ハードウェアスタートアップ、試作のリアル

北洋祐氏(以下、北):三菱UFJリサーチの北と申します。よろしくお願いいたします。今回のこのパネルディスカッションの位置付けについて、私から少しだけご紹介させてください。

このパネルディスカッションは、スタートアップファクトリー構築事業の一環として実施した、スタートアップ支援ノウハウに係る調査・実証事業の報告として行うものです。

スライドは我々が今年度実施した「モデル事業」の概要です。もともと発端としては、一部のスタートアップファクトリーの方々から「まだまだスタートアップがものづくりに挑む事例自体が少なく、スタートアップとの接点や連携の経験が少ない」という悩みをいただいておりました。

その悩みを解決していくにはどうしたらいいかと考えたときに、実際にハードウェアスタートアップと製造業の連携の事例をたくさん作っていって、そこで起こる現場のいろいろな情報をまとめて共有のノウハウとして持っていくことが重要じゃないかと考えました。

スライド下に「モデル事業(6件)」と書いてあるんですけど、実際のスタートアップ6社に対して、スタートアップファクトリー等と連携した製品開発の費用を一部支援させていただいて、その代わりに調査にご協力いただきました。

3、4ヶ月に渡って月に1、2回くらいヒアリングにお付き合いいただいて、現場で我々にいろいろな情報を聞かせていただきました。

スライド②の箇所についてですが、その情報を取りまとめて、今回レポートとして公表させていただいております。自信作ですので、ぜひあとでお読みいただければと思います。

このモデル事業で実際に参加いただいたのが、次のスライドの6社です。いまをときめくハードウェアスタートアップ6社にご参加いただいて、本当に我々が一番楽しかったんじゃないかと思っています。

今日はこの中で2社、ピクシーダストテクノロジーズ様とMAMORIO様にパネリストとしてご参加いただいております。そして、このMAMORIO様と連携されている製造業側のBraveridge様にもご登壇いただいております。

ピクシーダストテクノロジーズの事業概要

:まず、各社様のご紹介からお願いできればと思っております。ピクシーダストの星様からよろしいでしょうか?

星貴之氏(以下、星):ご紹介いただきありがとうございます。ピクシーダストのCROの星と申します。よろしくお願いします。弊社はピクシーダストテクノロジーズと若干名前が長いので、PDTもしくはピクシーダストと略します。

弊社の扱っている技術としましては、波動制御技術です。音・光・電磁波などを使って、空間を介して人や物とインタラクションする技術を作っている会社です。

本スタートアップファクトリー構築事業では、このSonoliardsという超音波ビームスピーカーに首振り機能を設け、ソリューションに合わせて制御する技術に取り組みました。ほかにも、磁気で物が浮く技術や網膜投影技術も扱っています。弊社が一番最初、会社になる前に取り組んだ技術を動画入りでご説明したいと思います。

直径0.5ミリくらいの発泡スチロールの粒々が浮き上がって動き回ります。これは大学での研究です。

これは何をやっているかと言いますと、前後左右から超音波の波を当てて、定在波ができます。定在波はよく「動かない波」と言われるんですが、超音波の音圧の弱いところが一番安定なので粒が寄っていきます。

どれくらい安定しているかと言うと、重力に逆らうくらい安定なので、浮いてしまいます。こういうことが起こっておりまして、その超音波の波をうまく操ることで動き回らせることができます。世界で初めての3次元の制御を可能にした音響浮揚です。

そのように大学で研究しているんですが、基本的には研究だったものをPDTに持ってきて試作機を作りたいんです。しかし、研究だとだいたい使っているデータがチャンピオンデータであったりして、実際にやってみるとうまくいかない場合もけっこうあります。

ですので、その研究の価値が認められた段階でPDTに持ってきて、その弱点を潰すための開発を行います。その開発した試作機を、量産化の機能を持っているお客さんの企業と組んで量産化して売りたいなと思っています。弊社では知財のライセンス収入とそこまでの共同研究費などをいただきながら、回していければと考えております。

一方で、弊社はおもしろい取り組みをしております。弊社CEOの落合陽一は筑波大学の准教授をしておりまして、落合研究室で生まれた知財を100パーセントPDTに予約承継にしております。

