいなんだろうと思って、薬局の店主に聞いたら、「これは口臭なら3日、体臭なら10日で消えます」ということなんですって。

柳澤:それって何かのサプリメントの宣伝?(笑)。

石川:そんな感じだと思いますよ。「どういうことですか?」って聞いたら、じいさんとばあさんだったら、とにかく口とか体が臭いんだと。自分でも気付くぐらい臭いんだと。それに対するニーズがすごいんだって言っていて、すごい世界が来るんだなと思って(笑)。

柳澤:あと体がかゆいらしい(笑)。

石川:かゆい(笑)。

好奇心をいかに持って生きていくか

林宏昌氏(以下、林):でも、石川さんの好奇心というか、こういうことはすごく大事なんだろうと思って。新しい価値観みたいなことって、僕ら世代の下の人たちは、まさに食べ物に困るみたいな世代ではなかなかないので。そうするとザッカーバーグも言っているんですけど、意味や意義……何のためにこの仕事をするのか、何のために生きるのかが大事です。一方で、それが見つかっている人は非常に少なくて。そうすると何となく生きているということになっている。

でも、その中では今みたいな好奇心を持って、まず巣鴨に行ってみようかなとか。そういうことの中から「口3日」と書いてあることに対して、一緒にまず行ってみて、話を聞いてみるみたいな。わからないけど、そういうことから課題感とか、こういう問題があるんだなということに対して何か貢献できないかなとか、そういうのが生まれていくといいかなと思っていて。

なんとなく若い人と話していたら全員、自分のキャリアとか、どういうふうに生きていけばいいのかというのを、みんな悩んでいて。やりたいことを探しているんですけど、やりたいことが見つからないみたいな。

これはこれで、食べられなくて、食べるために働くという目的が明確で、働くということがわかりやすかったんだけど。その目的を失った時に、「私は何のために働くのか」を探さないといけないことが、そもそも大変です。

そうなった時に見つかるのかというと、なかなか見つからないという、この現実がけっこう難しいのかなと。どう生きるべきかというのは、石川さんみたいに、好奇心をいかに持って生きていくかが大事だと今のお話を聞いていて思ったんですね。

柳澤:好奇心を持って生きていくべきだみたいなこと?

:そうですね。

石川:でも暇だからですよ。巣鴨に行ったのは。

柳澤:研究者なんじゃないですか?(笑)。

石川:いや、すごく暇だから(笑)。

武井:でも、好奇心って持とうと思って持てるものでもないというか。例えば「この人のことを好きになれ」といっても、好きになるって感情の問題で、強制できるものでないし、努力してできるものではないし。こういった扱い難いものが今、社会課題として降りてきていて。好奇心もそうですけど、それとどうみなさんやって向き合っていますか?

柳澤:僕は、鎌倉資本主義というテーマに入ってしまったんですけど、やりたいことがない人は思いつかないだけじゃないですか。思いつき体質になればいいだけなんですよ。気付いたら思いついちゃうみたいなことになればよいので、それはブレストすればよいだけですよ(笑)。

武井:出た、ブレスト(笑)。

柳澤:それでブレストの思いつき体質になるので、気付いて思いついちゃうからやるという、その脳改革ですよ。なんとなくそういう感じになるということですよね。

ブラック企業は社会的な必要悪?

石川:最近僕は……とくにこの1年なんですけど、工場で働いている派遣労働者の方々の研究をしているんですね。たとえば、彼ら・彼女たちが何に対して怒っているのかというのも、けっこうおもしろくて。もちろん給料が安いことには怒っているんですよ。ただそれ以上に怒っているのが、その給料を得るための仕事がつまらな過ぎることに怒っているんですね。

柳澤:「何でこんなにつまらないんだ」って怒っているんですか?

石川:そうなんですけど、不思議なのが、よくよく話を聞いていくと、そのつまらないはずのルーティン作業でも、喜んでやっている人たちっているんですね。もうちょっと言うと、意味を感じてやっている人たちがいる。好奇心を持ってやっているんですよ。その人たちの特徴をいろいろ調べて、1個わかったのが、その前の職ですね。今の工場で派遣労働をする前に、とんでもないブラック企業を経験しているということなんですよ。

柳澤:性格とかの問題じゃないんだ?