その代わりに大学には新株予約権を付与しまして、お互いに研究が大きくなれば会社が大きくなるし、会社が大きくなれば、大学の持っている株も価値が高まる仕組みにしております。

何がうれしいかと言いますと、特許出願に関する手続きなどを省略化して高速にしたい場合……弊社は大学で生まれた研究を高速かつパラレルに社会実装していきたいのですが、発明が1つ生まれるたびに交渉するフローを踏まずに、最初に契約してあるのですぐ社会実装できることを目論んでおります。

ということでアカデミア、大学から生まれた研究を、社会の課題解決のために連続的に社会実装するビジネスモデルを構築している会社です。よろしくお願いします。以上です。

「落し物が必ず戻ってくる国」を目指して

:ありがとうございます。それでは2番手としてMAMORIOの増木様、よろしくお願いいたします。

増木大己氏(以下、増木):よろしくお願いします。MAMORIOの代表の増木と申します。簡単に、我々が作っている製品を紹介させていただけたらと思います。

我々はもともと「なくすを、なくす。」というのをミッションにやっているスタートアップで、落し物という課題について、ずっと取り組んでいるスタートアップです。東京オリンピックのときに「落し物が必ず戻ってくる国」を目指してやっています。

作っている製品が今大きく3つあります。「MAMORIO」という最初に出した製品と、「MaMORIO S」という薄型でより小さくしたもの。それからシールタイプの「MaMORIO FUDA」という、この3つのデバイスを出しています。

どう使うかと言うと、先ほどのハードウェアのようなものをECサイトや家電量販店などで買っていただいて、アプリをダウンロードして組み合わせて使うと、なくした場所がわかる製品です。

いくつか賞にも選んでいただきました。最近だと「2018年日経優秀製品・サービス賞」を受賞させていただきました。

製品のイメージがわかりづらいので、ムービーで簡単にこんなことができるということを紹介させていただきます。

こんな感じで置き忘れたときに最後にあった場所を確認して、落し物や忘れ物を未然に防ぐことが期待できます。実際に使っているユーザーの、だいたい99パーセントくらいの方の落し物が見つかります。

ディープな機能としては、「みんなで探す」という機能です。なくした時にほかのユーザーがなくした物の近くを通りかかると、この人のスマートフォン経由でなくした場所が送られて来ます。

利用者が増えれば増えるほど見つかりやすくなる機能もあります。今は1ヶ月で、だいたい9割くらいですれ違うよというようなインフラになってきています。こんなかたちで、ますますネットワークが増えていることがわかるかなと思います。

あと、この仕組みを応用して、鉄道会社と連携して受信機を遺失物センターに置かせてもらったりしています。これによって、なくしたときに届けられたりすると、「今、ここに届けられましたよ」ということがわかって、すぐ取りに行けます。このようなかたちのものを作っています。

これをだいたい、今は654路線くらいまで導入いただいています。いろいろな鉄道会社に導入していただいています。

こんな感じで「なくすを、なくす。新しいインフラをつくる」を目指しているのがMAMORIOという会社です。以上です。ありがとうございました。

:ありがとうございます。実は私、つい先月財布をなくしまして。その中に MAMORIOのタグを入れていたおかげで、翌日にはすぐ見つかりました。本当にありがとうございました(笑)。

(会場笑)

すれ違いの機能でちゃんと見つかりました。ありがとうございます。

Bluetooth Low Energyの無線モジュールを開発

:では3番手といたしまして、MAMORIO様の連携先であるBraveridge様の紹介をお願いいたします。

吉田剛氏(以下、吉田):Braveridgeの吉田と申します。よろしくお願いいたします。まずは弊社の簡単な会社紹介です。設立は2004年、おかげさまで15年目を迎えております。拠点としましては本社が福岡県福岡市西区、組み立て工場としては福岡県糸島市に拠点がございます。

従業員ですが、本社に29名、うち19名が技術のエンジニアがおりまして。残りの10人程度は総務関係、営業関係ですね。工場では調達とQCと生産技術で社員が12名おりまして、あとパートの従業員が48名ほどでやらせてもらっています。

海外の拠点ではBraveridge Shenzhenのオフィスがあります。あとはBraveridge Hong KongとBraveridge China。この機能は基本的に調達、品管、あとサプライヤーのソーシング等々を行っています。

Braveridge Moulding companyですが、金型工場と成形工場があって自社製品、スタートアップさんの製品も、ここで金型を作って成形させていただいています。

簡単ですが事業内容です。スライド右側ですが、おもにBluetooth Low Energyの無線モジュールを開発販売しております。

スライド左下は、このモジュールを利用した各種センサーを搭載したデバイスの開発。また、その途中にルーターがあります。これはBLEデバイスをクラウドにあげるためのBLEプラスLPWAのルーターになります。

また、ルーター機能だけではなくて、LPWA単独のデバイスの開発も行っています。最近ではセルラー系のLPWA、LTE-MとNB-IoTに注力しております。

これらのデバイスの設定を遠隔で操作、変更を可能にするためには「ダウンリンク」という機能が必要です。それを実現するために弊社独自で開発しましたBraveridgeのインターフェースクラウドが存在しておりまして。また、その末端のアプリの開発までを一貫してサービスの提供を行っております。

ここが大事なところなんですが、Braveridgeが創業以来掲げているテーマは、日本人のモノづくりの復活・復興です。先日、先ほど冒頭で講演された藤岡様と深圳で飲んで話をしましたが、やはり日本人による日本人にしかできないモノづくりというものがあります。

私も各国でモノづくりをやってきましたが、日本人のモノづくりは世界最強です。将来的には、日本による世界を征服するようなモノづくりのエコシステムができればと思っております。簡単ではございますけど、Braveridgeの紹介とさせていただきます。

:ありがとうございました。今回のモデル事業ではこういう魅力的な企業のみなさまにいろいろお話をうかがって、実際の製品開発のプロセスや製造業との連携の中で起こったいろいろな出来事・課題、そこから得た学びみたいなものを、本当に根掘り葉掘り聞かせていただきました。

ここでは、それを全部ご紹介することはもちろんできないんですが、その一端を今日ご来場のみなさまにも感じ取っていただければと思っておりまして、いくつかテーマをご用意しております。

モノづくりスタートアップの協働

:ここからのディスカッションのテーマなんですが、1つ目はモノづくりスタートアップと製造業の連携ストーリー。簡単ではあるんですけれども、実際の製品開発、今回のモデル事業の中や外で取り組まれた製品開発のストーリーについてご紹介いただければと思っております。

まずはMAMORIO様からよろしいでしょうか? お願いいたします。

増木:僕らの場合は、最初にクラウドファンディングで資金調達をして製品を作るというところで始めました。

もともと、我々は最初ハードウェアを作ろうと思って立ち上げたスタートアップではなくて、「なくすを、なくす」ということで、落し物ポータルサイトをやっているような会社からスタートしました。実は、モノをつくる経験がなかったんですね。

ただ、なにか落し物防止策みたいなことができれば、絶対にニーズが生まれるところからスタートしたかたちです。クラウドファンディングでお金を集めて、お金が集まったのでスタートしました。

最初はモノづくりの経験がなくて、なんとなく適当に「こんな感じで大丈夫だろう」と思って、海外に発注しました。実際に量産したあとに大きな不備が見つかって、結局全部作り直したという経験をしました。

そこで、どうしようかというときに、国内で会社を探していて。そこでBraveridgeさんと出会って、「僕は今こういう状況なんですけど」というお話をして。「じゃあ、やります」と言っていただいて、無事に量産できて、製品が出荷できたのがMAMORIOの最初のストーリーですね。

:ありがとうございます。その最初の失敗について、もう少し詳しくうかがえればありがたいなと思います。すみません、失敗について根掘り葉掘り聞くのもあれかと思いますが(笑)。最初は中国の工場とやりとりをされていて、というところでしたかね?

増木:そうですね。

:そこで金型にまつわるトラブルなどもあったというお話をうかがっておりまして。

増木:そうですね。今のは量産開始後の話です。いったん海外で量産の金型を作ったあと、品質問題に対応するために、金型を引き取り、修正のうえで別工場で再利用する必要があった。もともと金型を作った会社からすると、他社に金型を移すことはメリットがあまりない話なので、「あんまりやりたくない」みたいな感じで嫌がられて、結局修正に時間がかかったりみたいなのはありましたね。

:その中国での量産で一度、これは失敗と言ってしまっても大丈夫なんでしょうか……失敗をご経験されました。そこから新しい取引先を開拓された。製造業のパートナーを探されて出会ったのがBraveridgeさんですか?