石川:じゃなくて、比較論の問題なんですよ。とんでもないブラック企業を経験するというのは、長い人生の中で考えるとリファレンスポイントがそこになるから。

柳澤:社会的に必要悪みたいなこと? ある一定数ないとダメ。

石川:そうそう。これは予防医学ではけっこう重要で、若い時に苦労して乗り越えてないと、年取ってからの苦労って乗り越え難いんです。

柳澤:ああ、やっぱり負荷は測っておいたほうがいいんだ。

石川:そうそう、負荷。例えば強制収容所とかの生き残った人って、長生きだという研究がある。

柳澤:そのへんの価値観を伝えていくべき。問いに対する回答としては。

石川:だから新しい価値観がなんであろうとも、ブラックを1度経験せよと。そうすると何がきてもありがたしと、好奇心を持っていけるという。

柳澤:ブラックはともかく、価値観としては一理ありますね。

石川:それは今の流れと逆行するから、なかなか難しいところですけどね。

武井:企業側からは提供し難い。

:僕なんかは立場として、本当は選べるようにしていこうという考え方なんですけどね。要はなんであれ働きたくない人が、いやいや長く働くということはなくさないといけないんだけど、仕事がおもしろくてやっていきたいという人たちもいらっしゃるのも、やっぱり事実で。そうだとすると、自立的に自分は体を壊さない範囲において、長く働くということを選べるというのは、選択肢としては必要じゃないかなという立場ではありますけどね。 

昭和型の「幸福」から脱却し始めてきた?

武井:山口さん、何かありますか?

山口:新しい価値観ってどういうことを意図して書いていたのかよくわからないんですけど。新しいと言われているものって、すぐ古くなっちゃうものなので、問いとしてどうなのかなという感じはします。僕は価値観というのは、お金持ちになるとか、でかい家を買うとか、シャンパンを飲むとか、きれいな愛人持つとかという、昭和型の最後の価値観みたいなものがすごく支配的だった。

平成の間に、結局そこから抜けられなかったという気がするんですけど、けっこう今は良い流れだなと思っているのは、そういうものにあまり魅力を感じないというか。結局、外在的でよいと言われていることに対して、自分でよいと思ってないと、あまり駆動できないという人が増えてきているのは、よいことだなというふうに思っていて。

だから困るのは、そういう人ってマウントしようとするんですよね。「僕のほうが年収が上だね」とか「君は国産だけど僕はフェラーリだね」とか。いやいや、僕は全然それでいいと思っているんですけど。でもマウントされちゃうとムカつくんで、こっちもじゃあやってやろうじゃないかということで、それでドロ沼の戦いになってというところが、いろいろあると思うんです。

だから、そういう価値観じゃない人が、価値観の多様性のようなものがあって、新しいとか古いとか言っていること自体がもう古い気がして。どんどん価値観が多様化していって、その価値観が似た人が集まって働けると、すごくやっぱりパワーが出るし、居心地のいいコミュニティになると思うんですね。

柳澤さんが鎌倉で、僕は葉山なんですけど。僕はやっぱり東京に住んでいて、すごくある種の違和感が拭えなくて、なかば逃げてきたんですね。マウントをとろうという人たちが、周囲にすごくいる空間で生きてきて。なんで車の水準を上げていかないのかとか。物差しがあって、「あなたも当然その物差しと戦っているでしょ?」という感じでコミュニケーションされるのが、むちゃくちゃ違和感があって出てきたというのがあります。

ですから、新しい価値観というか、その価値観そのものが多様化する。その価値観の似ている人たちが集まって、物理的に生きていける。そこがやっぱりテクノロジーとすごく関わってくるところだと思うんですね。

これまでは物理的にある場所に集まらないと、生産効率や通勤の効率とかを考えると、生産性が上がらないという世の中だったので、仕方なしにみんなぜんぜん価値観が違う人たちが、東京に一局集中して仕事をしていたんだけど。

今は物理的に離れていても、ぜんぜん生きていけるとなると、あるコミュニティ、ある地域みたいなものを、自分のセンスで選んで。かつ、それがハンディキャップにぜんぜんならない世の中が、テクノロジーでできていくようになると、これはすごくおもしろいんじゃないかと思っていますね。