増木:そうですね。なんか、しゃべりづらいですね(笑)。

:横にいるとそうですね(笑)。逆にしゃべりづらいかもしれないです(笑)。出会いのきっかけもお聞かせいただけると。

増木:たまたま他社のスタートアップさんとかとうちの顧問が一緒で、「あの会社さんとかは、こういうところに頼んでるみたいだよ」みたいな話を聞いたことがあって。

それでお問い合わせしてみた結果、Braveridgeさんの担当の方が「すぐ行きます」みたいな感じでお話をしてですね。「あ、これだったらすぐできると思います」みたいな感じでフィードバックをいただいて、「じゃあお願いします!」というのがスタートですね。

:ありがとうございます。

一気通貫で製造できるシステムが強み

:相談を受けられたBraveridgeさんとしては、MAMORIOさんの事業や製品に対して最初にどんな感想を持って、なぜ一緒にやろうと思われたのでしょうか?

吉田:まず最初に増木さんとお会いしたときに、増木さんの「なくすを、なくす」というテーマをもとに、良い製品を出したいというグイグイ感がハンパなくて。「ちょっとうざいな」とか思いながら(笑)。冗談ですよ(笑)。

そのときに増木さんと話させていただいて、そのときのMAMORIOさんの状況をきちんと弊社も把握できました。先ほどから「失敗」とおっしゃられていますけど、それを技術的に解決する課題もその時点で理解できていましたので。基本的に製造業側としては、引き受けない理由はないというイメージですね。それで引き受けさせていただきました。

:MAMORIOさんとのお付き合いが始まるまでのスタートアップ支援みたいなことは、かなりやられていらっしゃったんですか? それとも、MAMORIOさんが初めてに近いケースだったのでしょうか?

吉田:その以前からも数社ほどは支援させていただきましたが、MAMORIOさんのケースは初期のころですね。本当に初期のころです。

:ふだんお付き合いされている大企業と比べて、スタートアップとの取り引き・連携みたいなところで、「これはちょっと普通の企業とは違うな」と思ったところをお聞かせいただけますか?

吉田:だいたい起業される方は、一癖も二癖もあるんですよね。冗談ですけども(笑)。そういった人間関係といいますか、まず何をされたいのか、どういった目的で製品を出したい、そういった起業される創業者の方の思いを、まずは製造側がきちんと把握しておかないといけない。それに合わせた開発の仕方も、もちろんあるんですよ。基本的に、そういう感情面が難しいところではあります。

先ほど金型の話もありましたが、やはり前任の方が設計されたものを再設計することは意外と難しい。また、金型が中国に存在するので、金型を中国国内で移管することが少し大変でしたね。いろいろ難しいことはたくさんありました。

:MAMORIOさんの金型を、もともとの取引先である中国の工場からBraveridgeさんの中国工場へ移管されたということですね。

吉田:そうですね。もともとの工場で管理されている方がいらっしゃるんですが、なかなか情報をくれないんですね。増木さんは早く動かしたい。しかし、動かすためにいろいろな情報が必要なんですが、その情報をなかなか教えてくれない。当然のこととは思いますけどね。なるべく動かしたくないということは、みなさんと一緒だと思います。

:実際にBraveridgeさんに相談が入ってから、量産が完了するまでだいたいどれくらいの期間がかかるものなんですか?

吉田:おそらく半年以内ですかね。基本的に、基盤の設計もすべてやり替えて。でも、金型はもともと修正するというか、改造できない状態だったので。その中で改良設計の基盤など、正直まずい点もいろいろあって再設計し直したため、それくらいの時間を要してしまいました。

:ありがとうございます。増木さんから見て、これまでの取引先と比べてBraveridgeさんだからよかったことはありますか?

増木:いろいろなモノづくりをやっている会社が多いと思うんですが、実際に国内で自社で組み立てまでできる会社はそんなに多くないです。金型の最初のところから最後のところまで、一気通貫で自社で完結する体制を持っていることは、非常に強みだなと思います。

:ありがとうございます。MAMORIOさんは量産に成功されて販売開始して、今はどんどん販売個数が伸びているという状態ですね。ありがとうございます。